夜の森で、鋼と鋼がぶつかり合う。
ギリギリとその場で暫し両者動きを止めたが、やがて同時に後方へと跳び距離を取った。
しかしそれも束の間。
交錯した2人の女剣士は、一度中央で擦れ違い様の一撃を放った後、その姿を消した。
相手の女剣士を鍛えた男が目を見開く。
勿論本当に消えた訳じゃない。
そう見える程の速さで動いているだけだ。
相手の驚き冷めぬ間に、金属音が響く。
一度に聞こえる金属音は、最低でも5回以上。
一瞬の交錯にて、2人はそれだけの斬撃を放っている。
逸れた幾つかの斬撃は周囲の樹に傷を付け、時には斬り倒す。
今のアイツにこんなことはできないから、これは相手方の手によって起こる現象だ。
飛ぶ斬撃を素で撃つ等……一体、どれだけ厳しい鍛錬を積んだのか、想像に難くない。
望んだにせよ、望んでいなかったにせよ。
そうしなければいけない状況に、彼女は置かれていたんだろう。
煌く銀は、何故だろう……――酷く綺麗に見えた。
この世界に喚ばれて3年が経ち、オレもスズナもそれなりの戦闘経験を積んだ。
その過程で、オレは魔法を遣うことに対し躊躇うことが無くなり、途端かなりの魔法を扱うことが出来るようになった。
ま、何故そうなったかは別の機会に話そう。
スズナは現在刀の手入れ中だ。
やはり刃毀れ1つ見当たらない銀の長刀は、今日も変わらず輝いている。
変わったことは殆ど無く、魔王とやらが何かをすることも無い、至って平穏な日々が続いていたが、オレもスズナも何かが変わっていることを何となく感じていた。
何だろうか……空気の質、とでも言えば良いのか。
何処と無く、変な空気だ。
まあ、考えても分からないからな。
今はのんびりしておこう。
ベッドに寝転がりながら天井をぼぉ~……っと眺める。
室内には、刀を手入れする音しかなかった。
少し寝ようと思い目を閉じると、睡魔はすぐにやってきた。
呆気なく夢の中へと連れて行かれる。
目を覚ますと、隣にスズナが潜り込んで眠っていた。
相変わらず異性として見ていることは無い様だが、オレじゃなかったらとっくに色々問題が起こってるだろうな……まあ、どんな異性であっても、スズナが落ちることも、ましてや落とすことも出来んだろうが。
また暫くぼぉ~っと過ごしているとスズナが目を覚まし、風に当たろうと言うことで散歩することになった。
装備を整え出発する。
陽が傾きかけ夕焼けに染まる街は、文句の言い様が無い程に綺麗でずっと見ていたいとさえ思えた。
と、背後から野太い男の声。
振り向いた先に立っていたのは、厳つい顔をした男と、白銀の髪に碧い瞳、腰に2本の刀を差した少女だった。
「――ハッ!」
飛来する斬撃を冷静に捌くスズナは、強く大地を踏み締め跳躍する。
空中では回避行動を取れないと踏んだであろう白銀の少女は、格好の的へ立て続けに斬撃を放つが、
「――」
スズナは舞う様にして避けられない物だけを打ち砕いた。
驚く両者など知らぬとばかりに、白銀の一刀を少女に打ち込む。
刀本来の重さに落下の勢いも上乗せされた一撃を受け、少女が初めて苦しそうな声を上げた。
やっとと言った様子で弾き返した少女とは正反対に、スズナはまだまだ余裕だ。
相手方がどれだけの鍛錬を積んで来たのかは、やはり想像に難くない。
しかし、こちとら常に死と隣合せの戦闘を重ねてきたんだ。
鍛錬と命を賭けた実戦じゃ、密度が違う。
一切の油断無く長刀を構えるスズナに対し、少女は今の一撃が腕に来ているのか、荒い息を吐いている。
そんな少女に、後ろで立っている男は励ましの言葉を送るでも、黙って見守るでも無く、罵声を浴びせた。
ポンコツだの、役立たずだの、失敗作だの……何も言い返そうとしない少女の肩は、微弱な月明かりでも分かる程に震えていて、瞳から溢れた物が反射した。
刀を握り締めたスズナの肩を軽く叩き、少女の脇を抜けて男の前へ。
未だに罵声を吐き続ける男の顔面を掴み、地面に叩き付ける。
次に転移の書を取り出し、指先に魔力を込めて行き先を書き込む。
その頁を千切り伸びている男の顔に貼り付ければ次の瞬間には、男の姿は消えていた。
涙を流しながらオレを見る少女。
頭を軽くぽんと一叩き。
スズナの後ろに立つ。
やれやれと言った様に笑みを浮かべながら首を振るスズナは、確と刀を握り締め――駆け出した。
「スズナ……離れて、み、見られてるから」
「見せ付けてるの。ハルはわたしのだってことを、分からせておかないといけないんだから」
「う~……おにいさん~」
3日後、街の出口へ向かうオレ達3人は、大いに注目されていた。
正確には、横でくっつきながら歩いているスズナとハルが、だが……あの後、正に激闘と呼ぶに相応しい勝負を繰り広げた2人。
男から解放されたことにより、ハルは漸くハルとなった。
決着は惜しいことに着かなかったが、どちらも満足していたのは表情を見ればすぐに分かった……同時に意識を手放した2人を運ぶのは疲れたが。
まあ、その後なんやかんやあり、ハルは一緒に行動することとなった。
因みに、スズナは目を覚まして以降、常にハルとくっついている。
2人共まるで絵に描いた様な美人だからな……歩いているだけでも注目されると言うのに、くっついているとなっては殊更だろう。
言っておくが、家の妹も可愛いからな?
と、オレに助けを求めてくるハルだが、邪魔すると斬られそうな為に無視を決め込む。
折角スズナに春が来たんだ。
そんなことをしようとは思わない。
今までで一番活き活きした顔してるしな。
まあ、何だ。
「これから楽しくなるな」
「これから楽しくなるね」
「味方がいないよ~……」
同じことを同時に言ったオレとスズナ。
1人嘆くハル。
どうせ旅をするなら、1人より2人、2人より3人の方が楽しいに決まってる。
――どんな男だろうと、スズナが落ちることも、ましてや落とすことも出来ない。
何故なら彼女の恋愛対象は、
『お兄さんには言っておくけど、わたし、女の子が好きなの』
そもそも女の子なのだから。
「ふふ、ハル~」
「う~……見られてるよぉ……」