インフィニット・ストラトス ファントム   作:OLAP

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就職

 

 

IS学園はようやく、一時的な平穏を迎えていた。度重なる謎の組織からの襲撃も終わり、精神が壊れかけていた織斑千冬も最近ようやく以前のような元気を取り戻していた。

 

変わった事もあり、つい最近ISの操縦を教える為により専門の臨時教師が配属された。

 

平穏な日常がこのままずっと続けば良いと、何処かの誰かは思いました。

 

しかし平穏というモノは突然の波乱によって破壊されてしまうモノである。

 

波瀾万丈。

 

誰かは言った、平和とは闘争と闘争の狭間にある束の間の時間であると。

 

 

 

 

 

朝、朝礼の時間、講堂にクラスごとに並ばされた生徒達は学園長の退屈な話におとなしく耳を傾けていた。

 

特に変わった事ない、いつものように面白くもない話があり、事務的に時間が過ぎていく。

 

「ええ、ここで皆さんに一つお知らせがあります」

 

学園長のその一言に先生たちは顔を見合わせた。お知らせがあるなど全く知らされていなかったからだ。

 

だがそんな職員席の混乱を無視して学園長は話を進める。

 

「用務員である轡木十蔵が病で入院してしまった為、急な話ですが私の独断で、戻ってくるまでの間、代わりの用務員を雇うことになりました」

 

ざわざわと講堂全体が騒ぎ出す。

 

「では、入ってきてください」

 

学園長からの手招きにより、一人の人間が舞台裏から姿を表した。

 

男だ。

 

百八十を越える背丈に、着ている漆黒のスーツの上からでもわかる運動のできる人間の肉体、顔立ちは極めて良く間違いなく上に分類されるだろう。

 

登壇した男は学園長に向かって会釈をすると、マイクの前に立った。

 

その男の顔を見て衝撃を受けた人間は多数いたが、衝撃を受けた理由は人それぞれである。

 

生徒たちから似ていると声が漏れ始める。誰に似ている。決まっている。この学園にいるもう一人の男性に似ているのだ。

 

男は生徒たちに向けて一度頭を下げ、そして自己紹介を始めた。

 

「ただいま学園長より紹介された、用務員の蝶羽一夏(チョウバイチカ)です。名前は蝶の羽に一つの夏と書きます。轡木氏が帰ってくるまでの短い期間ですが、皆様の学生生活をサポートさせていただきます。以後よろしくお願いします」

 

簡潔に自己紹介を行い、礼を行なう。その際に少しだけ笑った。完璧な笑顔であった。相手に対して不快感を与えない、完璧な作り笑い。顔の角度から目の細め方、口角の上げ方、その何もかもが計算され尽くしてある。

 

学園長に一度目配せをしてから再度会釈、生徒の方を見ることなく降壇していく。

 

生徒たちのざわつきが止まらない中、学園長は再度話を始めた。

 

平穏は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏は廊下を歩きながら、ネクタイを少し乱雑に解いた。

 

「あの爺、人を直属の部下に任命して早々の仕事がコレか?全く、なめられたものだ」

 

ゼロが今回上司である轡木十蔵から任された任務は合計で三つ、その三つを同時に進行する必要がある。

 

一つは轡木十蔵に代わって、IS学園の用務員を務めること。

 

二つ目はIS学園をネオの脅威から守ること。

 

そして三つ目は………

 

「……」

 

人の気配、ゼロは反射的に攻撃の構えを取ろうとしたが、こんな場所ではそんな必要ないと思い平静を装った。

 

そして直様誰の気配かを探り当て、警戒を解いた。

 

優しく、少しだけ微笑んだゼロは振り返って大きく手を広げた。

 

「一夏くん!」

 

一人の少女がゼロの胸に飛び込んできた。ゼロは少女を受け止めると優しく抱きとめた。

 

「久しぶり、アリサ。一段と綺麗になったね」

 

「一夏くんも、だいぶ逞しくなってる」

 

少女、誘宵アリサは普段学友達に向ける落ち着いた様子とはかけ離れた満面の笑みで一夏の瞳を見た。

 

彼女の長い藍色の髪がゼロの両肩を抱き、二人の顔は近づいた。

 

ベタベタとゼロの身体を触りながら、アリサはそこに一夏がいるというのを強く強く確かめてる。

 

「一夏くん、どうして用務員になったの?」

 

アリサはどうしてゼロがIS学園にやって来たのかわからない。

 

「んん?上からの命令でな。こっちでやる事があるんだよ」

 

「それじゃあ、暫くの間はこっちにいるのね」

 

「そうなるな。まあ上からの指示でどうなるかわからないがな」

 

「なら、それまでは一緒にいれるのね」

 

アリサはゼロに目線を送って、ゆっくりとおろしてもらう。

 

「それじゃあ、授業があるからまたお昼ね」

 

アリサはゼロから離れて、膝下まであるロングスカートを翻しながら振り向き、教室に向かって行く。

 

その様子を見ながらゼロは息をははきながらゆっくりと微笑んだ。

 

「…………まあ、来て良かったのかもな」

 

窓からの日差しを浴びながらゼロは久しぶりに合う幼馴染に喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

IS学園用務員室、ゼロはスーツから作業着に着替え終え、始業時間を待っている。

 

轡木十蔵から渡された一日のスケジュールを見直している。頭の中で段取りを確認し、作業の内容を確認する。

 

「考えてみれば、普通だったら俺も学園生活を送っていたのかもしれないな」

 

頭を過る普通の高校生活、制服を着て毎日学校に行って、誘宵アリサと話して、友達を作って────

 

「いや、考えるのはやめておこう。そんな世界は都合のいい世界だ。今の現実から目を背けるな。脆くなる。弱くなる。駄目になる。気をつけろ、俺」

 

ゼロは自分の両頬を全力で叩いた。

 

始業のアラームが鳴る。

 

さあ、仕事の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

「呑気だ、呑気だ…………」

 

仕事に追われる事なく、午前中の仕事をあっという間に終わらせてしまったゼロは用務員室に戻って、ソファーに体を預けていた。

 

「そらそうだよな。あの爺さんがやってたものバリバリの俺がやったらすぐに終わるよな。考えてなかった」

 

貧乏ゆすりの音だけが部屋に鳴る。

 

「はあ、ゆっくりしてるなあ。普段だったらなにしてるっけ、訓練して、事務仕事やって、ちょっと息抜きに喫茶店でコーヒー飲んで、また訓練して、飯食って、あいつらと馬鹿やって……いろいろやってたな」

 

電気ポットがお湯の沸いた事を告げる。ゆっくりとソファーから立ち上がり、マグカップの中にインスタントコーヒーの元をいれてお湯を注ぐ。

 

再びソファーに座ってコーヒーに口を付ける。

 

物足りない。

 

「んん、んん?明日からは豆からコーヒー入れようかな。時間もありそうだし」

 

この数年、毎日のように豆から淹れたコーヒーを飲んでいた為か、ゼロはコーヒーに対して少し煩くなってしまっているようだ。

 

淹れる機械はあるし、コーヒー豆も喫茶店のマスターから貰ってある。何も心配する事はない、コーヒーを淹れる為の手順は頭の中に入っている。

 

「今日は、こっちに来たばっかりで時間もなかったしな。早いうちに荷物を出して、生活できるようにしとかないとな」

 

IS学園の用務員室は並の学校の用務員室に比べてかなり豪勢になっている。

 

用務員の宿直室も兼ねている為、非常に広い。下手をすれば生徒達の寮の部屋よりも質が高いのかもしれない。

 

「あの爺、自分がいる部屋だからって態と豪勢にしやがったな。この学園作るのにもウチが裏から絡んでいたからな……あと一時間、仕事はない。部屋、綺麗にするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

昼、ゼロは用務員室の中でアリサが来るのを待っていた。

 

ソファーに座り、テレビでお昼頃に丁度良い主婦向けのバラエティ番組を見ながら、上機嫌に鼻歌を歌っている。

 

コンコンと扉からノック音が響いた。

 

「今、開ける」

 

アリサが来たと思い、テレビを消してソファーから立ち上がって扉に向かう。

 

鍵を解除して扉を開ける。

 

「はーい、お久しぶりね!」

 

一人の少女が扉の隙間から顔を出した。

 

水色の髪に赤い瞳、文字の書かれてある扇子を広げている彼女の名前は更織楯無。この学園の生徒会長だ。

 

「チェンジだ」

 

彼女の顔を見た瞬間、ゼロは扉を閉めた。

 

「ちょっと、いきなりなにするのよ!なによチェンジって、そういうのじゃないから!」

 

バンと音を立てながら、勢いよく扉が開かれて楯無が中に入って来た。

 

「わかっているさ、少しの茶目っ気だ。それくらい気づいたらどうだ。何の用だ?俺は用がないから帰って欲しいのだが……そうだお茶漬けでも食べるか?」

 

「そんなに帰したいか」

 

「正直に言えばイエスだね。入りたいなら入りたまえ。少しはもてなそう」

 

ゼロは先ほどまでとは別のソファーに楯無を案内すると楯無は素直にソレに従った。

 

「すまないな、碌なもてなしができなくて」

 

そう言ってゼロは楯無の前のテーブルに何も具材が入っていない、お茶ではなくお湯が注がれたお茶漬けを差し出した。

 

「お茶漬けは出すのね、普通こういう時はお水とかよね」

 

「だから、水をだしてやっただろ」

 

「普通は冷たいでしょ!」

 

「そう怒るな、これは私のご飯だ。貴様にはちゃんと用意してある」

 

ゼロは楯無の前に冷たい水の入ったコップを差し出し、お茶漬けを自分の前に引き寄せた。

 

楯無はもうこの段階でこの部屋に来た事は失敗だと思ったが、なんとか心折れずにいた。

 

「それで、用件とは?」

 

あっという間にお茶漬けを平らげたゼロが楯無に尋ねる。

 

「貴方は何の目的でこの場に来たの?」

 

「今朝朝礼の時に話しただろ、用務員として働きに来たとな。元いた場所をクビになってな、丁度再就職先を探していたのだよ」

 

「とぼけないで、そんなんじゃないでしょ。貴方達……亡国機業の真意は何」

 

楯無の言葉にゼロは目を細めた。

 

「へえ、そこまで調べたんだ。凄いねえ」

 

からかうような、嘲笑うような声色で楯無を褒めた。

 

「私たちを甘くみないで、そんなのとっくに知っているわよ……それで目的は何?」

 

「さあな、俺にも総帥の真意はよくわからん。あの人は、どうも俺に面倒臭い事を押し付けたがる性格らしい。まあ、総帥直参の人間だから仕方のない事だがな」

 

「総帥直参……」

 

総帥、その言葉に楯無は反応した。

 

亡国機業総帥、その存在について楯無は何度も自分の家の諜報部隊や国を使って調べようとしたがその存在に関する情報は一切集まらなかった。

 

完全に闇に包まれた存在。

 

だが楯無は知らなかった。

 

その総帥が先週までこの部屋で一緒に日本茶を飲んで和菓子を食べ、世間話に花を咲かせていた何処にでもいるような用務員のお爺さん、轡木十蔵だとは知らない。

 

「総帥とは何者?」

 

「さあな、教える義理はないな……もしかしたらこの学校の人間かもな」

 

事実である。

 

「そんなわけないでしょ!」

 

本当なのだ。

 

「それに、貴方達は轡木さんを何処にやったの?この前まであんなに元気だった轡木さんが、いきなり入院するわけないじゃない!」

 

「あの年の人間は急病になりやすいんだよ…………なんて冗談はやめておこう。お前が今にも怒りそうだ。あの御老人の身柄なら我々が預かってる。安心したまえ、あの方に危害は加えないし、君たちにも危害を加えるつもりはない。俺の任務が終わるまでの間はな」

 

「……その言葉は信じていいの?」

 

「信じるなよ、碌でもない人間の言葉だぞ」

 

殴りたい、楯無の中でこれほど迄の衝動があったのだろうかと言いたくなるほど、殴りたかった。

 

「今は大切な人に会えたから気分がいい。何か聞きたい事はあるか?答えられる範囲で答えてやる」

 

「貴方は第一回モンドグロッソで誘拐された、織斑千冬の弟、織斑一夏で間違いないわね」

 

「そうだな、だが違う」

 

「……違う?」

 

ゼロの言葉に引っかかった。

 

「俺の名前は蝶羽一夏だ」

 

「蝶羽は偽名でしょ?」

 

「いや、本名だ。織斑はあの女の苗字だが俺の苗字ではない。俺の苗字は蝶羽だ」

 

「どういう意味?」

 

「そのままの意味さ……すまないがそろそろお引き取り願う。待ち人が来たのでね」

 

その言葉の直後、ノックオンが扉から聞こえた。

 

「さあ、帰っていただこうか」




そろそろ修学旅行編突入させますが、原作とはかけ離れます。具体的には言いませんが。
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