異世界はスマートフォンとともに 改   作:Sayuki9284

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第39話 優輝翔の復讐

「へ、陛下?!お、お身体の方はもうなんとも!?」

 

「おう、バルサ伯爵。この通りなんともない。心配かけたようだな。」

 

 

大食堂に飛び込むように入ってきた伯爵に、国王陛下が笑いながら腕を回してそう答える。

 

 

「そ、そうですか……。ハハ、それはそれは……何よりでございます……」

 

 

陛下の元気な姿を見て汗をダラダラ垂れ流しながら、引きつった笑みを浮かべる伯爵。それをこの場にいる全員が冷めた目付きで見つめていた。

 

 

「さて、じゃあそろそろ犯人を顕にしましょうか。」

 

 

優輝翔がそう言うと、伯爵はあからさまに挙動不審になり、息を飲んだ。その様子に優輝翔は内心でため息を吐きながら、テーブルにおいてあったワインを持つ。

 

 

「まず大使が持ってきたというこのワインですが、これで間違いはありませんね?」

 

「ああ、問題ない。中身もそのままだ。」

 

 

優輝翔が先程のワインを持ってそう聞くと、軍服の男、もとい将軍が首を縦に振った。それを見て、優輝翔はワインをただのグラスに注ぎ国王に渡す。

 

 

「どうぞ。もう1度飲んでみてください。何かあれば治しますから。」

 

 

優輝翔がそう言うと、国王はひとつ頷いて優輝翔から受け取ったワインを1口口に含んだ。

 

 

「……うむ。最高の味だ。」

 

「………………」

 

 

国王の様子に益々顔色を悪くしていく伯爵。そんな中、優輝翔は早々に決着をつけに行った。

 

 

「じゃあ次は伯爵、あなたに飲んでもらいましょうか。」

 

 

優輝翔がそう言ってワインを注いだのは、国王陛下の席に置かれたグラスだった。その光景を見て、伯爵が見るからに慌てた様子で口を開く。

 

 

「ふっ、ふふふざけるなっ!そ、それは陛下のグラスだっ!」

 

「問題ないですよ。陛下から許可は降りています。」

 

「うむ。どうせただのグラスだ。心配をかけた詫びに飲んでみるがよい。」

 

 

国王陛下の後押しに、もうこれ以上ないほど真っ青になった伯爵。そんな伯爵に優輝翔は容赦なくワインを持って近づいていった。

 

 

「さぁ。どうぞ。」

 

「いや、私は……」

 

「伯爵はワインがお好きと聞きましたよ?陛下も進めてるんです。飲まないなんてこと……あってはいけませんよね?」

 

「………………」

 

 

ジリジリと後ろに下がる伯爵に、一歩一歩着実に迫る優輝翔。やがて伯爵がこれ以上下がるところがないところまで来ると、いよいよ優輝翔に迫られるだけとなった。

 

 

「さあ。飲んでくださいよ。」

 

「いや、その……」

 

「飲めますよね。ワインの中には毒はなかったんですから。」

 

「…………」

 

「……それとも、もしかして伯爵は国王陛下のグラスに毒が塗ってあることを知っていたりするのかな?」

 

「っ……」

 

 

優輝翔が冷たく刺すような目で伯爵を上から見下しながらそう聞くと、伯爵は口をパクパクしながら、ゴクリと息を飲んだ。もはや伯爵には優輝翔がタメ口になっていることに気づく余裕さえも残っていなかったのだ。

 

 

「っ……くそっ!」

 

 

伯爵はそう言って扉の入口の方へと走る。しかし……

 

 

「ゲート」

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

優輝翔が突然扉に合わせて展開した「ゲート」に、止まる余裕もなくバルサ伯爵が突っ込む。

 

優輝翔はそれを見届けると、王様のたちの方に振り返り一言だけ残してから自分も「ゲート」に入った。

 

 

「それじゃ1時間ほどで戻るので、事後処理はお任せします。」

 

 

そう言って取り残された王様たち、「ゲート」の魔法や伯爵をどうするのかなど聞くことも出来ず、ポカンと口を開けて立つことしか出来なかったのだった……

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ここは……どこだ?」

 

 

伯爵はそう言いながら周りを見渡す。暗い、どこまでも暗い場所。伯爵はためにしに歩いてみたが、どこまで行っても何かにぶつかるということはなく、また、何かに出会うということも無く、ただひたすら、1寸の光も見えない空間が続いているだけであった。

 

 

(目は……ちゃんと開いてる。目を凝らしたら自分の手も見える。なら何故こんな……)

 

 

そんな疑問を抱いていた伯爵に、突然天井から響き渡るかのように聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

『ようこそバルサ伯爵。まだ1時間だが俺の用意した世界は楽しんでくれてるかな?』

 

「っ!き、貴様はたしか!私の計画を邪魔した!」

 

『そうですよ?よく覚えましたね、えらいえらい。』

 

「っ……きさま……」

 

 

あからさまな挑発に簡単に乗るおバカなカエル。優輝翔はそれを憐れむようにとある場所から見ながら言葉を送った。

 

 

『さて、ここがどこか疑問に思ってる頃でしょう。ここは俺があなたのためだけに用意した世界。暗獄です。』

 

「暗獄…?どこだそこは!聞いたこともないぞ!」

 

『当然ですよ、はははっ!だって俺が作った世界なんですから。』

 

「はぁ?何を言って……」

 

 

バルサ伯爵がそういうのも無理はないだろう。何せこの世界、優輝翔が神様に無理を言ってお願いし、特別に作ってもらった本当の新世界なのだ。ただし大きさは日本の東京1つ分程。光もなく、水も太陽もない。あるのは人が生活出来る空気と、増えた二酸化炭素を酸素に変換してくれる不思議な地面だけ。

 

そしてもうひとつ、この世界では、人は歳を取らないのである……

 

ただその代わり、この空間にいれば人間の3大欲求の1つである食欲だけは無償で満たされ続けるのだ。何をしなくとも。

 

 

……しかし、考えてみてほしい。

 

この新世界で、この真っ暗で何も見えない空間で、何も味わうことが出来ずに、ただ寝るか起きるかしか出来ずに、性欲も満たせずに、いつまでもいつまでも、終わりの見えない生活を送るということを……

 

「なっ、なぜ私が……」

 

『ナゼって?復讐だよ。あんたは触れちゃいけないものに手を出したんだ。俺の女にな……』

 

「っ……ちっ、ちがっ…!私じゃない!!あれはっ、部下が勝手に!!」

 

『違う?勝手?HAHAHAっ!!これは面白いことを言うなぁ!傑作だ!!……俺はな、ちゃんと魔法も使って確認してんだよ。その部下とやらがあんたの命令を受けて行動を起こしたことを。スゥの計画を邪魔された腹いせなんだって?全部話してくれたよ。ま、その部下ももう居ないけどな。』

 

「……き、きさま……」

 

『……まぁ、せいぜい楽しんでくれよ。終わりのない、絶望を』

 

 

 

 

 

 

『さぁ、地獄の始まりだ……』

 

 

最後にそう告げて、優輝翔はバルサ伯爵に言葉を送るのをやめた。

 

この先、バルサ伯爵がどうなるのか。

 

それは、神のみぞ知る……

 

 

 


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