「奴は……あの時の奴なのか」
管制室で、織斑千冬は衝撃にかられていた。
突然の襲撃者、アリーナ内部との連絡はほぼ取れなくなり、現在は教員達による生徒の救出活動が行われている。
千冬個人の願いとしてはいち早く百春の援護に回って欲しいのだが、その為の人員を回せないのが現状だ。
「あの……織斑先生?」
千冬の様子が急激に変わってしまった事を心配したのか、副担任である山田摩耶が後ろから声をかけた。
「……マズイな」
摩耶の目から見ても千冬は明らかに焦っていた。目の前の画面に映る謎のIS乗りが喋った事が本当なのだと察することができた。
「山田先生、急いで救出に向かわせてください。アレは……マズイ」
「貴様が、貴様かあああああ!!」
ラウラは身につけていた眼帯を外し、金色の瞳を露出させながらゼロに突撃した。
もはや冷静さなど失われてしまっている。防御を捨ててまで、自爆特攻覚悟で突き進むしかなった。
それでも、ゼロには届かない。躱され、防がれ、僅かな時間の内に無意味なものであると気づかされる。
「何をそんなに怒っているんだ?」
ゼロはヒョイヒョイと言った軽やかな効果音のつきそうな余裕の動きを見せる。
躱す度にラウラの振るうプラズマブレードの出力が増していく。
「貴様のような奴がいたから、教官は栄光を捨て!苦しんだ!」
「何を言ってやがる、そのお陰でお前はその教官様と出会えたんだぜ。感謝されても、怨まれる覚えはないのだがなあ。そう、言わば我々はキューピッドというのかもしれないな!」
ハイキックでラウラの腕を弾き返して、ゼロは一度距離をとった。
「どうした?ご自慢の教官様は、こんなヘボ兵士を作り上げるので精一杯だったのか?だったらこんなぬるま湯みたいな場所で、あんな高い位置から日和ってるのも納得できるなァ」
「舐めるなあああああ!!」
「ハッ!もっと怒れ、憎しめ、怨め。まあ、そんなことしても実力差は埋まらないがな」
「黙れエエエエエエエ!」
手刀に精彩さがかけていく。それは素人の目から見てもわかるほど明らかなものであった。
故にゼロに簡単に受け止められてしまう。
「ほらほらそんなに怒らないで、俺たちにお礼を言ったらどうだい?私と教官を合わせていただきありがとうございますってさ、ラウラちゃん」
「アアアアアアアアアアアア
!!!!」
暴れる。
しかし、容易くその動きをゼロは操る。
足払いをしかけて転ばせ、倒れこんだ腹を大きく踏み潰した。
「ガハッ!」
口から大量の酸素を吐き出して、苦悶の表情を見せるラウラ。
「さあ、終わりか?じゃあ、もう…………ふっ」
ゼロの背後から百春が攻撃を仕掛けてくる。
ラウラと同じようにその顔は憎悪に溢れていた。
ゼロはラウラから足を離すと、百春を迎え撃つ。
「穢せ、汚せ、濁れ、
一振りの刀がゼロの右腕に収まった。柄も刃も漆黒で染め上げられている刀、そして百春の持つ雪片二型に酷似していた。
それはこの戦いでゼロが使う最初の武器であった。
同じ刀を見てきた二人、しかし捉えたものは全く違った。
「お前が、お前が俺を誘拐したのかアアア!!」
「どうだか」
刀と刀がぶつかり、火花を散らす。
現在攻勢なのは百春、怒りに任せた一振り一振りが確実にゼロの肉体を狙う。
「はは、届かないよ」
本気の攻撃もゼロには通用しない。まるでその動きが予想されているかのように、ゼロが動かした位置に百春の刃が飛んでくる。
余りにも不気味。
「そうだ、もっと良いこと教えてあげるよ」
「なんだ!」
苛立ちを隠せない様子の百春。
「実は織斑一夏が誘拐された時もさ、あの現場にいたんだよ。どう?驚いただろ」
「……お前は何を」
ゼロの言葉を百春は理解できなかった。
否、理解したくなかった。
もし今の言葉が本当ならば、自分と兄を誘拐したのが同一の人物または組織ということになってしまうから。
あの誘拐事件は織斑千冬に対する妨害工作。自分のせいで姉を傷つけてしまった思っていた百春は、我慢の限界だった。
「いやあ、無様だったよ。織斑一夏はさ。縛られながら何度も何度も、『助けて千冬姉』ってさ。面白いだろ、笑えちまうだろ。本当に見せてやりてえよ、残念だよ」
来ないことはわかっていた。
「テメエエエエエエエエエ!!」
『零落白夜』
織斑千冬の代名詞とも言える必殺の一撃が起動した。
当たれば一瞬で敗北が決まってしまう。
我武者羅に振るわれる刃、それをゼロは重ね合わせるように刃を這わせて、軌道をずらしていく。
必殺の一撃といえど、当たらなければ意味がない。
幾百の戦いを経験してきたゼロと戦闘に関してはほぼ素人の百春。二人の明暗は別れた。
「姉さんは、泣いていたんだぞ!」
「それが、どうした。フッ!」
ゼロは刀を持ちかえて、峰打ちで雪片二型を持つ白式の右手を大きく叩いた。
雪片は弾き飛ばされて後方に飛ばされ、地面に突き刺さった。
百春はバック飛行で後ろに下がり、刃を手にとった。
そして両者距離を詰めるわけではなく、睨み合う。
「…………」
(強い……勝てない。けれど、やらなきゃいけないんだ)
スラスターを再度点火しようも思った次の瞬間だ。二人の間に大きな線が走った。
顔を動かして発生源を確認する二人。
「巫山戯るな、巫山戯るな。お前のような奴が、教官を穢して良いはずがない。そうだろ、違うのか?」
ボロボロの機体のまま、ラウラが立ち上がった。その様子はまるで修羅を纏っているかのように、先ほどまでとは雰囲気が違っていた。
「だから、お前は…………」
怒りが、負の感情が頂点に達した。
『VTシステム…………起動』
ラウラが漆黒の泥を纏う。そしてラウラの専用機の姿が変わっていく。
その姿は見覚えがあるものであった。特に百春と千冬にとっては。
「暮桜…………」