ソレはまるで朝日の光に染め上げられた雪景色のように、純白と黄金が混じり合った、美しい姿だった。
しかしコレは未だ完全な進化を遂げていない不完全な変態。その証拠に右半身の姿は変わってはいるが、左半身の姿は元の白式のままである。
力を求めた百春に呼応した
ゼロの黒零、アリサのアイリス、ティファニアのシエル、そしてナターシャの銀の福音と同様に覚醒したコアが搭乗者のためだけに創り上げたIS。
その性能は未完成と言えど今迄の元とは大きく性能差を感じ、そしてそれ以上に機体との一心同体の感覚を味わうのだろう。
人機同体。
こうなってしまった以上、ゼロは百春に対して驕りを持つことはあり得ない。
一挙一動、最大限の警戒を以ってゼロは百春達を迎え撃つ。
白式が動く。己の変貌を遂げた右腕を前に突き出し、強烈な光と共に新たに創造した得物を空間から取り出した。
雪片とは違う。
コレは百春とシロノの間によって創り上げられた百春の為の武器。
汚れ一つない純白の刀身を持った長剣、目に見えるのは唯の実体剣ではあるが、それだけではない。それだけである筈がないと、ゼロの直感が告げている。
白式の変形を遂げた右の非固定ユニットのウイングスラスターが大きく唸りをあげる。スラスターの推進剤噴出口からキラキラとした粒子が出始める。
そして。
音を置き去りにするかのような超高速移動。
その速度をマトモに認識できたのはゼロを除けば楯無と千冬の二人だけ、それ程迄に白式の速度は速すぎた。
一瞬でゼロとの距離を詰め上げ、すれ違いざまに一閃を浴びせにかかる。
だがゼロもその攻撃に対してカウンタを仕掛ける。大振りの大剣では攻撃は間に合わない。
右手の五本の指先から短めのエネルギーダガーを発生させ、爪を立ててクローを作り上げる。
交錯する両者の一撃、そして両者の右肩の装甲に傷が入る。
(速い、早い、疾い。コイツは今まで戦ってきた誰よりも、ハヤイ!)
警戒のレベルを最大まであげる。しかし、それでも目の前にいる相手に対してはそれでも足りない。
「コッチもいくぞ」
『ああ、油断はできない相手だ』
ゼロの纏う雰囲気がより一層鋭くなる。
一撃の重みを殺して、手数で勝負を行う。大剣『零』を収縮、その代わりに右手には実刀『零雪』左手にはエネルギーブレードの『無零』を呼び出す。
超高速の戦闘、互いの攻撃と攻撃が正面衝突を起こした音が何度もなりひびく。
IS学園の人間たちは戦っている百春に驚愕している。あんな強さの百春を彼女たちは知らないからだ。
彼女たちが知る百春はあんなにも技量は高くはない。彼女が知る百春は代表候補生上位レベルの強さではあるが、今の彼は国家代表レベル、それもトップクラスの技量で戦っている。
アレが百春の意識で戦っているのか、彼女たちはわからない。
ただ自分たちに出来る事は戦いを見ることだけであった。
超高速で行われてる戦闘、一歩も動こうとしないゼロの周りを百春が超高速で飛び回り、隙を見ては一撃を打ち込むがゼロもそれに反応して防御を行う。
極限まで緊張の糸を張り巡らせた状態が何分間も続いていく。見ている人間にとっては永遠のように感じてしまえるモノでも、当事者たちにとって時間は刹那にも永遠にも可変していくモノなのである。
ゼロが二本の剣を使って百春を弾き返すと両者は一度大きく距離をとった。
(ヤハリ、こいつは意識がほぼないな。無意識の領域で戦っているのか?コアと意識を統一させているから、意識がないのか)
百春の異変を感じ取りながらゼロは次の一手を模索する。相手は既に数分前まで戦っていた百春とは違う。百春の実力を自分と等しいモノと定める。
ゼロはエネルギーを半分以上消費しており長時間の戦闘は不可能。
それは百春も同様だ。しかし百春の場合は理由が違う。だがそれに気づいているのはゼロだけだ。百春自身もその事に気づけるほどの余裕は残っていない。
それならばこの時間を楽しむだけだ。
ゼロが無零の刃であるエネルギーを斬撃として百春に向けて飛ばす。それも一発だけではなく、数発を一瞬のうちに飛ばす。
白式の右のウイングスラスターから半透明の青色をしたエネルギーのマントが発生する。百春はソレを美しくひらめかせて、自分の身をエネルギーの斬撃から守った。
マントを広げ、突撃。
二刀と一刀、手数の多さではゼロが圧倒してはいるが百春の守りは硬い、カタイ。
二刀では防御を越えられないと判断したのかゼロは両腕だけではなく、両足も攻撃に混じえる。
剣戟を囮にして蹴りを喰らわせにかかるが、囮は見切られてしまい
蹴りを防がれてしまう。
清流のような美しい太刀筋がゼロを狙う。ゼロはソレを反射に近い高速で最低限の回避行動を取り続ける。
互いに攻撃の手を休める事なく、相手の攻撃を躱し、首を狙う。
白しいスラスターから光の粒子が噴出する。
次の瞬間、ゼロの斬撃に合わせて百春が超高速移動を行い背後に回り込む。
振り上げられる刃、アリーナにいる生徒達は百春の勝ちを確信した。
だがそんなに甘い話ではない。
ゼロは予め逆手に持ち替えていたもう一本の刀で背後にいる百春を狙う。
それに百春は反応する。
体を捻らせて、刃から避けようとする。しかしそれはうまくいかずに刃によって切り傷が刻まれる。もし何もしなければ大ダメージを負っていたのであろう。
体を捻らせればほんの僅かでも太刀筋にズレが生まれてしまう。
ゼロも体を捩じらせて、左肩で刃を受け止める。もし捩じらせていなければ今頃はスラスターを破壊されていたのだろう。
一瞬だけ睨み合う両者、互いの蹴りが互いを吹き飛ばし、態勢を立て直した次の瞬間には空中で凄まじい攻防が繰り広げられる。
(そろそろ、終わる。相手から終わらせにくる……だってそろそろ限界の筈だからな)
百春の持つ得物の一撃に無零と零雪の二本の耐久値が限界を迎えてしまう。
ゼロは前転からのかかと落としで百春を地面に叩き落とし、自身も地面に着地する。
「来な、『零』」
愛刀を呼び出して構える。
速度では白式の方が黒零を上回っているため、動き回ることはせずに攻めて来たところを神速のカウンターで仕留めるつもりなのだろう。
己の知覚領域を限界以上に広げる。
白式が刃を構える。
スラスターから光の粒子が溢れ始める。
────零落極夜
────零落白夜
先に動いたのは当然白式、超高速と他を圧倒する旋回能力によって黒零の回りを囲い込む。
黒零は白式から漏れてくる僅かな攻撃の気配を敏感に感じ取ってみせる。肉体以上に広げた知覚領域は正確に白式を追っていく。
いつ来る。
どう出る。
そして。
白式が旋回運動をやめて突撃する。しかしそれは黒零が態と作り上げたギリギリの隙に突撃してくる。
それには白式も気づいている。だがそれでもそれしか勝機はなく、突撃するしかなかった。
迫り来る白式目掛けて、超高速、神速のカウンターが迫る。
交錯する。
激音がアリーナに響き渡る。
黒零の左肩の装甲、白式の右の装甲が砕ける。
攻撃を終えた二人の動きが止まる。二人は振り返り、互いを見る。
「俺の勝ちだ」
ゼロが高らかに勝利宣言を行う。未だに白式のシールドエネルギーは残っているため、このような言葉を出すのはおかしい筈だが、ゼロには一つの確信があった。
白式が一歩前に動き出す。
しかしその直後、踏みしめた足から地面に向けて無様に、無力に崩れ落ちて行く。
「何……で」
百春は正気に戻った。
何が起きたのかはゼロ以外にはわからない。何故崩れ落ちたのか、ゼロが高らかに説明する。
「なんでかわからないって感じだな。簡単だよ、ただ単に肉体がお前の想像する最上の動きについていけなかっただけだ。俺みたいに慣れていて、それに相応しい肉体を持っているならともかく。お前は普段の何倍もの力を出して、そして未熟な肉体で挑んだ」
簡単な話がズレだ。
「とうとう肉体が耐えきれなくなって倒れてしまった。俺みたいに全身装甲ならば強引に機体を動かすことは可能だが、お前はそうじゃない」
ゼロが大剣を右手に持ち替えて、百春に向けて歩いて行く。
「まあ、コッチも左肩から先が動かなくなってしまったよ。それでも他の部位は動くからお前を倒すには問題ないんだよ」
ゼロが大剣ごと右腕を振り上げ、その直後、彼の右肩を上空から降ったきた一筋の光が穿った。
百春くんは最初の予定としては噛ませ犬的な立場だったんだけど、どうしてこうなった。