「ねえ、一夏。本当にするの?」
「何を今更怖気づいているんだ、ティファ。安心しろ、俺は何度もヤってるんだ。お前は何も心配する必要はない。俺に身を任せれば良いんだ」
「でも」
「それ以上は何も言うな。ゆっくり、ほら」
一夏はゆっくりと両腕をティファの背中に回して抱き寄せる。
「さあ、イこうか」
「待って!一夏、私」
「力を抜いて、俺に委ねて、さあ!」
次の瞬間だ。
一夏はティファを抱きかかえたまま、上空を高速で移動する飛行機から飛び降りた。
「アアアアアアアアア!!」
空中に放り出されて絶叫するティファ。
「おお、大丈夫か?」
絶叫するティファとは対象的に一夏は比較的に落ち着いていた。
上空数千メートルからのパラシュートなしのスカイダイビングだというのに、まるで何回も体験しているかのように冷静だ。
「ねえ!一夏、早くIS展開しよ!死ぬ死ぬ死ぬ!」
一夏を抱きしめるティファの手がより一層強くなった。
「唖々、それはまだ無理だな。この高度だとギリギリIS学園のセンサーに引っかかる」
一夏たちが落ちて行く先には一つの島が存在していた。そしてその島には巨大な人口建築物、IS学園が建てられている。
「あのなあ、飛行機を気づかれないようにするのも大変なんだぞ。ハッキングして、僅か十数秒だけセンサーを解除してその隙に俺たちが飛び込む。どれだけ苦労した事か」
「なんで一夏はそんなに落ち着いてるの!?」
「ん?そりゃあ何度も経験してるからな。スコールや総帥からの命令で奇襲戦をやる事がおおいからな………………そろそろかな」
一夏はIS学園との距離を確認するとティファを突然突き離した。
「ちょっと!一夏!」
ディファは手足をバタバタとさせながら必死に一夏に近づこうとする。
「落ち着け、ISを展開するぞ。センサーはもう大丈夫だ」
「本当!?」
ティファは一瞬だけ安堵した表情を見せたが、直様自分の置かれてある状況を思い出したのか青ざめた。
「黒零」
「シエル!」
二人はほぼ同時に自分の愛機の名前を叫んだ。
光が体を包み込み、そして晴れる。
一夏が身に纏うのは黒零、漆黒のボディと黄金のラインそして白銀の長髪のような排熱機。
ティファの機体は黒零のような全身装甲、対象的に淡い桃色の装甲は女性特有の華やかさを感じ取れる。
そしてこの機体の最大の特徴は背中から生えている巨大な一対の機械的な翼だろう。
その翼を一度羽ばたかせると綺麗に体制を整えた。
この機体は一夏の黒零、アリサのアイリス同様にISコア、今回の場合はNo.004によって生み出された機体である。
「さあ、行こうか」
砂塵が舞い上がり、その直ぐ側にいた四人は事態が飲み込めないでいた。
今日はIS学園タッグトーナメント当日。
しかもその初戦。
なにが起きた…………
四人の間に二機の全身装甲型のISが割り込んできた。
しかもその直前、観客席とフィールドを分けるシャッターが閉じられた。
四人はそれぞれ顔を見合わせるが、誰もその機体について知っていないようだ。
「なんだ、あれは?」
その中の一人、白式に乗る織斑百春が声を出した。
百春は割り込んできた二機のISのうち、黒色の機体に注意が注がれた。
「…………」
「ッ!」
見られた。
黒いISがギョロリと翠の瞳を向けた。
それだけで百春は萎縮し、そして笑われた。
百春は隣にいるシャルロットに声をかけようと思った次の瞬間、黒いISが動いた。
四人は殆ど反応できなかった。ただ反応した時には既に懐に潜り込まれていた。
スラスターによる瞬時加速を生かしたノーモーションの超高速低空タックルがラウラの両足を刈り取った。
「なっ!?」
ラウラが動いた時は既に持ち上げられていてた時であった。
機体の出力もパイロットの熟練度も、このIS学園の生徒とは比べ物にならないほど高度であるとラウラは思った。
「ボーデヴィッヒ!」
ラウラのパートナーである篠ノ之箒がラウラを救出しようとするがもう一人の侵入者によってそれが阻まれた。
「舐めるなよ!」
ラウラはプラズマブレードを起動させて、侵入者の背中を切りにかかる。
しかし、そんな事は侵入者、ゼロも予測済みである。
掴んでいるラウラの脚を突然離して前方に放り投げる。
ラウラは両足を地面に擦り付けてこけないようにする。なんとか放り出された際の威力は消えたが、直様ゼロが飛んできた。
「クソッ!」
ラウラは両肩から全てのワイヤーブレードを射出してゼロの動きを妨げようとする。
空中から迫り来るワイヤーブレード、ゼロはそれら全てを把握した。
「…………」
ゼロは迫り来るワイヤーブレードを全て殴り落とした。
その光景にラウラは心を奪われてしまいそうになった。
ゼロがラウラに近づく。
プラズマブレードでゼロを切り裂こうとした瞬間、ゼロはスライディングのように体制を低くしながら、ラウラの背後に回り込んだ。
ゼロは素早くラウラの胴に両腕を回すと、へその前で手と手を絡め合わせた。
そして両足を強く地面に縫い付けた。
ラウラの肉体がISごと容易く持ち上げられる。
そのまま勢いよくジャーマンスープレックスをぶちかました。
普通のISならばここで沈んでしまうのがオチだろう。
しかし。
「チッ、自分にAICをかけたか。反応の良いやつだ」
ラウラは地面に頭部が直撃する寸前に己にAICをかけて、動きを止めた。
その反応の良さだけはゼロも素直に認めるものであった。
ゼロはラウラの身体から腕を外すと、直ぐに相方であるティファの元に飛んで行った。
ティファも三人相手にそれほど手こずっていないようだ。
「選手交代だ」
「わかった」
ティファは後方にバック宙をしながら、その途中でゼロと足と足の裏を合わせて、そこを軸に一回転。
ゼロとティファの相手が変わる。二人は常に一対一と一対三、そしてそれと同時に二対四を進行するように意識しながら戦いを進めていく。
「ソラソラソラソラ!」
ボイスチェンジャーによって変えられた感情の抑え込まれた機械的な、しかし発する本人の気合いが今にも伝わってきそうなほど、圧倒的な連打が三人に襲いかかる。
(格闘戦主体?それにしても、わざの種類が多すぎる)
シャルル…………シャルロット・デュノアはゼロの動きを見ながら、冷静に情報を分析していく。
シャルロットはラウラの加勢にも向かいたいが、ゼロが二人の相手をしながら目線で牽制をしかけてくる。
もし少しでも背後を見せたり、ラウラに加勢を行こうという姿勢を見せたのであれば、ゼロは一瞬でシャルロットに近づいて殺しにかかる。
それだけの余裕がまだゼロには残っている。
ゼロの戦闘スタイルが瞬く内に変わり続けていく。
ボクシング、空手、柔道、ムエタイなどなど、それらの全てが高度な領域に達している。
それらが変わっていくタイミングでゼロは毎回拍手をしている。
その行動は明らかに三人を嘲笑うものであった。大人が子供と遊ぶように、わかりやすく、はっきりと。
いきなり攻撃の手を休めて、大きく手を広げながらその場で一回転をして攻撃を誘い出す。
かと思ったら両手をだらりと揺らして、やる気のない姿勢を示す。
その行動の全てが相手からの攻撃を誘うものであった。
業を煮やして、百春と箒の二人が切りかかったと思ったら、両者の刃を手の甲で弾き逸らしてぶつけ合わせる。
そして一瞬の隙ができた途端に二人を殴り飛ばした。壁際まで吹き飛ばされる二人。
「さあ、次はお前だ」
地面を抉りながら駆けるゼロ。シャルロットは得意な戦術である『砂漠の逃げ水』を行いたいが、ゼロがそれをさせない。
シャルロットは感覚で悟っている。既にゼロの領域の中に入り込んでしまっているということに。
殴るだけ殴られ、反撃しようと思った矢先に僅かな距離を取られて、右手に埋め込まれてあるビーム兵器の弾丸によって足を取られる。
(強い、それに上手い。実力は代表クラス…………一か八か、賭けに出るか)
チャンスは一度切り。
これを逃がしてしまっては勝てる可能性は零になってしまう。
ゼロが再び近づき、接近戦をしかけてくる。
(今だ!)
シャルロットは右腕のシールドの先をゼロに向ける。
そして距離が零になった。
ゼロが右腕を振りかぶったのを確認して、シャルロットはシールドにつけられた引鉄を引いた。
盾の内側から鉄の杭が撃ち出される。
『灰色の鱗殻』、第二世代ISが持つことのできる装備の中で最高の威力を誇るソレを、シャルロットはゼロの腹目掛けて撃ち出した。
シャルロットは勝利を確信した。避けられるはずがない。このほぼ零距離、そしてカウンターの一撃。
しかし。
ゼロの左腕が不気味に動いた。それはまるで、人の動きを超越したものであった。何十何百と数えられる戦いの中で生まれた勘はシャルロットの動きを予測した。
高速で撃ち出された必殺の一撃は容易くゼロの左手に掴まれた。
(予想できたはずがない。つまり、反応した!?)
シャルロットはその光景に背中から冷や汗を流した。
実力が違いすぎる。
「終わりか?シャルロット・デュノアくん」
「……!?」
正体がばれている。
シャルロットは慌てて近接戦闘用のブレードを取り出して、ゼロに切りかかる。
こいつが何かをしゃべる前に口封じをしなくては。既に織斑百春にはばれているが、これ以上知られてはならない。
しかし、選んだ手は最悪。よりにもよってゼロの得意な接近戦を選んでしまった。
肘鉄、裏拳、掌底、リバーブロー、ガゼルパンチ、目にも止まらぬ早さで打ち込まれていくゼロの攻撃。
シャルロットはその攻撃から逃れようと無意識の内に後ろに下がっていく。
そして。
ガンッ
シャルロットの背中が何かにぶつかった。
(なに、壁までは距離がある。だったら何にぶつかっ……!)
そしてシャルロットは気づいた。自分が何時の間にか、ラウラ・ボーデヴィッヒの背後にまで移動していた、いやさせられていたということに気づいた。
ラウラもシャルロットと同じように移動させられていたようで、驚いている。
「……」
「……」
ゼロとティファの二人がアイコンタクトを取ると挟み撃ちをかけた。
「デュノアァ!」
「わかってる!」
シャルロットとラウラは両者ともに避けることができない。どちらかが避ければどちらかが攻撃を受けてしまう。
ラウラはAICを発動、シャルロットは残った盾を構えて攻撃を防ぎにかかる。
「左腕起動、衝拳」
黒零の左腕から光の粒子が漏れた。
ゼロはまるで中国拳法の発剄の如き動き、右足を軸にして体全体を回転させながら、左手で掌底を放った。
貫く、穿つ、刺す、震わす、撃つ、ゼロは心の中で一撃をイメージする。それこそがこの攻撃を放つ為の条件。強き意思がそのまま力になる。
盾に左手が直撃、そしてその直後の事だ。
(……ッ!?)
シャルロットの肉体をミキサーで掻き回すように衝撃が通り過ぎた。
それはラウラも同様だったらしく、AICの発動も不発に終わってしまった。
「それ!」
ティファが両手に構えたビームバズーカから巨大な弾丸が二発打ち出された。
「クッ!」
ラウラはとっさに肩に備え付けてあるレールカノンから弾丸を放った。
一撃は相殺したが、もう一発がレールカノンに直撃して、それを破壊した。
「行くぞ!」
「わかった」
ゼロとティファが右腕を挙げ、そのまま高速で意識を失いかけている二人に向けて突撃する。
二人が同時に放ったアックスボンバーがラウラとシャルロットの肉体に直撃した。
「「クロスボンバー!!」」
首に衝撃が走り、上空に向けて飛ばされる。
その一撃でシャルロットとラウラは宙を舞った。ゼロとティファの二人は追撃を仕掛けるわ
けでも無く、ただ両者近づくだけであった。
無惨に落下した二人、受身を取るわけでも無く、その衝撃に意識を刈り取られないようにすることが今できる精一杯のことであった。
「…………なんだ、ここまでやってもVTシステムを発動しないのか」
「どうするの?これ以上やるとエネルギー切れを起こして発動できなくなるよ?」
「…………しょうがない、最後の手段を使うか」
そう言うとゼロは振り返って、アリーナの管制室に向けて大声で叫んだ。
「どうした織斑千冬!これ以上やると、てめえが栄光を捨ててまで助けたかった弟ちゃんが殺されちまうぜ!なあ、降りてこいよ。ISに乗ってな!あの時の続きをしようぜ、勝ち逃げされるなんて癪に触るだろ?リベンジさせてやるからさ、お前が唯一負けた相手に対してよお!」
その言葉は静寂のアリーナに響いた。
「一夏くんとティファちゃん、仲良くして。良いなあ」