復讐者が豊饒の女主人でこき使われるのは間違っているだろう! 作:ああああああ
「ふん~、ふ、ふ~ん♪・・・えへへ」
「・・・おい、アーニャ。シルのやつ何であんなに機嫌がいいんだ?怖いんだけど」
「確かに朝からご機嫌だなニャ~」
「しかも踊りだしそうなくらいご機嫌だぞ」
軽やかに鼻歌なんて歌いながら、作業をしているシルはここ最近では一番ご機嫌だ。それはもう気味が悪いくらい。何せ本当に今にも踊りだしても違和感がない。
「何かいいことでもあったんじゃない?」
あまり興味なさげに話に混ざりこんでくるルノア。
「これは恋の匂いがするニャ」
ニヤニヤしながら、実に楽し気にクロエも話に加わってくる。
「恋?」
「そう!恋ニャ!早朝に運命の人にでもあったに違いないのニャ!」
恋・・・ねえ。あのシルが恋か・・・。
「もしそうならぜひ会ってみたいもんだな。あの魔女が落ちるほどの魅力的な男に」
「なんニャ?ノアも気になるニャ?」
「まあな。何せあのシルだからなぁ・・・」
不思議そうにのぞき込んでくるアーニャに俺は正直に答えた。
「まあ、近いうちにわかるだろ。それより今日はロキ・ファミリアが来る日だろ?とっとと準備しないと拳骨か罵声が飛んでくるぞ。」
「「「うッ・・・」」」
この店では店主のげんこつは何よりも怖いものなのだ。
「ノアッ!、シルのお目当てのやつが来たニャ!」
いつも通り、厨房で料理をしているとアーニャが駆け込んできた。
「お目合ってってことは、ほんとに男だったのか!?」
「そうニャ!知るがまさかあんな趣味だったにゃんて」
興奮気味に語るアーニャを横目に俺も視線を扉の方に向ける。そして、シルが連れてきたという少年を探した。
「シルさん、約束通りきました」
「はい、いらっしゃいませ」
「お客様一名はいりまーす!」
シルの連れてきた少年を見つけ、視界に入れた。そして―――俺は固まってしまった。何故だかは自分でもわからない。だが、なんとなく目が離せなかったのだ。
「ノア・・・ノア!どうしたのニャ?急に黙り込んりして」
「・・・ああ、何でもない」
アーニャに声をかけられようやく現実に意識が戻る。
「では、こちらにどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
目を向けると少年がカウンター席に案内されたところだった。そこは曲がり角の席で誰も座ってくることがない場所で、カウンター内側にいるミア母さんと向き合う感じになっている。
「あんたがシルのお客さんかい?ははっ、冒険者の癖に可愛い顔してるねぇ!」
「あっははは、顔については自覚はしてます」
「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理だすから、じゃんじゃん金を使ってくれよぉ!」
明らかに大困惑している少年に同情したくなる。また、あの魔女の被害者が増えてしまったようだ。ほんとに抜け目のない女だ。
「シルさん?」
「・・・えへへ」
「えへへ、じゃあねー!?」
あれよあれよと流され、結局パスタと酒を注文することになった白髪の少年。憐れ・・・。
「楽しんでいますか?」
「圧倒されてます」
少年が半分ほどパスタを食べ終わったあたりでシルが再度話しかけた。
「お仕事はいいんですか?」
「キッチンは忙しいんですけど、給仕の方は十分間に合っていますので。今は余裕もありますし」
いいですよね?っと視線をミア母さんに送るシル。確かに給仕は今は忙しくないので、許可が下りた。
「えっと、とりあえず今朝はありがとうございました。パン、おいしかったです」
「いえいえ、がんばって渡した甲斐がありました!」
「・・・頑張って売り込んだっていうのが正しいんじゃないですか?」
「すみません」
シルたちの会話を聞きながら、この後来る団体の準備を行う。キッチンの仕事は本当にめんどくさい。だが、男の俺が給仕をするよりも他のやつがやったほうが儲かるといった判断から、不測の事態以外は、俺は大体いつもキッチンに縛られている。
「えっと、シルさんってお金が好きな人、ですか?もしかして」
「フッ・・・」
不意にそんな会話が聞こえ、思わず吹いてしまった。
「あははは、少年。いい勘してるな。シルは、魔女だからな」
「ノア・・・。ジョークですよ、ジョーク」
おっと、あまり彼の前でシルの評価が悪くなるのはまずいらしい。久々ににらまれてしまった。
「えっと、あなたは?」
「俺は、ノア。ノア・グラシュエート。よろしく、少年」
「あ、僕はベル・クラネルと言います、よろしくお願いします」
「いやまあ、シルが言ったのはジョークだよ。ただ、ベルがあまりにもストレートに聞くものだから面白くてな。つい反応してしまった」
「・・・まずかったですか?」
「いや、ベルが純粋だって証だ。問題ないだろ」
「ノア、いつまでも喋ってないで、さっさと仕込みをしな!」
「・・・じゃあ、ベル、また今度話そう」
お叱りが飛んできたので俺は、いったん仕事に集中することにした。
『おい、あれ』
『いい、女だな・・・』
『ちげえよ、エンブレムを見ろ』
『ロキ・ファミリア……!』
どうやら厄介なのが来たらしい。あの団体が来るとマジで忙しくなる。あと、神ロキとリヴェリア・リヨス・アールヴが絡んでくる。マジでめんどくさい。
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」
「団長、つぎます。どうぞ」
「ああ、ありがとうティオネ。ところで僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけど、酔い潰した僕をどうするつもりなんだい?」
「ふふ、他意なんてありませんよ団長。ささっ、もう一杯」
「本当にぶれねえなこの女……」
「うおーっ、ガレスー!? うちと飲み比べで勝負やー!」
「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい!」
「ちなみに勝った方がリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやあああァッ!」
『な、なにいいいいいいッ!?』
「じっ、自分もやるっす!」
「俺もやるぜ!」
「私もっ!」
「ヒック。あ、じゃあ僕も」
「団長ォー! そ、それなら私のを揉んで下さい!」
「ティオネも参戦やとォ!?」
「あ゛ァ? 私の身体は団長だけのものに決まってんだろぶっ殺すぞ!?」
「ですよねー」
「リ、リヴェリア様……ッ?」
「言わせておけ」
どんちゃん騒ぎだ。まあ、酒場に着て静かなのもミスマッチだが・・・。
ふと、ベルに目をやると何故だか隠れるようにして身を低くしている。何をしているのだろう?
「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末した時の、トマト野郎の事だよ!」
「じゃあ質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」
おお、酔ってるな。あの狼。黒歴史確定だな。まったく、どうして好意を素直に伝えられないのか?神の言葉でいう、ツンデレという奴だろうか?
「・・・私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」
「おお、一切躊躇無く振られたニャァ!!しかもあの顔、ガチで嫌がっている時の顔だニャ!今夜はうまい酒が飲めるニャ!」
性格の悪さを全開にして、はやし立てているクロエが横にいるルノアに叩かれている。
まあ、確かに無様なまでの振られ方ではある。酔いがさめたら、羞恥心で死にたくなる奴だ。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
「――――ッ!」
「ベルさん!?」
ロキファミリアに視線を向けていた間に、ベルが店から飛び出していった。・・・何が起こった?