復讐者が豊饒の女主人でこき使われるのは間違っているだろう! 作:ああああああ
むせかえるような血の匂いが、辺りを覆っている。うめき声と、悲鳴と、血しぶき。まさに地獄絵図だ。
「そこを退け、オッタル。俺が用があるのはお前じゃない」
「ノア・・・貴様自分が何をしているのか分かっているのか?」
「ああ、分かってるぜ。オッタル。俺は今日この日、この瞬間に神殺しを行う・・・フレイヤは俺が反旗を翻すことも織り込み済みでことを進めた。だから、お望み通り殺してやるんだよ!」
「貴様をフレイヤ様の所には行かせん!」
「ハッ!じゃあ、死ね!オッタル!!!」
金属がぶつかり火花が散り、衝撃は周囲の空気を吹き飛ばす。剣の腹でギチギチと揺れる剣を受け止めるオッタルに対し、先端を突き立てるノアは冷淡に告げる。
「流石だな、オッタルッ!やっぱりお前だけが、別格だ!!!」
「他のやつらはどうした?」
「5年もこのファミリアにいたんだぜ?他のやつらの戦い方も、癖も、全部知ってる!!!その上、自分の力に自信満々で、過信に満ち溢れてる!!!からめ手を使ったとはいえ、たかが13歳のガキにほぼ全滅とはッ!フレイヤファミリア持ちに落ちたもんだな!!!」
「ッ!」
その言葉の返答は斬撃。払われた剣によって双方、身体が僅かに後退し間合いを取る。
「特に傑作だったのは、アレンだ。自分のスピードとステータスを過信しているから、俺に負けるのさ。それに、あの自尊心と、狂信的なまでのフレイヤへの執着ッ!!!最速の名は返上したほうがいいぜ」
「・・・・・・」
「どうした!?オッタル、仲間が、貶されてるんだぜ?もっと吠えろよ」
「その程度の挑発に俺が乗ると思っているのなら、お前も愚かとしか言えないぞ」
「・・・・・ハッ、ダメ元さ。流石に、レベルが2つも離れてるお前は簡単には倒せないからな」
(とはいえ、状況は絶望的だ・・・ここまで、幹部どもを蹴散らすのでかなり消耗したし、正直傷が痛すぎて泣きそうだ)
「いくらお前とて、フレイヤファミリア全メンバーを相手にするのは不可能だ。あまり時間はないのではないか?」
「・・・フッ!!!」
ノアは、足裏から、魔力を放出し、衝撃を一方向に集中させることで爆発的な速度を生み出す。
瞬時に肉薄したノアは、刀を振るう。逆袈裟に奔った刃・・・同レベルの冒険者であれば、一瞬で決まったであろう斬撃。だが、そんなもの『頂天』には児戯に等しかった。
鮮血が舞う。斬られたのは、ノアの方だ。斬られる直前で、自分の動きが見切られていることに気づきわずかに、後ろにバックステップで後退したものの、傷は深い。
「ッ・・・痛ッッ・・・」
「あきらめろ、お前では俺には勝てない」
慢心ではなく、心の底からの言葉。それを分かっているからこそ、ノアは何も言い返さなかった。
「・・・まだ、刀を握るのか?今引けば、裁定はフレイヤ様次第だぞ。頭を冷やしたらどうだ」
「ハッ、冗談・・・いうな。俺があんたに勝てないのは、俺があきらめる理由にはならない!!!」
次の瞬間、ノアの姿は、オッタルの目の前から消失した。オッタルは、何かの気配を感じ取り、振り返る。
「・・・行くぞ」
静かに、呟いた瞬間、ノアの姿は、その場から消失した。
次の瞬間、ノアが現れたのは、オッタルの背後だった。
鮮血が、オッタルの胸から迸る。
その分厚い胸板には斬線が、真一文字に引かれている。
「なんだと?」
(刀身が視えなかった・・・)
レベル7の自分に視認できぬほどの速度の抜刀術。それは、数多の死線を乗り越えてきたオッタルにとって衝撃だった。
「哀れな男だ、ここまで強くなった原動力が復讐心とはな」
目の前に立っている少年にオッタルは目を向けて笑う。すでに体力は限界を迎え、魔力もほとんどのないだろう。足は震え、視界もオッタルを捉えているとはいいがたいほど、揺れている。だが、その眼にはまだ諦めはなかった。
「フレイヤ様とて、好んで貴様の姉を囮に使ったわけではない。それに最終的にやらせたのは俺だ。憎む相手を間違えるな」
「知ってるよ、そんなこと。最終的に手に掛けたのは闇派閥だし、フレイヤは提案しただけ。あんたは、役割上命令しただけだ。・・・分かってるよ、そんなこと。でも、何かを憎んでないとやってられねえんだよ」
「復讐に取りつかれるのは、お前の運命か・・・頭を冷やせ、ノア。お前には時間が必要だ」
オッタルは、限界に来ていたノアの意識を静かに刈り取った。
「・・・ここは」
「あ、起きたニャー。母ちゃん、目を覚ましたニャー」
「なんだい?やっと起きたのかい」
「な、アーニャ・フローメルに
これは、英雄の物語ではない。悪役の物語でもない。これは、復讐に取りつかれた少年が安らぎを得る話だ。