インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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学年別タッグマッチ4

『一夏くん、ティファちゃん。二人で仲良くして、楽しそうだね』

包丁を首元に突きつけられているような感覚が一夏とティファの二人に襲いかかる。

 

久し振りに感じる、生温さとはかけ放たれている。灼熱で冷徹な恐怖心。

 

今回の任務で一番緊張しているのはこの場面ではないのだろうかと思えるほどに、二人は震えがっていた。

 

『ア、アリサちゃん。ひ、久し振り。そうなのよ、この前も一夏と夜二人で…………』

 

震えた声でティファが話す。

 

『夜、一夏くんと、二人で…………私が一人でさみしい思いをしていたのに、二人はそんなことしてたんだ。良いなあ、ティファちゃん。ねえ、一夏くん』

 

ティファはこの時、地雷を踏み抜くという行為がどれほどまでに恐ろしいかという事を理解し、心に深く刻み込んだ。

 

『落ち着け!アリサ!頼むから!頼むから!最初はこいつからやって来たんだ!ていうか、襲われたんだ!』

 

『あ!売った!』

始まる痴話喧嘩。というか、それはまるで浮気現場を見られたかのような間抜けな男と女、そしてそれを問い詰める妻のようであった。

 

『………………最初は?』

 

アリサは丁寧に一夏の言葉を抜き取った。

 

最初は、ということはそれ以降もあり、そしてその場合はどちらから誘った事になっているのか。

 

『…………………』

 

『…………………』

 

『…………………』

 

沈黙が3人の間に満ちた。

 

『…………………………撤退だ!』

 

『応ッ!』

 

これ以上は何も言えなかった。ただ出来ることといえば、今目の前の状況から逃走するということだけであった。

 

二人は本心からアリサと闘うことを拒んだ。

 

スラスターを全力で吹かせて、高難易度の操縦テクニックを最大限活用して初速から最高速度を発揮する。

 

『逃さない』

 

しかし、アリサはその事を予測していたかのように、瞬時加速を一夏たちよりも早く行い、二人の前に立ちふさがった。

 

無駄に技術レベルの高い逃亡劇が今繰り広げられる。

 

アリサは真っ先にティファではなく一夏に狙いを定めた。武器を振るうのでなく、ただ自分の手で黒零を掴みにかかる。

 

『ゼロ!戦うの!?』

ティファがそれを見て咄嗟に話しかける。

 

『無理だ。俺は今まで数え切れないほど女の顔面を殴ったり、切ったり、再起不能にしてきたけどなあ…………………アリサは無理だ。闘争意欲が湧かない。逃走意欲は今湧いてるけどなあ!』

 

アリサから来る掴みの攻撃を一夏は躱していく

 

『一夏くん、躱さないでよ。そんなに私が、嫌?』

 

『いや、違うんだアリサ。誤解なんだ。なんなら、今すぐ抱きしめたいさ。でもな、でもなあ!それを任務中の今やっちまうと決意が鈍っちまうんだよ』

 

一夏にとってはアリサの攻撃は絶対に食らってはいけない、弾いてはいけない、防いではいけない。

 

『だったら、私も連れてってよ!私だって寂しいもん!』

 

『無理だ』

 

『なんで』

 

『お前が、俺にとっての光だからだ。俺は戻ってくる。だから、待ってろッ!』

 

強い宣言であった。

 

それを聞いたアリサの動きが止まり、僅かな躊躇いを見せた。

 

その次の瞬間であった。二人の間を引き裂くかのように光の雨が上空より降り注いだ。

 

『…………兄さん、戻るんでしょ?』

 

それは上空でサイレント・ゼフィルスに搭乗して待機していたマドカ、エムからの援護射撃であった。

 

『良いタイミングだ。感謝する…………ティファ』

 

『はいはい』

 

ティファは一夏に近づき、一夏はティファが伸ばしてきた手をつかんだ。

 

それからの一夏は素早かった。現存するすべてのISの中で最速かつ最大加速力をホコる黒零の能力をすべて活用して、他の誰もが追いつけない位置まで飛び去った。

 

「……まったく、一夏くんは。でも…………」

 

誰に聞かせる分けでもなく、誘宵アリサはポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、なんであの時攻撃できなかったの。可笑しいよ、いつもなら反射的に殴っていたのに」

 

それは任務を終えて亡国機業の本部へと戻るための輸送船内での出来事であった。

 

マドカは一夏の異常なまでの違和感に対して、言及せずにはいられなかった。

 

普段の一夏出会ったのならば、あの場面ではまず間違いなく容赦なく顔面に口撃を加えていたはずだ。それなのに、現実はただ無様に避けるだけであった。

 

「あ?……ああ、攻撃できなかったんじゃない、しなかったんだよ」

 

「? どうして?」

「アリサが俺にとっての大切な人間だからだ。ほら、これをくれたのもアリサだ」

 

一夏はそう言いながら、自分の胸元にあるネックレスをマドカに見せびらかすかのように掲げた。マドカはそのネックレスを見ると少し不機嫌そうな顔つきになった。

 

「俺はアリサに攻撃しない。俺がアリサに攻撃するようなことがあったら、それはもう俺が俺ではなく、全く違う存在になってしまったという証拠だ」

 

少しニヒルに笑う一夏。ただその言葉だけでマドカは一夏、兄にとってのアリサと呼ばれる人物の大切さを理解したようだ。

 

けれども。

 

「私とはどっちが大切なの?」

 

引き下がりたくはない。

 

「…………難しいな。そもそも大切のベクトルが違う。答えはそれで満足か?」

 

「なら、絶対値は?」

 

「同じだ」

 

「…………納得できない」

 

口を尖らせながらポツリとマドカが呟いた。

 

「納得するしかないよ、マドカ。一夏にとってアリサちゃんは特別な存在なんだから」

 

そんなマドカの様子を見かねたのか、ティファが助言を挟んだ。ティファはアリサと一夏の事を亡国機業に来る前から知っているために、二人がどういう関係なのかを理解している。

 

「そういうことだ。俺は、寝る」

 

椅子の背もたれに体重を預けながら、一夏はゆっくりと眠りに入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……可笑しい。やっぱり可笑しい」

 

生徒会長、更識楯無は学年別タッグトーナメントの事後処理がひと段落した頃、とある映像を見ていた。

 

それは謎の襲撃者と誘宵アリサの戦闘映像。

 

今の今まで普通に戦っていたはずの襲撃者は誘宵アリサとの戦いになると攻撃はせずに避けることに専念していた。

 

そのことが楯無にとってはとても引っかかることだった。

 

「……聞いてみる必要があるかもね」

 

モニターから顔を離して楯無は椅子の背もたれに体重を預けた。

 

その時のことであった。

 

コンコンと生徒会室のトビラを誰かがノックした。今は放課後、もしかしたら誰かが楯無に対して生徒会長の座をかけて勝負を挑みに来たのかもしれない。

 

「どうぞ」

 

背もたれから体を離して、楯無は椅子構えた。

 

「失礼します」

 

その声の主が誰なのか、楯無は直接会ったことは一度もなかったが、すぐさまわかった。理由は単純だ。その声が若い男の声であったからだ。

 

生徒会室の扉が開かれ、中に一人の男子生徒が入ってきた。

 

「それで、何の用かしら。織斑百春くん」

 

挑発的で探るような瞳を楯無は入室者に向けた。

 

入ってきたのは唯一の男性IS操縦者と呼ばれている織斑百春、その人であった。

 

「初めまして、生徒会長。織斑百春と申します。初対面で無礼なのは理解しておりますが、私の頼みごとを聞いていただけないでしょうか」

 

「何かしら?」

 

「私を……僕を鍛えてください」

 

 

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