いつまで続く。
この地獄はいつまで続く。
何度得物を振れば良い。
どれだけ戦っても地獄は晴れない。
始まりは突然であった。
修学旅行でフランスのパリを観光していたIS学園の生徒達の近くで爆発が発生、それも一箇所ではなく複数同時。
突然の爆発に逃げ惑う人々、そして茫然とする生徒達。
「……何が」
戸惑いが解消されるよりも早く、次の動きがあった。
曇天を突き破って上空から数十機のISが降下して来た。さらにそれだけではなく、他にも数十機のISを通行人が纏う。
それだけでこれが入念に準備されて行われたモノなのだということがわかった。
暴れ始めるIS、どうにかしてなくてはと思い、専用機持ち達は自分たちの相棒を呼び出して戦い始める。
それがおよそ十分ほど前、敵を殺さぬように、一般人に被害が出ないように戦っているが両立させるのは非常に困難である。
「鈴!避難している人たちの護衛に回れるか!?」
「無理言わないでよ百春、こっちもこっちでテロリストの相手をするだけで手一杯なのよ。こいつら数が多いくせに一人一人妙に強いのよ!
互いに背中合わせになりながら、百春と鈴音は自分たちを取り囲むテロリスト達に睨みを聞かせる。
どちらかが避難しようとしている人たちの警護に当たれれば本当は良いのだが、今そんなことをしてしまえば残された一人への負担が大幅に増してしまう。
「取り敢えず、アタシ達にできることは現状の維持よ。可能ならば良くしなくちゃならないんだけど、逆に悪くしてしまったら最悪。増援がくるまで持ちこたえるのよ」
「そうだな……………鈴、アレなんだ?」
百春の目線の先には一機のISがあった。そのISは二人を取り囲んでいるISと同じ機体だということはわかるが一つだけ大きな違いがあった。両肩に巨大なバインダーがあるということだ。
その特別なISは今現在、地面に片膝をついて動かない。両肩のバインダーが変形を始める。内部からホイールが現れて接地、その状態で機体本体とバインダーは分離される。バインダーはさらに変形を行い、その姿はまるで一輪車に跨る子供のような姿になる。
だが子供と言うには余りにも悍ましい。バイザー状態の目、右腕はエネルギーブレード、左腕はエネルギーガン、そして背中にはもう一つホイールが備え付けられてある。
「アレは……マズイ」
百春の頭が危険信号を放つ。あの一輪車をこのまま放っておくのはダメだと、今すぐ破壊しろと警告を行う。
「行け」
その言葉の直後に一輪車は動き出す。後ろに倒れこむように変形を行い背中のホイールが地面に接地、今度は一輪車から二輪車に姿を変える。
ウィリーを行い、その直後に一輪車は避難しようとする人々の中に突撃する。
突然の襲来に驚く人々、だが一輪車はそんな事お構いなしに再度人型に姿を変える。
バイザーが真っ赤に光る。その直後、無数の血飛沫が避難しようとしていた人々から上がり、悲鳴が飛び交い、絶望が広がる。
一輪車の名は『アント』、無慈悲に人間を殺す冷徹な自動操縦兵器。対ISではなく、対人間を想定して設計された兵器であるためISほどの起動能力の高さと破壊力は持たないが、それでも人間を殺すには十分すぎる。備え付けられた様々なセンサーを駆使する事によって、人間がどこにいるのかを直ぐに見つける事ができる。
「鈴!アレを止めろ、こいつらは僕が引き受ける!」
「わかった!」
鈴音は龍砲を一点に集中させて放ってアントまでの道を切り開くとその場に百春を残して突進した。
「さあ、こっちが相手だ」
新たに生まれた自分だけの武器、無銘の刀を持ちながら百春は自分を取り囲むテロリストに宣言を行った。
「アリサちゃん、この数はちょっと面倒ね」
「そうね、できる限り早く片をつけて避難民の警護に当たりたいんだけど、この数が相手だと難しわね」
ゆっくりと二人で観光を楽しんでいたティファニアとアリサは突然のネオの襲来に戸惑いはしたが冷静に対処を始めた。
二人とも冷徹に敵を倒していく。
アリサは銃剣の二丁拳銃、ティファはエネルギーブレードの二刀流で戦っている。
殺しはせず、シールドエネルギーを空にして相手の動きを止める。
「本当はさ、ワタシの機体って圧倒的な火力で相手を潰すのが得意なんだけど、この街中じゃできないのよね……いやあ、こういう時に一夏がいてくれたら楽なんだけどね」
「そうは言っても一夏くんは今日本にいるのよ、増援は望めないわね」
この場に長時間足止めされるのは二人にとっては民間人への被害が拡大してしまうために非常にマズイ状態である。
さらにそのマズイ状況をより加速させるかのように上空に一つの機影、それは天空に張り付けにされた十字架。
「ああ~、面倒くさい」
「ティファちゃん、なにあれ?」
「確かクルーシャとかいう奴だったと思う。遠距離からエネルギー砲を撃ってくるし、ビットを飛ばして嫌がらせしてくる。正直なことを言うと戦いたくないです」
「でもやるしかないのよね!」
二人に向けて弾丸が飛び、二人はそれを飛んで躱した。
クルーシャに向けて遠距離攻撃を行うが彼女は簡単に躱してしまう。試しの攻撃とは言え、躱されたのは癪に触った。
『ティファ聞こえるか?』
ティファの耳に通信が入る。声の主は直ぐにわかった、同じモノクローム・アバターに入隊しているエム、織斑マドカの声だ。
「どうしたのエム?まさか増援?」
『ああ、そうだ。丁度任務帰りだったからな。他にも増援はいる…………それにゼロも向かっている』
「ハア!?どういうこと?ゼロは今日本でしょ?」
ティファにはゼロがどうやってこの場にくるのか方法が全くわからない。
『しかも三十分以内にだとさ』
「……それもしかしてあの馬鹿でかいの使うの?」
『……だろうな。正直、今のアレをマトモに操れるのはゼロしかいないからな』
「それじゃあ、こっちも頑張りますか」
通信を切って目の前の敵に集中する。
「一夏、来るって」
「……どうやって?」
「大きな鳥を纏って」
「……………………意味がわからないけど、取り敢えず一夏くんは来るのね……ならそれまでに場を整えて置きましょうか」
「そうね!」
得物を手に取り、二人は愛する者の来訪を待つ。
パリ市内の至る所にアントの群れが広がっている。あちこちで悲鳴が起こり、次々に命が天に登ってしまう。市内は既に業火に満ちており、平穏安全な場所はこの地の何処にもない。
魑魅魍魎跋扈するこの地獄変相、救世の戦士はここにいない。
フランスのIS部隊も出撃してはいるがネオに阻まれてしまい救助に人を割くことができないでいる。
百春も鈴と戦いの最中に別れてしまい、今は一人で行動している。
動き動いて気づけばパリのメインストリート、シャンゼリゼ通りに到着している。できるならば平時に静かに観光として来たかったと百春は思ったが今そんなことを考えても仕方が無い。
360度どの方向からも戦闘音が聞こえる。どの方向の戦闘の手助けをすれば状況は改善されるのかと考えるが、一向に案は浮かんでこない。
戦闘経験の豊富で直感に優れているゼロならば直ぐに決めるのだろうが、百春はこういった状況になるのは初めてなので悩むのもしょうがない。
だが悩みすぎるのはダメだ。
それは状況を悪化させるだけだ。
「…………落ち着け、百春。何をすべきなのか決して間違えるな。落ち着いて状況を────」
その直後、けたたましい音と共にセンサーが敵の襲来を告げる。上空からの敵、百春が得物を片手に敵を見上げその姿に驚愕した。
慌てて、後ろに下がって敵の落下予測地点から離れる。そうでもしなければ敵に押しつぶされてしまうから。
アスファルトの大地を踏み砕く轟音と共にソレは百春の前に姿を現した。
見上げてしまうほどの巨大、四足歩行の化け物。数十メートルはありそうなほどの巨体。
胴体はゴリラのように勇ましく、頭は龍の様、頭部からは二本の雄雄しき角が生えている。
「なんだ、アレ?なんなんだよ、アレ」
ソレがISだと気づくのに百春は数秒の時間がかかった。
あんな巨大なサイズのIS、聞いたことも見たこともない。
龍が大口を開ける。中から光があふれ、極太のエネルギー砲が放たれた。
とっさの判断だった。
瞬時加速を使って射線上から離れるが、エネルギーは背後にあったシャンゼリゼ通りを破壊し尽くした。あちこちで爆発が起きて、人々が死んでいく。
──止めないと。
無銘の刀を握って百春は化け物の首を落としにかかる。
「何だよ、何なんだよオオオオオオオ!!!」
化け物の怒号が響き、巨大な腕を百春に向けて振るう。その速度は巨体からは想像もつかないほど速い。体の至る所につけたスラスターを利用して高速移動を行っている。
一撃目は躱した。しかし次に来た反対の腕からの払いをマトモに喰らい、吹き飛ばされる。
重い、質量に任せた一撃は百春の意識を刈り落とそうする。
近くの建物にめり込んだ肉体を動かしてその場から動こうとする。
「逃がすかアアアアアアア!!!!」
追撃のエネルギー砲、百春は落下する様にその一撃を躱す。そのまま建物に身を隠す。
「返せェ!アタシの肉体を!貴様が奪ったアタシの腕を!脚を!栄光も栄華も何もかもを返せェ!ゼロオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
雄々しき二本の間に一つの巨大なエネルギーの球体が生まれる。その球体を上空に向けて掲げる。
球体から極小のエネルギーの弾丸が撃ち出される。エネルギーの弾丸の豪雨が周囲一面に降り注ぐ。
「雪羅!」
百春は雪羅をシールドモードに変えて降り注ぐ雨を凌ぐ。
(分が悪い、ここは一旦下がってみんなと合流してからコイツを────止まるな、下がるな、引くな、退くな、臆するな)
一度状況を立て直すために引こうとした百春の肉体を、百春の中にある何かが止めた。
ここで引いてしまったら自分が自分ではなくなると叫んでいる。
──何のために自分は戦っている。
──守るために戦うと決めたはずだ。
──ここで引いて何をなす。
──ただ被害が広がるだけだぞ。
──人が泣き、世が嘆くぞ。
──決意は決まってるはずだろ。
無銘の刀を握る百春の手がより一層強くなる。
一振りで降り注ぐ雨を打ち払う。
「勝てないかもしれないな……いや、勝てる。だから一緒に戦おう、シロノ」
百春は名前を優しく呼んだ。
「……………………誰だ?」
百春は自分で呼んだ名前が誰のモノなのか全くわからない。なぜこの名前が出た来たのか、百春にはこの名前に思い当たる節がない。
「いつかわかる、そんな気がする!」
白式のウイングスラスターが大きく唸る。
次の瞬間には最高速度で動き回る白式、化け物の股下を通って背後に回り込む。
百春を化け物の体の至る所にある小型のエネルギー砲が視線を向け、一斉に砲撃を開始する。
「行くよ」
ウイングスラスターからエネルギーマントが出現して、百春を包み込んで害から守る。
弾丸の包囲網を抜けて化け物の頭部にまで辿り着く。化け物の眉間目掛けて無銘の刀を突き刺す。
「……硬い、硬いな」
刀は眉間には突き刺さらなかった。
「いつまで乗ってんだよオオオオオオオ!!!」
化け物は頭を振り回して百春を自分の頭から振り落とした。
百春の目と化け物の龍の瞳が交錯する。
次の一手、互いに相手の出方を探る。
百春が地面に着地、刀を構える。
「次は……次こそは」
パリは燃えているさ