クラス代表戦決勝戦、私は準決勝を対戦相手の子が辞退してくれたので余計な手札を切らずにすんだ。
次の対戦相手は下馬評通り凰さんだ。
勝てない相手ではない。けれど幾つかの装備をお披露目する必要がありそうだ。
アリーナに二機のISが飛び出して来た。
(ヤバイわね、あいつが出す威圧に飲み込まれそう。こんなの代表と闘った時以来ね)
対戦相手である誘宵アリサの様子を観察しながら、鳳鈴音は震えていた。
それに対してアリサは一ミリも動かずに試合開始までの時間を待っている。
カウントダウンが始まる。
(相手はここまで武装を一度も使ってないけど、あたしは百春との戦いで全てみせてしまった。不利なのはあたしか)
そして、カウントダウンがゼロになった。
先に動いたのは鈴音、己の得物である二基の大型青龍刀、双天牙月を呼び出し、アリサに向けて突撃する。
「…………」
アリサの右腕がゆらりと動き、右手に一本のビームブレードを収めた。
それを見て、鈴音は緊張感をより強めた。
アリサがこの大会初めて武装を展開した、その事実。
ビームブレードと青龍刀が空中で激しく激突する。二振りの青龍刀から放たれ続ける連続攻撃を容易く防ぎ続ける。
「なら!」
鈴音は相打ち覚悟で、ゼロ距離で龍砲を放つ構えを取る。
龍砲の弾丸は圧縮した空気であり、不可視。故に躱す事は非常に困難である。
しかし
「……」
アリサは突然後方に下がり、鈴音との距離を取り、腰のスカートに装着されている銃『ショットランサー』に手をかける。
龍砲から二発の空気の弾丸が放たれ、アリサもまた引鉄を引いてショットランサーから鏃型のビームの弾丸を放った。
空中で相殺しあう、両者の弾丸。
見えない弾丸に銃弾を直撃させたことが鈴音は理解できなかった。
そして衝撃が収まるよりも早くアリサが仕掛ける。
瞬時加速による急接近から、踊るような美的運動で鈴音を惑わす。龍砲の照準を合わせようと試みるが、アリサの動きについていけない。
「ならばデタラメ!」
甲龍の非固定ユニットが回転を始め、青龍刀を収納して腕を前に突き出す。
そして両腕と非固定ユニットに装備されている全ての龍砲を無闇矢鱈に連射する。
当たらなくても構わない。その動きを少しでも制限することができたのならば恩の字。
しかし、アリサは左前腕に新たに呼び出した盾を装着させて前に突き出しながら突撃する。被害を最小限にとどめるように一本の槍となって。
四門の龍砲がアリサに向けられ、一斉に放たれる。
槍と弾丸の衝突が起ころうとした。
しかし、そうはならなかった。アリサは弾丸が直撃する前に軌道を変化させ、急加速、急変化を行って鈴音の背後を取る。
鈴音は虚をつかれた。一点に集中して放った最大火力の砲撃が避けられる。再度発射するまでには数秒の時間が必要。青龍刀を展開するにも少しの時間が必要。
アリサは狙う、厄介極まりない不可視の弾丸を放つ砲台を、己の得物であるビームブレードを手に。
数秒の長い攻防が始まる。
一手目。
ビームブレードが肩に備え付けられている龍砲を狙う。それを鈴音は咄嗟に左手で防ぎにかかる。
だが、そちらに意識が集中している隙に左足のミドルキックが鈴音の右脇腹を震わせた。
「カハッ!」
予想外の一撃であった。狙いは龍砲ではなく、鈴音自身。いくら武器があっても使う人間がいなければ意味がない。
続いてビームブレードが左の龍砲を引き裂いた。
「チッ!」
発射可能になった残された左の龍砲がアリサを捉える。アリサは射線上に盾を構えることで牽制を行う。
そして今度は鈴音の腹に蹴りが一撃。鈴音はわざと吹き飛ばされて距離を取る。
(予想以上に強い!流石は今年の特別推薦枠ってわけね。けどなんなのこの違和感は?やる気がない?)
追撃をしかけてこないアリサを見て、鈴音はそんな風に感じた。
一回戦でのアリサの戦いは圧倒的なものであった。相手に何もさせず、己の領域で最低限の手札を切って圧勝した。
しかし、今回は違う。
気迫がない。一回戦で感じられた確実に殺すという殺意がなく、流されるままに戦っているかのような印象を、鈴音は受けてしまった。
(ムカつく!)
再度二振りの青龍刀を展開して、柄と柄を繋ぎ合わせてより長大な武器を作り上げる。
アリサに突撃し、長いリーチを利用した連続攻撃で攻め立てる。
しかし、アリサに対してその攻撃は意味ない。冷静に冷徹にいなす。
そして一閃で両端の刃をビームブレードで切り落とされた。
(これでも……ダッ!?)
突如、鈴音の動きが止まった。何か攻撃をし掛けられたわけではない。
唯、目を見てしまったのだ。
アリサの操る『アイリス』の碧の目の奥に存在する、アリサの翠の瞳。
そして鈴音にとっては恐怖の象徴にも近い、ある人間の瞳。
動きが止まる。
呼吸を忘れてしまいそうになる。
その一瞬の隙だった。
「ーーーー」
必殺の一撃が叩き込まれ、甲龍の動きは止まった。