違う!シンビオートが勝手に!   作:ゴランド

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感想欄を完走した感想。
みんな赤糸虫ちゃんの事好きってハッキリ分かんだね。読者の性癖に突き刺さるキャラクター性しやがって…かーっ、卑しか女ばい!

追記、更新遅れてすみませんでした。



35話 強襲

 

 蒼い空に覆い被さるように広がる黄金の帳。時刻は日没直前、彼女の紅い瞳に映る夕焼け空は鈍く輝いていた。

 

「…………」

 

 陽が沈むに比例して己の心緒が、感情までもが沈んで行く。高層建築の摩天楼(スカイスクレイパー)にて彼女は溜息を吐き、告げられた言葉を反芻する。

 

『ヒーローとして情けないと思わないわけ?』

「……情けない」

 

 あの時、彼が助け舟を出した事によって有耶無耶になったが確かにあの瞬間。己はヒーローとして情けない姿を晒していた。

 

「…やっぱり、凄いな来正君は」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

移動式牢(メイデン)に不備があったのか、それともライノ自身に奥の手があったのか…または第三者の仕業によるものかは未だ判断し難い事だ」

 

 そう呟くプロヒーローの言葉に対して職場体験でこの事務所へ来た来正恭成と赤糸虫知朱の顔色は暗い。未だに黒猫を取り逃がした事を引きずっているのだろうと理解できる。

しかし彼等には何の落ち度も無く、我々プロの対応が遅れたしまった事によるモノ。加えて当初の目的は果たしてある。

 

「確かに黒猫は逃した。しかし当初の目的の一つである証拠品のアーマーパーツは取り返せた。未だヒーローで無い身にも関わらず貴様等は良くやった方だ────」

 

 と、口にするギャング・オルカだったがハッと周りから自身に注がれる社員達の視線に気付く。

 

思わず口に出してしまったオルカ。シャチと言えば海のギャング、キラー・ホエールと言ったように海洋系食物連鎖の頂点として相応しい呼び方が多々存在する程の海獣……しかし実際は人懐っこく好奇心旺盛に加えて豊かな社会性を兼ね備えている。

端的に言えば優しいのだ。

 

そんな生態が反映されたかのような性格を慌てて隠すようにオルカは怒号を響かせた。

 

「───しかし貴様等が敵をみすみす逃したと言う失態覆せぬ事実だッ!それを理解しているんだろうな便カス共ッッ!」

「「サー・イエスサーッ!」」

 

「それならば問い質そう、赤糸虫知朱!貴様は何故ヤツ(黒猫)を逃したッ!答えろッ!」

「そ、それは……」

「判断が遅い。指導ーーーッ!」

 

 投げ飛ばされた後、そのままサイドキック達によってキャッチされる赤糸虫。次いで冥界の魔物が標的に定めたのは来正恭成 牙が並んだ顎を開きギャング・オルカは問い掛ける。

 

「お前はどうだ来正恭成ッ!何故ヤツを逃してしまったか、そのドス黒いバクテリア以下の脳細胞で答えを導き出せるかッ!?」

「サー!イエス、シャチョー・サー!自身の油断によって黒猫(フェリシア)逃してしまいました!サーッ!なので赤糸虫さんに非はありません!サー!」

「…来正君」

 

 彼の言葉が赤糸虫に突き刺さる。

まただ。また助けて貰った……。

 

「そうか!ならばお前はどうケジメを取るつもりだ!」

「腹を切ります」

「そうかそうか!腹を切るかッ!……なんだって?(素)」

「腹を切ってお詫び致します」

 

 その場の勢いに身を任せ、(しゃち)では無く猫耳を選んだ自分が不甲斐ない。そのような念が彼を蝕む。

情けない、許せない、あんな泥棒猫に夢中になり浮気してしまった自分が許せない。来正恭成は黒いダガーを形成した後に腹部を曝け出す。

 

「自分は…事務所のお荷物ですッ、ブヒィ!」

「おい誰かコイツを止めろォ!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……はぁ…」

 

 これで何度目か分からない溜息が吐かれる。段々と何の為にヒーローになったのか少し分からなくなって来た。

きっと今の姿を委員長である拳藤が見れば、適切な角度から放たれるチョップとセットで「気にすんな」と言葉をプレゼントされるだろう。

 

……然れども、然れどもだ。

 

「…嫌いだ。こんなボクは嫌いだ」

 

 器用に足底を壁に張り付かせながら蹲る。どれだけ見栄を張っても常に壁は立ちはだかる。そんな壁を隣の(来正)は易々と乗り越えて行く。

彼に対する嫉妬は無い。寧ろその逆で彼女は来正恭成と言う人物を称賛している。だからこそ彼との差を感じてしまい劣等感が募るのだ。

 

 

 

「あ、見つけた。こんな所に居たんだ」

「っ!?」

 

 突如として聴こえて来た声に赤糸虫はビクリと身体を震わせる。

来正恭成、彼が現れた。

まさか見つかるとは思わなかった。普通はこんな高所に居るとは思わないだろうから此処で1人黄昏ていたと言うのに……。

 

「赤糸虫さん、連絡付かないから焦ったよ?大丈夫?」

『パトロール名義でサボりって言うのはヨク無い、そうだろ?そう思うよなぁ…?そこのポンコツ、お前に言ってるんだよ』

 

 シンビオートが『ヒェッヒェッ』と古臭い魔女的な笑みを漏らす。そんな彼等に赤糸虫は何事も無かったように言葉を口にした。

 

「あ、あははは…その、さ。うん、こう見えて特訓してたんだよ。ほら、高所ってまだ慣れないから」

「………」

「はは、…はぁ……」

 

 来正恭成に愛想笑いしても無駄だと悟ったのか彼女は再び溜息を吐く。そんな彼女を見兼ねたのか、来正は沈黙を破り口を切る。

 

黒猫(ブラックキャット)から言われた事、まだ気にしてるの?」

『いつまでもズルズル引き摺ってるつもりだ?お前も何とか言ったらどうだ。オイ、シカトするな』

 

 彼に続く形でシンビオートも呟く。しかし彼…彼(?)は知らない。赤糸虫知朱のスーツに搭載されているサポートAIのMJは充電期間に入っており幾度も問い掛けても返事は返って来ない事を。

 

そんな黒塗り寄生生物はさて置き。何処から取り出したのか来正は魔法瓶からホットココアを紙コップに注ぎ彼女に手渡す。

 

「はいココア。こんな場所(高い所)じゃ身体冷やすよ?」

「うん、ありがとう」

 

 ズズズと口に含んだホットチョコレートが喉を通り、冷たい風に晒されていた身体を温めて行く。

 

「……ねぇ来正君」

「ん?」

 

「何で君はヒーローになろうと思ったの?」

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 職場体験2日目を迎えたボク達。と言ってもサイドキックの皆さんの話によると今回は昨日のようなヒーローらしい活動はやらないみたい。

理由の一つとしては昨日の来正君とギャング・オルカの活躍がSNSによって拡散。それが敵の活動抑制に繋がったらしい。

 

「〜♪ お、うまそーなランチがアップされてるじゃねーか。俺も後で上げとくか?」

 

 今もやっているが、イグニッションはスマホを片手に色々やってる事が多い。常にネットをチェックする事もまたヒーロー活動の一環なのだろうか?

 

「騙されるなVスパイダー。ヤツ(イグニッション)のアレはただのサボりだ」

「あー!あー!分かった!分かったからそのゴツいテーザー銃下ろしてくれ!」

 

……どうやら違ったらしい。シルバーがイグニッションの額に銃口をグリグリ押し付けている光景が広がっているが別に気にする必要性は無いとMJは言っている。

うん、そうだね。そうだよね。一般雄英生徒であるボクが横から口出しても迷惑だもんね(口実)

 

「いや、ちょっと?せめて何かフォロー出してくれると嬉しいんdあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛」

 

《これがヒーロー社会の厳しさと言うモノですか…切ないですね》

「あ、うん」

 

 視界の端で感電するプロヒーローが映った気がするけど、どうかボクの勘違いであって欲しい。

 

閑話休題。話が逸れたけど職場体験2日目、ボク達がやる事それは─────

 

「やめなされ、子供達やめなされ。俺はそんな悪の大魔王的なキャラじゃないんだよ。だから的確に脛を狙ってローキックかましてくるのはやめなされ」

「うっせぇ!とっちめろぉぉ!」

「「「「「おおおおおお!」」」」」

「ははは、痛い。痛いからやめ…いや、ホントに痛いからやめて。ねぇ、聞いてる?脛を的確に打撃するのやめてと言ってんの?ねぇ聞こえてる?ちょっと!?」

 

 子供達との触れ合いだ。

 

…………。

 

………………。

 

……………………。

 

「……ねぇ、MJ。ボク等何してるんだっけ?」

《ヒーロー活動です》

「アレが?」

 

 餌に群がる蟻の如く。執拗に子供達に脛を攻撃される来正君。途中から声色が本気になっているのはボクの勘違いなのかな?

 

「いや…ちょ、痛いから、マジでやめ…あ゛ァ゛ーーーッ!」

 

 うわ、来正君の(もも)に強烈なのが入った。子供なのに凄いなアレ…もしかして個性の影響?

 

何故(なにゆえ)ヒーロー活動においてコレが必要か。何故(なにゆえ)にこんな事をする必要があるのか」

「ギャ──シャチョー!」

 

 来正君が隣でいつもやっていた所為か、背後から現れたギャング・オルカに思わず敬礼してしまうボク。彼が言うには「キャップの魂に火が着いたから」らしい…どう言う意味だろうか?

 

「我々の仕事、それは必ずしも(ヴィラン)の鎮圧に限らない、そもそもの話。何故ヒーローはヒーローたらしめるのか?」

「えっと……?」

 

 言ってる意味は…何となく分かる気がする。ヒーローとは敵と対峙する事だけが仕事じゃ無い。今目の前で子供達と戯れてる来正君のように、一般市民を笑顔にする。そんな事だってヒーローの役割の一つだ。

 

「先日の件。赤糸虫は敵を逃した事を気にしているようだな、それに関して言える事は一つ…『笑わせるな』」

「っ!」

「お前如きのミスで敵が逃げたと増長するな。お前1人欠けた程度で我々の活動に支障が出ると思ったか?」

「それは……」

「未だヒーローのレベルに達していないお前の実力で何かを為せると思うな。それでも自身のミスだと称するのならば、己の本質を見誤る事だ」

 

 そう告げるとシャチョーはその場を後にして去って行く。

 

「…赤糸虫さん、そんなに気にする事は無いよ。相手が一枚上手(うわて)だった。それだけだよ」

「うん。そうだね来正く────」

 

 そう応えながら振り返った直後、前に広がる光景に固まってしまった。そこには首から上を大型の地球外生命体(エイリアン的なナニカ)に齧られている来正君の姿が……って。

 

「捕食されてる!?」

「いやー、ははは。参ったね…あ。気にしないで、コレ個性で子供が変身した姿だから」

「そうなの!?」

『そうだよ(便乗)』

 

 シンビオートがそんな事言ってるけど大丈夫なのソレ!?どう見ても喰われている感じのヤバいシーンなんだけど!

子供よりかはエイリアンの幼体の方が説得力あるよ!?

 

「うん、だから決してマブラヴのトラウマ的な場面じゃないから……あ、待って。牙立てないで。ちょっと血が流れて来た」

「いや本当にに大丈夫なのソレ!?」

「ははは問題無い問題無い。シンビオートが本気で噛み付いて来た時と比べれば問題n…オイちょっと いい加減、脛にローキックはやめろ。シンビオート嗾けるぞ(半ギレ)」

「いいぞー!もっとやっちまえ!黒スライム星人やっつけろー!」

『誰が黒スライムだッ!ブチ殺すぞッ!』

「シンビオート!?」

 

 直後、ヘドロ的な怪物と化した来正君が子供達を追い回す……うわ、どう見ても事案的な光景が広がってる……。

 

《通報しますか?》

「やめてあげて。流石に来正君が可哀想だから」

 

 服の下からそう告げて来るMJを諌めるボクの隣に1人、荷物を持った誰かがやって来る。

 

「混ざらないんですか?」

「え?…えっと……」

 

 そう言って来たのはキャスケット被った女性。ボクの側に立ち、彼女は続けて言葉を発する。

 

「急にごめんなさい。私、此処の養護施設でボランティアしてる已嶺(こみね) 玄恵(くろえ)って言うの。はいコレ」

 

 と、渡して来たのは…キッ○カット?

 

「あ、もしかして嫌いだった?」

「いや……えと、なんでボクにこれを?」

 

 そう言うと「あー」と少しバツの悪そうな顔を見せた後に口を開く。

 

「さっきまでの見ていたのよね私。ギャング・オルカに色々言われてたでしょ?」

「それは……」

 

 オルカに告げられた事を思い出したボクは"彼"に視線を送る。

 

「……恋の予感!?」

「ちがっ、違いますよ!…ただ、敵わないだけなんです」

 

 ボクから見た来正恭成は期待に応えられる人物だ。子供達にも好かれて、強く在り続けている彼はヒーローとして相応しい存在。

…そんな彼の隣に立っていると、ボクは見劣りしてしまう。

 

要は劣等感。彼に対して自身は劣っていると強く感じてしまうのだ。

 

「……そう考えてると、ボクは何の為にヒーローになったんだろう…って」

「それじゃ───()()()()()()()?」

「えっ?」

 

 その人から言われた言葉にボクは思わず声を漏らしてしまった。

 

「なんて、うそうそ。冗談に決まってるでしょ?面白いなぁ(きみ)。シャチの人に言われた事についてはあまり気にしなくて良いと思うよ?」

「え、でも」

「あーゆータイプって言うのは外側を見繕ってるモノよ?外面はアレでも中身は違う、現にホラ。見て」

 

指をさした方向に目を向ける。そこには……ん?何か黒いモノが蠢いて────

 

 

 

「ヒーローをイジメてんなコラ!」

「この黒坊主!魚介類!」

「サイテー!魚もどきサイテー!」

「………」

 

 シャ、シャチョーーー!?え、何で!?ギャングオルカが子供達に囲まれて石投げられてるんだけど!?

 

「こらーーーっ!海洋生物をイジメちゃダメでしょうがーーッ!シンビオートを嗾けるぞコラァッ!(マジギレ)」

 

 そしてそのまま来正君が子供達を追い払った!?立場逆転してないそれ!?

 

「シャチョー、僕はそう思ってませんからね?寧ろシャチって可愛い方ですからね?」

「分かる(分かる)」

 

 シルバー・マルテース!?

便乗して来たサイドキックの人と来正君に助けられたシャチのシャチョー……え、何でそんな浦島太郎的な場面に遭遇していたんですがシャチョー?

 

「……パトロールに行って来る。お前達は此処で待機だ…」

「了解しましたシャチョー(心に来てるなコレ…)」

 

 そのまま施設の外へ出て行くシャチョー。その際に子供達がサムズダウンとかブーイングをする光景をボクはグッと心の奥底にしまう事にした。お労しやシャチョー……。

 

「此処の子供達って度胸のある子達ばかりなのよ?君がイジメられたように見えたから、その仕返しって感じなのかもね」

「そ、それだけで…?」

《心身個性共に実にアグレッシブな子共ですね》

「それだけの為よ、この子達にとってはね」

 

「養護施設【恩寵受けし花園(はなぞの)】名前だけ見れば幸せそうだけどね、此処に入って来る子達は誰もが()()()()()()()

「曰く付き?」

 

 已嶺さんは無言で頷いた後、己自身に言い聞かせるように言葉を並べて行く。

 

「あそこの子は親が犯罪者(ヴィラン)になった。あっちの子は異形系個性の見た目から捨てられた。今走ってるあの娘なんかは母親のお腹を突き破って捨てられた」

 

 淡々と、あたかも当たり前のように……否、この人にとって当然の事が口から出される。それを前にボクは何も言えず、ただ───黙って聞いているしかなかった。

 

「超人社会の反落により溢れ落ちた者の駆け込み寺…悪く言えば廃棄物の寄せ集めが此処よ。私も含めてね」

 

 そこでようやく理解した。此処の子供達にとってヒーローとは、手の届かない空で輝く星のような存在。

……でも、こんなボクまで子供達はヒーローと言ってくれた事にもどかしい気持ちが生まれる。

 

「……私も此処で育ったの。ヒーロー…に興味が無いと言ったら嘘になるけど、今は私のやりたい事をやっているから少し満足かな」

「やりたい事?」

「うん、此処の子供達の支援。ボランティア以外にも働いて稼いだお金を寄付してるの───ねぇ赤糸虫ちゃん」

 

 こちらを覗き込む宝石の如く輝きを放つ瞳。謎のデジャヴと全身の血が巡るような感覚が全身を駆け抜ける最中、彼女は問い掛けて来る。

 

「君がヒーローになろうとしたキッカケ(オリジン)は何なの?」

 

 彼女の問いを反芻するように心中で呟く。

ボクのキッカケ、それは─────

 

「…ボクがヒーローになろうとしたのh「あー!クロエのねーちゃんだ!」えっ?」

 

 答えようとした瞬間、横から子供が割って入って来る。それに連なるように他の子供達も已嶺さんの存在に気付く。

 

「あら、残念。時間切れね…ハァイ皆。ヒーロー達に混ざって遊びに来たわよ、今日は何するのかしら?」

「怪獣退治ごっこー!」

「聞いてくれよクロエねーちゃん!コイツ全くゴジラになってくれねーんだよ!」

「ゴジラはもっと立ってる姿勢なのに、コイツ恐竜みたいな姿に変身するんだよ」

 

「失敬な、これもれっきとしたゴジラだぞ!」

『マグロ食ってる方だけどな』

 

 いや…ボクはそれの内容知らないけど、外見上全くの別物じゃない?

そんな事を思っていると不意に誰かに服を引っ張られる。視線を下の方に向けると、女の子が1人居た。

 

「ねーねー、一緒に遊ぼ?」

「え?いやボクは…」

「やー!遊びたいーー!」

「私も私も!」

「顔の良い王子様シャルウィーダンス!」

 

「急にそんな事言われてm…いや待って?何で王子様?」

《男性と認識されている確率、94%》

 

 何で!?どうして初対面の相手にこうも男性と間違われるのボク!?

…一応聞いとくけど残りの6%誰なの?

 

《来正恭成を筆頭にその他(ヒーロー達)です…バスト調節機能を使用しますか?》

「やめておく!」

 

 あーもう!とにかく子供達と戯れる事なんて慣れてないんだよ!助けて来正君!ホント、もう…助けて!?

それを心の中で叫び、SOS信号的な眼差しを彼に送ると来正君はこちらの存在に気付きサムズアップをして来た。

 

え、通じた!?すごい(小並感) 実際にやってみるもんだね。そう思っていると彼は口を開きボクに向けて告げる。

 

「グハハハハハ(悪役特有の高笑い) ノコノコ死にに来たかVスパイダーッ! いくら貴様と言えども餓鬼の手を借りて戦おうとは愚かなモノだなぁ!」

 

 アドリブで返して来た!?しかもデーモン閣下的な高笑いを含めて!ちょっと、ボクにアドリブなんて無茶言わないでよ!無理、無理だから!そんな即興で台詞とか無理だから!

 

《録音ボイス機能再生します。───"やぁどうも黒塗り恐竜さん。長い眠りから覚めた所悪いけど、此処にはコーヒーメーカーは無いよ?"(赤糸虫ボイス)》

 

 え…MJ!?なに、そんな機能搭載してたの!?凄いよ明!そしてありがとう明!流石マイフレンド!

…もうこの先ずっとMJに喋らせてようかな?

 

そんな事を思っていると来正君が子供達に向けて言葉を投げ掛けた。

 

「はい皆〜、ヒーロー側やりたい人はアッチね」

『敵側で全て蹂躙したいヤツはこっちだ。this way…』

「その言葉で敵側やりたいと思う人出るの?…ほら、殆どの子が赤糸虫さん(あっち)側に行っちゃってるから」

 

 彼の言う通り、気付けばボクの周りに子供達が…え、何この惨状(誇張表現)は!?

 

F○CK(ファック)!!!! どう言う事だ餓鬼共ッ!どこにオレ達の落ち度があると言うんだッ!どこに不満があるんだッ!』

「そういうとこだぞシンビオート」

 

《"はーやれやれ可哀想に。チビッ子の皆ー、可哀想な黒塗りヴィランに言葉をプレゼントとしてあげてー"》

「子供に舐められて悔しくないんですかー?」

「やーい、汚いまっクロクロすけやーい!」

「お兄さんクソダサ〜敗北者w」

 

「え、何これ新手のイジメ?(引き気味)」

「違う。違うんです、ウチのAIが勝手に…!」

 

 ホントすみません已嶺さん!決してボクの意思じゃ無いんです!MJが勝手にボクの声でやってるだけなんです!だからシルバーもイグニッションもそんな訝しんだ視線を向けないでください!

 

『ハァ…ハァ…敗北者じゃないが!?』

「ヨシ(現場猫) いいぞシンビオート。そのまま落ち着くんだ。落ち着いてそのまま僕の身体の中に戻っt」

 

「ざーこ ざーこ 黒塗り敗北者ざーこ ヒーローの面汚しで恥ずかしくないのぉ〜〜?」

 

何だとこのメスガキ!理解(わから)せるぞッ!この雑魚ォォッ!!!

「シンビオートォォォォォ!」

 

 一種の地獄かな?

 

「おい大丈夫か、目が死んでるぞ?」

「あっちの方で横になっているか?」

 

 そんな奇妙不可思議な光景に数秒唖然してしまうボク。

世も末だなと思ってしまったがイグニッション達の声によって現実に引き戻される。

 

「あ、大丈夫…はい。大丈夫です」

 

……んん〜〜、結局の所ギャング・オルカはボク等に子供の世話を任せたいのか。それとも何か高度で深い訳があったりするのか。

雄英高校よりも濃密度な空間に少し眩暈が────!?

 

 

 

「……赤糸虫さん?」

う、あ……

 

 脳が直接揺さぶられ、串刺しにされるような感覚。

スパイダーセンスが身に迫る危険を察知した!?しかも、この感じ……昨日のモノとは比にならない!

それに加えて 此処には子供達が居る!

 

「来正君!子供達を連れて此処から逃げ────

 

 

CLAAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!

 

 

 直後、施設に重厚な装甲車が突っ込んで来た。

 

 

 

▼▼▼

 

 

「──イグニッションッ!」

「任せとけッ!」

 

 シルバー・マルテースの声が響くと同時に子供達を抱えて火花が縦横無尽に施設内を駆け巡る。赤糸虫、シルバーは共に側に居た子供達を抱えると装甲車の直進上から飛び退く。

 

そんな最中。バキバキと養護施設の壁を破壊しながら突入してくる鉄の塊に対して真っ先に前へ出たのは来正恭成だ。

 

「止めるぞシンビオートッ!」

『憂さ晴らしのサンドバック代わりにピッタリだなッ!』

 

 筋骨隆々の黒き姿へ変貌を遂げると来正は腕を大きく広げ、ドッシリと構える。

 

「お、お兄さ───」

「大丈夫だ。止める」

『下がってろ巻き込まれるぞ』

 

 後方に逃げ遅れた子供達が数人。ヒーローを志した彼に止める以外の選択肢は無い。

 

「………おおおおおおおおッ!」

 

 掛け声と共に黒の巨体が装甲車とが互いに拮抗する。ギャリギャリとタイヤの焼ける匂いが施設内に漂わせながらシンビオートは地に足を食い込ませ、その場で押し留める。

 

『中々のパワーだな!』

「そのままひっくり返せ!」

『こうかッ!』

 

 来正の言う通りに車体の下に手を差し込むと、上方に向けて一気に力を込めると装甲車が浮かび上がる。

地面に接してないこの瞬間、待っていましたと言わんばかりにシンビオートの脚部がバネのように変化しギチギチと音を立てながら縮まる。

 

SHOOT(シュート)ッッッ!』

 

 そして、収縮された脚部は一気に解き放たれサッカーボールのように装甲車は養護施設の外に向かって吹き飛ばされた。

そんな事態を終え、スッキリしたのかシンビオートは後方の子供達に向けてニヤリと笑みを浮かべる。

 

『崇め立ててもいいんだぞ?』

「せめて…せめて外へ蹴り出すなら被害は最小限に……ッ!(シンビオートォ!)」

 

「可哀想に…本音と建前が逆転してる……」

 

 血反吐をブチ撒けそうな表情を浮かべる来正に赤糸虫は哀れみの視線が送られる。

 

「にしても、いきなりたぁ危ねぇな!事故か!」

「…それにしては随分と準備が出来ているな。見ろ」

 

 イグニッションの呟きにシルバーは正面に出来上がった大穴に注意を施す。そこから見知らない人物達が鉄製のバットやナイフ等を手に持ち、堂々と入って来る光景が広がっていた。

 

「来正君、これって一体…!?」

「何故か既視感あると思ったら…USJ事件(ヴィラン連合)の時と同じだこれ!」

 

 赤糸虫は戦闘に備え学生服を脱ぎ捨てると、内側に羽織っていた赤いコスチュームが露わになる。

 

「来正君、コスチュームは?」

「ごめん。それ施設の入口の所に置いてきちゃった!」

「なんで着てこなかったの!?」

「あんな重装備(コスチューム)で子供達と遊んだら危ないでしょ!」

「いや確かに理にかなってるけどさぁ!」

 

 そんな他愛も無い会話を繰り広げているとヒーローであるシルバーがテーザー銃を侵入して来た者達に向け、口を開く。

 

「どう言うつもりか分からんが…貴様等の先程の行為は市民に害を及ぼすものだ」

「一応聞いとくが…弁明は?」

 

 と、問い掛けるイグニッションの言葉に1人。様子のおかしい男が叫び応える。

 

「ヒャハ、ヒャハハハハハハハ!無理!無理だから!もうやっちゃったから弁明しないから!」

「……そうか、それなら質問を変えよう。お前達の目的は?」

 

「目的ィ……?」「目的か」「決まってるよな」「目的、目的」「ああ、そうだ決まってる」

 

 一層と騒がしくなる侵入者達の声。そこにリーダー格らしき男が前へ出て答えた。

 

「そんなモノ、特に無い。あ、いや違うなこれは"宣伝"だ」

「……そうか、そう言う事か。貴様等、感化されたカラーギャングか!」

「感化された…?」

 

 赤糸虫が疑問に思っていると、ピピと音を鳴らしながらスーツからMJの音声が響く。

 

《恐らくこれは今年度の雄英高校入学早々に発生した敵連合の事件によるものだと考えられます》

「それ、USJの…!?」

「僕達を襲って来たあの集団か!」

 

 現時点に於いて平和の象徴であるオールマイト。そのNo.1ヒーローの殺害を目的とされた敵連合の存在は国内に影響を与えた。

ヒーロー恐るるに足らずと雄英を襲撃したと言う彼等の足跡を目の当たりにした者達は感銘を受けると同時に、個性を持て余す者達の心に火を付けられる事となった。

 

「まぁ、と言う訳でだ」

 

 故に、こう言った行動を起こす輩は現れる。敵連合のように己が個性を発散する機会を求め、弱き者達に牙を剥く者達は現れるのだ。

 

「残念だが俺達に犠牲になってくれよォォォォォ!!」「ちょっとだけだから!ちょっと腕が捥げるだけだかラッ!」「コドモォ!柔らかそうなコドモォ!!」「1人くらい貰ってイイよなッ!イイよなッ!?」「ギャハハハハハハハハハハ!!」

 

『ひっ!』

 

 今にも襲い掛ろうとする敵達の圧に恐怖の色に染まる児童達。そんな子供の表情に1人の女性が涎を垂らす。

 

「あ、あぁ。もう駄目。駄目駄目駄目ぇ…!その面皮を今すぐに剥がしましょう!そうしましょうッ!!」

 

 そう呟きながら、女性の姿は見る見る内に異業のモノへと変貌を遂げると、子供達に向かって一直線に飛び出す。

 

「面の皮ァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「なっ、コイツ 素早……ッ!」

 

 スピード自慢のイグニッションでさえ捉えられない初動の素早さに驚愕する中、蛇のような姿へ変貌を遂げた女の(ヴィラン)は口をグパリと開き、子供達に向かって襲い掛か────

 

「面のk「失礼します。お客様」…え?」

 

 次の瞬間、頭部が巨大な手らしきモノによって掴まれる。何が起こったか理解が追い付いていない女性。

巨大な指と指の隙間から見えた光景、それは少年の背中から生えた黒い腕と迫って来る拳────

 

「当店でのお触りは…禁止されておりますッ!」

『出禁だオラァァ!!』

 

BAAAM!!!

 

「ぎゃ──────」

 

 "個性"蛇の敵は来正恭成がシンビオートを纏った右ストレートをまともに喰らい、その場で伸びる事となった。

 

「き、来正く…「ああああああああああ!!やっちゃったぁぁあああああああああ!」!?」

 

 赤糸虫が声を掛けようとした瞬間、彼は絶叫する。先程の行為を悔いるように、彼は悲痛な叫びを子供達の前で惜しげも無く上げる。

 

「来正君…まさか、人を殴った事を悔やんで…」

「いや、純粋にケモナーとして動物系統の個性持ちを殴ってしまった事を後悔してるだけです…クソァァ!」

「いやそっち!?そっち方面で後悔してるの!?」

『人を殴ってる事に関しては今更だしな』

 

 そんなケモナーとして堕ちた行為を晒した彼はハッとすると、シルバー・マルテースに声を掛けた。

 

「ところでシルバー。さっきの大丈夫なんですかね?子供に危害及そうだったんで…つい手を出しちゃいましたが大丈夫なんですかね(震え声)」

「ああ、問題無い。これに関しては正当防衛として処理される」

「えっマジですか?過剰防衛じゃなく?」

「か、過剰じゃ無いと思うよボクは!」

「ホントに?動物愛護団体に殺されない!?」

「いや何をそこまで心配する必要が!?」

 

 そんな口論を繰り広げていると敵達からチラホラと声が上がって来るのに気付く。

 

「やっちゃったな」「やったな」「俺見た」「やっちゃったね」「クヒヒ、やった やった」

「ヒーロー様が市民に手を出したッ! なら、俺等が暴れても正当防衛だよなァァ!」

 

 リーダー格の敵がそう叫ぶと同時に各々が個性を展開。こちらに対する敵愾心を露わにした。始まってしまった…否、こうなる事を待ち望んでいた敵達に対してシンビオートは呟く。

 

『面白い。数ヶ月ぶりの戦闘シーンと行くか』

「何言ってんのシンビオート?…シルバー!」

「無論、分かっているッ!」

 

 プロヒーローでありギャング・オルカのサイドキックでもある彼女は来正恭成と赤糸虫知朱に向けて告げる。

 

「プロヒーロー シルバー・マルテースの名に於いて!『VENOM(ヴェノム)』『V(ヴァミリオン)・スパイダー』2名の()()使()()()()()()()()()()()ッ!」

 

「「了解ッ!!」」

 






〜〜キャラクター紹介〜〜

『来正恭成』
ケモナーにして影の薄い主人公。
子供達に人気があるように見えるが、それはあくまでシンビオートのオマケとしてであるので、本人自身が子供達に人気と言う訳では無い。切なみ。
個性であるシンビオートが人気である事に関して、子供達の将来を危惧している。


『赤糸虫知朱』
何故か読者に人気なスパイディ♀的存在のキャラ。なんか闇落ちしそうな雰囲気を醸し出しているが、特に問題は無い。
最近の悩みはAIとシンビオートが喧嘩すること。


『已嶺《こみね》 玄恵《くろえ》』
年齢19歳
個性:???
養護施設である恩寵受けし花園で育ち、その養護施設でボランティア活動をしながらバイトの日々を送る女性。
赤糸虫ちゃんを揶揄うのがクセになって来たらしい。


〜〜用語紹介〜〜
『恩寵受けし花園』
モデルはX-MENより恵まれし子らの学園。
予期せぬ事故によって両親を殺してしまったり、個性による影響で発達機能に支障を来たしたりと個性による弊害で厄介払いされた子供が集う養護施設。
ぶっ壊れるのは元ネタの所為。

此処に居る子供達の個性はどれも奇異的なモノばかり。常時エイリアンや姿だったり、核エネルギーを体内に宿したりと色々問題ありそうだがとりあえずは平和である(白目)


(石集め目的で)fgoの2部ストーリーを進めてガチャ引いたらリンボが出たでゴザル……ンンンンンンン!ちがう、違うんだ…自分が欲しかったのは金時と綱であって、お前じゃないんだ……ッ!

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