雨を願った少年   作:ギモアール

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ひたすらに白い、真っ白な世界、雲の草原で、僕らはまた会えたんだ!!これは奇跡なんかじゃない!!僕の、陽奈さんの想いが形になったんだ!!なら、俺、いうよ!!君に、陽奈さんに、俺の想いを、伝えるんだ!!この出会いは、狂った世界に生きる、僕らの 自由で、告白なんだ!


逢瀬、そして告白

「あれ、ここ…どこだ?

 

なんだか眩しくて、思わずそう呟いた。

目を開けると、そこには、ひたすらに真っ白しかなかった。

明らかにフェリーではない。

まだぼんやりとする頭でも、それははっきりとわかった。

というか、地面に足をつけている感覚すらないしね…しばらく考えてみても、ここがどこだかは一向に思い出せない。

だけど、どこか、見覚えがあった。それどころか懐かしさを感じる。

一度しか来たことないけれど、とても印象に残った場所のような、そんな気がする空間だ。というか、さっきまでフェリーの先端部にいたはずなのに、どうしてこんな場所にいるんだろう。

夢とかじゃない感じだし…ん?手の先にくすぐったい感覚がする。

なんだ?見てみると、そこには透明の魚がいた。

僕の手の周りを、まるで遊んでいるかのように、数匹が泳ぎ回っていた。

しばらく、それをぼんやりと見つめる。いや、これは…あ!

 

「あの時の、雨の魚……雨魚だ!

 

思わず、そう呼んだ。

いや、名前とかあるなんて知らないけれど、なんとなくそう呼んでしまった。

あの時の、雲の草原で泳ぎ回って、そして雨として降り注いでいたから、あながち間違ってはいないだろう。

ん、あの時…なんだっけ…は!!

 

「そうか!!ここって、もしかして!!

 

漸く頭がしっかりと周り始める。

そして、記憶が蘇り始める。そうだ、間違いない。

ここは…その時、突如魚達は、僕の足元の方へと移動し始めた。僕もそれを目で追った。

 

「あ、あれは!雲の、草原…うわぁぁ!!!

 

魚達が泳ぐその先、それは以前に見た、雲の草原だった。

少し僕のいる場所が高いからか、少し見えづらいなと考えていたら、突然僕の体が落下し始めた。

お腹のなんとも言えない浮遊感に、思わずみっともない叫び声を上げてしまう。

だけど、そんな僕に構うことなく、僕の体はどんどん落下してゆく…そして、

 

「と、止まった…のか…?なんか、へんな感じだな…これ…

 

草原の草がよく見えるところ、草原の上空5メートルほどで、僕の体は落下をやめた。

でもそれは止まっただけで、依然として僕の体は浮いたままだった…

底に足の届かないプールに浮いているような、そんな感じだ。

草原には沢山の雨魚がいて、草の間を泳ぎ回っている。

それをじっくりと見ていると、僕は漸く大事なことを思い出したんだ…

 

「あ、そうだ!陽菜さんだ!陽菜さんが、ここに居るんだ!!!

 

この草原…確か、陽菜さんはここに寝転んで、涙を流していた。

今その姿は見えないけれど、絶対に、絶対にここに居るはずなんだ。

いや、居る!!

感覚としか言いようがないけれど、絶対にここにいる!!

 

「いるんでしょ!陽菜さん!!俺だ、帆高だ!!約束通り、ちゃんと迎えに来たから!

だから、出てきてよ、陽菜さん!!俺と、一緒に帰るんだ!!陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!

 

僕は必死に声を張り上げ、草原の至る所に目を向けた。

だけど、陽菜さんの姿はどこにも見えなかった…

 

「くっ…声は、届いているはずなのに…返事を、俺に答えてくれよぉぉ!!陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!

 

声はひたすらに草原に響くだけで、一向に変化は訪れなかった…

 

「そんな……こんなことって……いや、まだだ!!俺は、まだ諦めない!諦めないから!!だから、返事をしろよ!!!陽菜ぁぁぁぁぁ!!!

 

もう、がむしゃらに、叫ぶ。

はっきり言って、これは怒りに近い。

いや、だってそりゃそうだろ!

偶然とはいえ、ここまで来れたんだ!

それなのに、顔の一つも見れないとかないだろ!

ここまでこっちは覚悟を見せてるんだから、せめてそっちも見せろという、妙な意地というか、なんというか…わからない。

でも、これが効果あったように感じる。

わからないけど、感じるんだ!!

そしたら急に、雨魚達がザワザワと動き始めた。

 

「は!!雨魚が、動いて……あれは!!

 

一斉に散らばってゆく雨魚の中に、一箇所だけ動かない群がいた。

僕はそこを凝視する。揺れ動く魚の中に、何かある、

いや、居るんだ!!陽菜さんが、そこに!!

 

「そこだ、そこに居るんだね、陽菜さん!!くっ、くそ!なんで近づけられないんだ!!

 

僕のイラつきは声となって出てゆく。

それでも、さっきまであんなにも落下していた体は、それ以上ビクともしない。

なんとか空を手でかいて近づこうとするけれど、一向に進む気配はなかった。

なら、陽菜さんに来てもらうしかない!!

 

「陽菜!!起きてよ!!ほら!俺ちゃんと来たから!!だから、ねぇ!起きてよ!!

 

どうして起きてと言ったのか、自分でもわからない。

ただ、陽菜さんがそこに居ることしかわからなかった…

 

「お願いだから、陽菜さん!!!うう、ううううう…

 

僕の目から、雫が溢れ始める。

ここまできて、ここまで来たのに…思いに耐えられず、僕はそれを流し始めてしまった…

幾多滴もの溢れた思いは、真っ直ぐに落ちて、雨魚に当たる。

すると、当たった部分の雨魚が消えて、内側が見えた。

いや、消えたんじゃない。

変わったんだ!僕の思いが、変えたんだ!!だってそこには、

安らかに眠ったままの表情の、陽菜さんがいたんだ…

 

「陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!

 

僕は全力で叫ぶ、呼ぶ、求める。

だけど、陽菜さんは一向に目覚める気配はなかった…

 

「陽菜さん!!俺だ!!君を迎えに来たんだ!!遅くなったけど、それでもここまでなんとかやってきたんだ!!だから!起きてよぉぉ!!陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!

 

 

必死に、泣きじゃくりながらも、声を張り上げて、言葉を綴り続ける。

だけど、それでも状況は変わらなかった。

すると、急に寒気がした。

体がぶるっと震える。とてつもなく、嫌な予感がする。

 

 

「陽菜さん!!!いい加減起きてよ!!俺は、あ、そ、そんな、ま、待ってよ!まだ、俺は…

 

徐々に、徐々にだが、僕の体が上昇し始めた。

必死で手をかくが、変わらない。

高度がどんどん上がってゆく。

おそらく、時間なのだろう…分かりたくなくても、わかってしまう…

 

「…こんな、こんなことって、ないよ…うう、ううう、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

もう、耐えられなかった。

僕の感情や、考えや、理性とかが、めちゃくちゃになる。

そんな、めちゃくちゃなまま、めちゃくちゃをめちゃくちゃにする。

 

「陽菜ぁぁぁ!!!お前どんだけ寝てるんだよぉ!!俺なんかここまでくるのにどんだけ苦労したかと思ってんだ!!知らないだろ!!別れた直後の俺は無気力人間になりかけてたからあのリーゼントクソ野郎に精神科医呼ばれてわけわかんない話聞かされるわ手錠は二重にされるはトイレは一人でいかせてもらえないわで大変だったんだぞ!!島に戻ってからも周りの人は変な目で見てくる上に喋りかけてこないとかで有名人になったって勘違いして俺超馬鹿にされたんだぞ!!おまけに親友にはどこまでいったかとかキスしたのかとか言われたし、陽菜が年下で中学生だって言ったらロリコンだとか言われたし!!授業とか放課後とかご飯中とかずっとお前のこと考えててぼうっとしてたし!!親は前より無関心になったから俺修学旅行の小遣いすら貰えなくて今財布に1260円しか入ってないんだぞ!!!今時の小学生より少ないんだぞ!!というかもう!!全部が全部陽菜のせいだ!!!!ハァ、ハァ、ハァ、

 

 

何、言ってんだろ、俺…自分で言ってて、自分でわからない。

だけど、言わなきゃ、気が済まない。

だからこの際だ!全部言ってしまおう!!

 

「ていうか一年経ったのにお前成長しなさすぎだろ!俺なんか身長三センチも伸びたんだぜ!!なのに陽菜は全く変わってないじゃないか!いろんなところが貧相なままじゃん!!大体今考えたらお前ぜんっぜん18歳なんかに見えないし!!島に戻ってからクラスの女子とか見たら全然お前より発育いいし!!つか陽菜胸なさすぎだし!!いくら今中学生でも将来の伸びしろなさすぎだろ!!一度中学生の頃の夏美さんの写真アルバムで見たけど明らかにお前よりデカかったし!ていうか実質平均値下回ってるだろ!!そんな体じゃ、風俗どころか、今時の小学生にも負けてんだよ!俺しか愛してくれるやついないんだよ!というか俺だけが愛してるんだよこの貧乳背伸び馬鹿がぁぁ!!!

 

 

荒く、息をつく。

言い切った、言い残すことはない。

僕は力なく、ただ浮き上がっていた。

全力だ、全力なんだ、

これが、僕、森嶋帆高の、全てなんだ…

結局、綺麗な別れとは全然言えないものになってしまった。

こういうの、アニメとか映画ならもっと綺麗なんだろうな。

でもまぁ、後悔はない。スッキリした。

ただそれだけだ。だけど、悪くない。

そうだ、最後にもう一度だけ、陽菜さんを見よう。

今度は笑おう。笑って、笑顔で、陽菜さんを見よう。

晴れやかな笑みを浮かべ、僕は陽菜さんを見つめた。

陽菜さんは、真っ直ぐに僕を見つめていた………

 

 

…あれ?……え、ちょっと、ちょっとまって…

 

僕は目をゴシゴシこすってから、もう一度見る。…………陽菜さんは、真っ直ぐに僕を見ていた……え、えええ、えええええ、ま、まままま、待って!!え、えええ!!!!

僕はすぐさま叫ぶようにして、陽菜さんの名前を呼ぶ。

 

「陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!

 

「……帆高……

 

陽菜さんは、はっきりと口を動かし、僕の名前を呼んだ。

優しい、慈愛に満ちた笑顔を浮かべながら…ああ、よかった…僕は、本当に嬉しかった…こんなに嬉しいのは、多分、いや、間違いなく今後の人生においても最たるものに違いない!!!

ただ、ただ感謝した。

世の中って、世界って、理不尽ばかりじゃないんだ!!

僕はひたすらに、喜びに震えていた。

 

「陽菜さん、俺、ほんとに、ほんとに、ほんとに、うう、ううう、うううううううう…

 

「帆高……

 

嬉しさとか喜びとか、ともかく泣きじゃくって話せない僕に、陽菜さんは一瞬目を瞑って、そして、

 

「この変態むっつりすけべ帆高ぁぁぁぁぁ!!!!!!

僕の感情を、吹き飛ばした………

 

「………え?

 

……頭が、動かない……整理が、追いつかない……

もし僕がパソコンなら、真っ暗な画面の真ん中に、なんか丸っこいマークがぐるぐるしているに違いない。

あれ、あれ、今の、陽菜さん、誰に向かって言ったんだろう。

いや、僕しか他にいないし、第1僕の名前呼んでたし…つか、あれ、ガチで怒ってない?いや、陽菜さん怒らせるようなこと僕……言ったね、はっきり言っちゃったね、だって今僕スッキリしてるし、うん、

混乱している僕をよそに、陽菜さんは顔を真っ赤に、いや、これは照れとかではなく、間違いなく怒りのそれで、口をキュッと閉じて、続ける。

 

「全部が全部私のせいとかって、無茶言わないでよ!!100歩譲って私が居なくなった寂しさで取り調べ云々とか集中できない云々はそうだとしても、後半の私のむ、む、むむむむね、むね、とか関係ないじゃない!!この変態!!むっつり!!マジキモい!!最低!!論外!!というか他の女をそんな目で見るとか帆高変態すぎ!!ありえない!!せ、せめてそういう目で見るのは私だけにしなさい!!それと私だって好きで成長しなかった訳じゃないわよ!!第一こんな風になったのって君のせいじゃない!いきなり商売なんかにして!何が天気を売ろうよ!何が晴れにできるんですよねよ!確かに3:7が美味しくて飛びついちゃった私も悪いけど元はと言えば君のせいじゃない!!というか君もたった三センチしか伸びてないじゃん!!あと色んなとこが貧相とか言うけど今時中学女子は所詮こんなもんよ!知ったかぶらないで!!地元の子も帆高の願望とか欲望とかが勝手に付け足して見えていただけよ!!あと食べるものも結構苦労してたんだからね!!それでもこんだけ育っただけ十分ってものなの!あと君も十分鼻の下伸ばしてたじゃない!!それと夏美さんなんていう化け物と貧乏中学生たる私を比べないでくれます!!あんなのインチキなのよ!!神の偏愛なのよ!差別なのよ!!あと私中学の時普通にモテたし!彼氏くらいいつでも作れたし!だから君だけがあ、あ、愛してくれるとか、そんな訳ないんだからね!特売品みたいなもんなんだから!でも君が初めてウチに呼んだ男子だったんだからね!か、感謝しなさいよ!!というかやっぱり帆高最低!!!変態!!奥手むっつり!!

 

散々に僕をこき下ろし、陽菜さんは荒くいきをはいている。

僕はただ呆然と、全てを、陽菜さんを受け入れた。

恐らく、陽奈さんも僕を受け入れたのだろう。お互いに、吐き出すものを吐き出したんだ。

だって、陽菜さん、スッキリした顔をしているし。

おそらく僕もそんな顔なのだろう。

そして、落ち着いたところで、僕らはお互いに見つめ合っていた。

なんだかそれが、恥ずかしくて、気まずくて、このままじゃいけないしがして…そうだ、こんな時こそ、言わなくちゃならない、あの言葉…

 

「陽菜さん!

 

「帆高!!

 

「「あ…ふふ。

 

僕らは、またも重なってしまい、互いに笑いあった。

 

「帆高、君が先でいいよ。

 

「え、あ、陽菜さんこそ先で……いや、違う、違うよ!

 

「帆高?

 

力強く言った僕に、陽菜さんは少し困惑気な表情を向ける。

そうじゃないんだ。それではダメなんだ、だから!

 

「陽菜さん、一緒に言おうよ!!その方が、きっといいよ!いや、そうに決まってる!!

 

「……うん!

 

最初陽菜さんは目を丸くしていたけれど、それでもわかってくれた。

あとはタイミングだけ。でも、俺、なんだか、分かる気がする。

いや、わかる!なら、口に出すだけだ!

 

「陽菜さん!!

 

「帆高!!!

 

「「ごめんなさい!!!!……くく、くくく、あははははははははは!!!!!!

 

二人とも全く同じ速さとタイミングで、言い終わった。そして、同時に笑い出したんだ!まるで噴火活動を始めた火山のように笑いは止まらず、しばらく僕らは笑いあっていた…

 

「ふふ、ふふふふ、ちょっと、ふふふ、帆高、ふふ、笑いすぎよ!!ふふ、全然謝罪の、ふふ、意図が見えないんだけど!!ふふふふ。

 

「くく、ひ、陽菜さんだって、くくく、笑ってるじゃないですか!!くく、全然人のこと、くくくく、言えてないですよ!くくく

 

「もーうるさい!!!ふふふ、あ、忘れかけてたけど君ほんと変態過ぎ!最低!!あとむっつりすけべ!!

 

「え、ちょ、今思い出さなくてもいいでしょ!!てゆうか、陽菜さんだって俺のこと騙してたじゃないですか!俺だって落ち着いてたら気づいてますよ絶対!!

 

「でも君いま私に対して敬語使ってるしー

 

「ぐっ……そ、それは、その、あの…

 

「ふふ、君、相変わらず真面目だにぃ〜

 

「ううう〜悪かったな!!!真面目で!!

 

「ふふ、違う違う。それが君のいいところなんだよ、帆高。

 

「っ!……あ、ありがとう、ございます……

 

「どういたしまして。ふふ

 

ちょっとだけ照れている僕とにこやかに笑っている陽菜さん……やっぱ、陽菜さんの方が年上感でてるな…これは…ま、いいや。僕らは晴れやかに、笑い合う。

そして、漸く僕はまたも忘れていた本来の目的を、思い出したんだ…

 

「は!!!そうだ、陽菜さん!!一緒に帰ろう!俺、そのためにここに来たんだ!!君を!連れ帰るために!!

 

「え、ええ!!ちょ、ちょっと!い、いきなりすぎるよ!!それに、私が戻ったら、また天気が狂って

 

陽菜さんは驚き、少し悲しげな表情を浮かべている。…まだ、気にしているんだ。自分の責任を、役割を。

そして、囚われているんだ…

そんなことって、そんなことって!僕の体の中に、湧き出るものを感じる。

これを、押し出して、壊さないと!陽菜さんの、鎖を!そうじゃないと、陽菜さんを救えない…救えないんだ!!

僕は陽菜さんの話を遮って、言葉を放つ!!

 

「もういいんだよ!!そんなことはさ!

 

「ほ、帆高?

 

「世界の為とかさ、誰かの為とかさ、なんで陽菜さんだけが背負わなくちゃならないんだよ!!なんでみんなは素知らぬ顔で生きてくんだよ!!なんで僕らの自由を、未来を、幸せを否定するんだよ!!こんなのっておかしいよ!理不尽だよ!!

 

「でも、私はそういう力を得てしまったから、世界の形を変えてしまったから

 

「それがなんなんだよ!!世界なんて、元から狂ってるんだよ!!!

 

「っ!!

 

驚いた表情の陽菜さん。

僕は、ぐしゃぐしゃだけど、優しい笑顔で、陽菜さんに語りかける。

 

 

「俺、どんな素晴らしい天気とか、安定した気候とか、そんなもの欲しくない!!ただ、陽菜がいい。陽菜が欲しい!!陽菜さんが、隣にいてくれる、一緒に居てくれる、そんな世界が、明日が、未来が欲しいんだ!!

 

「帆高……

 

「だから、もう、十分だよ…十分だからさ…正直になろうよ!!誰かの為とか世界の為とか、もういいんだよ!!僕らは、自由なんだ…自由に生きていけるから!!答えてよ!!陽菜さぁぁんん!!

 

陽菜さんは泣いていた。泣きながらも、笑って、笑顔で…

 

「私も、私も!帆高と居たい!!こんなところで一人ぼっちはもう嫌!!もう疲れた!!こんな力欲しくない!いらない!!ただ君と、帆高と一緒に生きていく未来が欲しい!!

 

「陽菜さん…

 

泣きながら、誰が見てもぐしゃぐしゃな顔で、満面の笑みを、陽菜さんは浮かべている…

 

「だから、私を連れてってよ!!救い出してよ!!帆高ぁぁぁ!!!

 

ふふ、思わず笑ってしまった。あんなに自分に素直で、正直な陽菜さんを、僕は初めて見た。いつものおねいさんぶったりしたものや、歳上ぶりなものでなく、ただ純粋に、陽菜さんだった…よし!なら僕は力強く応えるだけだ!!

 

「わかった!今行くよ!!すぐに君を捕まえてみせる!!連れ帰ってみせる!

 

「うん!!早く来て!!帆高!!

 

陽菜さんは顔を赤らめて、笑っている。今頃、照れてるのだろう。

ふふ、可愛い。っと、今はそんな場合じゃない!気合いを入れないと。

目を瞑り、大きく息をすう。よし、行くぞ!!

 

「うぉぉぉぉ!!!!陽菜ぁぁーー!!!

 

ひたすらに手を、足を、体を、動かす。宙をかいてはいるけど、僕にはわかる、進んでる、近づいてるんだ!!

 

「…………帆高、何してるの?

 

陽菜さんの冷静な声が聞こえてきた。

それは間違いなく期待に満ちたり、喜びのものでなく、落胆というか、いや、何してんのって感じなそれで、僕は思わず言い返した。

 

「ハァ、ハァ、はぁぁ!?何って、ハァ、近づいてるじゃんか!ハァ、ハァ、俺ハァ、陽菜さんにハァ、ハァ、

 

「え、全然近づいてないよ。というより、逆に離れていってない?帆高の体。

 

「え、ええ!!嘘だろ!!

 

僕は目を見開く。さっきと全くもって、陽菜さんとの距離は近づいてなかった、というより、徐々に遠くなってる…

 

「ちょ、ちょっと帆高!?どうなってるのよ!!

 

「仕方ないだろ!!多分、タイムリミット的なやつなんだ。俺にはどうしようもない!

 

「そ、そんなぁ!!

 

「だから言ったじゃん!!陽菜さん、寝すぎなんだよ!!

 

「そんなこと言われても無理よ!!というか、帆高こそ迎えに来るの遅すぎでしょ!!

 

「無茶言うなよ!!俺今保護観察処分中で、

 

「どうせ他の女に目移りしてたからこんなにも遅くなったんでしょ!この変態!!

 

「ちげぇよ!!大体俺、陽菜のことしか!!、っ!

 

そんなやり取りをしている間も、僕の体は上昇を続け、もうビルの5階ほどの高さにまで上がっている。時間切れだ…くそ!!

陽菜さんがもう少し早く、起きてくれさえいたら!!

いや、そんなことを今更言っても仕方がない。ともかく、なんとかしなきゃ!!必死に手をかきながら、叫ぶ。

 

「くそ!とにかく時間がない!!だから、陽菜、ここまで飛んできて!!早く!!

 

「え、ええ!む、無理だよ!!だって帆高、もうそんなにも高いところにいるじゃん!ジャンプくらいじゃ

 

「いいから飛べよ!!俺を信じてよ!陽菜ぁぁぁぁ!!!!

 

「っ!うん!!!きゃ!!

 

「陽菜さん!!くそ!!

 

走り込み、勢いよくジャンプしようとする陽菜さんを遮るかのように、雨魚の群れが陽菜さんを覆い隠した。

なんとか顔だけは見えているけれど、それも時間の問題だろう。

 

「くそ!!!陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!

 

「帆高ぁぁぁ!!!嫌だよ!私達、漸く会えたのに!また、別れるなんて、うう、ううう、いやだよ!!ううう、ううう…

 

「陽菜さん……

 

陽菜さんは、泣いていた。顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、僕に向かって必死で手を伸ばしている。

何か、何か言わないと、助けてあげないと…くそ!!どうしてだろう、こんな時に限って思いが言葉に乗らない!!言葉が何も出てこない!いや、それどころか何を言ってもダメな気がしてならないんだ!!くそ!僕は何もできないのか!!陽菜さんの涙をとめてあげる、ただそれだけなのに!!

………は!そうだ!!これだ、これならいける!!僕はポケットに手を突っ込んで、それを取り出した。

 

「陽菜さぁぁぁぁんんんん!!!!これを、これを受け取って!!

 

「え、それって、あの時の指輪!?ごめんね、帆高、私、ダメなの!持てなくて、すり抜けて落ちちゃうの。だから!

 

「そんなもん知るかぁぁーー!!!

 

「え、ええ!?ほ、帆高ぁ?

 

急な怒鳴り声に、陽菜さんは困惑の表情だ。いや、気にしている場合じゃない。

今はただぶつけよう。僕の想いを、熱意を!!

 

 

「いいから受け取ってよ!!!そんなこともう関係ないんだ!これは、この指輪は、俺の想いなんだ!!

 

「お、想い???

 

陽菜さんは小首を傾げているが、構ってられない。想いを、気持ちを、感情を、形にするんだ!吐き出すんだ!!行け!!俺!!

 

「陽菜ぁぁ!!俺は、陽菜のことが、大好きだぁぁ!!!

 

「え、ええええ!!!ほ、ほほほ、ほほほ帆高ぁぁ!!こ、こんな時に、何言ってるのよぉぉ!!!!

 

陽菜さんは顔を真っ赤にしている。両手で顔を覆っているが、バレバレだ。ああ、やっぱ陽菜さん可愛い……って!そんなこと思ってる場合じゃないだろ僕!!!頭を振って、気合いを入れ直し、続ける。

 

「こんな時だからこそだよ!!俺、本気だから!!本気で、君のことが好きなんだ!!陽菜さん!!!だから、これを受け取って!!俺の想いを、気持ちを、受け入れてよ!!陽菜ぁぁぁ!!!!!

 

「帆高……え、ちょっと!!

 

何の躊躇もなく、指輪を、僕の想いを、気持ちを、陽菜さんめがけて投げつけた。

 

「ええ!あああーなんでいきなり投げるかな!!ああ、ああああっとと!

 

陽菜さんは驚き焦りながらも、両手を掬うような形にして、指輪が陽菜さんの手に入った時にパタンと、本を閉じるような動作で手を閉じた。恐る恐る開いたそこには、

 

「「あった!!!

 

僕が三時間も悩み抜いた末に選んだ指輪、僕の告白が、そこにきちんと存在していた。今回はすり抜けず、落ちなかった。

てことは、僕の想いを、陽菜さんはしっかりと受け止めてくれたんだ。

それが、嬉しかった!!!ただ、そうとしか言えない、いやそれ以外ない!!

ともかく、ふぅと、ホッと息をつく。

やりきった感じがする。

久しぶり、いや、初めてかもしれない。ここまで、清々しさを感じたのは…

なんだか、また泣きそうになる。

だけどまだ、陽菜さんを助けてない。

だから、まだ泣いてはダメだ。

涙を飲み込んで、笑顔で。少し溢れているけど、それは勘弁してもらおう。

必死で、ぐしゃぐしゃな笑顔で、陽菜さんを見る。陽菜さんも、泣きながらも笑顔だった。僕の視線に気づいたのか、目をしっかりと開けて、僕を見つめてくる。

手にはまっている指輪が、輝いている。僕は、ただ待った。陽菜さんの言葉を、返事を…

 

「私も、私も帆高のことが好き!!!大好き!!いつまでたっても、どんなことがあっても、君を、帆高を愛してる!!!だから、待ってるね。君が迎えに来てくれるのを!!帆高ぁぁぁ!!!

 

陽菜さんの叫びが、全力が、想いが、まるで僕を貫くかのように放たれた。

そうだ、これではっきりとわかったんだ!僕らは、互いに惹かれていたんだ!繋がっていたんだ!もう大丈夫だ!絶対に、絶対に僕は、陽奈さんを見つけられる!見失わないんだ!!だから、満足気に、愛おしく、名前を呼んだ…

 

「陽菜さん…俺もだ、俺も、え、う、うわぁぁぁ!!!

 

「帆高ぁぁ!?

 

突如、僕の体は回転し始める。まるで空中でバク転を披露するサーカス団員のように、回り続けた。

必死で手をかく、だが相変わらず効果はなかった。止まらない、いや、止まりそうにない。

同時に、高度もかなり上がって行く。

ここへ来た時と逆で、空の上へと落下していくようだった…くそ!!どうしようもない、なら…なんとか頭を働かせ、陽菜さんに伝えなければならない言葉を伝える。

 

「陽菜さん!!!俺、必ず君を迎えに行くから!!今日だ、絶対に今日中には、もう一度ここに来て、君を救い出す!!だから、それまで、自分を捉えてて!捕まえていて!流さないでいて!!絶対、絶対だから!!!

 

「ええ!も、もう一回も!?そ、そんなこと、できるの…?

 

「できるよ!俺なら!だから、絶対待っててよ!うわぁぁ!!

 

「帆高…

 

段々と、回転が早くなって行く。

もう、この時間は、この逢瀬は、終わる…でも、僕は後悔してない。

全部言い切って、約束もしたんだ!!なら、もう…

 

「ほぉぉぉだかぁぁあ!!!!

 

「うわ!な、なに!!??

 

陽菜さんが突然叫ぶ。ど、どうしたんだろう…なんとか陽奈さんの方を見ようとはするけど、体自体が回転しているからなかなか見えない。

一緒だけ見えたけど、何か首元をさすっていたような…

 

「帆高!!これ、帆高のこと大好きっていう私の想い!!もっともっと、ずっと!!一緒に居たいっていう、私の願い!!それを受け取って!!!

 

「え、ええ!!

 

僕は驚いた。微かに目に入った陽菜さんは、なにかを握りしめて、僕に投げつけようとしている。え、い、今ぁ!?

 

「ま、まさか、ちょ、今無理ですよ!、俺、めちゃくちゃ回転してるんですから!!

 

「それくらいなんとかしなさい!!

 

「む、無茶言わないで下さいよ!か、回転止まんないんですから!わぁぁ!!

 

「いいからいくよ、帆高!!私の想い、ちゃんと受け止めてよね!!

 

「わ、わかったよ!!!なら、タイミングぐらいは、ちゃんと

 

「帆高ぁぁぁ!!!愛してるんだからぁぁぁ!!!

 

「ひ、陽菜さん……

 

全力の声が、愛が、僕に届いた。僕は感激に打ち拉がれる…ん、まてよ、まさか、もう投げた!?ヤバイ!!だけど、強い風にさらされてるから、目開けられない!!

 

「帆高ぁぁぁ!!!右!右だから!

 

「え!み、右って言ったって…

 

「帆高は私を受け止められないって言うの!!!

 

「そんなことねぇよ!!!!

 

「なら、受け止めなさいよ!!!今よ!!掴んで!!!

 

「はい!!!!!っく、らぁぁぁ!!

 

陽菜さんの声と同時に、がむしゃらに掴む。すると

 

「掴めた!!

 

手の中に、何かの感触がある。とても暖かい、そしてなんだか元気か出てくる。

これは、陽菜さんの想いだ!!す、凄い、人の想いって、こんなにも優しくて、元気をもらえるものなんだ…これって、まるで…

 

「うわぁぁ!!

 

そこまで考えた時、僕の体は吹っ飛ばされた!とても高い、雲の上へと…

 

「……帆高ぁぁぁ!!!……

 

「陽菜ぁぁぁ!!!!!必ず迎えに、来るからなぁぁーー!!

 

うっすらと、陽菜さんの声が聞こえた。応えた声が届いたか分からない…でも、届いたと思う、いや届いたさ!僕らはもう、繋がってるんだから!!

 

フォォォォーーンンン!!!!!!

 

「え!あれは…っ!

 

足元から轟音が響いてきた。見てみると、白い何かが、僕に迫ってきていた。あれは、

 

「雲の、龍!?

 

白い何かは、あのフェリーでみた雲の龍だった。それが、大口を開けて迫ってくる。僕を、飲み込むつもりだ、つまり、終わりということだ……

 

「う、うわぁぁぁ!!

 

情けなく叫びながら、僕は飲み込まれた……

思わず目を瞑ったけど、体に何かがあたる感じがして、目を開けた。僕を取り囲む、いや、通り過ぎるように、雨魚がものすごい勢いで過ぎて行く。

 

「雨魚…!?てことは、これ、全部がそういうことなのか!?

 

そう、龍の正体は、雨魚の大群だった。…たしか、中学の理科で、こんな話を聞いたことがある。小魚は外敵を脅かすために、群れを作って大型魚に見えるように動くって。そういうことかもしれない。わからないけれど。

 

「くっ!!

 

目の前が段々明るくなり始めた。いや、太陽の光?わからないけど、とてつもなく眩しい。どんどん周りが白んでゆく。思わず目を閉じる。そのまま、僕までも光に飲まれるような感覚がして、意識さえも、消えていった……

 

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