異世界はスマートフォンとともに 改   作:Sayuki9284

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今話もどうぞ、お楽しみください(。ᵕᴗᵕ。)


第45話 白帝

 

ゴガァァァ!!

 

 

森の奥から大きくて迫力のある叫び声が聞こえてくる。やがてそれはドタバタと煩い足音とともに近づき、茂みから次々と白い体毛の巨大なゴリラが姿を現した。元の世界と違い、鬼のような牙と尖った耳を持っている。

 

 

(これがキングエイプか…。予想より大きいな。3m近くないか?)

 

 

優輝翔がそんなことを思っている合間にも、前衛のふたりが隠れていた茂みを飛び出し、後衛のふたりが詠唱を始めていた。

 

 

「雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア!」

 

「炎よ来たれ、紅蓮の炎槍、ファイアスピア!」

 

『ゴガァァッ?!!』

 

 

ふたりからの矢が前方にいたキングエイプたちに容赦なく降り注ぐ。特にリンゼの方は魔法の威力も上がっているため、その一撃だけで倒れる物も少なくなかった。ユミナの方もダメージと麻痺によって動けない状態になっているため、そのエイプたちに八重と優輝翔が次々とトドメを刺す。

 

え?エルゼ?エルゼは矢の届かなかった数匹をボコボコのボコにしていってますが何か?

 

 

「はぁーー!!粉砕ッ!!」

 

パァんっ!!!ベチャッ!!

 

 

…………ほらね?

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ふぅ…。片付いたわね。」

 

 

そう言って袖で汗を拭うのは、もはや血の海と言っていい場所の上に立ち、片足をもはや原型が本当にキングエイプであったのかも分からない物の上に乗せているエルゼだ。リンゼたちがその様子に引きつった笑いを浮かべている中で、優輝翔だけは普通に笑みを浮かべエルゼに近づく。

 

 

「派手にやったな。いったい何倍まで強化したんだ?」

 

「もちろん99倍よ!ついでに『パワーライズ』と『ブースト』、名ずけて『パワーブースト』のおまけ付き!」

 

「そ、そうか……」

 

 

そう言って満面の笑みでウインクするエルゼに、優輝翔は引き攣った笑みを浮かべた。優輝翔としては初めて使うというのもあって10倍くらいに留めるものと思っていたのだが、いきなりフルパワーで戦うというのはちょっと想定外すぎた。

 

 

「魔力消費は?」

 

「余裕!これのおかげでねっ//」

 

 

エルゼがそう言ってガントレットを外し、自身の左手の甲を優輝翔に見せる。そこには太陽の光を反射して光り輝くエタニティリングがハマっていた。

 

 

「そうか。ところで、ここまでめちゃくちゃにしたのはいいけど、ちゃんと牙は残してるんだよな?」

 

「え……あ……」

 

 

エルゼが「まずいっ!」といった顔を浮かべ辺りを見回す。そこはもはや真っ赤な血の海そのもので、真っ白な牙など見当たる気配がなかった。

 

 

「……ほんとに粉砕しきったな……」

 

「あ、あはは……」

 

「はぁ……、まぁいいか。どうせ数は多かったんだし、適当に5匹分持っていこう。」

 

 

優輝翔はそう言って首を切られて死んだだけのゴリラから牙をもぎ取っていく。そして「ゲート」を王都の近くに開くと、5人でギルドへと向かったのだった……

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

同日午後、優輝翔は銀月の庭を借りて召喚魔法を使うための魔方陣を書いていた。ちなみにそのすぐ近くでは5人の女の子たちもその姿を見守っている。

 

 

「さて、じゃあやるか。」

 

「楽しみですね、何が出るか。」

 

「優輝翔っ、早く早くっ。」

 

「はいはい。」

 

 

エルゼの言葉を優輝翔はそう流して闇属性の魔力を魔方陣の中に込め始める。それはやがて徐々に黒い霧へと変わっていき、突如爆発的な魔力とともに霧の中から大きな影が現れた。

 

 

『我を呼び出したのはお前か?』

 

 

声だけで感じる相手の力量。優輝翔は自分がとんでもないものを呼び出したと感じつつ、霧が晴れるのを待つ。そしてそこから現れたのは体長およそ2.5m、高さ1.5mの大きな白虎だった。

 

 

「この威圧感……まさか……」

 

「びゃ、白帝……様……」

 

 

ユミナとアルマが震えながらそう言うと、白帝と呼ばれた白虎がジロリとアルマを睨む。

 

 

『ほぉ……我を知っておるか…。そう言えばお前からは我と同じ獣の臭いがするな……』

 

「は、はい……。わた、わたし……」

 

 

アルマは優輝翔の袖を握りしめながら必死に何か言おうとするも、白虎が放つ威圧感により上手く言葉を発せないでいた。そんなアルマの代わりに優輝翔がアルマの言いたいであろう事を告げる。

 

 

「アルマは獣人の国出身だからな。そこではお前を神獣として崇めてたはずだぜ。」

 

『ほぉ…。我の眼力と魔力を前にして平然としている上に我をお前と愚弄するとは……面白い。』

 

「いや、話逸らすなよ。まぁいい。こっちは大事な女が怖がってんだ。さっさと契約しようぜ。」

 

『ふっ……我と契約とは…。随分と……舐められたものよな…。』

 

「そういう御託はいいから早くしろ。」

 

『ふむ……まぁよい。ならば我にお前の魔力を注ぎ込んでみろ。やり方は我に触れて魔力を流すだけだ。その魔力量と質を見て判断させてもらおう。ま、どうせ大したことはないだろうがな。』

 

 

白虎はそう言って頭を優輝翔に差し出す。その言葉に少しイラッとした優輝翔は恐怖からか自分に掴まっていた5人を離して白虎に近づくと、その頭に触れ魔力を流し込み始めた。

 

 

『!?……なんだ、この澄みきった純粋な魔力の質は……っ!』

 

 

白虎が驚愕の言葉を並べている間も優輝翔は休まず魔力を送り続ける。疲れなどはない。むしろ減った感じすら受けない。

 

魔力というものは使った分だけ普通は減っていくのを自覚できるとリンゼに聞いていたのだが、事実、優輝翔はその感覚を今まで味わったことはなかった。

 

 

(どうせならこいつで試すか。こいつ強いし……まぁ、なんかあってもさっきのこいつの態度が悪かったって理由でいいよな。)

 

 

少しイラついていた優輝翔は自分のお嫁さんを怯えさせた仕返しも兼ねて、最大パワー白虎に魔力を流し始める。その直後、白虎の表情が変わった。

 

 

『なっ、なんだ…。こ、この魔力量は……いったい……』

 

 

白虎の顔が歪み、足が震え始める。それでも魔力を送る優輝翔手が離れることはない。

 

 

『ぐっ…あぁ……もぅ……や…め……』

 

「おっ?ちょっとだけ減ってきたな。」

 

 

優輝翔がそう言ってパッと白虎から手を離す。すると白虎はたちまちその場に泡を吹きながら倒れ込んでしまった。

 

 

「……やりすぎたか。」

 

 

優輝翔が他人事みたいにそうボヤくと、後ろからアルマの震えるような声が聞こえてきた。

 

 

「優輝翔…さん…。その……白帝様は……」

 

「ん?ああ、大丈夫だ。それとアルマ、そんなに怖がらなくていい。白帝はお前にとっては神の遣いでそれは今後もそうかもしれないが、こいつはもう俺の召喚獣で、その点ではお前の方が立場は上だ。」

 

「ふぇっ、いっ、いえっ…。しょんなこと……」

 

「はぁ……」

 

 

優輝翔はアルマの反応に思わずため息を吐く。まぁしかし気持ちも分からなくないので、アルマにはまた別の時に別の方法で話をつけることにした。

 

 

「さて、じゃあとりあえずこの虎の回復でもするか。」

 

「あっ、それならもう私がしておきました。」

 

「えっ?」

 

 

リンゼの言葉にふと白虎の方を振り向くと、白虎はフラフラとした足取りだが、きっちり立って優輝翔の目の前に歩いてきていた。

 

 

『……ひとつ聞きたい。今のでどれくらいの魔力を消費したんだ?』

 

「……まぁ、ギリギリ感じ取れるくらい?と言ったところか。現にもうすっかり回復してるし。」

 

『!!』

 

 

優輝翔の衝撃発言に白虎が目を見開き顎をこれでもかと開いて絶句する。しかしものの数秒で復活すると、すぐさま地に這いつくばって口を開いた。

 

 

『……あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

 

「白鷺優輝翔だ。優輝翔が名前だから基本的にそっちで頼む。」

 

『白鷺優輝翔様。我が主にふさわしきお方とお見受けいたしました。どうか我と主従の契約をお願いいたします。』

 

 

白虎がそう言うと、優輝翔は腕を組んで白虎につける名前を考え始める。召喚獣との契約は基本的に名前をつけることで成立するのだ。

 

ちなみにユミナは銀狼のリーダーに『シルバ』と名付けている。他の4匹はシルバの手下だ。上位の魔物と契約すればそれ以下の下位の魔物は自由に呼び出せるので、白帝の場合、優輝翔は契約すれば獣系の魔物ほぼ全てを手中に収めることが出来る。

 

 

「…………こはく。漢字では………おっ、いいな。」

 

 

優輝翔はそう言って白虎に琥珀と言う名を意味も含めて言い渡す。

 

 

『王の横に立つ白き虎……まさに我にふさわしき名前。ありがとうございます。これからは琥珀とお呼び下さい。』

 

「ああ。」

 

『それと、主にひとつお願いが……』

 

「ん?なんだ?」

 

『我をこちら側の世界に存在し続けることをお許し頂きたいのです。通常、術師が我らを呼び出してその存在を保つには術師の魔力が必要なのです。それ故こちらに存在し続ければやがて術師の魔力が切れ我らは消える。しかし、主の魔力だけは先程から一切減っておりません。それならば、こちら側の世界に存在し続けていても問題ないかと愚考いたしまして……』

 

「なるほど……」

 

 

優輝翔はそこでまた少し腕を組んで思考を働かせる。存在し続けること自体は構わない。そこはいいのだ。現に優輝翔もミスミドに帰れば自分と離れ離れになってしまうアルマのことは気にかけていたので、琥珀のような存在をアルマの近くに護衛として置いておければ心強い。ただ……

 

 

「如何せんその姿のまま街中を彷徨かれるのもな……」

 

『ふむ……ならばこれならどうでしょう?』

 

 

そう言って琥珀はポンっと音を立てて白い煙に包まれると、一瞬のうちに可愛らしい白猫のような姿になった。それを見て優輝翔の後ろにいた女の子たちが騒ぎ出す。

 

 

「ちょっ、何あれ可愛くないっ?!」

 

「うんっ!すっごく可愛いと思う!」

 

「せ、拙者、触ってもいいでござるかな……」

 

「わ、私……もう手が疼いて……」

 

「うぅ……あれは白帝様……あれは白帝様……」

 

 

若干1名未だにオドオドしているのがいるが、他の4人は今にも飛びかかりそうな勢いである。

 

 

『ふむ……主殿。後ろの者たちは何者なのです?』

 

「ああ。そこの着物を着ている八重って子以外は俺の婚約者だ。もちろんそこの獣人の子もな。」

 

『あ、主の奥様方っ?!』

 

 

琥珀が驚いた顔でリンゼたちを見る。優輝翔はそんな琥珀を抱えると、アルマの目の前へと連れていった。

 

 

「あ……」

 

「琥珀。他のみんなもそうだけど、アルマとも仲良くしてやってくれよな。」

 

「へっ//あのっ…//」

 

 

優輝翔がそう言って琥珀をアルマの腕に抱かせながら自分もアルマを抱くような形でアルマを撫でると、アルマはかなり反応に困った形で頬を染めながら目を泳がせた。

 

 

『はいっ、もちろんです。アルマ殿、これからよろしくお願いします。』

 

「えっ?!//はは、はいっ//よ、よろしくお願いしましゅ…//」

 

 

アルマはまだ緊張感が解れないのか、詰まりながらそう返す。そんなアルマに優輝翔は軽く息を吐くも、まぁ仕方のないことだしなと思い、琥珀をリンゼたちの元へと連れていった……

 

 


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