異世界はスマートフォンとともに 改 作:Sayuki9284
なんか最近1話あたりの話の文字数多かったり少なかったり、なかなか執筆活動に取り組めなかったりと大変な状況が続いていて( ๑´࿀`๑)=3
ストックもちょっとやばくなってきたかもしれないです(´TωT`)
なのでもしかしたら来年の1月くらいに1週インターバルを挟むかもしれませんが、どうかご理解の程宜しくお願いします。
歩き始めてからしばらく、狐の獣人の女の子は自身の手を握って道案内をしてくれている横の青年の顔をチラリと幾度か見上げていた。その度に、女の子の胸の鼓動が微かに振動数を上げていく。
(なんだろう……この感じ…//)
女の子はそっと繋いでいない方の手を自分の左胸の前に当てた。そこから伝わる鼓動ははっきりと感じて取れるほどに速く、そして大きくなっており、自身の耳にまでその音が鮮明に聞こえてくるような気がした。
(ど、どうしよう…//なんか心臓の音がいつもより大きいよぉ…//お、お兄さんに聞かれてないかな…//)
女の子は再度、今度は不安気に青年の顔を見上げる。それに対し、青年は女の子の視線や鼓動には一切気付く素振りを見せず、前を向いて歩き続けていた。
(よかった…//音は聞こえてないみたい…//)
女の子はそう思って内心で安堵の息を漏らすと、また横にいる青年の顔を見上げた。その横顔はおおよそ同年代の中では整っている方だと思える程の美形で、何よりも体全体から優し気な雰囲気(オーラ)というものが滲み出ていた。それらがまた女の子の心臓を加速させる。
初めての国、初めての土地、そして周りを別種族の知らない人たちに埋め尽くされた上、道に迷ってしまい不安でいっぱいだった自分に声をかけてくれた優しさ。初対面でいきなり泣きついてきた自分を、泣き止むまで温かく抱きしめて髪を撫で続けてくれた優しさ。歩く時にはぐれないようにと自然と手を差し出してくれる優しさ。少し身長差がある自分に何も言わずに歩幅を合わせてくれる優しさ。
そして、今なお繋いでいる手を通して直に伝わってくる青年の手の温もり。これら全てがこの女の子を恋する乙女へと変貌させる。
(………そっか…///わたし……///)
女の子はきゅっと自身の左胸辺りの服を握りしめた。そしてこの青年と出会えたことを神様に感謝しながら、女の子は青年に話しかける。
「あの……お名前、聞いてもいいですか?//」
「えっ?ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は白鷺優輝翔だ。優輝翔が名前だからそっちで呼んでくれ。」
「はいっ//あ、私の名前はアルマ・ストランドです。私も気軽にアルマって呼んでくださいねっ//」
「ああ。よろしくな。」
「はいっ、優輝翔さんっ///」
女の子、改めアルマは嬉しそうに返事をして再び前を向く。すると、今度は優輝翔の方から会話を繋げてきた。
「ところで、アルマはどうしてベルファストの王都に来たんだ?」
「私ですか?私はお姉ちゃんについて来たんです。お姉ちゃんは仕事で来たんですけど、私は観光がメインですね。優輝翔さんは?」
「俺は仕事というか依頼だな。今はもうそれを終えて観光中だけど。」
「そうなんですか?じゃあひょっとして、優輝翔さんは冒険者の職業を?」
「ああ。お姉さんは何の仕事なんだ?」
「お姉ちゃんはミスミドの大使なんです。今度あそこにあるお城に入って、そのまた数日後には食事会が開かれるんですよ。」
アルマはそう言いながら王都の中心にそびえ立つ、美しい艶やかな緑色の屋根が特徴の立派な城を指さした。それに対し、優輝翔は『大使』という言葉に少し驚きを表す。
「へぇ…。じゃあアルマの家族はミスミドの貴族か何かなのか?」
「いえ。でもお父さんは大きな商会をやってるんですよっ。それが関係してよくお城のパーティーに参加させて貰ってます。」
「そうなのか?すごいんだな、アルマのお父さんは。」
「はいっ//」
アルマは優輝翔の言葉に嬉しそうに頷く。そしてまた喋り始めようとしたところで、不意に前方からアルマにとってとても馴染みのある声が聞こえてきた。
「アルマ!!」
「あっ、お姉ちゃん!!」
アルマはそう叫ぶと、優輝翔の手を離して一目散に自身の姉の胸元へと飛び込む。アルマのお姉さんはそんな妹をしっかり抱き止めると、ぎゅっとその小さな身体を抱きしめた。
「もう、心配したのよ…。」
「ごめんなさいっ。でも大丈夫だったよ。優輝翔さんがここまで連れてきてくれたから。」
アルマがそう言うと、お姉さんは優輝翔の方を向いて頭を下げる。
「妹がお世話になりました。感謝します。」
「いえ、俺としても明らかに迷子で困ってる雰囲気を出しててほっとけなかったですし、目的地もたまたま一緒だったので。」
「そうなんですね。ですが助けていただいたのも事実ですので、どうかお礼を。」
アルマのお姉さんはそう言って再び優輝翔に頭を下げた。優輝翔もここで何か言うのは悪手と考えて素直に謝罪を受け入れる。
「じゃあそろそろ店に入りませんか?そう言えば、ふたりは何を買いに?」
「私の魔法の本ですっ。ミスミドでも光属性の百科事典は買ったんですけど、ベルファストではどんなのが置いてあるかなって。」
「そうなのか。アルマは光属性の他にはなにか使えるのか?」
「はいっ。無属性魔法が使えます。まだどんな魔法かは分かってないんですけど……」
「そうか。まぁそのうち分かるって言うしな。それにふたつの属性が使えるだけでもすごいと思うぞ。」
「えへへ///」
優輝翔がそう言いながらアルマの頭を撫でると、アルマは幸せそうに尻尾を振りながら顔を蕩けさせた。その様子を見て、アルマのお姉さんは少し首を傾げる。
(何かやけに仲がいい気が……それにアルマの様子…。もしかしてこの子……………………よし。)
アルマのお姉さんは心の中で何やら自己完結すると、未だ自身の妹の髪を撫でている優輝翔に話しかける。
「あの、優輝翔さん……で、良かったでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です。あなたは?」
「オリガ・ストランドです。それで、1つお聞きしたいのですが、この後予定とかはありますか?」
「えっ?」
優輝翔はいきなりの質問に少し間抜けな声を上げ、とりあえずといった感じで首を横に振った。するとオリガさんは嬉しそうに手を合わせて優輝翔に提案する。
「でしたら、この後ご一緒にお茶でもしませんか?アルマのお礼もしたいですし。」
「いや、でも……」
「い、いいと思いましゅっ!//私も優輝翔さんにお礼したいですし…//その、えっと……もっと…いっしょにっ//…いたい、でしゅから…///」
アルマは最後の方はもうほぼ囁きに近い形になりながらも、そう言って顔を赤く染めた。普通の人なら聞き取れないほどの音量だったのだが、常人よりも聴覚が優れている優輝翔にはバッチリ聞き取れており、そのせいで優輝翔は少し頬を掻いた。
「分かりました//じゃあここでの買い物を終えてから一緒に近くの喫茶店にでも入りましょうか。」
「…っ!///お姉ちゃんっ///」
「ええ。じゃあそういう事で。」
オリガさんが嬉しそうにはしゃぐアルマに笑顔を見せながらそう言うと、3人はひとまず『ルカ』の中へと入っていった。
そして優輝翔は『無の巨匠(無属性魔法辞典)』と『古代魔法書』、『世界史』の3冊の本を、アルマとオリガさんも目的の本を買ったところで、3人は店を出て客の少ないカフェ探しに向かった。言っておくが人気のない店というわけではない。近しい言葉でいえば穴場探しだ。
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数分後、優輝翔たちは貴族街の少し外れにある、『チェロ』という名の一見民家のようにも見える風情漂う喫茶店の前まで来ていた。
ちなみにここまで来る途中、アルマはずっと優輝翔と手を繋いでいる。その様子からも、姉のオリガさんは余程アルマが優輝翔の事を好いているのだと察せていた。
カランカラン♪
店の扉を開けると、扉に付けられていた鈴が優輝翔たちを歓迎するように鳴り響いた。そして優輝翔たちが中に入ると、1人のウエイターが優輝翔たちに近づいてきて頭を下げた。
「いらっしゃいませ。3名様でよろしいでしょうか?」
「ああ。」
「ではどなたかおひとり、お客様のご身分を証明するものは持ち合わせておりませんでしょうか?」
ウエイターがそう尋ねると、先頭にいた優輝翔は『べクルト』で見せたのと同じメダルを見せる。ウエイターはそれを見て頭を下げると、優輝翔たちを席に案内し始めた。
「こちらのお席です。どうぞごゆっくり。」
ウエイターはそう言って三度頭を下げると、店の奥の方に入っていった。優輝翔は案内された席が片側が壁になっていたため、そちらを姉妹に譲って自分は反対側の椅子に座ったのだが、何故か気づくとアルマがすぐ横に座っていたのだ。
「えっと……アルマ。オリガさんと一緒じゃなくていいのか?」
「えっ?えっと……お姉ちゃんの横もいいんですけど……今日は、その……優輝翔さんの横がいいなぁって…///」
また最後の方で小声になりつつもしっかりとそう告げるアルマに、優輝翔は少し困った顔で未だ席に座らず立っているオリガさんを見る。するとオリガさんはニコリと笑って壁側の席を手で示した。
「優輝翔さん。私のことは構わないので、どうかアルマとあちらに座っていただけないでしょうか?その方がアルマも喜ぶと思いますし。」
「……分かりました。じゃあお言葉に甘えて……」
優輝翔はそう言うと、アルマと共に柔らかなソファーになっている壁側の席に座る。そしてオリガさんもアルマの正面の席に座ったところで、3人でメニューを見始めた。
「優輝翔さんは何にするんですか?//」
「そうだな……じゃあ、この……」
優輝翔がそう言いながら指さしたのは、ドリンク付きのサンドウィッチだ。ちなみにドリンクはストレート。
「アルマはどうするんだ?」
「私はこれにします。ショートケーキとドリンクのセット。」
「飲み物はミルクか?」
「はいっ//あっ、えっと……子どもっぽいですか…?//」
「別に。むしろらしさがあって可愛いと思うぞ。俺も甘いもの欲しい時によく飲むしな。」
「優輝翔さん…///」
優輝翔が頭を軽く撫でながらそう言うと、アルマはまた頬を染めてうっとりした顔になる。その様子をオリガさんは微笑ましく眺めつつ、自分の注文も決めて店員さんを呼んだ。
「サンドウィッチのストレート、ショートのミルク、チョコケのコーヒーですね。かしこまりました。少々お待ちください。」
そう言ってウエイターが去ると、オリガさんは優輝翔の方を見て話し始める。
「そう言えば少し驚いたのですが、優輝翔さんは貴族の方なのですか?」
「え?……ああ、これですか。」
優輝翔はそう言いながらさっきウエイターに見せたメダルを取り出した。
「はい。さっきここに来る途中で冒険者と聞いていたので気になって……」
「俺は冒険者だし、貴族でもないですよ。これはたまたま依頼の道中に公爵の娘さんを助けたお礼に貰ったんです。」
優輝翔がそう答えると、姉妹は揃って驚きを表す。そしてさらに詳しく聞き、優輝翔からリフリットを出てから昨日までの話を聞かされると、ふたりはもはや呆然と口を半開きにしている事しかできなかった。
「すごい…///」
そんな中でも特に、アルマは目に輝きを持たせながら優輝翔を見つめていた。なぜならその話の工程の中で、優輝翔は自身が全属性に加えてすべての無属性魔法を扱えることを話したからだ。無論この話の際にはちゃんと念押しで他人に言わないようにと告げてある。
そしてさらに優輝翔はその力を誇示して振り回すことはせず、人の役に、人を助けるために使っているのだ。その事実にアルマはもう完全に心を奪われていた。
そしてアルマの目の前にいるオリガさんも、その話を聞いてようやくひとつの確信を持つことが出来ていた。
実のところ、オリガさんはアルマが行為を抱いている優輝翔に対し少しだけ心の中で、不審とはいかないまでも、何かしらの引っ掛かりを覚えていたのだ。
何せアルマと優輝翔はつい数分前に初対面したばかりだというのに、いくら道案内をしてくれたからってそこまで懐くだろうか?何か変な魔法などは使っていないのか?性格は?どういう人物なのだろうか?、などと疑問は出そうと思えばいくらでも出すことができた。でもそれも、今の話でほぼ全てが解決された、と言うより、どうでもよくなった。
圧倒的とも言える才能と力を誇示せずに人を助け、公爵から信頼された人物。一見信じ難い話だが、優輝翔は自分を大使と認識した上で公爵に確認してもいいと言ってきたことから、全て真実であろうことは推測がつく。それに性格もこの話を聞けば少なくとも悪とは思えないし、それならば妹の、アルマのことを任せるのもいいのかもしれない。まぁまだアルマは学生なので、結婚までいく……かどうかはまだ定かでないものの、もしそうなるのならば、それは最低でもアルマが卒業した後になるであろう。できれば自分もそれまでには……
オリガさんはそんなことを考えながら、今しがた運ばれてきたチョコレートケーキを一切れ口に運んだ。