異世界はスマートフォンとともに 改   作:Sayuki9284

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4話目です。この先話が進んでいくにつれて話の進行が遅いと思う方も多くなると思いますが、どうかゆったりと気長にお楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。


第4話 『銀月』

 

「いらっしゃーい。食事ですか?それとも泊まりで?」

 

 

『銀月』と書かれた看板のある建物の前に着き両開きの扉を開けて中に入ると、右手から若い女性の声が聞こえてきた。

 

優輝翔が振り向くと、カウンターからオレンジ色の髪をポニーテールにした若い(恐らく20前後くらい)女の人がこちらに向かって笑顔を見せていた。

 

 

「すみません、宿泊をお願いしたいのですが……」

 

「はーい。うちは1泊前払いで銅貨2枚ね。あ、食事は3食付いてるから。」

 

「銅貨…(…安いんだな。)」

 

 

知識として日本の平均的なホテル代を知っていた優輝翔は、内心で少し驚きながらポケットから銀貨を6枚取り出す。

 

 

「ではとりあえず1ヶ月分お願いできますか?お代はこれで。」

 

 

優輝翔はそう言ってカウンターの上に銀貨を置くと、お姉さんは少し嬉しそうな顔をしてそれを受け取った。

 

 

「はーい、ぴったりね。今銀貨切らしちゃってたから助かったぁ。ありがとう。」

 

「どういたしまして。お役に立てのならよかったです。」

 

「ふふっ。じゃあここに名前を書いてくれる?」

 

 

お姉さんはそう言って優輝翔に宿帳のようなものと羽根ペンを差し出した。

 

 

「あの、すみません…。実は俺、まだ文字の読みかけがほとんど出来なくて…、代筆をお願いできますか?」

 

「そうなの?そういうことならもちろんよ。名前は?」

 

「白鷺優輝翔です。」

 

「シラサギ?変わった名前ね。」

 

「……いえ、優輝翔が名前です。あと、出来れば優輝翔の方で呼んでもらえますか?」

 

「えっ?まぁいいけど…。」

 

 

優輝翔の言葉にお姉さんは疑問に思いながらも素直に了承する。深く突っ込んでこないのは優輝翔としてもかなりありがたかった。

 

 

「すみません、無理言って……」

 

「えっ?あ、ううん。大丈夫。あ、ちなみに私はミカよ。よろしくね。」

 

「はい、お世話になります。」

 

 

優輝翔の言葉にお姉さん、もといミカさんは笑顔を浮かべて宿帳に目を戻した。

 

 

「にしても名前と家名が逆って……優輝翔君ってもしかしてイーシェンの出身かしら?」

 

「イーシェン……ああ。」

 

 

優輝翔は最初イーシェンが分からなかったが、そう言えば神様に日本と似た国の話を少しだけ聞いたことを思い出し、首を縦に振った。

 

 

「そうですね。まぁただ少し特殊なので、そこに関してもツッコミはなしでお願いできますか?」

 

「そうなの?分かったわ。」

 

 

優輝翔の提案にミカさんは快く頷いた。そして宿帳を後ろの棚にしまうと、今度は引き出しのところからひとつの鍵を取り出して優輝翔に手渡す。

 

 

「はい。これが部屋の鍵ね。場所は3階の奥の1番陽当たりがいい部屋よ。トイレと浴場は1階、食事はここでね。あ、お昼はもう食べた?まだなら何か軽いもの作るけど……」

 

「なら、お願いします。ちょうど小腹が空いてて……」

 

「はーい。じゃあ何か軽いもの作るから、その間に部屋の確認でもしてきて。」

 

「わかりました。お願いします。」

 

 

優輝翔はそう言うと階段を上って与えられた部屋に入った。

 

部屋の中は非常にシンプルな作りで、ベッドとクローゼットに、机と椅子が置いてあるだけだった。

 

試しにベッドに寝転がってみる。感触はなかなかであった。枕に関して言えば、どうやら元の世界のものよりも数段いい物のように思えるほど柔らかく滑らかな肌触りなのだが、これがこの世界の普通なのだろうか?

 

 

「……下行くか。」

 

 

優輝翔はしばらく寝転がった後で、そう言って立ち上がり部屋を出た。

 

 

「あっ、来たきた。ちょうど出来たよ。」

 

 

優輝翔が下に降りると、ちょうどミカさんがテーブルの上に食事を並べてくれていた。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

優輝翔はお礼を言って食事の用意された席につく。メニューはシンプルにサンドイッチとサラダ、スープのようだ。

 

優輝翔はまずサンドイッチを手に取って一口齧る。たまごサンドだ。これはシンプルに卵の具合、料理した者の腕で味に違いも出やすいのだが……

 

 

「……美味い。」

 

 

優輝翔は素直にそう思った。なんと言うか、心休まる故郷の味と言った感じだ。まぁ、優輝翔に故郷(ソンナモノ)は存在しないが……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜

 

 

食事を終えた優輝翔はミカさんに一言ことわって町の様子を見に行った。優輝翔自身、初めて見る中世の(おそらくヨーロッパのあたりであろう)町並みに興味があったし、何よりこれからしばらくの間自分が過ごす予定のこの町をもう少し詳しく知っておこうと思ったのだ。

 

 

「やっぱり武器を持っている人は多いな。」

 

 

最初に口から出た言葉はそれだった。

 

優輝翔は予め神様にこの世界の一般的な稼ぎ方として、ギルドという場所で登録を済ませて依頼をこなす事で収入を得るということを聞いていたのだが、やはり魔物を狩る依頼なども多いのであろう。

 

そして優輝翔が自分の武器を何にしようか考えながら歩いていると、ふと近くの路地裏から複数人が争う声が聞こえてきた。しかも声を聞く限り幼い女の子も関わっているようだ。

 

 

「……行くか。」

 

 

優輝翔はそう呟くと静かに音の発生源へと歩いていった……

 

 

 


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