異世界はスマートフォンとともに 改 作:Sayuki9284
追記:今後のストーリーを考えて、神様から貰うものを一つ増やしました!
「ん………ここは……?」
少年が目を覚ますと、まず最初に目の中に飛び込んできたのはどこまでも続く青い空と白い雲だった。
起き上がって周りを見てみても、今自分がいる6畳程の空間を除き、どこまでも真っ白な雲で埋め尽くされている。しかし、だからこそ、少年には自分の今いるこの6畳間の空間が異質でならなかった。
周りの風景など気にも止めないとでも言いたげに存在するこの空間は、見たものに少し前の日本の家庭の1室を思い浮かばせるかのように、床は畳で覆われ、その真ん中には木製の丸テーブルと椅子代わりの座布団、壁のない端には箪笥とダイヤル式の黒電話。そして隅に置いてあるのはこれまた一昔前のアナログテレビだ。
少年はこの状況を暫く頭の中で整理しているうちにひとつの結論に辿り着いた。
(そうか……ここが天国か……)
「いや、違う違う。」
「!!」
その声を聞いた瞬間、少年は思わず口から心臓を吐き出しそうになった。それほど少年にとって、自分が平時でも気配を読み取れない相手というのは異常だったのだ。
少年はゆっくりと深呼吸をしながら声の発生元を見る。そこにはいつの間にか1人の立派な白髭を蓄えたお爺さんが、さっきまでは無かった急須と茶飲みを使ってお茶を入れている光景があった。よく見ればテーブルの上にはご丁寧に煎餅まで用意されている。
少年はその光景を未だ頭で整理しきれていないものの、ゆっくりと丸テーブルを挟んでお爺さんの正面にある座布団の上に座り直し、お爺さんから受け取ったお茶を1口啜った。
「っ……美味いな。」
少年はほぼ無意識にそう口に出したが、それを知ってか知らずか、目の前に座る袴を来たお爺さんは嬉しそうに笑いながら自分も茶を啜り、口を開いた。
「それはよかった。ところで今のお主の状況なんじゃがの……」
「ああ……それなら、死ぬ前の記憶がいちようありますから。それで、ここは一体どこなんでしょうか?」
「ふむ。ここに特に名前などないのじゃが……そうさな、神界とでも呼ぼうかの。ずばり、神様たちのいる世界じゃ。」
「神界……」
少年はお爺さん……もとい、神様の言葉を聞いてようやく頭の中で先程の不可解な疑問を解決することが出来た。
(そりゃ相手が神様ならいくら俺でも気配なんて読めないよな……)
少年はそう思って開き直ると、再びお茶を一口啜って目の前の神様に向き直る。
「えっと、じゃあもうひとつ質問してよろしいですか?」
「ああ、構わんよ。いくつでもしてきなさい。」
「ではとりあえずひとつ目。なぜ俺はここにいるのでしょうか?普通は天国か地獄のどちらかだと思うのですが……」
「ああ、それについては本当に申し訳ないのじゃが……君を死なせてしまった雷、じつは儂が間違って落としたものなんじゃよ……」
「は…?」
神様のその言葉に、少年は相手が神様であることも忘れてそんな声を漏らした。
「あれは……あんたが落としたのか……」
「ああ、本当に申し訳ない…。儂の不注意で誤って神雷を下界に落としてしまったんじゃ。その上まさか落ちた先に人がいるとは……」
少年はきゅっとズボンの裾をきつく握りしめる。
「ふざけんなよ……不注意って……神様のくせに……」
少年は震えた口調でそう言うと、突如立ち上がり神様の胸倉を掴みあげた。
「ふざけんなよっ!……あんた……神様の癖に…っ。その癖に……不注意って……ありえねぇだろうが!……そのせいで、1人のまだ小さな女の子の命まで奪うとこだったんだぞ!!」
「なっ……し、しかし被害受けたのは君だけじゃったはず……」
「それは俺が雷が当たる寸前でその子を突き飛ばしたからだよ!!…………あんた、ほんとに何も知らないんだな……」
「…………返す言葉もないの……」
神様は少年の言葉にそれだけ返すと、そのまま深く俯いてしまった。
「……そうか、儂は……そんな小さな子の命を、奪うとこじゃったのか……」
「……そうだよ。だから……頼むから……謝るなら俺だけじゃなくて、あの子やあの子の親御さんにも……謝ってくれ…。」
少年はそう言ってそのまま深く頭を下げる。それを見た神様は慌てたように手を振りながら少年に声をかけた。
「いやいや、君が頭を下げる必要はない。分かった。必ずその子とその子の親御さんには夢の中にでも出て謝るとしようかの。」
「……お願いします。」
「うむ。……それにしても、君は優しい子じゃな。死んだのは自分なのに、自分じゃなくてその死にかけた少女のために怒るなんて……」
「そんな事……」
少年は神様の言葉を否定しようとして、その口を閉ざした。今ここで仮に自分が大量殺人犯などと言えば、下手をすれば自分だけじゃなくて先程自分が口にした少女にも何か影響を及ぼすかもしれないと考えたからだ。
そんな少年の姿を見た神様も、何か事情があるのだろうと思い少年に対して追求はせず、1度咳払いして話を進めた。
「それでじゃな、君の名前は何と言ったかの?たしか……しらさき……」
「白鷺優輝翔(しらさぎゆきと)です。あと、出来れば下の名前で呼んでくれるとありがたいのですが……」
「うむ。了解した。それでは優輝翔くん。早速なのじゃが、君には生き返って貰いたい。なにせ君は儂の不注意で死なせてしまったのじゃからな。」
「そう……なんですか?」
優輝翔はそう曖昧な返事をしつつ首を傾げた。
(生き返って貰うって……でも、俺の死体なんてもうないだろ…。)
そんな優輝翔の疑問に応えるかのように、神様は言葉を付け足す。
「うむ。ただ君が考えておる通り元の世界に生き返らせることは出来ん。そこで別の世界で生き返って貰いたい。」
「なるほど。そういう事ですか。分かりました。」
「ああ、素直に納得出来るわけがないと理解はしておるが……って、は?いいのか?」
「ええ、まぁ。俺自身思うところがないわけじゃないですけど、だからって喚き散らしたところで無意味なことだと理解しているので。そんな無駄なことをするよりは、まだ母さんに恵んでもらったこの生を全うできることに感謝しますよ。」
「そうか……本当に君は……」
神様は優輝翔の想像以上に達観した姿と母親への思いに袖で目を拭う仕草を見せる。そしてふと決意したような表情を作ると、優輝翔に向かって口を開いた。
「優輝翔くん。新たな世界に行くにあたって、何か叶えてほしいことはないか?たいていの事は叶えてあげられるはずじゃ。」
「えっ?うーん……、いきなりそんなこと言われても……とりあえず、これから俺が生きていく世界の情報を教えてもらえませんか?」
「おお、そうじゃったな。これから君を送る予定の世界は……」
長くなったので要約すると、どうやらこれから自分が行く世界は元の世界と比べて文明の発達していない中世のあたりらしい。だがその代わりに魔法というものが存在しているそうだ。
優輝翔自身はライトノベルというものを読んだことがないのでよく知らないのだが、何でも空気中に存在する魔素と自身の持つ魔力というものを利用して発動するものらしい。
さらにはその後、優輝翔はその世界のお金の価値や、生態系、身分制度、オススメのお金の稼ぎ方など色々なことを神様から教えて貰った。
「ありがとうございます。参考になりました。」
「なに、構わんよ。それで、願い事は決まったかね?」
「その前にひとつ。願い事はひとつだけですか?」
「いや、儂に叶えられることなら出来るだけ叶えようと思っとる。しかし、そんなに多いのか?」
神様のその疑問に優輝翔は首を横に振ると、指を2本を立てて神様に見せる。
「いえ、3つだけです。ひとつ目はお金に関してなんですが、先程の話でチラッと俺を町から離れた場所に送り込むと言われてましたが……」
「ふむ。いきなり町中にやって誰かに見られたらあれだからの。」
「となると、仮に俺がその日中に町につけたとしても、お金が無ければ結局外で野宿することになると思うんです。それに正直向こうで働きはするものの、最初の内は給料もたかが知れてるでしょうから、出来れば約1ヶ月、少なくとも2週間程は向こうで不自由なく生活が送れる程のお金を頂けると嬉しいのですが……」
「おお、確かにそうじゃな。ではこれを渡しておこう。」
神様は手をポンっと叩いて納得すると、これまたどこから取り出したのか、金貨を3枚優輝翔に差し出した。
「これって……こんなにいいんですか?正直1ヶ月以上は楽できる気が……」
優輝翔がそういうのも無理はない。先程神様に教えて貰った貨幣価値では、王金貨が1枚1千万円、白金貨が100万円、金貨が10万、銀貨が1万、銅貨が千円で、青銅貨が100円、鉄貨が10円だ。
つまり、今優輝翔は1ヶ月分の生活費としては明らかに多いであろう30万円を神様から貰ったことになるのだ。
「なに、気にせんで良い。それにお主の元いた世界じゃとこれが一般的な1ヶ月分の給与じゃそうじゃしな。」
確かに。優輝翔も働いたことはないとはいえ、一般的なサラリーマンのひと月の給与がこれくらいだと言う知識は持っていた。しかし自分がこれから行く世界は文明が遅れていて、恐らく貨幣価値も元の世界より確実に低い気がするのだが…。
するとそんな優輝翔の疑問を見透かしたかのように、神様は笑いながら優輝翔の前に金貨3枚を置いた。
「なに、多くて余った分は儂からの詫び賃やお小遣いとでも思っておきなさい。」
「そうですか…。では有難く貰っておきます…。」
優輝翔は先に神様にお礼を言って頭を下げてから、金貨3枚を受け取ってポケットに入れた。
「じゃあ2つ目ですけど、これを使えるように出来ませんか?」
優輝翔はそう言ってついひと月ほど前に初めて購入したばかりのスマートフォンを神様に見せる。
「これをか?うむ。まぁ制限はつくができないことはない。」
「それは例えば?」
「向こうの世界の住人に電話やメールなどの直接的干渉ができんことじゃな。まぁ何もかもはあれじゃし、儂に電話くらいはできるようにしておこう。」
「なるほど、分かりました。ところで充電などは……」
「おお、そうじゃな。それなら君の魔力でできるようにしておこう。なに、君の魔力量ならすぐ充電出来るじゃろう。」
「そうですか、ありがとうございます。」
優輝翔はそう言って再び頭を下げる。
優輝翔ととしては新たな世界で1番重要となる情報を手に入れる媒体が手に入ればよかったので、機能的には十分であった。まぁ神様への電話機能という特殊なものもついてきたが、それに関しては本当に困った時にでも使わせてもらうとしよう。
「じゃあ最後に三つ目。これは保険なのですが、今後異世界に行ってどうしても困ったことがあった時、一度でいいから助けて欲しいんです。もちろん立場上難しいこともあるでしょうから、無理なことであれば断ってくださって構いません。」
「なるほど……まぁいいじゃろ。元は儂が悪いんじゃしな。一度と言わず、困ったことがあればいつでも連絡してきなさい。さて、ではそろそろ蘇ってもらうとするかの。」
「分かりました。お願いします。」
「うむ。ではその前に……」
神様がそう言って優輝翔の前に手を翳すと、優輝翔の周りを暖かな光が包み込んだ。
「蘇ってすぐ死んでしまってはあれじゃからの。君の基礎能力、身体能力、その他諸々全ての能力値を底上げしておこう。これで余程のことが無ければ死ぬ事は無いじゃろう。無論、もう儂もあんなミスは犯さんように心がけるしな。」
「本当にお願いしますよ……」
「うむ、分かっとる。あと1度送り出してしもうたらもう儂からの干渉はあまり出来んのでな。そのつもりで。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「うむ。では行くぞ。」
神様の言葉に優輝翔はひとつ頷く。
そして次の瞬間には、優輝翔の意識は既に途切れていたのだった……
次回、いよいよ異世界へ