「えっ……」
僕の背中をみて、アリサとティファニアが驚いた表情をする。それもそうだこんな物を見りゃそんな風にもなるだろう。
背中にはっきりとある、背中一面を覆い尽くすもの。二つある、二つで一つであるかの様な模様
僕が虐められる原因の一つでもある背中の模様、いくら洗おうが決して取れることはないもの。まるで呪いの様に僕の背中に張り付いている。
プールの授業の時にこれを見た奴が気持ち悪がってみんなに話した。それから誰もが僕を気持ち悪がるようになった。今までこれをみて気持ち悪がらなかったのは両親と妹だけ、姉さんと弟はわからない。僕の記憶が正しいならば弟にはなかった。
どっぷりと僕の中に浸かっている忌々しい思いで、不気味だの化け物だのと言ってきて、石を投げたり殴ったりしてきた奴ら。そんなのは全員、僕が殴って黙らせてきた。
「……凄いだろう、これ。これを見たら皆僕を避けてきた。貶してきた。二人もそう思っているんだろ」
自笑気味に喋りながら僕は二人を見る。僕はパーカーを拾って再び羽織る。これをみたら皆、僕から避けてきた。だから、見せたくはなかった。せっかくできた友達なのに嫌がられてしまうから。
だから、彼女たちも同じ感情を抱くのだろう。
「ううん、そんなことないよ一夏くん!綺麗だよ。それに私は一夏くんの事を嫌わない」
「そうだよ、気持ち悪くないよ!」
……え、僕の中に何かが壊れた。もしそれを表現するならば価値観と言ったものだろう。初めて言われた、家族以外から生まれて……初めて。僕のコンプレックスでもある背中の模様を綺麗と言ってくれた。バカみたいだな……僕。
「うう……う、うう」
思わず泣いてしまった。嬉しかった、初めて言われたことだから凄い嬉しかった。
そんな様子に驚いた二人は僕の元に駆け寄る。
「大丈夫!?一夏くん」
「その、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だし気にしなくていいよ。それよりも泳ごう、ね!」
僕はアリサたちの手を握って、砂浜まで走った。
「つーかよ、これからどうなるんだろうな」
ジルは腕を組んだ状態でカウンター席の背もたれに体重をかける。その様子を見ていた皇は頬杖をつきながら、目の前にあるお菓子を食べる。
「数児たちもとんでもないものをのこして死んじまったな」
少し淋しそうに語る皇。目の前に置かれたグラスの淵をなぞっていた手が止まる。そして、ジルは体制を元に戻すと。
「そういえば、お前。一夏のことを話したのかよ」
「何処に?」
「
「……ああ、まだ言ってない。せめて一夏が中学に上がっ……いや6年生になったら連れていこうと思う。その頃になったら彼もじぶんで考えられる様になるからね」
「そうか……なら俺も黙っておくとしよう」
あれからしばらく泳いだ後、皇さんとジルさんが戻ってきた。時間も時間という事もあってか泳ぐ事を辞めて、ホテルに戻った。ホテルに戻った僕は水着から着替える。なんだかドッと疲れてしまったな。ジルさん一家とのご飯の約束までは少し備え付けのソファーで休もう。
「……ん、んん」
僕は自分の頬に違和感を感じた。誰かが指で押すような感触。反対側では優しい肌触りの物が触れている。それに首の位置が高い。あれからどれくらい、僕は眠っていたのだろか。それよりもこの感触はなんだろう。僕はそんな事を思いながら体を起こして、目をこすりながら周りを確認する。
「あ、起きた」
「おはよう、一夏くん」
僕の隣にはアリサが、そして目の前にはティファニアがいた。だがおかしい、ぼくが今まで寝ていたのはソファー。しかも、僕は頭のほうを端に寄せていたために誰かが座る事なんて不可能だ。それなのに何故、アリサは僕の隣に座っているのだ。
「何してるの、二人とも」
「ん?一夏がさっき落ち込んでたから励まそうと思ってアリサと一緒に来た」
ティファニアがそう答えた。しかし、僕の頭にはまだ疑問が残っている。そしてティファニアはまた口を開いた。
「それで一夏が寝てたからさ、アリサが起こさないほうがいいって言って、そのままアリサが一夏を「わあああ!」ん!」
突如としてアリサが立ち上がり、続きを話そうとしたティファニアの口を塞ぐ。
「どうしたんだ、アリサ?」
アリサの様子に不審がった僕は尋ねてみる。
「ううん!何でもないよ。それよりもご飯の時間だから行こう?ね!」
アリサはティファニアの口から手を離すと、今度は僕の手を持ってティファニアと一緒にレストランに向かった。
レストランに着くと、既に皇さん夫婦とジルさん夫婦が待っていた。僕は同じ様にバイキング形式のご飯をついで、席に着く。円周上に八つある席の一つに座ると直様その両隣りにアリサとティファニアが座った。その様子をジルさんや皇さんは微笑ましく、そして何処か嫉妬しているかの様な目線で僕を見ていた。
夜はさらに深くなり、深夜のバー。ここのカウンターに二人の男性が座っている。1人は誘宵皇、そしてもう1人はジル・ノーム。
「聞いてくれよ皇」
グラスを目の前に置き、隣にいる皇に目を向けるジル。皇は「どうしたんだい」と返事をして、ジルからの言葉を待つ。
「娘がな、一夏くんと遊べて楽しかったって言うんだよ。それは良いんだよ、娘に友達ができるということは親にとっちゃ嬉しいからな。でもな、どこかその眼が恋する女の子の眼のようだったんだよ」
頭を抱えながら話すジル。
「ははっ、そうだね。実は僕の娘もね、そんな眼を彼に向けているんだよ」
少し笑いながら答える皇。
「やっば数児の息子だよなあ、あいつ」
「そうだね、数児は学生時代はモテていたしね。でも結局、最後に選んだのは季菜くんだ」
そう答える皇にジルは目の前にあるつまみをたべながら
「そうなんだよな、まああの二人はお似合いだったしな。そんなことよりも、お互い娘が一夏に惚れてると思うが、一夏はどっちを選ぶんだろな」
その言葉を聞いた皇は少しばかり笑みを浮かべる。
「時代は少子高齢化だし、政府はそろそろ一夫多妻を認めてくるんじゃないかな。だから僕は両方選ぶと思うな。それにもし一夫多妻がなくても一夏は両方を選ぶと思うよ」
皇からの発言に対してジルは訝しげな表情を見せる。なぜなら彼は皇の言葉を理解してはいないからである。
「どうしてだよ?」
「なんとなくだよ、なんとなく。きっと彼ならそうするとおもってね」
皇はそう言うと、目の前に置かれたグラスを手に取り口まで運んだ。
そして一週間が過ぎ、僕たちは日本に帰ることになった。ホテルをチェックアウトし終えて、空港に向かうとノームさん一家が見送りに来ていた。皇さんやジルさんたちはそれぞれ他愛もない会話をして別れを済ませた。僕やアリサもティファニアとの別れを済ませ、ゲートに向かおうとした所。僕はティファニアに顔を抑えられて頬にキスされた。
「またね!」
少し照れながら見送るティファニアに僕とアリサは手を振って別れた。