インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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何をトチ狂ったのか銀の福音戦を一話にまとめてしまったよ。


銀の福音5

「随分とエネルギーを使ってしまった」

 

気絶した百春を抱えたまま、ゼロはヘルメットの画面に映し出されてあるエネルギー残量を確認した。

 

既に半分近く消費しており、その事はゼロにとっても予想外であった。

 

「エネルギーはオータム達から分けてもらえれば問題ないか、それよりも問題は」

 

肩に寄りかかる百春を見た。

 

「まあ、誰か来るだろ」

 

倒された箒達が上がった岩場に近づくと気絶した百春をその近くにおろした。

 

「私たちを殺さないの?」

 

気絶している箒と百春を除いた三人がゼロに向けて護身用の銃を構えている。ISはエネルギー切れの為に使えない。

 

「殺す?そんな価値もない、殺して欲しいならもっと強くなってみろよ。任務の邪魔にならなくなったてめえらなんぞ眼中にない」

 

ゼロは警戒する三人を鼻で嘲笑うと、空に上がって行った。

 

残された三人はやり場の無い怒りを感じることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「終わった、戻ったぞ。銀の福音の様子は?」

 

「今の所は何もない。エネルギー減ってるだろほら」

 

オータムは自分の腰の装甲に付けられてあるコネクター付きのチューブをゼロに渡した。

 

「ありがとう」

 

ゼロは貰ったチューブのコネクターを腰と背中の間の装甲に突き刺した。

 

回復していく黒零のエネルギー、エネルギーが回復していくのをモニターで確認するのと並行して、ゼロは装備の状態を確認する。

 

「それで、作戦は?」

 

「俺が単騎で突撃する。二人はサポートを頼む」

 

「私たちじゃ力不足なの?」

 

不満げな声でマドカが呟いた。

 

「そういう意味で言ってねえよ、ただ三人全員が戦って帰還できないほどエネルギーを消費しちまったらダメだろ。それくらい────来るぞ」

 

ゼロは黒零の腰からコネクターを抜き取ると二人の前に出た。

 

 

 

眠り続ける銀の福音の巨大なエネルギーの繭に変化が訪れる。

 

ドクリドクリと心臓の鼓動のように繭が動き、どんどんと圧縮されていく。

 

「なにが始まってんだ」

 

「覚醒さ。変貌した幼虫は繭を突き破って、今大翼をヒロげる」

 

銀の福音の繭から巨大な翼が飛び出した。

 

壮絶な破壊音と共に繭が突き破られた。

 

黄金の全身装甲、背中から生えた巨大なエネルギーの翼。第一形態から純粋に進化を果たしたかのような洗練されたデザイン、日の光に照らされた黄金の煌めき。

 

覚醒したコアから放たれる圧力に怯む二人、それに対してゼロは前傾姿勢をとって銀の福音の動きに備える。

 

「♪」

 

歌うように奏でるように福音が音を出した。

 

その音はまるで挑発しているかのように聞こえた。

 

「来る──ッ!?」

 

言葉を言い切る前にゼロは防御の構えをとった。

 

そして次の瞬間には防御の構えをとっていた両腕に速く重たい衝撃が伝わった。

 

反応するのが精一杯でカウンターなどしかけられなかった。こんな経験はいつ以来なのかと、ゼロは思い返してみるがそれはかなり過去のこと。久しぶりの本気の相手。

 

高速で接近しての膝蹴りはゼロの予想よりも威力が高く、そして接近する速度は黒零の加速を超えているようであった。

 

「重ッ!」

 

ゼロは受け止めた銀の福音を上に弾き返して、自分は後退する。

 

腕の痺れを感じながらゼロは態勢を立て直して此方に高速で迫ってくる銀の福音をみる。

 

(成る程、俺を相手にしている奴はこんな感じなのか?)

 

銀の福音から繰り出される踵落とし、踏みつけと言った足技の連続攻撃を受け止めていく。

 

隙を見て片脚を掴むと、ジャイアントスイングの用量で福音を振り回し海面に向けて投げ捨てた。

 

「♪♪♪」

 

銀の福音は三度大翼を羽ばたかせると勢いを殺して海面に立った。

 

「いいな、久し振りだよ。互角か、それ以上の相手と闘うことなんて」

 

黒零に乗ってからのゼロはその性能から互角の相手と闘うことはほとんどなかった。

 

しかし今は違う。互角かそれ以上の相手が目の前にいるということがゼロに程よい緊張感を与えてくれている。

 

深く深呼吸。

 

静寂。

 

破裂。

 

最速と最速がぶつかり合う。

 

拳と拳が交差した直後、二体は高速軌道での格闘戦に移る。

 

 

 

「何が起きてる」

 

「わからない、けど狙いがつけられない」

 

ゼロと銀の福音の戦いを見ながら、二人は戸惑っていた。

 

機体性能が段違いの二機が全力を出して闘うと、こうも置いてけぼりにされてしまうのかとオータムは思った。

 

エムはスナイパーライフルで狙いを付けようとするが、機体の動きが速すぎて狙いが定まらない。

 

「成る程、あいつが待機を命令したのがわかったよ。これはついていけない」

 

「覚醒したコア……私もあれがあれば」

 

 

 

エネルギーの雨が降り注ぐ。

 

銀の福音の大翼が羽ばたくたびにゼロ目掛けてエネルギーの弾丸が飛んで来る。

 

銀の鐘と呼ばれたものが進化してしまった。

 

拳を躱すように、最低限の動きでゼロは銀の福音に近づいていく。

 

銀の福音は接近戦に対応する為に両手を手刀の形に変える。指先からエネルギーのブレードが生まれる。

 

精彩な斬撃だ。

 

美しい。

 

攻撃を躱しながらゼロは素直に賞賛した。

 

手を振るだけでエネルギーの斬撃が飛翔する。何度も刃が生まれ、その度に飛ばして来る。近づこうにも近づけない。

 

「なら」

 

ゼロは両脚を海の中に入れ、人魚のように海を弾いた。

 

水の壁が銀の福音の前に現れた。しかし銀の福音はそんなことはお構いなしに壁を飛ばしたエネルギーの斬撃で切りさいた。

 

「♪?」

 

目隠しの壁がなくなった先にはゼロがいなかった。

 

「♪!」

 

背後からの強烈な殺気、銀の福音が振り向くよりも速く、無零に零落極夜を纏わせた斬撃が大翼の一枚を切り落とした。

 

水の壁を囮に使い、ゼロは海中を高速移動して銀の福音の背後をとった。

 

相手がエネルギーを使用した攻撃を主体とするならば、ソレを消し飛ばすことのできる零落極夜で対処すれば良い。

 

しかし、零落極夜は自身のエネルギーを大量に使ってしまうため、限られたタイミングで数秒間だけ使用するのが好ましい。

 

翼を無くした銀の福音がガクリと態勢が崩れた。

 

ゼロは追撃を仕掛けるが、銀の福音は高速でその場から離れて再度翼を生やした。翼の煌めきがました。

 

(変わった、枷が外れた?)

 

銀の福音の纏う雰囲気が変わったとゼロは直感でわかった。

 

銀の福音が拳を握りしめた後、両の掌を前に突き出した。

 

竜巻が生まれた。圧倒的なまでのエネルギーの竜巻。

 

ソレは迫っていたゼロの視界を飲み込んだ。二つの竜巻はゼロの逃げ場を無くした。

 

空気を焼き焦がし、海を食い散らかし、ゼロへと迫る。

 

(突破は……無理か。なら)

 

願う。

 

自らを守る壁を。

 

強く、硬く、自らを守護する壁よ。

 

「壁よ、あれ」

 

黒零の左腕が輝き、ゼロの周囲を『力』が覆う。

 

エネルギーの竜巻を突き進む。少しでも気を抜いてしまえば嵐に飲み込まれ、『力』を解除してしまえば一瞬でエネルギーの残量が零になってしまう。

 

(勢いが強い、押し戻される)

 

ゼロは咄嗟に機体の進行方向を垂直に変化させて竜巻から逃げる。

 

ゼロの周囲から『力』がなくなり、ダラリと左腕が垂れ下がった。『力』を使い過ぎればこのようにクールダウンの為に左腕が暫くの間動かなくなってしまう。

 

故にゼロはこの装備を使うのを躊躇ってしまう。

 

(腕が動くまでは十秒、片手で凌ぐか)

 

無零を呼び出し、右手で掴む。

 

「♪♪♪」

 

竜巻を発生させるのをやめた銀の福音は上にいるゼロを見た。

 

福音が翼を大きく羽ばたかせる。

 

幾つもの小さい光球が撃ち出され、意志を持っているかのようにゼロに迫る。

 

(こんな装備あったのか?覚醒したから生まれたのか)

 

刃を構える。

 

小さな光球と光球は点と点を線で結び合わせるように、エネルギーの線が光球達を結び合わせた。

 

数十の光球が作り上げたエネルギーの網、ゼロの目の前まで小さく纏まっていたソレは彼の目の前で突然大きく広がった。

 

ゼロを取り囲むエネルギーの網、次に打ってくる手をゼロはすかさず予想し、一瞬でも早くその手に対処しようと零落極夜を発動させる。

 

後方に後退、その先にはエネルギーの網が存在しているがそんなのは構わない。

 

網が小さく縮退を始める。そんなことはゼロにもわかっていたことだ。小さくなれば逃げ場がなくなってしまう。だからこそ、それよりも前に投げ出す必要があった。

 

零落極夜の一閃が網の一辺を切り裂いた。

 

その穴から網の外へ飛び出し、無零を収める。

 

下から迫り来る影。

 

(速い)

 

アッパーが迫って来る。

 

顔を狙ったこれを寸前の所で躱した。

 

福音は一度距離をとって直様膝蹴りと共にゼロに再度迫った。

 

ゼロは膝蹴りを右手で受け止めるが、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。

 

吹き飛ぶゼロ、福音は追撃を仕掛け浴びせ蹴りをゼロの腹に叩き込んだ。

 

落とされるゼロ、福音はその軌道上に素早く回り込んで更なる追撃をかけようとする。

 

「追撃は意味がない」

 

手を硬く握りしめ、落下線上にいる銀の福音に向かって裏拳を繰り出す。

 

金属と金属がぶつかり合って激しい音が響き合う。

 

受け止められ、互いに一瞬の硬直を迎える。

 

目と目が交錯する。

 

ゼロは右手を引き戻し、その勢いを利用して左脚でオーバーヘッドキックを仕掛ける。

 

福音はこの一撃を両腕を交差せて受け止める。福音は受け止めてもビクともせず、それどころかゼロを押し返した。

 

(パワーも、速度も向こうが上か…………だったらこっちももう一段階外すぞ、ゼロ)

 

『了解だ、ゼロ』

 

クールタイムを終えた左腕の調子を確かめながら、ゼロは心の中にある鎖が引きちぎられるのを感じた。

 

(こいつに勝つぞ、出し惜しみはなしだ)

 

『わかっているさ、だからオレも制限を外してやるよ』

 

重なり合う。

 

 

 

『「(オレ)達はゼロ、さあ行くぞ」』

 

 

 

黒零の動きが変化した。

 

今まではパイロットであるゼロの体を心配してか、最高速度から零速度までの急激な加速を行ってはいなかったが、今は違う。

 

パイロットにかかる負荷を無視した全力で銀の福音を相手している。

 

顔面にストレートが直撃しようと、爪から飛び出したエネルギー刃切り裂かれようが構わない。

 

ゼロと銀の福音は互角の戦いを繰り広げている。

 

それはもうモンド・グロッソの決勝戦並みに激しい戦いであった。

 

互いの実力がトップクラス、機体の性能も世界最高峰、申し分ない。

 

そんななかゼロの動きのキレが増していた。今の今までは手を抜いていたのかと言われるとそうではない。寧ろこの戦闘の途中で限界を超えたような感覚であった。

 

「♪♪♪♪♪」

 

銀の福音はゼロに対する変化からくる違和感を感じ取ったのか大きく距離をとった。

 

ゼロは追撃を仕掛けるわけではなか、その場で福音からの攻撃を待っている。次はエネルギーの放出による遠距離攻撃なのだとわかっているようであった。

 

「『さあ、次の段階だ』」

 

銀の福音は翼を激しい羽ばたかせ、光球を何十発も撃ち出すとゼロを囲み網を作り上げた。

 

網は先ほどのよりも目が細かく、範囲も小さい。

 

福音の翼が先ほどの何倍にも大きくなり、それを羽ばたかせた。

 

銀の鐘から飛び出したエネルギーの羽の総数は万を超える。一本一本細い針のような弾丸は網の近くにくるとその周囲をグルグルと回り始めた。

 

網と針が脱出不可能な巨大な繭を作り上げる。

 

福音は右手を前に突き出し、手を大きく広げた。

 

繭に変化はない。

 

 

 

 

 

「なあ、あれヤバクないか?」

 

待機を命じられていたオータムは手助けをするべきかいなかで悩んでいた。

 

相手は自分たちのなかでも断トツの近接格闘能力を持っているゼロと互角に闘うことのできる化け物、機体性能の遥かに劣る自分に何ができる。

 

「ヤバイわよ!」

 

スナイパーライフルを構えたエムが正確に狙いをつけて銀の福音に向けて発砲した。

 

不意打ちに近かった銃撃を福音は一度も見ること無く躱してみせた。

 

「嘘でしょ?」

 

その様に驚愕するマドカ、完璧な射撃だったはずなのに簡単に躱されてしまった。

 

「あんなのと兄さんはマトモに殺りあってたの?」

 

今になってマドカは再認識してしまった。

 

 

 

 

 

 

「♪♪?」

 

福音は違和感を感じていた。

 

あれだけ荒々しく戦い続けていたゼロが何故こんなにも簡単に網に捕まるような真似をしたのだろうか。

 

何故繭を潰そうとしているのに、繭は全く潰れないのか。

 

網は今頃潰れ、ゼロを殺しているはずだった。

 

それなのに、何故、何故。

 

「『目覚めよ、(オレ)』」

 

それは繭を吹き飛ばして現れた。

 

それは黒零ではなかった。

 

正確にいうと今までの黒零ではなかった。

 

「『黒零第1.5形態』」

 

これは形態移行ではない。

 

性能の変化は一切なく、ただ装備が追加されただけの変化。

 

両肩には巨大なバインダー、ソレはゼロの動きを阻害しないように可動式になっている。

 

脚には元の装甲を覆うように追加の装甲、背中にも追加のブースターが取り付けられてある。

 

顔を隠すためのヘルメットにも新たなパーツがつけられてある。

 

「『終わりにする』」

 

ゼロは両手に無零を呼び出す。今までの装備は一本だけだったのだが、この形態変化によって新たに一本作り上げられた。

 

新たに追加されたスラスターが起動する。

 

大きく円を描く起動によってゼロは速度を手に入れる。

 

「♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪!!!!!!」

 

銀の福音も最強の一撃でゼロを迎え討つ。

 

両腕を前に突き出し、先ほどゼロを苦しめた竜巻を発動させる。

 

更に銀の鐘の巨大な翼を前に突き出し、竜巻に巻き込ませる。

 

これこそが覚醒した銀の福音の究極の一撃、圧倒的で超巨大なエネルギーの竜巻を発生させ、相手をその竜巻の中で細かく切り殺す。

 

例えシールドエネルギーがいくら残っていようとその圧倒的な力の前では全くの無意味、直撃を喰らえば死ぬのみ。

 

その絶望の竜巻に向けてゼロは突き進んでいく。一切止まる気配はない。それどころか先ほどよりも速度が上がっているようだ。

 

 

心を合わせる。

 

「『精神力発動!』」

 

二人の呼吸を合わせ、目の前に『力』が生み出した壁を盾にしながら嵐の中を進んでいく。

 

「『零落極夜』」

 

ゼロが両手に持っていた無零の刃が一度無くなり、新たに零落極夜の刃を生み出した。

 

竜を腹の中から斬り裂くかのように、竜巻が内側から切断されていく。

 

その光景を見ていた他の人間達は、余りにも次元の違う戦いに目を疑っていた。

 

 

 

そして終焉は訪れた。

 

竜巻を突破したゼロによる必殺の二連撃、ほぼ同時に放たれた究極の斬撃に銀の福音は反応することができなかった。

 

十字の傷が銀の福音に刻まれ、動きが止まった。

 

ゼロも今までの戦闘で積み上げられた疲労感からピクリとも動かないで止まっている。

 

「任務……完了」

 

消えそうになる意識の中、ゼロは小さく呟いた。

 

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