「ただいま帰還しました」
「ご苦労だった」
任務を終えて宿に戻ってきた誘宵とボーデヴィッヒを待っていたのは織斑千冬だった。
織斑千冬の目元の化粧は崩れており、先ほどまで泣いていたのだろうと誘宵は思った。
「銀の福音はどうなった」
「私たち二人の手にはおえなかったので撤退しました」
「なぜあのまま戦い続けなかった」
織斑千冬から飛び出たその言葉は八つ当たりに近いものであった。自分の大切な弟が瀕死の重症にあったのに何もできない自分に苛立ちを覚えたから。
「無駄死にしろと?」
その言葉に怒りを覚えたのか、誘宵は千冬を睨みつけながら尋ねた。
「そうは言っていない」
「そうとしか言っていません。ただでさえ相手は性能が上の機体。私たちには倒すだけだはなく、帰還する必要もあった。作戦が失敗したのは篠ノ之箒が速度を想定以上に上げて、会敵地点がずれたことも原因の一つです。文句があるなら彼女に言ってください。八つ当たりしたいなら、そこらへんの岩でも砕いていてください」
千冬は何か言いたそうだったが、それを無視して誘宵は宿に向けて歩き出し、それをボーデヴィッヒが追いかける。
「誘宵、言い過ぎでは────なんで笑っているんだ?」
誘宵の隣に立ったボーデヴィッヒはあることに気づいた。
誘宵の口が僅かに上がり、わらっているということに。
ボーデヴィッヒは誘宵が笑っているところなど初めて見た。
なぜ笑っているのか理解ができない。何か楽しいことでもあったのか、しかしいくら考えてもボーデヴィッヒはこの数時間のうちに誘宵にとって楽しいことがあったとは思えなかった。
「誘宵」
「なに?」
僅かに声音が上がったいた。
「なぜ笑っている」
その言葉に誘宵はキョトンとした表情を見せた。
「何故?嬉しいことがあったからに決まってるでしょ。それより、汗かいちゃったし温泉に入りましょ。私疲れちゃった」
「あ、ああ」
笑う誘宵にボーデヴィッヒは恐怖した。
「あ、アリサちゃんおかえり。トランプでもする?」
温泉から上がって自室に戻った誘宵を待っていたのはトランプをする友人たちであった。
「ごめんね智沙ちゃん、ちょっと疲れちゃったから昼寝させてもらうね。誘ってくれてありがと」
アリサは押入れから布団を取り出して、畳の上に敷いた。クーラーの程よく効いた涼しい部屋なので、アリサはタオルケットを体にかけて寝転がった。
「ねえ、アリサちゃん」
数少ない友人の樫木智沙が眠ろうとしているアリサに尋ねる。
「なに?」
横になって目をつむったままアリサは聞き返す。
「どんなことがあったの?さっきから先生たちが大慌てなんだけど」
「んん、内緒。それ話すと色々と面倒なの。というか話してはいけない決まりになってるの」
「そうなの?」
「そうなの。だから、お休み」
それから数分もしないうちに、アリサは綺麗な寝息を立て始めた。
「で、スコール。作戦はどうする」
亡国機業の保有するIS専用の潜水艦の中でゼロを含むモノクロームアバターの面々、スコール、オータム、エムの四人は今回の任務のための作戦を立てていた。他にもメンバーはいるのだが、今回はこの四人だ。
「単純よ、貴方の黒零による単騎の力押し。覚醒したコア、貴方の黒零と同等かそれ以上の機体性能となると、エムやオータムでは対処できない。二人にはサポートに回ってもらって、ゼロ主体で戦ってもらうわ」
「わかった。けどゼロはそれでいいのか?」
黒いタンクトップにホットパンツ姿のオータムが尋ねた。
「何がだ」
「いや、一人で戦って勝てるのかと思ってさ。相手は同格なんだろ?」
「勝つさ、問題ではない」
「それならいいんだがよう」
「私たちは、兄さんのサポートをすればいいの?」
「いや、どっちかというと戦い終わった後の運搬だと思う。エネルギーを使い果たすと思うからな…………スコール、黒零の補給はいつ終わる?」
亡国機業の制服を羽織りながら、ゼロはスコールに尋ねた。
「十分程で」
「なら、それまではゆっくりさせてもらうよ」
それだけを伝えてゼロは部屋から出て行った。
「違ったわね」
「違うな」
「違うね」
ゼロが部屋から出て直ぐ、三人は目も合わせずに同じようなことを言った。
「いつもだったらもう少し静かに話すよなあ?」
「そうね、あんなに多くは話さないと思うわ…………女ね」
「女ァ!?兄さんが?いつ?」
「さっきでしょうね。戦う必要のない戦闘を行ったのだから、おかしいと思ったのよ」
妖艶な笑みを浮かべながらスコールはグラスに注がれた水を煽った。
「へえ、珍しい。あいつもあんなんになるんだな」
オータムはスポーツ用のゼリーを飲む。
「なんか、嫌」
ムスッとした表情でマドカはつぶやいた。
「私の所為で百春が……百春が」
とある旅館の客室、ここには気を失って布団で横になっている百春とそのすぐ近くに座っている篠ノ之箒がいた。自らのミスで大切な人が傷ついてしまい、箒は落ち込んでいた。
「あんたがそんなに落ち込んでいてどうするのよ!」
いきなり障子が開けられ三人の女子が入ってきた。鳳鈴音、セシリア・オルコットそしてシャルロット・デュノアの三人だ。
「あんたが落ち込んでいて、百春が治るの!?答えてみなさいよ!」
鳳は箒の胸倉を掴み、叫ぶ。
「そうですわ、篠ノ之さん。落ち込んでいても仕方がないですわよ」
「そうだよ、箒」
オルコットとデュノアも話す。
「あたしたちはこれから百春の仇を取りに行くけど、箒はどうする?」
箒は俯いたままその声を聞いていた。そして、徐々に顔を挙げていく。挙げられた顔は決意を露わにしていた。
「私も行く!そして百春の仇をとってみせる!」
「そう……なら行くわよ、三人とも!
鳳の掛け声と共に四人は部屋から飛び出し、ISを展開して大空へ飛び立った。