違う!シンビオートが勝手に!   作:ゴランド

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間に合ったな。
……えっ、投稿が遅れてるだって? 投稿が遅れたかどうかは俺が決める事にするよ(サム8語録)

今までと比べてサブタイが変わるよ。


33話 摩天楼を駆ける

 

 世界総人口の殆どが個性と言う特異体質を有する現代。己が象徴でもあるその力(個性)を使う事を法に縛られる事によって表面上の平和を保つこの社会。

今の今まで抑圧され続け奥底に秘めていた衝動を爆発させた者を(ヴィラン)と呼ぶ。

 

 

……それならば、虐げられた者達から産み落とされた人は?

敵への憎しみで動く者は?

 

 

今宵もまた摩天楼の影で黒猫が鳴く─────

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

CLANG!! CLANG!! CLANG!!

 

 

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

 グシャア!とすぐ側にあった自動車が破壊される。圧倒的なパワーで目に映る物全てを破壊するその巨体はまさしく化け物。

そこに燻銀の頑丈なアーマーを纏っている姿は鬼に金棒、獅子にヒレと言い表すのが妥当であろう。

そんな敵を相手警察官等は銃撃で応戦する。

 

「パワー型個性相手に銃弾は効きにくい!足止めで程度でも構わん、とにかく発砲でヤツの動きを止めるんだ!」

「なんとしても奴を食い止めろォォ!」

 

「ハッ、効かないなァ!」

 

 しかし銃弾はアーマーはおろか生身の部分に直撃しても、頑丈な皮膚によって大したダメージにならない。

 

「くそっ、こんなの相手にどうやって…「皆、そこを退け!」ッ!?」

 

 警察等の後方より()()()が超スピードで接近して来た。飛んできた火球が敵の顔面に直撃すると、その中から人型の炎が……いや、炎を纏った人が現れた。

 

燃義(ねんぎ)・必殺」

 

 その人物が己の両手に集約させた炎を撹拌(かくはん)。指向性を持たせ、一気に放出する!

 

焼爆砲(しょうばくほう)ッ!!」

「うおおおおおおおおおお!?」

 

 放たれた火炎が灰色の巨体を飲み込む。

近くの者達はその光景に圧倒され、避難していた住人の一部はおおっ!も声を上げる。

 

「火球ヒーロー『イグニッション』!その最高火力はエンデヴァーに匹敵すると言われてる!」

「正確には最高火力程度で()()()エンデヴァーに匹敵だけどな!ここは俺"達'に任せてくれ!」

 

 炎を止め、現場に駆け付けたヒーローであるイグニッションは目の前で煙を上げている敵の側に近寄る。

 

「ハァァ……、効かないなァ!」

「嘘だろオイ、全身全霊の技を真正面からだぞ⁉︎」

 

 が、しかし先程の必殺技の効果が無かったのかピンピンとした敵の様子に驚愕。それをみた敵はニタリと不適な笑みを浮かべ挑発を込めた言葉を発する。

 

「お前の事は知ってるぞ、エンデヴァーの下位互換だろ。逃げ足だけが取り柄の火達磨(だるま)野郎」

「ハッ、そっくりそのまま言葉を返してやるぜ。頑丈でパワーもあるがそりゃお前オールマイトの下位互換だろ……あ、いや取り消すぜ。御頭(オツム)の悪さだけはオールマイトよりも遥かに上だったな!」

 

 瞬間、ブチッと何かが切れるような音が響くと同時に灰色の敵が雄叫びを上げる。

 

「テメェ、テメェ、テメェッッ!!このライノ様を馬鹿にしやがったなッ!ミンチにしてやる!」

「なら捕まえてみるんだな……鬼ごっこ開始FIRE・ON!」

 

 炎に包まれたイグニッションは宙を舞い、ビルの合間を駆け抜ける。それに釣られるように燻銀に輝くアーマーを纏うライノは挑発に乗せられ追いかける。

 

「逃げる気かテメェ!」

「見りゃ分からないのか?テメェをおちょくってるんだよ!」

「ふざけやがって……ぶっ殺してやる!」

 

 次の瞬間、ライノのアーマーの一部が剥がれるとそこから鉄の管のようなモノがイグニッションに向かって放たれる。小型ではあるものの、それはまさしくミサイルだ。

 

ZOOOOOOOOM!!

 

「ミサイルだと⁉︎街中で何てモノを!」

 

 その場に留まると戦闘機に搭載されたフレアのように小型サイズの火炎弾をばら撒き複数のミサイルを撃墜する。

 

「素晴らしい。バエル…爆発こそアグニカ…!」

「おい馬鹿!インスタ目的で前に出るんじゃ───ッ!?」

 

 避難していない住民の存在に気を取られたイグニッションは幾つかのミサイルを墜し漏らしてしまう。

その空飛ぶ爆弾は逃げ遅れてしまった一般市民に向かって突き進んで行き

 

「あぶ───

 

ガガン!!

 

 現れた何者かによってミサイルは人の居ない方向へ吹き飛ばされ、爆発した。

 

「意外と使えるもんだねマンホール。……で、悪いけどさ動物園に帰るならヒーローに保護してもらったほうがいいよ」

「誰だッ!俺様を畜生扱いしやがるヤツは!!」

 

 その者がマンホールを指先でクルクルと回すと、まるで円盤投げのようにライノに向かって投擲。

そのまま顔面にマンホールを打ち付け、敵はその場で悶え苦しむ。

 

「ぐ、おおおおお!?」

 

「名乗りが遅れたけど、うーん……貴方の親愛なる隣人『V(ヴァミリオン)スパイダー』ってところかな?」

《決め台詞頂きました、SNSにアップしますか?》

「いや、遠慮しとくよ」

 

 スーツから響く声に少し呆れた様子でVスパイダーと名乗る"赤糸虫知朱"は拒否の意を見せた。

 

「ここは危険なので早く避難を」

「先の活躍見事だったよ、君に3000アグニカポイントを移譲しよう」

「悪いけどそれクーリングオフ出来る?そんな事よりも早く避難して貰えるとボクは嬉しいよ」

 

 何故か偉そうにしている男性は「フ…」と笑みを浮かべる。

 

「見事だよ少年。健闘を祈る」

「へ?いやボク───」

 

「中々やるじゃねぇかスパイダー坊主。このまま頼むぜ!FIREッ!!」

「いやだからボクは───」

 

「このクモ野郎!このライノ様をコケにしやがって、ぜってぇ許さねぇからな!」

「………」

 

 何度も遮られる己の台詞と訂正する事が出来なかった事実。そんな男と認識されている彼女はポツリと呟く。

 

「ボク……女なのに……」

知朱(チズ)、このコスチュームにはバスト調節機能がありますが……胸盛りますか?》

「そっ、それはいいよMJ!」

 

 ヒーローネーム "ヴァミリオンスパイダー"。彼女の友人が作ったスーツはAI(人工知能)が搭載された稀に見るモノだった。製作者の発目明が搭載したシステム、名前をMessage(メッセージ)Jester(ジェスター)。縮めてMJと赤糸虫は呼んでいる。

 

「〜〜〜クソがッ!……チッ、相手なんかしていられるか!」

「何処に行きやがる!?追いかけるぞ!」

「わ、分かりました!MJ、敵の位置登録(マーカーポイント)を固定!」

《了解しました。追跡モードを起動しますか?》

「それもお願い!」

 

 突如として別の方角へと走り始めるライノとそれを追いかけるイグニッション、Vスパイダー。

イグニッションが炎で、Vスパイダーは糸によって進路妨害を行うが、パワー共に耐久力もある相手には相性が悪いのか全て無理矢理突破されてしまう。

 

どうするか、と赤糸虫が考えていると突如としてMJの音声が響く。

 

《追加報告、シルバーから連絡が入ってます》

「繋げて」

『こちらCode:シルバー。Vスパイダー、そちらはどうなっている?』

「すみませんシルバー。現在逃走中のライノをイグニッションと共に追ってる所です!」

『よし分かった、引き続きそちらは追跡を頼む。あとイグニッションにポイントはD-26に誘い込めと伝えておけ、健闘祈る』

「分かりました……イグニッション!誘導ポイントD-26に誘い込むと言ってました!」

「よし、着いて来な坊主!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 所は変わってライノ到着予定ポイント。そこに銀髪の女性と共に黒の巨体を持つ2人の姿があった。プロヒーロー『ギャング・オルカ』とそのサイドキックの1人である『シルバー・マルテース』だ。

 

「シャチョー、どうやら相手はこちらに向かって来てるようです」

「報告ご苦労。指定ポイントで待機していろ」

「了解しました」

 

 そう一言言うとシルバーはワイヤーガンを巧みに使いビルの屋上へと飛んで行く。直後、街道の角から目的のヴィランであるライノの姿が現れる。

 

(ヴィラン)が…牢に入らなければ分からないようだなッ!」

 

「うおおおおおっ!?ギャング・オルカだ!」

「生っべぇ!迫力まじっべぇ!」

「写メッ!写メ取らないきゃ…ッ!すみませーん、ちょっとこっち向いてください!」

 

 咆哮する冥界からの魔物。その姿に見惚れた一部の住民達はサイドキック達による避難勧告を無視するとスマートフォンを取り出し、撮影を始めてしまう。

アニメやコミックのような入り乱れる戦闘が半ば当たり前となっているこの社会に於いてこう言った輩が現れてしまうのは仕方の無い事だ。

故に─────

 

「あのっ!オルカこっち向いt『悪いな、今は仕事中だ。代わりと言ってはなんだがオレが一緒に写ってやるぜ?』きゃああああああああああああっ!?」

 

 それを排する者が現れるのも仕方の無い事なのである。撮影を願う人物の背後から這い寄るその名をシンビオート。知る人ぞ知る…いや、巷で話題のヤバい寄生生命体である。

 

「体育祭のヤベー奴だッ!」

「シンビオートが出たぞー!」

「すっげぇ!かっこいい!」

「ねぇママー!握手して来てm「駄目よ齧られますッ!」

 

『覚えておきな、オレ達はヴェノムだッッ!!ハーッハッハッハ!見ろよキョウセイ!人が逃げ惑う蟻みてーだ!ハハハハハハハハ!』

「分かったから手は出さないでねシンビオート?…シャチョー、避難誘導はどうしますか!」

 

「そのまま戦闘区域から離れるように施せ。皮肉にも住民達が勝手に逃げてくれるお陰でやりやすい」

「……悲しいですね」

「……口にするな。更に惨めになる」

 

 何処か通じ合うモノがあったのか、互いに同情し合う雰囲気を醸し出す。例えプロヒーローでも外見が怖いと揶揄されるのは心が辛いのである。

 

閑話休題。

視線を敵の方へ向けるとギャングオルカはギラリと眼を尖らせた。

 

「器物損害及び暴行、傷害、殺人の容疑で逮捕された。奴の犯罪者名(ヴィランネーム)をライノ!サイの確き凄まじいパワーの持ち主で、建物の崩壊を次々と招いた脳筋野郎だ」

「ネーミングそのままですね、外見もコミック通りだし…」

 

 見覚えがあるのかライノを遠目から見る来正恭成は訝しむような視線を向けている。

…まぁ、でも数億居る内の人間が架空の人物(キャラ)と似てる個性を持っているなんて稀ではないか。と無理矢理納得するように己自身に言い聞かせていると、後方よりサイドキックの一人がオルカ目掛けて走って来た。

 

「申し上げます!各員配置完了しましたァ!」

「ご苦労、あとは私がやる」

「シャチョーミズカラガ!?」

「これ以上住民や周辺地域に被害が出ては困るのでな」

 

 そうギャングオルカが呟くと来正に視線を向ける。

 

「では来正。早々貴様はこの場から離れ───」

「…………?」

 

 ほんの数秒、止まったかと思うとオルカは目尻を吊り上げ、牙を剥いた顎を大きく開け怒鳴り散らす。

 

「───勘違いするな糞砂利がッ!貴様ごときが戦闘に参加するのは時期尚早だと判断したッ!」

「サー!イェッサー!」

「そうと分かればボサッとせずに住民の護衛、避難誘導の手伝いをしろ!誘導に従わぬ奴は無理矢理従わせろいいなッ!」

「イェス!サー!シャチョー!サー!」

「サー!(素直に避難誘導任せたと言えばいいのに…)」

 

 ギャングオルカの一喝によりその場から離れる来正とサイドキック。直後、ライノとオルカが接触する残り数メートルでお互いに威嚇を始めた。

 

「シャチ野郎が!そこを退けェ!」

「退かせてみろサイ擬きがッ!!」

 

 ズガァン!!と力と力がぶつかり合う。

 

「ヒューッ!見ろよライノのボディを…鋼みてぇだ…!コイツはやるかもしれねぇ!」

「まさかよ、しかしシャチョーには勝てねぇぜ」

「サスガダァ…シャチョーに敵うヤツなど居るはずが…」

 

「───ッ!?」

「オイオイ、どうした?もう終わりかぁ?」

 

 オルカが驚きの表情を露わにすると、ズルズルとライノのパワーによって後退りしてしまう。その様子に避難中の人々、サイドキックの面々も同じように驚愕する。

 

「そんな!シャチョーが押し負けてる⁉︎」

「馬鹿な、いくら海中生物とは言えシャチのシャチョーがサイに押し負けるのか⁉︎」

 

「どぉおおおおッせい!」

「ぐうッ!」

 

 体を掴まれ投げ飛ばされたヒーローはそのまま駐車していたバスに突っ込む。同じパワータイプとは言え、負けてしまった。その一部始終は見てしまった住民を更なる混乱に陥れる。

 

「ハハハハ!何がシャチだッ!お前は指を咥えて俺様のパワーを見ているんだなッ!」

「まさか…住民を狙う気かッ⁉︎」

「ご名答ッ!さぁ、特大の花火を特等席で見せてや────

 

 

ごしゃ

 

 

───ぐあああああああああああっっ!?」

 

 ミサイルを放とうとしたライノが急に苦しみ始めた。それもその筈、彼の顔面には十字架らしきモノが直撃し、それによるショックで悶えているのだから。

 

ちなみに、それを投げた正体はご存知シンビオートである。

 

『NICE SHOT!』

「シンビオート⁉︎ そう言う武器じゃねぇから!……あ、いや待てよ?キャップも盾投げてるからあながち間違いでもないか」

「申し上げます、そもそも盾自体投げるものではない!」

 

 投げ飛ばした盾(と言う名の鈍器)をシンビオートによって形成したフックロープで回収していると、復活したギャングオルカが駆け寄って来た。

 

来正恭成ッ!何故手を出したッッ!!

「サー!申し訳ありません!勝手ながら このままでは避難が完了していない住民に被害が出たと予想し防衛手段として迎撃を行いました!」

その防衛手段がアレか!

「サー!アレでありますッ!処罰なら謹んでお受けします!」

 

 瞳をギラつかせ、牙を剥く海のギャング。それを前にして一歩も退かず人を守る為にやった行動に悔いがないと感じさせる覚悟。それを見たプロヒーローは……

 

「そうか、それは良い心掛けだ!ならば"罰"として貴様も敵退治に出動させてもらおうか!」

「サー!……サァッ!? いいんですかシャチョー⁉︎」

「私がそう判断したからだ。それとも文句でもあるのか?」

 

 ジャバジャバと水を被りながら言うオルカに来正恭成は戸惑いこそしたものの、すぐに「イェスサーッ!」と答え前に出る。

 

「テメェ…よくもやりやがったなッ!」

『ハッ、それなら次から仮面付けて出直すんだな!その前に、テメェの首を掻っ切るッ!』

 

 ジャキンと手の甲から突き出た三本の爪を形成させ、ライノの首元目掛けて振るう。そして……三本の爪はボディに触れた瞬間、音を立てながら"溶けた"。

 

『アッッッッッツ!?何だアイツの身体!ステーキの鉄板か⁉︎』

「いや違うッ!ライノの体じゃなくて、ライノが纏うスーツから熱が発生してる⁉︎……そうか、熱に弱いシャチョーの真っ向から打ち勝ったのはコレのおかげかッ!」

「馬鹿がッ!勝手に前に飛び出すなッ!」

 

 トリックを見破る来正だったが、勝手に攻撃した事に一喝される。

 

「餓鬼の教育がなってないなぁ…!」

「ああ、手のかかる生徒で本当に困る…が、他所見していていいのか?」

 

DIIIIIING

 

 直後、ギャングオルカはライノの懐へ突進を仕掛けると同時に超音波による攻撃を行う。

 

「……で、何かやったか?」

「チッ、邪魔だな。そのスーツ」

 

 ライノがお返しと言わんばかりの拳を受け止めるが、ジュウウと焼ける音と共にオルカは苦痛により顔が歪む。

 

「シャチョーッ!!」

 

BRRRRRRRRRTTTTTTTTTTTTTTTTTT!!

 

 デスペラードから放たれる無数の黒の弾丸がライノに直撃する。するも、「ぐっ」と声を漏らしながら敵がその場から離れる。

 

「大丈夫ですか!」

「問題無い、それよりもお前はアイツの頭部を狙え。あそこの部分破壊されれば何とかなる」

 

「それなら」と呟くと同時に手に持ったデスペラードをグルリと90°回転。銃口とは反対側の部分をライノに向ける。

 

「オイオイ、馬鹿なのかお前。銃はそんな風に使うもんじゃ───」

「ギターケースじゃないけど、デスペラード撃ちィ!」

 

 ズドンッ!と盾の銃口とは反対側の装甲がズレると、そこからミサイルの形をした黒の弾丸…いや、黒の爆弾が放たれる。

そのままライノに向かって着弾すると、バチュンと音を立てながら爆散すると共に全身に纏わり付いた。

 

「な、何ぃ!?」

「シンビオートは微量の熱を加えると拒絶反応を起こして飛び散るんだよね!流石はサポート会社、良い仕事をする!」

 

 原理としてはデスペラードによって無数の弾丸を放った銃口に篭った熱をグレネード弾の着火剤として応用、最初から使用する事が出来ない点に目を瞑れば応用が効く攻撃手段となり得る。

 

 話は逸れたが、来正はデスペラードを両手で持ち その場で跳躍する。

 

「いくぞシンビオートォ!」

『分かってる!コレを使う機会は滅多にないだろうからなぁ!』

 

 そのまま力一杯にライノの頭部目掛けて盾をガツンと打ち付ける。悶え苦しむ敵は目の前の相手を振り解こうとするが、先程から全身に纏わり付くシンビオートの一部によって身動きが取れない。

 

『オレ様の拘束が溶ける前に…!』

「ぶっ壊すッ!!」

 

 更に頭部へ打ち付ける。一回、二回、三回と何度も何度も壊れるまで打ち続ける。

……そして

 

『オラァ!!』

 

バギィン!!

 

「お、俺自慢のツノがぁあっ!?」

 

『お前の御立派様が根元からへし折れちまったなぁ!コレでもうツノでfuckできなくなったぜ』

「おいやめろ」

「…だが、ようやくコレで」

 

DIIIIIIIIIIIIIIING

 

 瞬間、ギャングオルカが接近。至近距離からの超音波攻撃を行うとライノの巨体がグラリと揺れる。

 

「終わりだ」

「ふ、ふざけ……ま…だ終わって……」

 

「いいや、もう終わりだよ」

 

 パシュッとライノの全身に粘着性のある糸が絡みつく。それを放ったのは現場に颯爽と駆け付けて来たVスパイダーである。

 

「全員、特製セメント弾を放て!」

「「「「「サーッ!」」」」」

 

 更に追い討ちと言わんばかりに雨霰の如く降り注ぐセメントの弾丸。それによって(ヴィラン)の動きは完全に止まった。

 

 

「フォローありがとう、赤糸虫さ…じゃなかったVスパイダー!」

「いいやヴィランの足止めをしていたヴェノムの方が凄いと僕は思うよ」

 

《お疲れ様です、見事なサポートでしたよチズ》

『決めたのはオレだけどなッ!』

《……チズのフォローがなければ失敗に終わってた可能性がありましたが》

『あ゛?面白いジョークを言うな。バグでも起こしてるのかこのポンコツは』

《……失礼、I,ROBOT(アイ,ロボット)をご存知ですか?あと関係ない話ですが私仮面ライダーゼロワンの滅のファンでして》

 

「ヘーーーイ!落ち着いてスーツのお姉さん!多分だけどそれ人類が大変な目に遭うヤツでしょ⁉︎」

「ストップ!ストップシンビオートッ!ここで僕等がデイブレイクの原因になるのは御免だからマジでやめて!」

 

「喧しいッ!!手綱を握る事も出来ないのか便カス共がッ!」

「「すみませんサーッ!」」

 

 寄生生物とAIの口論の末に来正と赤糸虫はギャングオルカからの怒号に怯える事となった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 何故、彼等はプロヒーローギャングオルカの元でこのような事をしているのか。それを一言で言い表すなら職場体験だ。

ヒーロー育成機関である雄英高校はこの時期になるとプロヒーローの元で現場をその身で体験する事となる。

 

「やぁ画面の前の皆、ヴェノムだよ!今日はプロヒーローギャングオルカの所で職場体験する事になってるんだ。やったね!……これでいいですかイグニッション」

「おう、文句無しだ。こうやって注目度の高いヤツをSNSにアップするのもヒーローの仕事で……痛っ!?」

「雄英の生徒を変な事に巻き込むな……Vスパイダーよくやった。お前の活躍は凄まじいものだったぞ」

「そ、そうですか?えへへ…」

 

 そんな彼等だが、イグニッションの動画撮影に付き合わされたり、褒められたりと意外と上機嫌だった。

 

「ヴェノム、お前の場合はもう少し自制する事を覚えろ」

「すみません…ですけどアレはシンビオートが勝手n「言い訳か?殺すぞ」ヒェッ…」

 

「いいか?坊主。シルバー・マルテースは軍人仕込みのスパルタだ。下手に逆らえばドタマに風穴が空くことなるぞ」

「そ、そうなんですか……それとボク、女です」

「へー……ってマジかよ!?」

 

…訂正、然程上機嫌ではなかった。

敵退治の現場を直接体感した彼等はプロヒーローと自身らの実力に明らかな"差"を感じていた。

先程までの戦闘はヴェノムが中心に行われているように見えたが違う。周囲の住民への避難呼びかけや、ヴィランに対するアプローチの仕方。凡ゆる要素の練度が桁違いだと分かる。

 

(……やっぱりボクには無理だ)

 

 だからこそ、心が折れてしまう。自分よりも相応しいプロヒーローならばもっと良い結果を出せたと赤糸虫は密かに想う。

 

『ドナドナドーナードーナーサイが移動牢(メイデン)で運ばれていくよ〜』

「指さすのはやめなさいシンビオート」

 

(あんなに余裕そうな顔を見せて…やっぱり来正君は凄いや)

 

 彼は強い。体育祭で戦ってから話す機会が多くなったが、彼は表情豊かで、常にシンビオートと共に笑いを提供してくれる。

 

……ヒーローとしての素質が十二分だと分かる彼等にとって自分はどう写っているのだろうか。そんな不安が頭の中で過ぎる。

 

(……おじさん)

 

 自身はヒーローに相応しくない。これは確定事項だと常々思う、それなのに雄英高校に通っているのは贖罪か、未練か。

 

「……スーツ」

「えっ?」

「あ、いや。あのスーツって何処から仕入れてるんだろうなと思って」

 

 来正が呟いた言葉に面を食らったが、"いつも通り"自分をマスクで隠すように彼女は口を開く。

 

「そうだね…見た限り少し粗はあるものの中々の性能だと思う。熱波発動装置や小型ミサイルの射出。音波を阻害する為の特殊素材も使われているし……」

「はえー…赤糸虫さん見ただけでそんな事まで分かるんだ」

 

「へぇ、ガラクタ弄りが得意なのか?それならジックリ見とけ」

 

 するとイグニッションが回収途中のスーツの破片をやや乱暴に投げ渡してくる。咄嗟の事に困惑する赤糸虫の代わりに来正が上手くキャッチする事に成功した。

 

「何をしてるイグニッション」

「まーまー、職場体験なんだろ?だったらここでしか見れないのをちゃんと見せてやらないとだろ」

「お前は…ハァ、もういい分かった。Vスパイダー、ヴェノム。見るのは構わないが、丁重に扱え。くれぐれも壊すなよ?」

 

「いやいや、壊しませんよ。それに乱暴に扱う気にもなりませんs"ピッ"…ん?なにか音がしたような」

 

BOOOM!!

 

オ゛ァ゛ーーーーーーッ!

「き、来正くーーーーーん⁉︎」

 

 突如としてスーツの破片が爆散。非フェイスオン(マスクしてない)状態で至近距離の爆発を受けた来正はそのままバタリと倒れ込んでしまう。

 

「おそらく闇市から仕入れたサポートアイテムの粗悪品だろう。戦闘による影響か爆発したのだろうな」

「あの…それ、先に言ってくれません…?」

 

 顔面に負った傷をシンビオートの力で回復させながら来正は立ち上がる。周りを良く見ると他のスーツも駄目になってるモノが殆どらしい。

 

「えぇ…粗悪品でもこうも簡単に壊れるのかなぁ?」

「うーん、素人の僕には分からないけど…あ、ほら無事なのが此処に───」

 

パスッ

 

「───あれ?」

 

 来正が破損せずに無事だったスーツの破片を拾おうとした瞬間、何かが通り過ぎると同時に破片の姿は影も形も無くなっていた。

 

「ない…何も無い!?」

「どうした、何があった!」

 

「すみません、シャチョー!いつの間にか無事だったアイテムの一部が紛失しました!」

「何だと!……そうか、また『黒猫』の仕業かっ!」

 

 聴き慣れない単語に首を傾げる二人。そこに助け舟を出すようにシルバーが呟く。

 

「最近、ここ一帯で出没するコソ泥の事だ。ヴィランの使用したアイテムを横から掠め取って行く さっきのようにな」

「それじゃ早く追わないと───!」

 

 瞬間、二人の背後から火の玉と化したイグニッションが駆け抜ける。

 

「対処可能範囲、二人もイグニッションに続けッ!」

「は、はい!」

「分かりました!」

 

「シャチョーと呼べッ!」

「「サー!シャチョー!」」

 

 遅れつつもビル街を駆け抜ける二人。本格的なヒーローとしての活動が始まりと同時にヒーローとして超人社会の"闇"の一端に触れる瞬間でもあった。

 





ポケモンやってて遅れました(土下座)
イワンコとの戯れに夢中で小説の事すっかり忘れてました。

今回、職場体験編では来正恭成ではなく一部に人気がある(?)赤糸虫くんちゃんに焦点を当てて行きます。ヴェノムと言ったらスパイディですからね、少し彼女の掘り下げをして行く感じになります。

なのでサブタイがいつもと違うのは許して。



〜〜キャラクター紹介〜〜


『イグニッション』
小説オリジナルのヒーロー。ギャングオルカ事務所に入って来た期待の新人。個性は炎を纏う程度であり火力自体は低め。必殺技の『焼爆砲』もエンデヴァーの通常火力にやっと届く程度のもの。
特筆すべき点は現場にいち早く駆け付ける事が可能な飛行スピード。それによりワンマンプレーよりチームアップで輝くタイプ。

元となったキャラクターは『ファンタスティック・フォー』より【ヒューマン・トーチ】


『シルバー・マルテース』
ギャングオルカ事務所にて秘書的存在を放つ。父親が軍人であり彼仕込みの技術が詰め込まれたヒーロー。前線で戦うよりはサポート、事務処理、機械類の操作等の後方支援が得意。
ちなみに彼女がギャングオルカファンクラブの一員であるのは秘密である。

元となったキャラクターは『スパイダーマン』より【シルバー・セーブル】


〜〜用語紹介〜〜

『M・J』
発目明が開発と同時に赤糸虫知朱のスーツに組み込んだ人工知能。詳しい情報を小粋なジョークと共にVスパイダーに伝える。何故かシンビオートとは口論が絶えない。


次はなるべく早く投稿出来たらいいなぁ(願望)

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