「あぁ……お茶うめぇ……」
ズズッとお茶を啜り、一息つく。緑茶美味しいよな。俺は夏でも緑茶はあったかーい派だ。……うん、超どうでもいい。
「そう? ならよかったわ」
テーブルを挟んで向かい側にいる幽香さんがニッコリ笑っている。かわいい……。
さて、俺は今幽香さんの家にいる。
家というか館か? 空かなりデカイ。名前も夢幻館というらしいし。
というのも、あれから幽香さんが幾つか質問をしてきたのだが、俺は空返事ばかりでボーッとしていたようだ。
どうもここはホントに異世界みたいだ。幻想郷、というらしい。
お茶飲むまでずーっとぽけーっととしてたんだけど、なんか急に頭が冷えた。賢者タイム再来というわけだ。
あ、あと幽香さんは妖怪らしい。さっき言われた。
……さらっと言ったけど、それぐらい俺は気にならなかった。
なんでだろ。幽香さんが人外の可愛さだからかな。マジで幽香さんの一挙一動が可愛く思える。一目惚れってやつなんだろう。
妖怪と人間……。
いいじゃん異種族間の愛。燃えるぜ!
まぁそんなことを口に出す勇気はないので、心の中で、あぁ幽香さんかわいいなぁ、って考えるだけだけど。
ついでに四季のフラワーマスターの件については全然違った。二つ名がつくほど幻想郷では強い妖怪なんだとか。全然そう思えないんだけどな。
妖怪じゃないけどサキュバスとか言われた方が納得出来る。それぐらい魅力的。マジで。
と、まあ驚愕のあまり真っ白に燃え尽きていたわけなんだが、急に天気が悪くなり、雨が降り出した。
そしたら幽香さんがついてきなさいというので行ってみると、連れて来られたのがここである。
どうやらこの辺は山奥のようだ。山の天気は変わりやすいってホントなんだな。
夢幻館の中は広く、きちんと整頓されていて清潔感に溢れていた。
部屋の中にはちょくちょくお花が置いてあって、見てて飽きない。もっとも、色々と見過ぎて、幽香さんにジロジロ見過ぎよ、と苦笑されてしまったが。
ごめんなさい幽香さん、その苦笑がすごく可愛いです。
「急に家にいれてくれてありがとうございます、幽香さん」
「ふふ、いいのよ。ちょうど私も暇を持て余していた頃だしね。ところでええと……春、だったわね。これからどうするの?」
名前を覚えていてくださったことに俺は不覚にも泣きそうになった。何だか幽香さんが言うと春という名前が少し良い物に思える。……ああ母ちゃん、産んでくれてありがとう。
「そうですねー……まさかいきなり異世界に来ちゃうなんて思ってもいなかったんで……うーむどうしよ」
「その割りには結構落ち着いてるのね」
いえいえ、そんなことないんですよ? むしろかなり取り乱してました。
俺はどうもとんでもない状況に出くわすと考えることをやめるらしい。うーん、知りたくなかったなぁ……これ。
「あはは……ついさっきまではすごく焦ってたんですけどね」
「それでさっきまで気の抜けた返事が多かったのね」
あははうふふ。
たまにお茶を啜りつつ幽香さんと談笑。なんだろう、すごく幸せ。幽香さんは可愛いしお茶は美味しいし……。
……でもこれからどうすりゃいんだろう。
知らない土地だし知り合いもいないしおまけに財布には一万ちょっとしか入ってない。
てか手持ちのコンビニで買った物は無くなってたけど、何気にポッケに入ってる財布とスマホは無事だった。
気づきたのはついさっきだ。
スマホはまぁすぐに充電切れて使えなくな……る前にどう考えても圏外か。
この世界だと通貨とかやっぱ違うのかな。となれば財布も意味ないから実質使える物何もないじゃん……。
俺は正直元の世界に帰りたいという気持ちがない。……正直俺かなり友達少なかったし、親との仲も悪かったし。
心残りがあるとしたらアニメとか漫画とか楽しめなくなることくらいかね。……案外辛いかもなこれ。
その時俺の頭にピンとくるものがあった。
「そういえば幽香さん、よく俺がこの世界の人間じゃないってわかりましたね」
「だって幻想郷の人間はほとんどここに来ることはないもの」
「え、そうなんですか? こんなに綺麗な向日葵がたくさんあるのに……」
窓から外を見る。相変わらず太陽は元気に空へ向かって伸びていた。見てるだけでこちらも少し気分が高揚する。
金払ってでも見る価値あると思うんだけどな……。
ちなみに夢幻館付近には向日葵だけでなくたくさんの花が咲いている。
どれも綺麗に整備されていて、幽香さんがいかに花を大切にしているかがわかる。
この世界に住んでてここに来ないと思う。
……どうやら不満が顔に出ていたらしい。俺の顔を見た幽香さんはクスクス笑って、ありがとうと言ってくれた。
こ、こうも綺麗な人が真っ正面からお礼言ってくれると……凄く照れる。
「まあ、それだけじゃなくて、ここから人里までは少し距離があるのよね。空の飛べない普通の人間に来るのは少し難しいんじゃないかしら」
「空を飛ぶ!?」
げ、幻想郷すげぇ。普通の人間は飛べないってことは、妖怪とか普通じゃない人間は空を飛べるってことだよな!?
「ゆ、幽香さんは飛べるんですか?」
「……私、これでも大妖怪と恐れられているのだけれども」
「あ……すいませんっ。俺のいた世界では人間が飛ぶなんて考えられないものだったんで」
「あら、そうなの? ごめんなさい、馬鹿にされてるのかと思ったわ」
幽香さん馬鹿にするとかあり得ません。むしろ幽香さんになら罵られたいくらいです。
……うん、どさくさに紛れて何カミングアウトしてんだ俺。
ほら、と幽香さんは部屋の中で少しだけ浮いてみせてくれた。
「ホントに飛んでる……。どういう仕組みなんだ……」
「ふふ、これくらいで驚いたら幻想郷で生きていけないわよ?」
幽香さんはふわりと着地して再びお茶を啜っていた。
うーむ、空を飛べる人がいるってことはこの世界だと俺の能力とか全然普通なのかな。まあもともとたいしたことないけど。
つまり別に俺は選ばれた人間でもなんでもないわけか。なーんだショック。
……いや、意外とそうでもないや。異世界来ただけでだいぶ俺希少な体験してるわけだし。ていうか自分が選ばれた人間とか考えるのはもうやめたんだ、あんな歴史は繰り返してはいけない。
またほっこりとした時間が訪れる。
十分ほど談笑していると、幽香さんが二杯目のお茶を注いでくれた。幽香さんは自分の分も注ぐと、また口を開いた。
「ねぇ、春。どこか行く宛はあるのかしら?」
「いえ、全く。無さ過ぎて笑っちゃいそうです」
そう、ホントに無い。詰んでる。金なし友なし家なしとかなかなかレベル高いサバイバル繰り広げないと死ぬぞ俺。虎の皮腰に巻いて生活するのも考えなきゃかもな。
どすべ。山中だしなんか食べれるものとかあればいいけど……俺そういう知識ないんだよな。こんなことならもっと無人島で生活するゲームとかやりこんどけばよかった。
「そう。ならしばらくここに住むといいわ」
「そうですか、ありがとうございまええええええてえええええええええええええええええ!?」
衝撃の言葉が耳に入ったような気がする。
幽香さんのいる、この家に、住んで、いい!?
いやいやいや待て待て待て待ていや実はちょっとそんな展開こないかなーとか思ってたりしてたけどマジで来るとここまで焦るとは思わなかったわああでもすげぇ魅力的だって幽香さんと一緒に住めるんだぜやばいだろこれ鼻血出そういや別にいやらしい想像をしたわけじゃないんですよええ健全です大人になる上で重要なステップです。
……ふぅ、落ち着、かねぇから!
思考が行ったり来たり。例えば、幽香さんがいい人すぎるて、逆に裏がないかとか考えてしまう。例えば俺を食うとか。
カニバリズムはごめんだなぁ。でも最悪野垂れ死ぬくらいならそれでもいいかもな。幽香さんの血肉になって体内を駆け巡る……うん、まあそれなら食べられてもいいや。幽香さんどうぞ俺を食べてください。
……こんな思考になる俺の頭はなかなか愉快なんだろう。
「……ビックリした」
びくっと、身体を震わせる幽香さんがとても可愛い。けどそんなこと言ってる場合じゃないんです。
「……幽香さん、さっきのマジですか?」
「ええ、いいわよ。どうせこの家に他に住んでる者はいないのだし。その代わり、色々と手伝ってもらうわよ?」
ううむ、家に住ませるのと対価になるレベルの手伝いか……大変そうだ。一応家事は一通りできるんだが、そんなに誇れるほどでもない。
ハッ、まさか、夜の世話とかですか!?
うん、ない。ただの俺の希望です。
一応選択肢は二つある。ありがたく受け入れる。ありがたいが断る、の二択だ。
正直話がうますぎる。願ったり叶ったりだ。
まだ親と仲よかったころ父ちゃんが、美人にホイホイついて行くなよ、すげぇ怖い目見るぞって言ってたのをふと思い出した。話してる時の父ちゃんの顔はそれはそれは青ざめてた。なにがあったんだよ。美人局とかいうやつ?
……よし、返事は決まったぞ。
父ちゃん──
「はい! 喜んで!」
──てめぇの言うことなんか聞くかボケェ!
「ふふ、これからよろしくね、春」
と、まあなんだかんだで幽香さんという絶世の美女と同居することになった。
嬉しいやら何やらでしばらく俺は夢見心地だった。にしても幸せすぎる。今宝くじ買ったら絶対当たるんじゃないだろうか。
ドSゆうかりんもいいけど、優しいゆうかりんもいいと思うの。ゆうかりんかわいいよゆうかりん。
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