インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第84話

 

「……マドカ?」

 

織斑百春は目の前に現れた人物に戸惑っていた。

 

今日はキャノン・ボール・ファストが終わり、友人達と実家で誕生日パーティーを行っていた。

 

パーティーも一段落ついた所で、百春はパーティーの主役にも関わらず、会場から抜け出して少し休むために夜風に当たりに行った。

 

そして彼は出会ってしまった。幼い頃に死んでしまったと思っていた妹のマドカと。

 

なぜ彼女とわかったのかというと、顔が姉である織斑千冬によく似ていたからだ。

 

「なにを、なにを……今まで何をやっていたんだ」

 

一歩、百春がマドカに向けて歩き出すと、彼女は百春に向けて銃を突きつけた。

 

「動くな。私にはお前と仲良くする気は更々ない。それにな、今の私はマドカではない」

 

「何を、言ってるんだ?」

 

「私は亡国機業モノクローム・アバター隊員『エム』だ。もう織斑マドカではない」

 

「亡国機業?」

 

それは百春が聞いた事のない名前であった。

 

「お前たちは兄さんを見殺しにした」

 

「……っ!?」

 

その言葉に百春の呼吸が僅かに止まってしまった。

 

マドカが百春の兄、一夏によくなついていたのは彼自身よく覚えている。

 

「だから、許さない」

 

マドカの指が引き鉄を引いた。

 

撃ち出された弾丸、それは真っ直ぐに百春の着ている服の胸ポケットに向かって行く。

 

躱す事はできなかった。

 

しかしその弾丸は百春に当たる前に横から飛んで来たナイフに弾き飛ばされた。

 

二人は咄嗟にナイフの飛んで来た方向を見た。

 

そこには仮面をつけ、亡国機業の制服を着たゼロがいた。

 

百春は突然現れた人物に対して構えをとった。

 

百春は相手が誰なのか理解できた。ISに乗っている姿以外は変装した姿だけしか見た事がなかったが、直感が人物を告げた。

 

「ゼロ……」

 

「エム、独断専行は俺の専売特許なのだがなぁ。今ならば目を瞑っていてやる。戻るぞ。あと数刻後には此方もパーティーがある」

 

ゼロはゆっくりとマドカに近づくと隣に立った。

 

「お前が、お前がマドカを誑かしたのか!」

 

「誑かしたか、言い方を変えればそうなのかもしれないな。俺がいたから、エムはモノクローム・アバターに入隊したと言っても過言ではない」

 

「だったら、俺は貴様を許さない!」

 

百春が腕につけたガントレットに触れた。

 

「私としては同じ男性IS操縦者同士仲良くしたいのだがな」

 

「黙れ、お前は此処で倒す!」

 

「まあ、待て。此処で君が戦ったところですぐに死ぬだけだ。意味はない。それよりもゆっくりと話でもしようじゃないか、てめえもそう思うだろ?なあ!」

 

ゼロは大声である一点に向けて呼びかける。するとその物陰から一人の人物が姿を表した。

 

「千冬姉」

 

「織斑千冬」

 

「久しぶりだな、マドカ」

 

現れたのは二人の姉である織斑千冬だった。

 

「会いたかっ──」

 

「黙れ!」

 

歩み寄ろうとした千冬をマドカは怒鳴って止めた。

 

「お前は、栄光を手に入れた!」

 

その言葉に千冬の心に杭が突き刺さる。

 

「そして、一人の男の姉である事を捨てた。ならば私に対してもう姉として振る舞うな」

 

「違う!アレは、アレは仕方がなかったんだ!そうするしかなかったんだ!」

 

「それが何か私に関係あるか。お前は兄さんを捨てたんだ。だから私は貴方を捨てる。此処でケリをつける」

 

マドカの指が引き鉄を引きそうになるが、ゼロが掌で銃口を塞いで発砲を止めた。

 

「落ち着きたまえ、此処で彼女達を殺したところで面白い事は一つもないだろう」

 

「だが────」

 

「黙れ」

 

マドカはそれ以上は言葉を出さなくなった。有無を言わさぬゼロの態度に、彼女は身を隠すように彼の後ろに下がった。

 

「それでいい」

 

ゼロはそっとマドカの頭を撫でた。

 

「こうして直接面を合わせるのはそこの男が誘拐された時以来だな。息災だったか?」

 

「貴様がマドカを誑かしているのか!」

 

千冬は怒りを瞳の奥に孕んでいる。今にも飛びかかりそうではあるが、寸前の所で心がそれを止めている。

 

「会話が通じないのか……まあいい。姉弟揃ってつまらない事を聞いてくる。彼女は自分の意思で此方にいる。無論、私もだがな」

 

「貴様の話など聞いていない。マドカを力づくでも返してもらうぞ」

 

「できるのか?今の貴様如きが、牙も爪も無くしてしまった獣風情に何ができる」

 

「貴様を倒す事はできる」

 

「凄い冗談だ。笑えない。貴様はこの辺りを火の海にするつもりか?俺はするぞ」

 

千冬はその言葉を聞いて、悔しそうに拳を収めた。

 

ゼロの言葉は冗談ではなかった。逃げるためならば周囲の被害を考えない。自分たちの為ならば誰が被害に会おうと視界には捉えない。

 

「ほう、理性的な判断ができるのだな。猪武者かと思ったら少しは知性があるようだ」

 

ゼロはまるで千冬を馬鹿にしたような態度を取る。苦虫を噛み潰したかのような顔をする千冬、今すぐにでも殴ってやりたい。しかし、それはする事ができない。

 

「貴様らの目的は何だ、亡国機業」

 

「へえ、その程度の情報は手に入れたみたいだな。この前の態と逃がしたやつを捕まえて拷問でもしたか?」

 

「そんな事をするか。奴は自分の事は話さなかったが、貴様らの事は良く話してくれたぞ。何が目的だ」

 

ギロリと鋭い目つきがゼロを捉えた。

 

「目的か、世界をより良く循環させることだな。そのためならば我々は幾らでも戦う」

 

「一夏を誘拐したのもそれが理由か?」

 

「さあ、どうなのだろうな。俺もあの場にはいたが誘拐した理由は知らないな。ただの暇つぶしじゃねえのか?そもそも彼を捨てた貴様には関係ない筈だろ?」

 

「違う!千冬姉は兄さんを捨ててない!」

 

ゼロの言葉を百春は真っ向から否定した。

 

「違わないさ、彼女は織斑一夏を捨てたんだよ」

 

「お前に姉さんの何がわかる!」

 

「何もわからないさ、何かわかりたいと思わない。だから、否定しているんだよ」

 

二人は相入れない。

 

「エム、戻るぞ。こいつらと話していても意味がない。それに、パーティーに主役が遅れてしまっては格好がつかないからな」

 

ゼロの右手にいきなりスタングレネードが出現した。

 

「それでは、次会う時はケリをつけよう」

 

「逃すか!」

 

千冬は咄嗟に走り出した。逃すわけにはいけない。せめてマドカだけでも連れ戻さなくては、その念が千冬を突き動かした。

 

ゼロが目の前にスタングレネードを目の前に放り投げ、それと同時に後方にエムの手を引っ張りながら走り出した。

 

スタングレネードが炸裂し、千冬の視界を埋め尽くすが、予め目をつむっていたので光を食らうことはなかった。

 

しかし、足が止まった。

 

目を開いてみると千冬の足はトリモチを踏んでいた。

 

何時の間にこんな物が、千冬は思った。答えは簡単、千冬達と話している途中でゼロの後ろに隠れていたマドカが仕掛けていたのだ。

 

スタングレネードを使えば千冬は目を瞑ると予想していたゼロがマドカに行動を取らせた。

 

「大丈夫?千冬姉」

 

「ああ、問題ない……マドカが生きていたか……姉を捨てた。違う、違う筈だ」

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんはアレで良かったの?」

 

「何が良かったんだ?」

 

二人はISを使って亡国機業の本部に戻ってから、ある部屋に向かっていた。

 

「あの場所に戻る気はないのかってことよ」

 

「なんだ、そんな事か。あの場所はもう俺の戻る場所じゃない。だから、興味がない。それによ──」

 

二人はある部屋の前で立ち止まった。

 

「今は此処が俺の居場所だ。此処には仲間がいるし、倒さなきゃならない敵がいる。居場所が欲しけりゃ自分で作るさ…………さあ、誕生日パーティーだ」

 

扉が開かれる。

 

「飲めや!飲めや!今日は楽しい日だぞ!!」

 

「主役不在だが、はしゃげやあああ!!」

 

部屋の中に広がっていたのは粛々とパーティーの主役の到達を待つ会場ではなく、パーティーの主役不在なのにも関わらず既に騒ぎ散らしている無残な会場であった。

 

「凄えな。俺主役不在で此処まで騒げる誕生日パーティー初めて見たよ」

 

「え?なんで?なんでみんなもう騒いでるの?」

 

ゼロは目の前の状況を素直に受け入れたが、マドカは理解できずにアタフタしている。

 

「ああ、なんだゼロ今ついたのか?」

 

元同室のグレイが声をかけて来た。

 

「どういう事だ、グレイ。何故もう始まってる」

 

「それか、気づいた時には始まってた。誰が原因かはもうわからん。お前の到着が余りにも遅すぎたんだ。でも安心しろ、誕生日ケーキはちゃんと残ってるから」

 

グレイはある一点を指差した。

 

「……グレイ、俺の目は腐っているのか?ケーキがある筈の場所には食いかけのスポンジとイチゴが一個、その上にあのチョコでできたプレートがあるだけなのだが」

 

無残な食い散らかし。

 

「いや、あってるよ。あれがケーキだ」

 

「蝋燭を指す場所がない……泣きたくなってきたな」

 

「気を確かにして、兄さん!」 

 

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