異世界はスマートフォンとともに 改   作:Sayuki9284

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一週間ぶりです(。ᵕᴗᵕ。)

今話もよろしくお願いしますm(*_ _)m


第33話 リンゼ・シルエスカ

 

一面真っ白な雲海に浮かぶ孤島の如き六畳間の和室。床以外の壁がなく丸見えなその畳の上で、一人の老人、否、神様が何やら美味しそうなお饅頭を茶請けにお茶を楽しんでいた。

 

 

「ふぅ…。落ち着くのぉ…。やはり疲れた時は緑茶が一番じゃ。」

 

 

神様は穏やかな顔でそう言うと、偶には地上(主に優輝翔)の様子でも見てみようとアナログテレビのリモコンを手に取る。そしてポチッと画面をつけようとしたその瞬間、いきなり目の前に「ゲート」が展開された。

 

 

「はっ?」

 

 

神様は予想もしてなかった意味不明の自体に思わずポカーンと口を開けて固まる。同じ神なら「ゲート」なんぞ使わなくてもここに来れるので、こんなことが起きたのは初めてだったのだ。

 

 

「えっと……とりあえず、お久しぶりです。神様。」

 

「お、おぉ…。君だったのか。いや、すまんすまん。ここに「ゲート」が開かれることなんぞ今までなかったし、まさか君がここに来れるとも思わんなんだったからちと驚いたわい。」

 

「すみません、電話する余裕もなくて……」

 

「ふむ……まぁ腰をかけなさい。」

 

 

神様は少し表情を暗ませた状態の優輝翔に何か察したが、落ち着いてはいるようなのでとりあえずそう言ってお茶を出した。そして優輝翔がお礼を言ってお茶を一口飲んだところで、何があったかを聞き出す。

 

 

「それで、何かあったのかね?力になれるかは分からんが、助けると言ったことは覚えておるし、まぁ話してみなさい。」

 

「はい…。実は、ある女の子を生き返らせて欲しいんです。」

 

「ある女の子を生き返らせる?」

 

 

神様は優輝翔の言葉に首を傾げるも、とりあえず嘘ではないと思い事情を聞き出した。そして優輝翔から自分の婚約者であるリンゼ・シルエスカという少女が殺害された話を聞かされると、神様は顔に怒りを顕にしながら首を横に振る。

 

 

「なんと……なんと愚かな…。よし分かった。生き返らせよう。願い事の件とは関係なくじゃ。」

 

「いいんですか?」

 

「いいも悪いもない。君は儂が殺してしまってこの世界に送り込んじゃのだから、儂には君をこの世界で幸せにする義務がある。」

 

 

神様がそう言うと、優輝翔もお礼を言って「ストレージ」から“バラバラ”の遺体を取り出した。

 

 

「これはっ!なんと酷いことを!」

 

「……この状態でも、治せますか?」

 

「もちろんじゃ。むしろこんな幼い少女をこんな目に合わせた輩に腹が立ってくる。すぐ生き返らせよう。」

 

 

神様はそう言うと両手をリンゼの前に翳す。するとリンゼの身体がとても目を開けてはいられないほど輝き、優輝翔が目を開けれた頃には、既にいつもの、それこそこの日の午前中に見ていた可愛らしいままの愛しい彼女がそこに眠っていたのだった。

 

 

「優輝翔くん。君にこれを渡しておこう。また彼女に付けてやるといい。付いてある付与魔法もそのままじゃ。」

 

「神様……ありがとうございます。」

 

 

優輝翔は心から感謝しながら、神様から指輪を受け取った。そしてそれを横わる少女の左手薬指に通す。

 

 

「リンゼ…。」

 

 

優輝翔は愛する少女の名を呼びながら優しくその髪を撫でる。そんな優輝翔に神様は尋ねたかったことを尋ねた。

 

 

「優輝翔くん。彼女を襲った犯人は目星はついているのかね?」

 

「いえ。でもそれくらいならリンゼ自身が教えてくれますよ。もし仮にリンゼがショックで覚えていなくても、俺が本気を出せば一日で片付きます。」

 

「そうか。ならよいかの。」

 

「?探してくれるつもりだったんですか?」

 

「なに。儂もこんな幼子をあんなにした輩を許せんからの。もしあの時儂が殺していたのが君が助けた少女ならば、儂は悔いてその子を生き返らたあとその子が死ぬまでその子に手を貸し続けたじゃろ。」

 

「…………」

 

 

優輝翔は内心で(じゃあ俺にもそうしてくれよ。)とか思ったが、すぐに頭を切り替えリンゼを優しく抱えあげた。

 

 

「とりあえず俺はそろそろ帰ります。ちゃんとベッドで寝かせてあげたいですし。神様、本当にありがとうございました。」

 

「なに、たった一つ願い事を叶えただけじゃ。困ったことがあったらまた来なさい。相談くらいはのるからの。」

 

「はい。じゃあ、また。」

 

 

優輝翔はそう言うと、「ゲート」を潜って『銀月』の自室に戻る。そしてそっとベッドの上にリンゼを下ろすと、布団をかけて、自分はそのすぐ横に椅子を持ってきて座った。ほんとは添い寝したかったが、今はとにかくリンゼの負担になることはしたくなかったので、傍で見守るだけにしたのだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

翌朝未明。優輝翔は時折瞼が下がるのを耐えながら、ずっとリンゼの目が冷めるのを待ち続けていた。途中心配したミカさんに頼まれてエルゼと八重が二人分の食料を持ってきてくれたので、お腹などは空いてない。

 

ちなみに優輝翔はエルゼにもこのことは黙ったままだ。なにせもしエルゼに話して「やっぱあんたに妹(リンゼ)は任せらんない!!」なんて言われると、説得するのがとても面倒になるからだ。何せあの少女の頭の中はほとんどが筋肉なのだから。

 

それに優輝翔はリンゼが目を覚ましたらそのまま1週間くらいはずっとリンゼにベッタリとくっついて離れないつもりなので、それを邪魔されないためにもエルゼと八重にはしばらく適当な嘘で済ませておくつもりである。

 

と、雑談をしているうちに、リンゼの様子に変化が訪れた。

 

 

「ん……」

 

「っ、リンゼ!」

 

 

非常に小さな声だったが、それでも優輝翔がずっと待ち望んでいたその声を聞き逃すはずがない。

 

 

「リンゼ……」

 

 

優輝翔がリンゼの手を優しく握り、顔を覗き込むようにしてもう1度声をかける。するとリンゼの瞼が幾度かだけ微かに動き、ゆっくりと開き始めた。

 

 

「………ゆきと、さん…?」

 

「ああ…。そうだ。俺だ、リンゼ…。」

 

「……なん、で……わたし……」

 

 

リンゼは既に死んでしまったはずの自分の視界に何故優輝翔が映っているのか理解できなかった。もしかして優輝翔にも何かあって自分と一緒で殺されてしまったんじゃないか?

 

そんな考えが頭をよぎったリンゼに、優輝翔はゆっくりと首を横に振ると、丁寧に、一音一音をリンゼの中に響かせるように伝えていく。

 

 

「今は、何も考えなくてもいい。ただ一つ言えるのは……リンゼ、もう大丈夫だ。」

 

「あ……ッ………」

 

 

リンゼの両目からゆっくりと透明な雫が流れ出す。何故なら、見えたから。いや、見せてくれたから。自分が確かに命の灯火を消されたその直前、男(あくま)たちによって無惨にも壊された銀色のリングが、また自分の左手薬指で輝いている光景を…。

 

優輝翔はリンゼの手を握っていない空いている方の手の指の関節で優しく触れるようにリンゼの涙を掬いとると、そのままその手をそっとリンゼの頬に添える。そして優しく、されどぎゅっと押し付けるように唇を数秒重ねると、そのままもぞもぞと布団の中に潜り込んだ。

 

 

「まだ起きたばかりだからな//一緒にもう少しだけ寝よう//」

 

「はい…///」

 

 

優輝翔に抱きしめられながらそう耳元で囁かれると、リンゼはもう二度と味わえないと思っていた温もりを実感し、せっかく拭っもらった涙をまた零し始める。そしてそれを隠そうと俯いて額を優輝翔の胸板にグリグリ弱々しく押し付けるリンゼを、優輝翔は優しく撫で始めた。

 

そしてもう片方の手でトンっ、トンっ、とリズムよくリンゼの背を叩くと、ぎゅっと包み込むように抱きしめて囁く。

 

 

「おやすみ、リンゼ//」

 

「っ……//」

 

 

『おはよう』『おやすみ』そんな当たり前な挨拶が、こんなにも、こんなにも心に響くことなど、今まであっただろうか?一度死んだリンゼ、そして最愛の相手を幾度も失ってきた経験を持つ優輝翔だからこそ分かる。

 

 

 

“こんな当たり前の言葉(にちじょう)が、何よりも大切な(かけがえのない)ものなのだと……”

 

 

 

……そして、もう二度と…、

 

この当たり前を奪わせはしないと、優輝翔は固く心の中で誓った。

 

「おやすみなさい//優輝翔さん//」

 

 

リンゼが小さくそう答えると、気のせいか、優輝翔の抱く力が少しだけ強くなったように感じた。リンゼは自分が強く、そして果てしなく愛され、守られているのを感じ、安心して夢の中へと旅立ったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

《リンゼを襲った男たちの末路》

 

 

「ガッハッハッ//アンッアンッアンッだってよっ//いい声で鳴きやがったっ//」

 

「ほんとそれだよなっ//ヒャッハッハッ//」

 

 

もうすっかり日の暮れた街中、中でも一番高価なホテルの一室で、『3人』いる中、内2人の男が高い酒を飲みながら興奮気味に話し合っていた。

 

 

「っかぁ〜っ///にしても、あいつのお仲間一人を殺るだけでマジでこんなに金をくれるとはなぁ〜///」

 

「ほんとだぜっ///まっ、俺らは得してるからいいんだけどなっ///」

 

「違いねぇ///ガッハッハッ///」

 

「はっはっはっ。面白い話してるなぁ、お前ら。俺らも混ぜろよ?」

 

「「!!!」」

 

 

その瞬間、その場にいた3人は心の臓を直接鷲掴みされるかのような感覚に陥って、思わず立ち上がり声のした方を見て固まった。まるで開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったかのような、まるで肥満した豚がお腹を空かせた龍の前へと無防備にも飛び出してしまったかのような、……まるで、生きている実感すら感じられなくなる、死神を目の前にしたような、そんな感覚。

 

途方もない闇と怒りが2人だけに向けられていた。他の誰でもない、優輝翔によって。

 

 

「なぁ、なんの話してたんだっけな?」

 

「「「………………」」」

 

 

男たちは答えない。否、答えられない。死神の前では口を開くことさえ罪となる。

 

 

「おいおい聞かせてくれよ〜。お前らがアンアン鳴かせた女の子のことをな!」

 

「ガハッ!」

 

 

優輝翔の蹴りが筋肉質な男の腹にのめり込む。男は数メートルほど吹き飛ぶと、ボトッと鈍い音をたて床に叩きつけられた。ちなみに下の階には振動だけで音は響かない。何故ならこの部屋には既に、防音魔法が張られているからだ。

 

 

「ヒッ!ま、待てっ!勘違いd…グ…ハッ!」

 

「あ、ごめん。聞いてなかった。」

 

 

優輝翔は悪びれることもなくそう言うと、吹っ飛んでいった二人のいる床と自分、そして何故かいる謎の人物の足元に「ゲート」を開き、誰もいない森の中へと移動する。

 

 

「さて、これで心置き無く惨殺(話し合い)ができるな。」

 

「「字が違うぞ(じゃねぇか)!!」」

 

 

男たちは鋭いツッコミをしつつも、連れてこられたのが生き物の気配すらない真っ暗な森の中だということが、現実に重みを持たせていた。

 

 

「な、なぁ……話し合わねぇか…?」

 

「ほぉ…。いったい何を話すことがあるのか教えてくれねぇか?」

 

「いや、だからその……あれだよ。お前はきっとかんちg…ゲホッ!」

 

 

優輝翔のつま先が細身の男の鳩尾に食い込んで、そのまま数メートル後ろの木に当たるまで吹っ飛ばした。

 

 

「交渉決裂だな。そろそろショーを始めさせてもらおうか。」

 

「ひっ!!ち、違う!!違うんだって!!俺たちはそこにいる男に依頼されて……」

 

「……ほお?」

 

 

その瞬間、優輝翔は初めてもう一人いる男の方に完璧な殺意を向けた。その瞬間、男の身体は硬直し、体温は一気に低下、まるで冷凍庫の中に足を踏み入れたみたいに男の周りの空気が冷え、男の恐怖駆り立てていった。

 

 

「…………っ……」

 

 

シーンとした森の静けさが漂う中、数メートル離れていても男が鳴らした喉の音はハッキリと優輝翔に届いた。優輝翔はしばらく男を睨んでいたが、まずは先にやるべき事をやるため、再び二人の男達の方に顔を向ける。そして殺意の篭ったままの目でゆっくりと筋肉質の男の方に歩いていった。

 

 

「まっ、それはそれ。これはこれだ。お前達が死ぬ事実に変わりはない。」

 

「ま、待てっ!金ならやる!女ももっと色気のある美人な姉ちy…ヵ…ハッ!」

 

バンっ!!

 

 

筋肉質な男が細身の男がぶつかった木の隣の木にぶつかって地面に倒れ込む。優輝翔は痛みで寝転がってる男達の元まで歩くと、恐怖を顔に貼り付けて自分を見上げている男たちを感情のない目で見下ろしながら口を開いた。

 

 

「さて。こっちも簡単に殺すつもりはないわけだが、その前にお前らに一つ面白いものを見せてやるよ。」

 

 

優輝翔はそう言うと、自分の斜め後ろの位置に「ゲート」を開く。そこから出てきた人物に、男たちは信じられないものでも見ているかのような目を向けた。

 

 

「な、何でお前が……」

 

「お、おい…。どうなってんだよ……」

 

 

男たちは確かに自分たちが命を奪ったはずの人物が現れたことに、もう完全に思考が追いつかなくなってしまった。

 

 

“死となりて生には戻れぬ”

 

 

それは生きとし生けるもの、全ての、どこの世界においても共通の真理であり、曲げられない事実。理。この世界では唯一打開できるであろう光の魔法でも、その条件はとても厳しいものであることくらい男たちも知っていた。

 

だからめちゃくちゃに壊したのだ。証拠を消すために。蘇生できなくするために。

 

もし優輝翔が早めに発見しなければ、もうあと数十分後には血の匂いにつられた魔物に食べられていただろう。それほどまでにリンゼは危険な状態、もはや元通りに生き返ることなどあってはならないこと、のはずだった。

 

 

……だが、たったひとつ、たったひとつだけ、男たちには知らないことがあった。それは、“優輝翔が神様とも繋がりを持っていること”、である。

 

 

無論、その情報はリンゼにさえ話していないので、まして男たちが知りえるはずもないのだが、それでも、そのたった一つ知るか知らないかの差が、男たち、そしてリンゼの運命を左右したのだ。

 

 

リンゼは優輝翔が神様に頼むことで、絶望的な状態から蘇った。男たちは神様により息を吹き返したリンゼの口からでた証言により、この先の人生が絶たれた。ただそれだけの事である。

 

 

 


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