亡国機業本部、その中に存在する部屋の一つ、モノクローム・アバターに与えられた執務室に二人と一つがいる。
「それで、今回アメリカとイギリスから送られてきたISの調子はどうなの、一夏」
「両方とも問題はない。コアの方は此方で現在使っているものを埋め込むつもりだ。戦闘スタイルから判断すると、アラクネはオータム、サイレント・ゼフィルスはエムに渡すのが一番良いだろう」
テーブルの上に珈琲と紅茶の注がれたカップがそれぞれ一つずつ置かれ、対面状にソファーに座る二人の人間、一夏とスコールだ。
そしてもう一つ、テーブルの上に置かれなノートパソコンのディスプレイからはリリスが姿を覗かせている。
『ゼフィルスの方は流石最新鋭機と言ったところだな。ビットは中々の装備であり、スナイプ機能も高い。アラクネは世代は落ちるが、乗り手によってはまだまだ戦えるさ』
パソコンの画面が切り替わり、一枚の文書が表示された。
「これは?」
『今度の任務に関するデータだ。よく読むが良い』
そこには一人の人間のデータが書かれてあった。しかしそれは履歴書のようなものでは無く、まるで実験動物の観察結果のようなものであった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ…………聞いた事のある名前……か?」
『遺伝子強化体、ドイツの黒ウサギ、などと言えばわかるだろ?」
その言葉は一夏もよく知っているものだった。
「成る程、それは聞いた事がある。そうか……そういう事か。これは愉しいな」
「……それで、この子と任務に一体なんの関係があると言うの?」
スコールがリリスに問いかける。
『今度の任務はドイツからの依頼でな、今現在IS学園にいるこいつの機体に搭載されているVTシステムを破壊して欲しいそうだ』
「VTシステムか、あんな胸糞悪いモノをなんでドイツは作って搭載させやがったんだ?」
わかりやすく、一夏の態度が変わった。原因はVTシステムだろう、それは一夏の逆鱗を侵すモノなのだから。
『ネオへの裏切り者がいたそうだ。しかもそれが発覚したのはVTシステムを乗せ終え、ラウラがIS学園に向かってから数日後。ドイツはその事実を隠すために我々に依頼したそうだ』
「成る程ね、任務に関しては貴方とティファ、それと護衛にエムの三人で足りるでしょ?」
「……ああ、問題ない。俺があの胸糞悪いモノを壊す」
『それともうひとつ……』
「…………」
実働部隊隊員アドルフは何をするわけでも無く、屋上で星に満ちた夜空を見上げる。
右手には缶コーヒーを持っており、先ほどからチビチビと飲んでいる。
一人の時間をユックリと過ごす。
「唖々、ここにいたか」
ふと誰かから声をかけられた。アドルフは体重を預けていた手摺から離れ、声をかけてきた人間を見た。
「一夏か、どうした」
「少し話があってな。それよかお前はここで何をしてたんだ?」
一夏もアドルフと同じように屋上を囲う手摺に体を預ける。
「星を見ていた。随分と長い間見ていなかったからな、久し振りにゆっくりと見たくなってしまった」
「…………意外な趣味だな。初めて知ったよ」
意外な事実だった。
「……星は良い。どんなに暗い絶望の中でも、その輝きの為なら人は、今も昔も歩き続ける事ができる。俺が……そうだったからな」
「随分とポエミーな発言だ。意外だよ、お前がそんな言葉を言うなんて。驚きだよ」
「煩い、ダアホ」
僅かな沈黙が二人の間に広がった。
されど嫌な雰囲気はなく寧ろ二人ともこの沈黙を楽しんでいるように思える。
夜風に吹かれて黒と銀の髪が美しく靡く。
「……今度の任務について書かれてある、お前はこれを必ず読んでおけ」
一夏はタブレットをISの拡張領域から呼び出して、それをアドルフに手渡した。
アドルフはディスプレイをフリックしながら、一文字一文字を確かめるように見落としがないように読んでいく。
「……これは本当か?」
「らしいな。俺はよく知らないが、お前はこいつと関わりがあるのだろ?」
「ムカつく話だが、な。そうか、殺し損ねていたのか。ならば今度は確実に殺さないとな」
冷静に喋るアドルフにではあるが、紅蓮の瞳には殺意が込められている。
「そう言うわけさ。じゃ、今度の任務は頼むよ」
一夏はアドルフからタブレットを受け取ると、手摺から離れてその場を立ち去ろうとする。
「アドルフ・ボーデヴィッヒ」