インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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第90話

 

黒零の右肩の装甲が降ってきた一閃の光によって砕かれる。

 

黒零の知覚領域外からの超遠距離の狙撃、普段のゼロならばこの攻撃にも気づくことができたのだろう。しかし今のゼロは目の前にいる百春に対して意識を向けすぎていた。

 

「ぐっ……」

 

ゼロの手から零が零れ落ち、右腕がだらりと垂れ下がる。どうやら右肩が弾丸の衝撃で外れてしまっているようだ。動かなくなった左腕の装甲を収縮して、自分の左手で強引に肩を嵌めた。

 

こんな真似を出来る人間、ゼロは数人しか知らない。そして今この場で最も可能性が高い人間を探る。

 

「どう言うつもりだ!エムゥ!」

 

自分の妹織斑マドカ、コードネーム『エム』、犯人は彼女だろう。

 

彼女から通信がくる。

 

「兄さん、遊びすぎ。帰還の時間はとっくにすぎてる。スコールからの帰還命令が来てるのよ」

 

エムは眈々としている。

 

「わかった、俺も少し遊びすぎたみたいだな」

 

ゼロ自身も少し高揚しすぎていたようだ。エムの狙撃によって大人しくなる。

 

零を収縮。

 

その直後ゼロのすぐ近くに一機のISが着地した。

 

「大丈夫?ゼロ」

 

薄めの桃色の全身装甲が特徴的な機体『シエル』、操縦者はティファニア。

 

「問題ない。両腕が動かないだけだ。あいつらぐらいなら脚だけで十分だ」

 

「うーん、本当にできそうだけど今回はやめてね。あたしがスコールに怒られることになるんだから。ほら、肩に捕まって」

 

「わかってるさ」

 

ゼロはティファニアの肩に捕まる。ティファニアはティファニアで空いた手にエネルギーガンを呼び出して、辺り一面に近づかれないように撃ち続けている。

 

「待て……行くな」

 

弱々しい声で、千冬はゼロにすがりつこうとする。

 

だがそんな言葉はゼロの耳には届かない。

 

ゼロは空へと飛んで行った。

 

残されたものは無情、無力、無念。

 

一つの小さな戦いは大きなモノを残してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、気分はどう?」

 

亡国機業の本部へと向かう飛行機の中、ゼロに向けて対面に座っているエムが声をかけて来た。

 

「どう?……どう?」

 

ゼロにはエムの問いかけの意味がよくわかっていないようだ。

 

座席の背凭れに大きく体を預けながら、眉間を寄せる。

 

「だから、織斑千冬と戦ってどんな気持ちだったってことよ。それに、正体もバレちゃったし」

 

「なんだ、その事か……別にどうもない。ああ、あるとすれば予想以上に弱かったなって事だな」

 

窓の外を眺めながら、ゼロは忌々しそうに口元を曲げた。

 

「それってさあ、ゼロが強くなったって訳じゃないの?織斑千冬ってさ、現役引退から結構時間経ってるでしょ?」

 

隣に座っているティファニアが肩を寄せて瞳を覗き込むように聞いて来た。

 

「違う。あんなに弱くなかった……あんなに弱かったのか?」

 

その問いかけは夜闇の中に沈んで行くだけであった。

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