「こちら、ゼロ。準備完了」
IS学園アリーナ周辺の物見台。そこにゼロはいた。今回の任務はクラス対抗戦への乱入とデータ収集。
「どれくらい楽しませてくれるのかあ、元弟」
そろそろ目当ての試合が始まる。長い間同じ場所でじっとしていたために体がなまって仕方がない。
「そこで何をしてるのかしら」
サングラスから仮面へと付け替えようとした時に、後方から声をかけられた。
仮面をつけてから、ゆっくりとゼロが振り返ると、そこにはIS学園の制服を着て、手には扇子を持った水色髪の女がいた。
「見てわからないか?試合観戦だよ、チケットが取れなかったからここでみるしかなかったんだよ。ご理解頂けたかな、更識楯無くん」
更識楯無、それが彼女の名前だ。IS学園の生徒会長、その称号が意味するものは生徒最強。そしてロシアの国家代表。
「貴方が誰かわからないけど、怪しいから拘束させてもらうわね」
そういうと更識は己の相棒のISを展開する。亡国機業が使用するような全身装甲型のISとは異なり、四肢に装備が集中している。
「モスクワの深い霧…………いや、ミステリアス・レイディだったか」
「ご名答、抵抗しないでね。生身でISに挑むなんて馬鹿な行為しないわよねえ?」
装備のランスを突きつけながら、挑発するように微笑む更識。
それを見て、ゼロもまた笑った。
「俺は馬鹿だからな、挑ませて貰うよ。スコール、事態が変わった。使うぞ」
左耳のインカムを抑えながら、上司であるスコール・ミューゼルに連絡をとった。
『別に今回の任務は成功しようが失敗しようが関係ないから、使っていいわよ。ただし、負けたらただじゃおかないわよ』
「勿論だスコール」
それだけを言って、ゼロは通信を切断した。
「言いたい事は終わったのかしら?」
「ああ、そうだな。それじゃあ、はじめようか。言っておくが、俺は強いぞ」
ゼロは左袖を捲り上げる。そして腕につけている装飾品を見せつけるようにする。それは黒色のガントレット。
「それは……嘘でしょ」
更識はその正体を一目見ただけで判断できた。だがそれと同時に疑問を持った。何故奴が持っているのかと。
「何故貴方がISを。男は乗れないはずよ、百春くんを除いて。もしかして貴方、女?男みたいなのに女!性転換したの!?」
一人の例外がいるがISは女性にしか乗れない。それなのに目の前の男は何故、更識の頭を駆け巡る。
「生まれた時から付いてるよ。行くぜ、黒零」
ゼロの体を黒い光が包み込み、鎧を纏わせた。
黒零、ゼロの相棒。両手に中遠距離用武器『零砲』を構えている。
「行くぞ」
その言葉と同時にゼロは凄まじい速度で上空に飛び上がった。楯無はその速度に思わず見ほれてしまったが、ゼロを追いかけて飛び上がった。
僅か数十秒にして、遥かに上空に二人は着いた。
「貴方、何者?男なのにISを使えるなんて、信じられないわ」
口を開いたのは更識。
「俺か?俺は誰だろうな!」
零砲による不意打ち気味の発砲、だが流石は国家代表。容易くその一撃をかわす。
続けて一定の間隔を開けて、二丁の零砲からビームの弾丸が放たれる。その隙間を縫って、迫り来る更識。ゼロも同様に更識から一定の距離を撮り続けている。
(銃撃主体の攻撃、遠距離型と見た)
手に持った槍、蒼流旋に力が入る。そして僅かに存在する銃撃の隙間をぬって、瞬時加速を行って一気に距離を詰める。
穂先を突きつけて、一閃。
ゼロは向けられる槍を見て、仮面の奥で笑った。髪の様な銀糸がたなびく。
その次の瞬間、ゼロの動きが変わった。今までの動きは遠距離を得意とし、かつ近距離戦闘が苦手な奴のソレに告示していたが今は違う。
動きの質が変わった。代表候補生級の動きから国家代表、ソレもモンド・グロッソでも優勝できるほどの実力者の動きに変化する。
突きつけられてきた槍を身をよじる事でその一撃を躱し、更に二丁の銃口を突きつけた。
二度の射撃の直撃をくらい、更織は後方に下がった。
「…………貴方、性格悪いわね。油断させて引きつけて、自分の領域に入り込んだ瞬間、動きを豹変させて殺す」
「だろうな、俺も自分の性格が良くない事を自覚している。でもなあ、戦場なら性格が悪い方が良い性格だろ?」
二丁の武器を収縮し、徒手格闘の体制に移る。
「それが貴方の戦い方?」
「さあ?どうだろうなっ!」
ゼロがトンボのような軌道で、楯無との距離を一気に詰める。楯無はその見た事もない軌道に戸惑いはしたが、冷静に対処する。
両手両足による連続攻撃が楯無に襲いかかる。見事な綺麗な連続攻撃であるが楯無にとっては躱すのはたやすいモノである。
しかし、突如として拳が不気味な加速を始め、避けるタイミングが狂い始める。
(なに、この動き?)
不気味な加速の正体は両肘に取り付けれられたスラスターによる噴射。それにより通常のパンチよりも遥かに速く拳が飛んでいく。
そして一撃、左手から放った一発の拳が楯無の顔面に迫る。
「くっ!」
楯無はとっさに目の前に水の壁を作り上げた。厚いその壁はゼロの視界を塞いだ。
しかし、圧力を込め、堅牢な壁にしても所詮は水。
ゼロ左の前腕から光が漏れ、そのまま左の拳を水面に接着させる。
「防げるか?」
左腕が震え、精神力発生装置により生み出された不可視の衝撃波が水中を伝わり、楯無を襲った。
(何……が?)
楯無には何が起きたのか理解できなかった。ハッケイのような武術の一種かと想像してみたが、構え方から除外した。
黒零の前腕の光が収まる。精神力発生装置は一度使用すれば長時間のクールタイムを必要とする。それは機体の都合もあるが、一夏自身の肉体への影響もある。
一夏は右手に長刀をコールして、衝撃を与えた事で、震えている水の壁を切り落とした。
楯無は慌てて、蒼流旋を構えて、追撃の斬撃を防いだ。
さらに加えて袈裟懸けが迫る。
楯無はその一撃を槍で防ごうとする。
しかし、一夏は袈裟懸けを仕掛ける途中に左脚でガラ空きになった楯無の右の脇腹に蹴りをいれた。
更に全身につけられているスラスターを噴かせる事によって、袈裟懸けの動作を中断させる。体を捻じり、回転させ、逆方向から切り上げる。
「くっ!」
「まだ行くか?」
楯無にとって一夏の戦いは見たこともないものであった。
一夏の戦闘スタイルは戦闘に関する知識を何もかも、無差別に食い散らかし、ありったけ吸収した。
そして得た知識を活用して、理性的かつ本能的な動きで戦う。敵が弱ければ最小の手段で殺し、敵が強ければ最大の手段で倒す。
戦闘は一夏が有利に事を進めている。搭乗者の実力は僅かに一夏の
方が高い。しかし、乗っている機体で差が大きく開いている。
楯無はミステリアスレイディを己の力で作り上げた。性能も高く。自身の戦闘スタイルに合わせ、親和性も高い。
だが、黒零はソレらを遥かに凌駕する。
一夏の斬撃が勢いを増す。気を抜いてしまえばカタをつけられてしまいそうになる。
それでも、楯無は牽制を交えながら、IS学園から一夏を離れさせる。
被害を増やさないためなのだろう。一夏は楯無の意図を理解し、態々ソレに乗ってあげることにした。
「……ん?」
ヘルメットに備え付けられてあるセンサーに一つの反応があった。
上空を見上げ、雲の先にいる何かをみる。
一夏がサマーソルトキックをしかけ、その勢いのまま雲の上まで上昇する。速度も凄まじく、瞬く間に楯無を振り切った。
楯無は追撃の中断を考えたが、その考えを直様頭の中から消去した。
遅れること十数秒、楯無も雲を突破する。
そこには四肢を破壊され、達磨状態になった一機の正体不明のISとそのISの頭部を右手で掴んでいる黒零がいた。
四肢の破壊され方も全てバラバラ、切断面であったり、強引に力任せに引きちぎられたり。
あの目を離した僅か二十秒ほどの間にこれが行われたのかと思うと、楯無の背中に冷や汗が流れた。
「貴方、ソレは……」
「無人機だ」
「無人機?」
黒零の銀糸が蠢き、正体不明のISに絡みつく。
「解析…………成る程。あの人のやりそうなことだ。貰っておくか」
その言葉の直後、黒零が左手に持っていた正体不明機の腕が粒子になって消え去った。ISによる収縮を使ったのだろう。
マズイ。
あれを奪われてはならないと楯無の本能が告げる。
瞬時加速によって距離を詰めて、蒼流旋による攻撃を仕掛ける。
しかし、それよりも早く黒零は無人機を回収した。更に両脚に鳥趾状の装備をみにつける。
「……試合が終わった?負けたのかよ……なさけない。わかった帰還する」
脚を振り上げ、槍を持つ楯無の右手を爪のついた左脚で掴む。更に右脚で左手を掴み、両脚を開脚させることにより楯無の胴体をガラ空きにする。
そして楯無の鎖骨に両手でトマホークチョップを叩き込む。
そして体を捻じりながら脚を閉じ、それと同時に楯無を上に飛ばす。
錐揉み回転をしながら宙を舞う楯無、一夏は彼女に向かって飛翔する。それに合わせ、鳥趾状の装備に備え付けられたスラスターを放つ準備をする。
一夏は楯無の両足の裏と自分の足の裏をピッタリと合わせ、爪で固定する。
「最後に一つ、俺は亡霊だ」
「亡……霊?」
一夏から言われた一言に楯無は首を傾げた。亡霊とは死者の魂、ならば目の前にいる人間は死んでいるのか?
否、生きている。
「行きますよ、ファントム・キャノン!」
一夏は足裏とスラスターの勢いを利用して楯無を打ち飛ばした。
高速で地に落ちて行く楯無、必死に体制を立て直して、一夏を追撃しようとするが、一夏はその場からいなくなっていた。
「なんなのよ、あれ」
楯無は今の戦闘を振り返って、敵の正体を探る決意をした。
それと同時に一つの疑念が起きた。
「アレは……誰?」
無人機乱入なしのため、トーナメントは通常通りに進みますので、次回はその辺を。