復讐者が豊饒の女主人でこき使われるのは間違っているだろう!   作:ああああああ

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第7話

少し考えれば、ベルがあの狼の発言で飛び出ていったのは分かる。要するに、トマト野郎はベルのことだったのではないだろうか?だとしたら、合点がいく。飛び出したくもなる。ふがいない自分を許せなければ許せないほどつらいだろう。

 

だが、今はまだベルが弱いのもまた事実だ。大抵のものは最初から強いわけじゃない。

 

「ハァ~、めんどくさ。ミア母さん、ベルのこと少しだけ放っておいてあげてくれない?」

 

「どういうことだい?」

 

「ベルは、きっと強くなる。あそこで悔しくて飛び出していくほど純粋ならな。だけど、一人で考える時間も必要なんだ。料金は俺が立て替えておくからさ。ベルが自分で払いに来るまで待ってやってほしい」

 

「・・・まあ、いいさ。どうせこの忙しい時にさける人員なんていないしね。しかし珍しいね。あんたが、他人のことを気にするなんて」

 

「・・・まあ、なんとなく・・・」

 

「ベルさん、大丈夫かな?」

 

心配そうに、聞いてくるシル。俺はそれに大丈夫などと軽い言葉は吐けなかった。どんなに強いやつでも『大丈夫』なんてない。だけど・・・

 

「ベルもまた冒険者だ。信じてやったらどうだ?」

 

信じるのは勝手だろう。

 

 

 

結局、ベルは数日後、お金を返しに来た。どうやら無事だったらしい。シルが心底うれしそうだったとベルの目に確かな覚悟の光が宿っていたのがいやに、印象的だった。

 

 

 

 

「ノア、あんた今日は休みな」

 

「え?」

 

ベルの食い逃げ騒動も一段落しいつも通り、休日にダンジョンに向かおうとしていたところ、ミア母さんに止められた。

 

「休日はダンジョン、それ以外は店で働く。そんな生活してたら、体がもたないよ!貴重な労働力に倒れられるのはこっちも困るのさ。今日はダンジョン探索は休みな!」

 

「・・・言いたいことは分かるけど、俺はこれまでもその生活をしてきた。問題ない」

 

「あんたが最近、仕事中に失敗ばかりしていることに気づいてないとでも思たのかい?」

 

「いや、でも」

 

重ねて、否定の言葉を吐こうとした瞬間、ドゴンッ!というけたたましい音と風を切る音が顔の横を突き抜けていった。恐る恐る、顔を横に向けると、すぐ傍をミア母さんの拳が突き抜け、壁にひびを入れていた。

 

「なにか言うことは?」

 

「ありません!」

 

恐怖のあまり、思わず敬礼をして店を飛び出す。まったくあのドワーフ怖すぎやしないだろうか。

 

店を出てしばらく外を歩いていると、やけに人混みが多いことが気になった。

 

「ああ、そういえば今日は怪物祭か」

 

中央広場を過ぎたあたりから急激に増えた人ごみを四苦八苦しながらも進んでいくと、見たことのある人影が・・・否、神影が視界に入ってきた。

 

「フレイヤ?」

 

なんとなく気になり、フレイヤらしき人影を追いかける。しばらくすると、ローブを着た人物は、闘技場の地下へと入っていく。ばれないように距離を置いて、恐る恐る追いかけると、ローブですっぽりと全身を隠していたその人物は、檻の中から己に威嚇する異形の存在全てに見せるかのようにそのローブを脱いだ。

 

完璧なプロポーションに、雪のように白く、傷一つない柔肌、輝かしい銀の髪と瞳を僅かに揺らして周囲に視線を向けると、もはや威嚇し吼えるモンスターは一匹たりとて存在しなくなる。

 

見回りの【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちは皆腰を抜かして動けなくなっている。底知れない(なにか)がその空間を完全に掌握し、無力化したのだ。いや、(なにか)が空間そのものを飲み込んだのだ。

 

「ごめんなさいね?」

 

そんな彼らにクスリと笑みを零し、心にもない謝罪の言葉を口にするその女神を俺は知っている。

 

「やっぱり、貴方か。フレイヤ」

 

姿を現し、主神に話しかける。

 

「あら、久しぶりね。会いたかったわ、ノア」

 

「・・・ああ、久しぶりだな。フレイヤ」

 

正直なところどんな顔をして会えばいいのかわからなくなっていた。あの時確かに、俺はフレイヤを恨んでいた。だけど、あの結末は姉さんが望んだもの。フレイヤは、自分の眷属(こども)をわざわざ死なせるようなことはしない。頭を冷やしてみれば、分かることだった。だけど、あの時の俺にはそんなことは関係がなかった。感情の思うが儘怒りを爆発させ、八つ当たりした・・・。フレイヤは、怒ってなどいないだろう。眷属(こども)のそんな暴走も、笑って許すだろう。だからこそ、俺を一時的にファミリアから遠ざけ、豊穣の女主人に送ったのだ。

 

でも、俺自身は・・・自分の愚行が恥ずかしい。暴走し、憎む相手さえ間違え、迷惑をかけた。一体どんな顔して合えばいいのだろうか。それが分からず、気持ちの整理がついた後も、ファミリアに戻ることはなかった。

 

だから、何でフレイヤを追いかけてきたのかもわからなかった。

 

「フフ、相変わらず不器用な子ね?別に私は気にしてないわ。レイン(あの子)のことは、悪かったと思っているし・・・」

 

「・・・・・・」

 

「本当にあなたの魂は純粋な色ね。どれだけ、その身復讐の黒い業火で焼いても、その本質は白くて、優しくて、純粋なまま」

 

フレイヤは俺に近づき、腕を背中に回して優しく抱きしめた。

 

「大丈夫、貴方は私の眷属(こども)。あの程度のことで捨てたりはしないわ」

 

我ながら本当に仕方がないやつだと思う。きっと、自分がフレイヤは追ってきたのは、この言葉が欲しかったからだ。無様にも、独りになる(捨てられる)のが怖くて、許してほしくて追いかけてきたのだろう。また、俺はこの主神の優しさに縋っているのだ。俺は本当に仕方のない、愚かな男だ。

 

「ありがとう・・・ございます」

 

「そう、気に病む必要はないわ。あなたたち、下界の子供にとって死は永劫の別れだもの。取り乱すのは自然なことよ。」

 

主神の優しさが、痛い。優しい言葉をかけられるたびに、ほっとする自分を俯瞰してみて、惨めになる。自己嫌悪で死にそうだ。

 

「もし自己嫌悪で苦しいのなら、きちんと喪失から学んで、前に進みなさい。あなたにはそれができるわ」

 

「ッ・・・」

 

・・・まったく恐ろしい神だ。美しさの『魅了』は確かに恐ろしいほど、神や人間を虜にする。だが、フレイヤファミリアの人間はこの人たらしともいえる言葉により、さらに虜にさせられるのだ。

 

「はい、貴方の名に誓って、後悔のない選択をして見せます!」

 

「フフッ、別に言葉遣いを変える必要はないわよ?」

 

「・・・それで、フレイヤ。こんなところで何をしているんだ?」

 

深呼吸をして、頭を切り替える。ここは、他の派閥の私有地だ。本来は長々いるのは危険だ。

 

「気になる子がいるの」

 

「・・・ああ、ちょっかい(試練)を与える気なのか」

 

「ええ、そのためにここに来たの」

 

そう言って、フレイヤは檻の中に視線を向ける。

 

「・・・貴方が良いわ」

 

ただでさえ薄暗い地下空間。檻の中はさらに暗いが、真っ白な体毛を持つ巨大な野猿のモンスター『シルバーバック』の姿はやけに鮮明に映し出されていた。血走り、見開かれた眼光がフレイヤの視線と交差し、獰猛に荒い鼻息を吐き出すシルバーバックであったが、フレイヤは何の躊躇いもなく、鍵を使って檻を開ける。

 

「出てきなさい」

 

普通であれば危険極まりない行為だ。しかし眼前のモンスターはフレイヤを襲うどころか、まるでフレイヤに忠誠でも誓ったかの如く大人しく出てきて、目の前で立ち止まる。華奢な女の体など容易に押しつぶせそうな剛腕を振るう気配は、微塵もない。

 

「さあ、行ってちょうだい・・・」

 

咆哮とともに、女神の指令が受諾された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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