インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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銀の福音4

「箒達に何をしたあああ!!」

 

雪片二型が黒零の装甲に擦る。

 

第二移行を完了させた白式──白式・雪羅の振るう斬撃にゼロは感心していた。

 

(斬撃の質が高まっている。強い人間に鍛えられているようだ…………しかし、方向が違う)

 

織斑百春は強くなっていた。しかし、ゼロはその強くなった武の違和感を強く感じ取っていた。

 

百春の刃はゼロ──一夏の刃に似て来ている。

 

(それは、それは違うだろ)

 

呼び出した零雪で刃を受け止める。

 

「随分と汚い剣筋だな」

 

「ほざけ!」

 

力任せに雪片で零雪を押し返す。

 

「そんな刃ではいくら強くなった所でその先にあるのは私の刃の劣化品でしかないぞ」

 

ゼロの繰り出す刃は薄くではあるが確実に白式の装甲に傷を付けている。

 

「お前に僕の何がわかる!」

 

「わかるさ、わかるから言っているんだよ。他の誰でもない、その剣筋を極めた俺だから言えるんだよ」

 

「…………俺?」

 

ゼロの言葉に百春は違和感を感じた。

 

ボイスチェンジャーによって変えられた声と意図的に作られた抑揚のない話し方からか、百春は無意識のうちにゼロの事を女だと認識していた。自分だけが唯一の男性IS操縦者であると思っていたからというのも要因に含まれる。

 

だがボイスチェンジャーで変えられた声でもわかるほど、今のゼロの話し方は男のソレであった。

 

「貴様に教えておいてやる、その武の先にあるモノは…………孤高だ」

 

「孤高?孤独の間違いだろ!」

 

「違うな、孤独とはなってしったモノ、孤高とは成るモノだ」

 

いくら刀が交錯したのだろうか、最早理解できなくなってしまった。

 

ゼロの言っている言葉の違いが百春にはわからなかった。

 

「理解できないだろうなあ、なにせ貴様はその境地に至れていないのだから」

 

力は明らかにゼロが上回る。

 

だがそれでも百春は必死に食いついていく。

 

「暗い暗い闇の道を背後にある明るくて優しい光を振り返る事なく、ただひたすらに突き進む。どんなに暗くても、どんなに恐ろしくても、一歩進むのがいくら遅かろうと、孤高に至った人間は進むしかないんだよ」

 

白式の新たな武装『雪羅』のシールドモードがゼロの刃を受け止める。

 

「孤高とはその境地に至ったモノ達しか理解できない」

 

防戦一方の百春。

 

「貴様にソレができるのか?否、不可能!」

 

シールドが大きく弾かれる。

 

「何故、そんなことを!!」

 

弾かれた反動を利用して雪羅をクローモードに変形、ゼロを引っ掻く。

 

「言い切れる!」

 

雪羅の爪を刃で受け止める。

 

「貴様ではこの境地に至れないからだ。貴様がこの境地に至ってしまえば貴様は貴様ではなくなってしまう」

 

「なにが言いたい」

 

「貴様は何の為に戦っている」

 

仕切り直し、二人は一旦距離をとった。

 

「僕は僕の大切なみんなを守る為に闘う、護られてばかりの僕ではないんだ!」

 

百春が迫り、刃を振り下ろす。

 

ゼロはその攻撃を雪片を持つ手首を掴んで受け止める。

 

「それが孤高にはなれないのだよ、どんなに頑張っても我らの境地には至れない。孤独になってしまうだけだ」 

 

ゼロに掴まれる白式の手首装甲が悲鳴をあげる。

 

性能は黒零のほうが高く、必死に振りほどこうとしても無意味に終わる。

 

「俺は俺の為に戦っている。だからこそ孤高に至れる。誰もいない闇の道を突き進むことができる。故に、貴様にこの道は進めない」

 

空いている手での鉄拳が百春の胸を抉る。衝撃が駆け巡る。

 

消えかかりそうになる意識の中で百春は雪片を逆手に持ち替えてゼロの胸に突き刺しにかかる。

 

「僕は孤高にも孤独にもならない、僕は皆と突き進む。お前が孤高になってしまったのなら、僕は皆と進むだけだ!」

 

その言葉を聞いてゼロは僅かに安心した。

 

しかし、その直後にどうしようもない怒り胸のうちからこみ上げて来た。

 

「だったら!」

 

百春を突き離し、より一層両の拳を強く握り締める。

 

「何故そのような戦い方をする。それが守るモノの劔か!否、否、否!」

 

猛攻撃が百春を飲み込む。

 

「それは殺す剱だ。いくら貴様が守るモノだと言い張った所で、刃を交えれば本質がわかるぞ。貴様は俺以上に性質が悪い。怒りにとらわれようと憎しみに溺れようとも、守る刃で守らずにどうする!」

 

両手を絡め合わせたダブルスレッジハンマーが大きく百春を吹き飛ばす。

 

右手の爪を立て、指先から細いエネルギーダガーが生まれる。

 

接近してからの追撃の爪の一振りは白式のビームシールドにうけとめられる。

 

「だったら、僕は何を!」

 

爪をはじき返して、雪羅のシールドモードをクローモードに変形させる。

 

爪と爪が幾度も弾き合い、刀と刀は鍔迫り合う。

 

「守ってみろ!」

 

ゼロは一度距離を取ると爪を解除して右手に零砲を呼び出す。

 

銃口を向ける先は百春ではない。近くの岩場に避難していたオルコット達だ。

 

百春のとった行動はゼロの動きを止めることではなく彼女たちの盾になること。

 

それを見てゼロは射線を僅かにずらした。

 

撃ち出される強烈な弾丸。

 

「零落白夜」

 

白刃の煌めきが闇を打ち払う。

 

「傷つけさせるか!」

 

全ての弾丸が零落白夜の刃に飲み込まれ、消えていく。

 

「そうだ、それでいい」

 

零砲を収縮、瞬時加速を利用して距離を詰める。

 

「僕は君とは違う!君が守ることを選ばなかったのなら、僕は守ることを選ぶ!それが僕の道だ!孤独にも孤高にもならない、皆と共に強くなる道を選ぶ!今は未熟で、誰かに守られていることも理解している!」

 

百春の刃の握り方が変わる。

 

「けれど、必ず君とは別の強さを身につけて、皆を守ってみせるんだ!」

 

「ならば見せてみろ、貴様の行き着く先を!この愚かな亡霊に、なり損ないのモンスターになぁ!」

 

互いに両手で得物を握りしめ、全力で振るう。

 

重い衝撃が両者の身体を駆け巡って行く。

 

型をなくしてしまった、心の奥底の本能から放つ武は両者の本質を表すようなものであった。

 

(何だろうか、楽しいな)

 

それは戦闘においてゼロが始めて覚えた感覚であった。

 

心の底で感じている純粋な暖かさと楽しさ、今までの戦いの中では一度も経験したことはなかった。

 

今までに感じていたのは凍てついた空気と命を狙って激しくぶつかり合う殺意だけであった。

 

(そうか、兄弟喧嘩か…………) 

 

最後に喧嘩したのはいつ以来なのだろうか。

 

(俺はこいつといつから向き合っていなかった。俺は何をしていたのだろうか)

 

両親が死んでからは二人の兄弟仲は良いと言えるものではなかった。互いが互いに触れ合わないように、自分たちの世界を作り上げていた。

 

(だからか、だから俺はこんなにも話していたのか。何年ぶりにこいつに向きあった)

 

悲しくなった。

 

僅かだが動きが止まってしまった。

 

そこを百春は見逃さなかった。

 

凶刃をすり抜け懐に入り込み、刃を胴体目掛けて一閃。

 

衝撃を受けた。

 

暫く感じていなかった衝撃であった。

 

「一撃ィ!」

 

百春からゼロに対して始めてまともなダメージを与えた。

 

百春に僅かな希望が生まれた。限りなく遠くに存在していたゼロの背中をようやく見ることができた。

 

(押し切る、押し切ってみせる)

 

(唖々、懐かしんでいた。切り替えろ)

 

零雪を握り直す。

 

追撃をしかけて来た百春の斬撃を躱して、雪羅に突き刺す。

 

百春は雪羅が使えなくなったと判断したのか、腕の装甲から切り離し、雪片でカウンターをいれる。

 

「甘えよ!」

 

ゼロの肉体が落ちて刃を躱し、足を振り上げて蹴りをいれる。

 

吹き飛ばされる百春、直に体制を整える。

 

「僕は負けない、負けたくない!何故かわからないけど、君にだけは負けたくない!」

 

零落白夜発動、この一撃で決めるつもりだ。

 

戻ることなど考えていない、突き進むことしか、目の前の壁を超える気持ちしかない。

 

「いけえええええ!!」

 

高速の絶技、音も世界も切り裂いてしまいそうな一振り。

 

「そうか、だがな」

 

居合切りの様な一閃が空間を斬り裂いた。

 

柄と刃の狭間を切り、雪片の刃を天高く打ち上げた。

 

「届かないのか……」

 

百春から細く声が漏れた。

 

自然と瞳が瞑られ、諦念を悟った。

 

「俺も負けられないんだよ」

 

兄として戦士として。

 

零雪で峰打ち、鋭く重たい衝撃が百春を飲み込み、気絶した。

 

腕がダラリと垂れ下がり、ゼロによりかかるような形で眠ってしまった。

 

「なんだ、強くなってたんだ」

 

優しい声音でゼロは呟いた。

 

 

 

 

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