異世界はスマートフォンとともに 改   作:Sayuki9284

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長いですが、今話もよろしくお願いします。

さて、ここから原作解離を始めていきましょう^^*


第15話 子爵の力、そして……

ところ変わって、子爵家武闘場。武闘場とあるが、実際の造りは日本の剣術道場のまるでそれだ。その道場の中心部で2人の人物が対峙している。当然、八重と子爵、その二人である。

 

 

「お前達。お前達の中に回復魔法を使える者はいるか?」

 

 

子爵が見物人として端に正座していた優輝翔とリンゼにそう尋ねる。ちなみにエルゼは審判役なので、子爵たちと少しだけ離れたところで待機していた。

 

 

「俺と隣の彼女が回復魔法を扱えます。なので遠慮なく八重の指導をよろしくお願いします。」

 

「そうか、分かった。」

 

 

優輝翔がそう言って頭を下げると、子爵も一言そう呟いてまた八重の方を向いた。

 

 

「さて、じゃあ……」

 

 

優輝翔はそう言いながら自身のポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した。それを見て、リンゼが首を傾げる。

 

 

「あれ?優輝翔さん、何かするんですか?」

 

「ああ、ちょっとこの試合の映像を記録しようと思ってな。」

 

「えいぞうをきろく?」

 

「まぁ、後で見せるさ。」

 

 

優輝翔がそう言ってカメラをムービーモードにして録画を開始したところで、エルゼの声が響き渡った。

 

 

「始め!」

 

 

その瞬間、八重は一瞬で子爵の元まで移動し木刀を振り抜いた。しかし子爵はその一撃を真正面から受け止めると、次いで繰り出される連撃を、すべて自らの木刀で受け流していく。

 

何度も……何度も…。子爵は八重が1度距離を置いたり、リズムを変えたり、フェイントを入れたりしながら繰り出していく剣を全て受け止めていた。時に流し……時に躱し……時に受け止め……また時には力で弾き返す。だが、攻撃は一切してこなかった。

 

そして八重の息が切れ攻撃が止んだところで、ゆっくりとその重たかった口を開く。

 

 

「なるほど。お前の剣はまさに正しい剣という言葉がぴったりだな。模範的というか、動きに無駄がない。俺が重兵衛殿から習ったそのままの剣だ。」

 

「……それが悪いと?」

 

「いや、悪くはないさ。だがもしこのままだというならば、お前にそこから上はない。」

 

「!?」

 

 

子爵がそう言いながら木刀を上段に構えた瞬間、今までにない闘気が溢れ出してきた。ビリビリとした鋭い気迫は優輝翔たちにこの武闘場が揺れてるのかとさえ思わせるほどのものだった。

 

 

「いくぞ。」

 

 

子爵はその一言とともにあっという間に八重の間合いまで飛び込むと、振りかぶった剣を八重の正面に振り落とした。八重はそれを受け止めるため木刀を頭上に掲げたのだが……

 

 

「終わったな。」

 

 

優輝翔は短く極小の声で1人そう呟いた。

 

そしてその次の瞬間には、八重は脇腹を押さえて道場に倒れ込んでいたのだった…。

 

 

「そ、そこまで!」

 

 

エルゼが慌てて試合の終了を告げる。優輝翔はその合図を聞いてからゆっくりと立ち上がると、慌てることなく八重に歩み寄り魔法をかけた。

 

 

「……もう、大丈夫でござる…。」

 

 

八重はそう言って立ち上がると、まず優輝翔に頭を下げてから、子爵の前でさらに頭を深く下げた。

 

 

「御指南かたじけなく。」

 

「お前の剣には影がない。虚実織り交ぜ、引いては進み、緩やかにして激しく。正しい剣だけでは道場剣術の域を出ぬ。それが悪いとは言わん。強さとは己次第で違うものなのだからな。」

 

 

子爵はそう言って八重をキッと睨みつける。

 

 

「お前は剣に何を求める?」

 

 

八重は何も答えなかった。いや、答えられなかったと言った方が正しいのだろう。何せ八重はまだ若干15歳。剣に捧げた時間が短すぎる。

 

 

「まずはそこからだな。さすれば、道も見えてこよう。そして見えたのなら、またここへ来るがいい。その時はまた、お前の相手になってやろう。」

 

 

子爵は最後にそう言い残し、静まり返る道場から去っていった……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

その後、優輝翔たちは子爵邸を出て大通りの方へと向かった。その道中、荷台の上では八重がずっと1人考え込んでいた。そんな八重を心配してエルゼが声をかける。

 

 

「大丈夫よ!勝負は時の運、負ける時は何をやったって負けるんだから!」

 

「エルゼ殿…、それはあまりフォローになってないでござる…。」

 

「うっ……」

 

 

八重の冷静な指摘にエルゼはそっと目を逸らす。そんなエルゼを横目に八重は溜息をつきながら、ぼんやりと遠くを見つめるような目をして呟いた。

 

 

「それにしても……世の中は広いでござる…。あのような御仁がいるとは……」

 

「ああ…、確かにあの人の最後の一撃はすごかったもんね。私、近くにいたけど子爵が何をしたか全く分からなかったもの。」

 

「確かに…。あれは一体なんだったんでござろうか…?拙者は確かに頭に下ろされた剣を、受け止めたと思ったのでござるが…。」

 

「ああ、それなら答えは簡単だ。八重が受け止めたのはただの幻だよ。」

 

「「えっ?」」

 

 

突然割って入ってきた優輝翔の言葉に、エルゼと八重はともに驚きの声をあげて優輝翔を見た。

 

 

「幻ってどういうことでござる?確かに言われてみれば影の剣というものを拙者も聞いたことがあるでござるが……」

 

「てか私はそれも知らないわよ。と言うより、優輝翔は見えたの?」

 

 

そう言った2人の疑問に優輝翔は順番に答えながら真実を話す。

 

 

「ああ、見えた。ただかなり速くて特殊な技術も使ってたから、俺以外に初見で見破れるやつは少ないだろうな。」

 

「特殊な技術……それって、影の剣ではないのでござるか?」

 

「ああ……悪い。俺は影の剣と言う名は知らないんだ。だが恐らくそれであってると思う。もう答えを言ってしまうと、八重は幻……つまり子爵が自身の『気』で作った囮にまんまと引っかかったんだ。」

 

「なんとっ!」

 

「てかあんた、どうしてそんなのも知ってんのよ……」

 

 

優輝翔の言葉に八重は驚きで絶句し、エルゼはただただ首を振りながら少し呆れたような目線を優輝翔に向けた。

 

 

「まぁ詳細はこれに録画してある試合映像で確認してくれ。八重も影の剣なんてものを知ってるなら分析は1人でいけるだろう。」

 

 

優輝翔はそう言うとスマホで先程録画した映像を2人に見せた。2人は初めかなり驚いていろいろ優輝翔に問い詰めていたが、優輝翔が順番に説明していくと、驚きや呆れや感動や感激など多数の感情が入り交じった顔をし、その後、優輝翔から渡されたスマホで試合映像を食い入るように見て2人で話し合い始めた。

 

優輝翔はそんなふたりに暖かな笑みを向けると、1人御者台に座っているリンゼの隣へと向かった。

 

 

「悪いな、ほうっておいて。」

 

「ほんとです…。後で私にも見せて下さいよ?」

 

「ああ、分かってる。」

 

 

優輝翔がそう言いながらリンゼの頭を撫でてやると、リンゼは嬉しそうに目を細めて優輝翔の手に頭を擦りつけた。そしてそのまま身体もそっと優輝翔に密着させる。

 

 

「強かったですね、あの人。」

 

「ああ。今の八重じゃ手も足も出ねぇよ。」

 

「優輝翔さんなら、勝てますか?」

 

 

リンゼはそう言って優輝翔を見上げるも、何も答えずただ前を向き続ける優輝翔を見て答えを察し謝った。

 

 

「すみません、優輝翔さん。愚問でしたね。」

 

「だな。まぁ影の剣は厄介だし、子爵もさっきのが本気でもないと思うが、それでも俺は負ける気がしない。剣一本の勝負でも余裕だろ。」

 

「ふふっ。さすがです、優輝翔さん//」

 

 

リンゼはそう言って優輝翔の肩に頬を擦り、恥ずかしそうに上目遣いで優輝翔を見上げた。

 

 

「優輝翔さん、わたし…//」

 

「リンゼ……」

 

 

優輝翔はリンゼの想いに決して気づいていなかったわけではない。それどころか優輝翔は幼い頃に特殊な状況下にいた関係で、相手の感情を読み取るのはむしろ得意分野であった。そのためリンゼはもちろん、エルゼが恋愛感情を抱いているのも知っているし、まだ日が浅い八重でさえもそう言った感情が芽生え始めているのは理解している。

 

だが、そんな2人に比べてリンゼの気持ちは特段強かった。それこそ比較にすらならないほどに……

 

優輝翔は自分を真っ赤に染まった顔で見上げるリンゼの腰に優しく腕を回して、リンゼの身体をさらにぎゅっと引き寄せて抱きしめると、そっとリンゼの耳元に口を近づけて呟いた。

 

 

「リンゼ、今日の夜は俺の泊まった部屋に来い。それと、朝まで帰らせる気はないから、部屋割りは気をつけろ。」

 

 

優輝翔のその言葉にリンゼは目を見開くと、見る見るうちに涙を溜め込んで顔を更に紅潮させた。

 

 

「はいっ///」

 

 

リンゼがそう呟いた瞬間、1滴の雫がリンゼの頬を伝ってリンゼの服に染みこんでいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……この時、リンゼはおろか、優輝翔ですら気づいていなかった。リンゼから優輝翔に対する想いは本物でも、優輝翔からリンゼに対する想いはまだ本物になりきれていないということを。

 

そして、それは “最悪な形” となって、後々自分に降り掛かってくるということを……

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

ところ変わって、とある屋敷の中……

 

 

「なに?失敗しただと?お前がいながら何をやっとたんだ!!」

 

 

一人の腹の出た男が、目の前で膝まづく黒のローブを着た男に怒鳴りつける。

 

 

「申し訳ございません。ですが、邪魔をした者達の顔はしっかりと記憶しております。そのもの達の処置はおまかせを。」

 

「ふむ……ちなみに、そいつらは全員男なのか?」

 

 

太った男がそう聞くと、ローブの男は下に向けた顔に笑みを浮かべながら、言葉を返した。

 

 

「いえいえ、まだ10代前半頃の女3人と後半くらいの男一人です。女の方は一人胸が物足りませんが全員レベルは高いと見え、何より年齢から考えておそらく “初モノ” かと…。」

 

「ほぉ…。よし、なら分かってるな。」

 

「全員で宜しいのですか?」

 

「男はいらん。あと女も男が混じってるのだから万が一もある。よく調べて初モノだけを連れてこい。後は好きにしろ。」

 

「御意に……」

 

 

ローブの男はそう言って深く頭を下げると、そのまますぅーっとその場から姿を消した。そして残された太った男はデーンっという効果音が似合う姿で後ろの無駄に豪華な椅子に座ると、ニンマリと笑みを浮かべながら呟く。

 

 

「ハッハッハッ。穢らわしい獣風情のせいで最近イライラが止まらんかったが、いい捌け口を見つけれそうじゃわい……」

 

 

そう呟く男の人生最悪最後の日まであと数週間……

 

 

 




今話もありがとうございました(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ

一部口調に不安がありますが、皆さんどうか寛大な心でお許しください

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