異世界はスマートフォンとともに 改 作:Sayuki9284
第1話 落雷
20XX年。〇月。日本国内のとある科学実験施設でそれは起こった。
《地下5階》
パキ……パキ……パキンッ!!
『!!』
突如としてとある室内に染み渡った『聞こえてはならない』音に、その中にいた大人全員が身体を硬直させる。人間ありえないことが起こるとパニクって身体が動かなくなると言うが、まさにその状態だった。
……しかし、次の瞬間には嫌でも身体が勝手に動き出すことになる。そう、━━━━━死という名の恐怖によって……
パンッ!!!
「え……」
誰も声を発しようとしない、いや、発することが出来ない空気の中、突然目の前で発生したその音と『現象』に一人の男が間の抜けた声を漏らした。一番近くにいた故に、何が起こったのかすぐには理解出来なかったのだ。
……だが、まぁ…無理もないだろう。何せ『ただの人間がいきなり風船みたいに膨らんで全身バラバラに弾け飛んだ』のだから……
「あ、……あ、嗚呼ぁぁあぁぁぁ!!」
「い、嫌ァァあぁぁあ!!」
「うわァァあぁぁぁあ!!」
また別の一人の男の叫びを境に、他の人間が次々と部屋から逃げ出していく。その声と自分の鼻を突き刺す鉄の匂い、そして嫌でも目に入る、目の前に広がる血の海とそれに浮かぶ数多くの人間だったモノの一部を見て、ようやく死んだ人間の目の前にいた男も我に返って叫び声をあげた。
…………が、
「う、…うわァァあぁ……ぁ、ア?」
遅れながら叫び声をあげて踵を返した男は、またも不思議な光景に目を点にした。そう、━━━━━自分の胴体だけが血を噴火しながら走り去っていく光景に……
ボトッ
男の生首が地面に転がる。それだけでも恐怖なのだが、次の瞬間、それを逃げながら見ていた者達にさらに衝撃なことが訪れた。
その男の生首が何のためらいもなく、まるで道端に転がっている石ころのように踏み潰されたのだ。
「ひっ……」
「や、やめろ……来るなぁぁ……」
「い、いやだっ……いやだっ!!」
「「うわぁぁあぁぁぁ!!」」
・ ・ ・
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《地下2階》
「はぁ……はぁ…、もうすぐ……もうすぐ地上に……」
「はぁ……はぁ……はぁ……ぁ?……なんだよ、あれ……」
「え?」
地上に逃げ出そうとして登ってきた人たちが、もうあと少しという地下1階へと続く階段を前に足を止める。本当ならエレベーターで一気に上がりたかったのだが、 “何故か” 施設内の電気機器が全て異常をきたしてしまい、仕方なく必死に階段を駆け上がってきたのだ。
その数、約60人。それでも地下にいた人間の1割に満たないのだから、どれだけの数殺されたのかは容易に想像がつくだろう。
そして、運良くここまで逃げきれてきた者たちが目にしたもの、それは、階段を埋め尽くす形で敷き詰められた死体の山と、施設内で実験道具として飼われていた『人間を含めた動物達』が自分たちに明らかな敵意を向けている光景である。
その光景は、一言で言って絶望的。前は敵、後ろは行き止まり、逃げ切る手段など一つもない。戦おうにも、目の前にいるのはただの人間、動物だけでなく、自分たちが実験に実験を重ね強化した猛獣もいる。それはつまり、自分たちがどんな文明兵器を使おうと無意味なことを示していた。
それに何より、ここにこの猛獣たちがいる時点で、既に自分たちが必死に逃げてきた存在が地下にいないことは明らかだった。
何せこの猛獣が管理されているのは常に地下だけであり、その多くは地下1階で管理されていたのだから。そしてそこで管理されていた猛獣たちが揃ってバリケードを張っている。まるで誰かにそう命じられたかのように……
出口は一つ、ほぼ一方通行だった道。なのに誰一人として追いつかれていた事に気づけなかった。
そのことに気づいた時にはもう、逃げてきたその人たちの目に生気は宿ってなかったのだった……
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《地上3階》
「に、逃げろぉぉ!急げぇぇぇぇ!」
「いやぁぁぁ!!」
「うわぁぁあ!!!」
「化けモノォォ!!」
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《地上8階》
「も、もうやだァァ!!」
「く、くそっ!こうなったら一か八か飛び降りるしか……」
「無理だバカやろ!!外はもう実験動物が埋め尽くしてる!!」
「でもこのままじゃ……」
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《最上階(社長室)》
「っ、あ……」
「………………」
「ぁ……ぉ…ぉ…『ブスっ』……」
ロープで5つの首を縛られた見た目ボロボロの男の背から、突き抜けるように1本の腕が生えてきた。そこに握られているのは、ドクドクと動く男のアレ。
そしてアレを握っている張本人の真っ赤な少年は表情を一切変えないままに腕を一気に引き抜く。
プシャァあァァァ!!
腕が抜かれたあとの男の胸辺りからとんでもない量の血液が飛び出し、少年をさらに赤黒く染めた。しかし少年はそれを意に返した様子もなく既に生を終えている男の口に目を向けると、既に舌や歯もくり抜かれ何もなくなっていたその男の口の中へとアレを突っ込んだ。
当然サイズ的には少しきつい。それでも少年は片手で男の顎を無理やり外してこじ開け、アレを指先で握り潰しながら最後には細かく砕いて全てを飲み込ませた。
「クサイ……」
感情が篭ってるとも思えない声が部屋の中に響く。少年は最後に渾身の力でその男を人間だったかもわからない赤い塊に変えると、既に興味をなくしたかのようにこの部屋の中を荒し回り、そのまま男だったモノに1度も目をくれることなく夜の闇へと消えていった。
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翌朝、日本国内全域に『昨夜、とある科学実験施設で大規模な爆発事故が発生』と報道された。
死亡者数は不明。だが少なくともその爆発した科学実験施設の関係者は全て死亡、もしくは消息が不明であることがわかった。
警察はもちろん最初はテロか何かとも予測したが、これといった手がかりになるものなど何も出てこず、また何か知っているかもしれない人間を探そうにも、一向に見つからなかった。
そして事件はそのまま闇の中へと忘れ去られたのだった……
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科学実験施設での事故から約2ヶ月。あの時血に塗れていた少年は、今ではすっかり身体を綺麗にしてどこからか奪ってきた小綺麗な服を身につけ、とある公園のベンチに頬杖をついて座っていた。
その少年の目に写っているのは、砂場の上で元気に遊ぶ子供たちと、その姿を微笑みながら見守っている母親たちの姿。
もうどれくらいそうしているのだろうか。少年は瞬きもせずに、子供たちが砂場に飽きて滑り台やブランコなどではしゃいでいる間もずっとその姿を眺め続けていた。
しかしその時間も突如終わりを迎える。先程まで少し怪しかった空模様が急に悪化し始め、さらには俄雨まで降り出してきたのだ。
こうなってはこれ以上公園で遊ぶわけにも行かず、お母さんたちは急いで我が子の手を繋いで帰路につき始める。少年もここで初めて動きを見せ、ゆっくりと腰を上げ始めた。そして公園の出口に向かおうとしたところで、ふと足を止め振り返る。
そこには、お母さんの手を振り切り、お母さんがかける言葉を無視して、『あと1回だけ』だと言って滑り台に向かう少女の姿があった。
何か予兆があった訳ではない。ただただ悪い予感がしただけだった。
そして、その直後…………
ピカァァッ!!(ゴロゴロゴロ!!)
……同時だった。空が激しく光った瞬間、少年は自身の出せる最高速度で少女へと走り込んでいた。そして思いっきり、されど大怪我はしないように優しく少女を突き飛ばす。一緒に逃げている時間などないと分かっていたからだ。
そして少年はそのまま落ちてきた雷を浴び、自分が救った1人の小さな女の子の命と引き換えに、この世界での人生を終えることとなったのだった。
「おにぃ……ちゃん……」
目の前で突き飛ばした少女が呆然とそう言っている景色を最後に……
以上で、第1話は終了です。
よく分からないと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、どうか寛大なお心でもう暫くお付き合い下さい。
第2話からはいよいよあのおじいちゃんが登場します。