野宿に使った洞窟から出ようとした瞬間、狙い澄ました様に降ってきた滝の雨。
その所為で、もう暫くこの洞窟に滞在することとなった。
まあ、年頃の男女とは言え、もう何度も野宿を経験しているし、泊まる時だって相部屋な訳だから、今更お互い照れることなんて無い。
と言うか、スズナは初日から全くそんな様子が無かったから、男であるオレを異性として意識していないんだろう。
だからって訳じゃないが、オレもそうだしな。
暇は暇だが、待っていれば晴れるだろうし。
「朝飯、捕ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
10分程歩けば、魔物が棲息している場所がある。
そこで3体の魔物を殺し、スズナの元へ戻り丸焼きに。
食べる前の合掌も忘れない。
――あの村を発ち、今日で3ヵ月。
スズナの背中には、白銀の長刀が提げられている。
3週間程前に入った森で迷ってしまい、最奥にいた隠居の剣士から譲り受けた業物だ。
生まれて数百年が経つと言うのに一切の刃毀れも無く、輝きも衰えていない。
それだけ大切な刀であり、受け継いできた何人もの剣士がそれぞれの想いを込めながら手入れをしたのだろう。
それ程までに大切な刀をスズナに譲ってくれたのはあのばあちゃん曰く、可愛い子には旅をさせたいでしょ、とのことだった。
つまりはそういうことだ。
ばあちゃんと、これまでこの刀を受け継いできた剣士達にとって、今スズナと共に在る刀は、息子、或いは娘であり、孫の様な存在。
きっとそれは、スズナにとってもそうだ。
ばあちゃんは、刀をどうこうしてくれとは言わなかった。
けどスズナは毎日、戦闘が無い日でも、何処かで刀の手入れをする。
その時刀を見ているスズナの目には、まるで子を慈しむ様な慈愛に満ちた色が浮かんでいる。
刀の呪い。
そう言ってしまえば、確かに納得は出来るかも知れない。
これまでの剣士達みんながみんな、同じ様に大切にするなんて、普通は無いだろう。
これだけの業物だ。
悪用しようとした者だって、多分いた。
けど、きっとそうじゃないんだ。
最初に刀を手にした者。
人の手によって生み出された物なら鍛え上げた者、自然の産物だとしたらその地を包む想い。
どちらだったとしても、この刀には優しい想いが込められている。
だから、持つ者も優しくなるのかも知れない。
やはり、一種の呪いとも言えるであろうこの想いは、叶うことなら解けないままであって欲しい。
いつかスズナが誰かと巡り合い子を育めば、きっとスズナは子に刀を譲るだろう。
先代達がそうしてきた様に。
その子が剣士の道を行くのなら、この刀は大きな力になる。
その子が剣士の道を行かないのなら、見つかるその時までスズナの元に残る。
どちらであっても先代達の想いと、刀に込められた想いは受け継がれていく。
「お兄さん、今、とても優しい顔をしてる」
「ん……?」
顔を触ってみるが、特に何かが変わっているとは思わない。
そうしているとスズナが柔らかく笑った。
……お前の方が、ずっと優しいさ。
そう想いスズナを見ると、何故か顔が真っ赤になっていた。
もしやと思い口に出ていたのか問うと、少しの間を置いて頷きが返ってきた。
その反応を見てオレまで恥ずかしくなり、暫く焚き火と雨の音だけがオレたちの間に響いていた。
――5時間程経ち、漸く雨が上がった。
雨雲が無くなったのを確認し外に踏み出せば、辺りは陽の光を受けて輝いている。
雨上がりの湿った空気はあまい好きじゃないが、こういうのは好きだ。
人の手では作り出せない、自然であるが故に生まれるモノ。
思えばそういった景色は何度も見てきた。
地球でも、この世界でも……ま、還りたい気持ちは変わってないけどな。
「綺麗」
1つ頷き空を見上げれば、そこには出遅れた分を取り返そうとしているのか、これでもかと言わんばかりに輝いている太陽があった。
その光を受け、刀が輝く。
不思議なことだがその時、
「――――」
刀の声が聞こえた気がした。
楽しげな、はしゃいでいる様な、喜んでいる様な、そんな声。
やはり叶うことなら、呪いは解けずに在り続けて欲しい。
駆け出すスズナに続き、オレも一歩踏み出した。