インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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転入生

「ふん、ふふーん♪」

 

IS学園の朝、誘宵アリサは日課のトレーニングを終えて部屋でシャワーを浴びた。

 

シャワーを浴びて、部屋に戻ると自分の携帯電話が鳴っていることに気づき。バスタオルを巻いたままの状態で、アリサは携帯の画面をみると、其処には自分の父親である誘宵皇の名前が映し出されていた。

 

「なに?パパ」

 

アリサは通話すると同時にそんなことを聞いた。

 

『なに、ちょっと諜報部から情報が入ってね。伝えておこうと思って』

 

新しい玩具を手に入れたように皇は楽しそうな声を出した。

 

「それで、何?」

 

催促。

 

『一年一組に二人ほど、転入生が入ることになった。一人はラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツの代表候補生で黒ウサギ隊の隊長らしい』

 

「ドイツの黒ウサギ…………ああ、織斑千冬が一時期教えてたっていうアレ?」

 

『そう、そのアレ。けれど本題は』

 

「そっちのほうでしょ?それで何か面白いこと?男でも来るの」

 

『いや、来るのはフランスの代表候補生、シャルル・デュノアという子だ。この子に関していえば、デュノア社の社長の息子で、最近代表候補生になったらしく殆どデータがないという事になっている。面白いことに、本名は、シャルロット・デュノアというらしい』

 

皇からの言葉にアリサは言葉を失った。シャルロットは女性の名前だとわかるが、シャルルは明らかに男性名で女性に付けるのはおかしい。

 

「…………織斑百春に近づく為に態と男性として入学した?でもそれだとしても、IS学園の中にも仲間がいないと入学はできない」

 

アリサは自分なりの推論を立てる。

 

『そうさ、どうやら学園長やIS学園を裏から支える方々はこの機に学園の膿を排除するらしい。その為に彼女を利用するそうだ。まあ、膿を排除した後の彼女の処遇は私の知ったことではないがね』

 

冷たい声であった。普段は明るい皇ではあるが、こういった場面になると非情に徹する。

 

自分の所にスカウトすると言わないあたり、あのシャルロット・デュノアがどれほどの爆弾なのかよく理解しているようだ。

 

下手に自分のところに招き入れて、デュノア社にデータを渡されてはかなわない。

 

そしてなにより誘宵グループとデュノア社は仲が悪い。会社の規模で言えば、誘宵グループの方が何倍もデカイ。しかし、ISのシェアの割合で言えばデュノア社の方が高い。

 

『だから、彼女とは関わるな』

 

強い口調で電話越しに伝えた。

 

「……それは父親としての願い、それとも一つの会社の長としての命令?」

 

『勿論、一人の長としてだ』

 

その言葉にアリサは目を瞑ったまま無言で頷いた。父としての皇が非情な人間ではないことに安堵したからだ。

 

「そう、わかったわ…………それじゃあね」

 

皇からの返答を聞く事なく、アリサは通話を切断した。

 

「……ふう」

 

アリサは手に持っている携帯電話を机に置いて、一息つく。

 

同室の人間は未だ朝のトレーニングから帰ってきておらず、部屋の中はアリサ一人だけになっている。

 

「さあて、これからどうなるのか……ねえ、一夏くん」

 

机に置かれた写真立ての中にある写真を人差し指で撫でながら、アリサは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人目の男性IS操縦者の話題に包まれた日の翌日の放課後、アリサはクラスメイトであり友人である樫木智沙に対して、今度開かれる学年別トーナメントに向けてのトレーニングをつけている。

 

「アリサちゃん、休もう」

 

「何言ってるの智沙ちゃん。誘宵のIS部隊に就職したいんでしょ?これくらいの事は簡単に出来ないと、お声はかからないわよ」 

 

目の前でラファールに乗り込んだまま仰向けに倒れている樫木に対して、笑顔のまま冷たく言い放った。

 

樫木は茶色のボブカットの髪を地面につけている事にさえ、気が回らないほど疲れているようだ。

 

「でもアリサちゃん良かったの?今度のトーナメント、急遽タッグ制に変わったけど、私がパートナーで?他に良い人いたでしょ?勝つためなら強い人と組まないと」

 

今回開かれる学年別トーナメントは急遽タッグトーナメントに変更される事になった。

 

そのために一年の生徒達は織斑百春とペアを組もうと必死になっているが、アリサにとってはそんな事は至極どうでも良かったので、直ぐに仲の良い樫木智沙とペアを組んだ。

 

「んー、勝利に興味無いからね。だから今回は智沙ちゃんのレベル上げの機会にするよ」

 

「やめて欲しいなー、そういうの。辛いです…………それにしても昨日は驚いたね、まさか一組に二人も代表候補生が転校して来るなんてね」

 

「一人は確か男子で…………シャルロット・デュノアだったかしら」

 

真実を知るが故に、アリサは態と本当の名前で呼んだ。

 

「違うよアリサちゃん、それじゃあ女の子だよ。確かに顔は女の子っぽいけど、シャルル・デュノアでしょ」

 

「ええ、そうだったわね。そういう事だったわね。女の子見たいだったから、ついそう呼んじゃった」

 

流し目をしながらアリサは愉しそうに笑った。

 

真実を知っているが故に今のデュノアの行動の愚かさを知っている。

 

「誘宵さん!」

 

アリーナの中にクラスメイトの一人が入って来てアリサを読んだ。特段仲が良いというわけでは無いが、ちょっとした会話をしたりする仲ではある。

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

アリーナにきた少女は肩で息をしながら、両手を膝について息を整えて、要件を伝える。

 

「今すぐ一番アリーナに行って!ドイツと中国とイギリスの代表候補生が戦っているの。それで、それで」

 

どうやら言いたい事が上手に纏まらないようだ。それでも言葉の節々からヤバイという感情はアリサに伝わった。

 

「成る程、あのチビ黒ウサギとドリルと凰さんが何かやらかしたっていう事ね。大方、織斑絡みか」

 

アリサは一瞬のうちにISを展開し、全てのスラスターを吹かす準備をする。

 

「そういうわけだから、ちょっと行ってくる。智沙ちゃん、明日も練習だからね」

 

「……ハイ」

 

死を悟った。

 

 

 

超加速、一瞬で二人の目の前からアリサが消えたと錯覚してしまうほどの速度で空に上がった。

 

上昇、アリーナを抜け出して、騒ぎがあっているというアリーナに視線を向ける。スコープを利用して中の様子を探ると、二対一で戦っているのがわかる。

 

だがどうにも様子がおかしい。

 

ドイツの機体から伸びているロープに中国とイギリスの機体が首を締められている。

 

「アイリス、ライフルお願い」

 

『わかりました』

 

エネルギースナイパーライフルを展開、スコープを覗いて、アイリスによるサポートを受けながら狙いをつける。

 

「そこ!」

 

上空から放たれた二本のエネルギーの閃光は空を切り裂いて、正確無比にロープを撃ち抜いた。

 

ロープを撃ち抜かれたドイツの代表候補生は上空にいるアリサに視線を向け、肩に備え付けられているレールガンを向けた。

 

撃たれる前に終わらせなければならない。大きな曲線を描きながら降下、アリーナの中に侵入して、倒れている中国とイギリスの首根っこを掴んで壁際まで下がる。

 

「生きてる?」

 

「助けていただき……ありがとうございます」

 

「ゲホッ!なん、なんとか」

 

口に溜まった血塊を吐き出しながら、残った僅かな力を出して二人は返答をした。

 

「そう、それなら問題ない」

 

アリサは振り返り、戦闘の構えを解いていないドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒを見る。

 

「どうするの?まだ戦うの?もしかして、ドイツの代表候補生様は私刑がお好きなのかしら?」

 

「誘宵グループの誘宵アリサか。確か今年の特別推薦枠だったな、私と戦え。貴様の実力が、今年の一年生の実力が、どれ程のモノか確かめたい」

 

アリサの挑発は耳に入っていないのかわからないが、ラウラは左手のプラズマブレードを展開する。

 

「貴方、話聞いてた?」

 

「構わん!」

 

ラウラがスラスターから推進剤を吹かせて突撃する。

 

止まる気は無い、戦いをやめる気配も無い。

 

アリサは後ろにいる怪我を負った二人に気を珍しく使い、アリーナの周を回るように移動しはじめた。

 

アリサは右手にエネルギーブレードを展開し、ラウラを迎え撃つ。

 

アリサの本来の戦闘スタイルは一夏のような力による圧倒では無く、技巧による翻弄。以前のクラス代表戦では珍しく力押ししただけ。

 

剣戟による火花が空を舞う。

 

両者は実力で言うならば一年生の中でも一、二番だ。

 

それでも、ISとの相性を踏まえたならばアリサの方が強い。

 

アリサは剣を振り下ろすふりをして、スラスターで勢いをつけた右膝蹴りを叩き込んだ。

 

IS式格闘術、スラスターなどISの装備を利用して行う格闘術。扱い自体が難しく使用する人間は少ない。一夏が使用しているのもこれだが、一夏はこれのエキスパートと言えるだろう。しかも一夏はこれと剣術などを組み合わせる。

 

「成る程、ただのお嬢様というわけでは無いのだな」

 

「そのセリフはやられながらいうセリフじゃないわよ」

 

プラズマとエネルギーのブレードが鍔迫り合う。

 

次の瞬間には両者が刃を弾きあって後方に飛んだ。

 

ラウラは肩のレールガンを起動、アリサに狙いをつけるが、それよりも速く狙いをつけられないように軌道する。

 

アリサが両手にエネルギーハンドガンを展開、レールガンを撃たれないように撹乱する。

 

「クッ!構うか! 」

 

撃ち出された高速の塊が一直線にアリサに迫る。

 

そしてアリサはそれを待っていたかのように、ハンドガンを収縮して、再度刃を手に持った。曲線軌道を描いて一気に迫る。

 

「そこ!」

 

だが待っていたのはラウラも同じだった。右腕を前に突き出し、固有武装であるAICを起動する。

 

そして、アリサはその力に掴まれ、動きが止まった。

 

「さあ、動きは止まっ……!」

 

突如、ラウラの背後で爆発が起きた。理由はアリサがAICに掴まれるよりも先に投げていたグレネードが爆発したため。

 

AICは動きを止めるが、そのためには極限まで集中しなければなら ない。故に発動している間は敵以外に意識は向けられない。

 

ならば止められる前に意識の外に、意識を外すモノを作れば良いだけ。

 

拘束が解かれる。

 

その次の瞬間には距離が一気に詰められ、ラウラの腹にアイリスの武装『ショットランサー』の銃口が触れた。

 

「飛びなさい、無惨に」

 

二度引き金が引かれ、鏃型のエネルギーの弾丸が飛び出し、ラウラを後方に大きく吹きとばした。

 

アリサはその場でISにつけられたスカート状の装甲を翻しながら回転、ショットランサーを収縮、回転が終わると同時に右手にエネルギーブレードを掴んでいる。

 

アリサがラウラに飛びかかる、まさにその瞬間。

 

「そこまでだ」

 

アリサとラウラの間に一人の女性が割り込んできた。

 

「教官」

 

「織斑千冬」

 

第一回モンド・グロッソの総合優勝者にして、この学園の教諭。アリサにとってはこの学校で唯一会いたくない人間だ。

 

「二人とも何をしている」

 

怒気を孕んだ眼で二人を睨みつける千冬。ラウラはそれに怯えているが、アリサは至極どうでも良さそうだ。

 

一秒でも早くこの場を離れたいという気持ちが振る舞いに現れている。

 

「何をしてるって言われましても。そこのウサギちゃんが狩りをしていましたので、獲物を助けたら、今度は私が狙われたので返り討ちにしただけです。飼い主ならしっかりリードは握っていてくださいよ、織斑千冬先生」

 

アリサはISを待機形態に戻し、スーツに付着したゴミを手で払い落とした。

 

「では、私は戻りますね。そこのウサギへの処罰は先生に任せます」

 

「待て誘宵、お前にも話がある」

 

「私は貴方と話す事などないです」

 

「何故お前は私の授業に来ない。特別推薦枠の生徒が授業を免除されるのは知っている、しかし何故お前は私の授業にだけ来ない」

 

アリサは特別推薦枠というもので入学してきた。その枠で入ってきた生徒は基本的に全ての授業を免除され、自動的に卒業までの単位が入学と同時に与えられる。

 

ズルいと言われるかもしれないが、それだけの技術と知識を入学前に手に入れているのだ。

 

それによってアリサは織斑千冬が担当する教科だけ行っていない。

 

理由は簡単だ。

 

個人的な好き嫌い。

 

「行く必要がないからですよ、それに私は貴方が嫌いですから」

 

その言葉を聞いて、ラウラがアリサに飛びかかろうとしたが、千冬が手で制止した。

 

「…………一夏の事か」

 

その言葉を聞いて、ラウラは始めて聞いたかのように疑問に満ちた表情で千冬を見た。

 

「よくわかってるじゃないですか、貴方は私から一夏くんを奪った。だから私は貴方には従わない、言葉も聞きたくない。貴方は一夏くんに何をした」

 

先ほどまでの冷静沈着な様子からはうってかわり、ドロドロとした粘性の高い怒りを放つ。

 

千冬から見てもその変貌ぶりは不気味に感じられた。

 

少しでも気を抜いてしまえば飲まれてしいそうになる。だからこそ、ここで怯むわけにはいかない。一人の人間として、姉として、先生として。

 

「違う!私は一夏を大切にしていた、思っていた!」

 

「思うだけなんて誰にでもできる。思うだけだから、貴方は一夏くんから遠ざけられていた。一夏くんは本当は飢えていた。けれどただひたすらに殻に閉じこもって、己を殺していた。貴方にはその飢えを癒せない。だけど私は与えられる、癒す事ができる」

 

それは狂気ともとれる姿であった。

 

失ったものを願い、乞う。

 

狂愛の使者。

 

「もう……貴方と話す事はありません」

 

冷徹に言葉を告げ、アリサは立ち去った。

 

「あ、あの……教官」

 

恐る恐るな口調で、ラウラは千冬に声をかけた。

 

「どうした、ラウラ」

 

「一夏とは何者なのですか?教官の弟とは織斑百春のことではなかったのですか?」

 

その言葉を聞いて、千冬の顔は目に見えて悲痛なものに変わった。

 

「……そう言えば、お前には百春の事についてしか話していなかったな。私には他に弟と妹がいたんだ。そのうちの一人が一夏だ。百春は手のかかる子だったが、一夏は手のかからない子だった。だからなのかもしれない、私は心の何処かで一夏は強い子だと思い込んでいたのかもしれない」

 

千冬は普段は見せない哀愁を纏わせながら、空を見上げた。

 

「それが、それ故に私は一夏を理解できなかったのかもしれない。誘宵の話す通りだ。私は何もできないまま、一夏を失った。第一回モンド・グロッソの決勝戦の時だ。だからこそ、私は百春を失うわけにはいかなかった。失ったからこそ、もう二度と手からこぼれ落ちないようにしなければならなかった」

 

「…………教官」

 

今までにこんな千冬の弱々しい姿を見た事など、ラウラは一度もなかった。

 

こんなにも脆かったのか、私が憧れていたものは。

 

違う。きっと違う。

 

「私が、私が貴方が正しい事を証明する。だからこそ…………だからこそ」

 

小さな小さな呟きは、憧れに届かない。

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