異世界はスマートフォンとともに 改 作:Sayuki9284
今話はいつもより文字数が多いですが、その分内容も濃いので、お楽しみいただければ幸いです。
それと先に書いちゃいますが、恐らくこれと同じタイミングで投稿されるであろう『異世界はスマートフォンとともに if』という小説もオススメしておきます。全部というわけではもちろんないですが、少なくとも色々変更しているこの作品よりは原作に似通っている作品なので、アニメを見ていない人、もしくはアニメのストーリーの記憶が曖昧な人はそちらを見てからこちらの作品を見に来てもらうのもありだと思います。
さて、前書きまで長くなってしまいましたが、改めて最新話をどうぞ(*^^*)
「炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム」
戦場が見えたところで、御者台に移動していたリンゼが得意の火属性魔法をリザードマンの中心に叩き込んだ。そしてすぐさま八重と御者を変わると、馬車のスピードを落とす。
優輝翔たちは馬車のスピードがある程度落ちると、馬車から飛び降りてリザードマンたちの中に飛び込んだ。
「はぁぁっ!」
「っ!」
エルゼが得意の打撃で、八重が一撃必殺の一刀でリザードマンを倒していく。優輝翔もいつも使っている自身の愛刀を使って一瞬でリザードマンの息を刈り取りながら、一直線にローブの男のところに向かった。
そして……
「っ、このっ…「死ね」……」
ローブの男が優輝翔に気づいて声を上げた瞬間、優輝翔は既に男の頸動脈を一刀で斬り捨てていたのだった……
「あれ、消えた?」
「終わった……でござるか?」
後ろから聞こえたふたりの声に優輝翔が振り向くと、リザードマンたちは1匹残らず居なくなっていた。恐らく召喚主が殺されたことが原因だろう。
優輝翔はふたりと、馬車を止めて合流したリンゼの4人で兵士たちと対面した。
「すまん、助かった…」
足を怪我しているのか、剣を杖替わりにしている兵士が代表してそう告げてくる。
「いえ、ちなみに兵士で残ったのはあなた方3人だけですか?」
「ああ、他も確認したが……既に死んでいたよ…っ!」
悔しそうに兵士が歯を噛み締める。優輝翔はとりあえず残っている3人だけでもと、リンゼとふたりで回復魔法をかけた。
「助かった。ところで…「誰か!誰かおらぬかっ!」…っ!お嬢様!」
兵士が何か言いかけたところで、突如割って聞こえてきた声にそう叫んで自分たちが守っていた馬車のところへと飛んで行った。優輝翔たちも後に続き兵士たちの後ろから馬車の中を覗き見ると、中では先程の女の子が椅子に横たわっているお爺さんの手を握りながら助けを求めていた。
「誰か!誰か爺を!胸に…胸に矢が刺さってっ!」
「リンゼ!」
「はい!」
優輝翔は兵士を押し抜けてリンゼと共に馬車の中に入る。執事の礼服を着たお爺さんは確かに胸のあたりに矢が突き刺さっており、そこからは大量の血が溢れ出ていた。まだ息はしているが、もう虫のそれだ。
「まずいな。リンゼ、どうだ?」
「む、無理です!恐らく優輝翔さんの魔力なら上位魔法で治すことは可能ですが、矢が邪魔です!でも矢を無理に抜くのは……」
「ちっ…」
優輝翔は思わず舌打ちをする。確かに矢を抜けばそこからさらに出血して最悪死ぬだろう。だが矢を抜かなければ、たとえ回復したとしても刺さっている部分からまた出血を繰り返すだけだ。
「矢……矢を退ける方法は………………いや、ある!」
「えっ!」
優輝翔はそう叫ぶとすぐさまその魔法を唱えた。
「アポーツ」
「光よ来たれ、女神の癒し、メガヒール」
優輝翔は連続で2つの魔法を唱え、矢を取り除いた瞬間にお爺さんの傷を回復した。
「どうだ…?」
優輝翔がそう呟くと、お爺さんは自身の手を空いている方の手を胸のあたりに当て驚きの声を漏らした。
「こ、これは……痛く、ない…?」
「爺!」
お爺さんがゆっくりと起き上がると、女の子は嬉しさのあまりお爺さんに飛びついた。それを見た優輝翔は少しだけ嬉しそうなほっとしたような顔を浮かべ、まだあまり無理しないよう忠告してから馬車を出る。
すると、いきなり後ろと前から誰かに抱きつかれた。まぁ前はエルゼだと分かっていて、八重は自身の正面にいるのは見えているので、後ろも簡単に特定できるのだが……
(と言うか元よりひとりしかいない。)
「さすがです……優輝翔さん…///」
「ほんと……あんたって奴は…//」
そう言って自分に額を擦りつけてくるふたりの頭を優輝翔は優しく撫でる。
「いやぁ…リザードマンとの戦いの場面でもそうだったでござるが、優輝翔殿は魔法も一流なんでござるか…。ほんとに何でも出来そうでござるな…。」
八重がそう感心したような声でそう言うと、優輝翔はゆっくりと首を横に振りながら答えた。
「いや、何でもはできないさ。もし何でも出来るなら死んだ兵士も生き返らせてるよ。」
「優輝翔殿……」
優輝翔の哀愁が漂う言の葉に、八重はポツリとそう漏らした。
確かに優輝翔は「リザレクション」という蘇生魔法があるのは知っている。しかしそれには複数の複雑な条件や代償が必要になってくるのだ。優輝翔は当然全て暗記しているが、今回の兵士の場合、条件の面でまず蘇生は不可能であった。
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戦後の後処理を終えた後、優輝翔たちは改めて助けたお爺さんに頭を下げられた。
「本当に助かりました。まさかまだこの生を全うできるとは、ほんとに、なんと御礼申し上げて良いのやら……」
「いえ、あまり深く考えないでください。俺としては目の前で死にかけてる人がいるのに無視する方が嫌ですし。それに執事さんも、さっきも言いましたが血がまだ戻ってないんですから、あまり無理はしないで下さい。」
優輝翔がそう言うと、今度はお爺さんの横で手を腰に当てて少し偉そうな態度で突っ立っていた女の子が優輝翔たちに感謝の意を述べる。
「感謝するぞ!優輝翔とやら!お主は爺の、いや爺だけではない。妾の命の恩人なのじゃ!」
「あ、ああ……」
「申し訳ございません、優輝翔さん。ご挨拶が遅れました。まず私、オルトリンデ公爵家家令を勤めております、レイムと申します。そしてこちらのお方が公爵家令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様でございます。」
「うむ!スゥシィ・エルネア・オルトリンデだ!よろしく頼む!」
お爺さんの言葉で優輝翔は女の子が偉そうな態度でいた理由を納得した。公爵とは即ち、国王を除く貴族のトップ、であり、国王を除いて唯一の王族でもあるのだ。
そしてその事実を聞いたせいか、優輝翔の隣にいた他3人はすぐさま地に膝をつけた。
「ああ、なるほど。確か今の公爵は国王陛下の弟……でしたっけ?」
「うむ!しかし……優輝翔は平然としておるの?大抵は横にいる女子共の様になるのに……」
「まぁ、お望みとあらば……」
そう言って優輝翔が跪こうとすると、慌てるようにスゥシィが優輝翔を止めた。
「いやいやいや、せんでよい!公式の場ではないし、さっきも言ったように優輝翔らは妾たちの命の恩人なのじゃ。本当なら頭を下げるのはこちらの方。呼び方も気軽にスゥでよいし、敬語もいらん。じゃからそこの女子共も楽にしてくれ。」
スゥの言葉を聞いて、躊躇いながらも跪いていた3人は互いに顔を見合わせながら立ち上がった。
ちなみにその後聞いた話では、スゥ達はとあることを調べるためにスゥのおばあちゃんの家に行った帰りだったようで……
「その道中を狙われた、か…。なるほどな。それで、これからどうするんだ?王都までまだ1日はかかるだろ?」
「その事なのでございますが……」
優輝翔がスゥにそう聞くと、レイムさんが口を挟んできた。
「護衛の兵士が半数以上倒れてしまった今、このままでは同じようなことが起きた時にお嬢様をお守りすることができません。そこで優輝翔さんたちに護衛依頼をお出ししたいのです。もちろん報酬は弾ませていただきますので、どうかお願いできないでしょうか?」
「護衛依頼ですか……」
レイムさんの頼みに、優輝翔は難しい顔でそう呟きながらチラッと後ろの3人に目を向けた。その視線に真っ先に気づいたリンゼはニッコリと微笑んで首を縦に振る。
「優輝翔さんにお任せします。」
「リンゼ……」
リンゼの言葉に優輝翔は表情を和らげた。するとエルゼ、八重からも続けて賛同を送られる。
「もちろん私はいいわよ!どうせ王都に行くんだしね!」
「拙者は雇われている身故、優輝翔殿におまかせするでござる。」
「……そうか。分かった。その依頼、引き受けさせてもらいます。」
「ありがとうございます!」
「よろしく頼むぞ!優輝翔!」
こうして4人はスゥたちとともに、もうあと少しまで迫った王都へ向かうこととなった。
だが、この話にはまだ続きがあった。スゥたちを襲おうとした真犯人。それがまだ分かっていないのだ。
優輝翔があのローブの男を殺さずに尋問していればあるいはという可能性もあったが、あの時はとにかくリザードマンの数が多かったし、こういう場合現場に出向く男が真犯人を知っている可能性も低いので、優輝翔は迷いなく殺すことを選択したのだ。
そしてそれは正しかった。実際にローブの男は真犯人、自分にそれを命令した男のことを知らなかったのだから。
だが、それならそれで、優輝翔はもう少し周りに注意を向けるべきだったのだ。
『もし優輝翔たちが来るのが一日ずれていたとしたら?』
『ローブの男の目的がスゥを “殺す” ことではなく、 “誘拐する”事だったとしたら?』
もしそうなら、ローブの男は果たして安全にスゥを連れていけたのだろうか?恐らく誘拐するのであれば、人質の線が高い。何せスゥは公爵の愛娘。人質には十分すぎるくらい十分だ。
だとすれば、ローブの男はスゥにはなるべく傷を追わせたくないはず。つけるとしても、致命傷や重傷は避けたいはずだ。
ならば気絶させればいい?だとしてもどうやって運ぶ?流石に抱えては目立つだろう。それにローブの男は言わば金だけで雇われた下っ端。余所者。裏切らない可能性がどこにある?
ならここから導き出される結論はなんだ?
……そう、あの現場には真犯人が派遣した直属の部下がもう一人潜んでいたのだ。隠密能力に長け、戦闘能力に長け、消して裏切ることのない重要人物。
そして、その人物を優輝翔は見逃してしまった。気配は消していたので「ロングセンス」でざっと見渡しただけじゃ見つけられるはずもなかったのだが、それでも “音” に集中すれば間違いなく聞こえたはずなのだ。少し遠くに潜んでいる人間の鼓動が。
そしてこの失敗が後に大きく、大きく自分に返ってくることになる。
“最悪” という名の悲劇となって……