旧き超常、ヒーローになる   作:エルデスト

3 / 3
蛇は蜘蛛のように

 日は変わって2日目。今日から通常の授業は始まる。私の座席は一番左列、前から2番目。なんと爆豪と緑谷に挟まれるポジションだった。昨日の個性テストで一番派手だった爆豪、そして逆転的なボール投げと除籍回避がなった緑谷。今クラスで最も話題性のあり、そして私個人としても注目している、ヒーローを見た者と、ヒーローの素養が見出せない者。更にはおそらく相性も最悪な二人に挟まれる現状に、中々の奇縁だと思った。

 

 そうして私の高校生活は始まる。午前は一般教養の授業。しかしすべてを記憶し、そして思考の回転速度も速い私にとっては雄英の難易度さえ作業に過ぎない。特段何もなく半日が終わる。残るは午後、ヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー!!」

 

 教室の外から有名な人物の、決まり文句が聞こえてくる。そして教室のドアが勢いよく開かれた。

 

「普通にドアから来た!!」

 

 ドアから現れたのはコスチュームを身にまとった、かのNo.1ヒーロー・オールマイト。合格発表の際に教師として赴任してきたことは知っていたが、実際にこの目で見とやはり何かが、うまくは言えないがあえて言うのであればそもそも存在する世界観が違うような、そんな印象を受ける。

 オールマイト、私が最も見本とすべき最高のヒーロー。女はヒーローについて何も語らなかったが、しかしその目は言葉よりも雄弁で、彼がテレビに出ればそれは食い入るように見つめていたのを覚えている。極論、私がオールマイトと同様の体格を得るのは容易い、しかしそういうことではないのだろう。彼が最も有名で強く、そして親しみやすいキャラクターだからであって、女はヒーローに憧れたがオールマイトになりたかったわけではないのだから。

 

「早速だが、今日はコレ! 戦闘訓練! そしてそいつに伴って……こちら!」

 

 オールマイトは自称エンターテイナーなだけあって、オーバーな身振りを添えて授業を開始した。そしてオールマイトの言葉に合わせて教室前方、ちょうど私の左前の壁がせり出てくる。

 

「『個性届』と『要望』に沿って誂えた……戦闘服(コスチューム)!!」

 

 壁から出てきたのは1から20まで番号が振られたボックス。オールマイトの言葉から、そこにはそれぞれが望んだヒーローの形があることは容易に想像がついた。

 ついに、ヒーローとしての第一歩を踏み出せると各々が希望に輝いた顔を見せる。そしてそれは私も同様で。着々と女の理想に近づいている実感を得て、目を細めた。

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 更衣室にて。

 私に与えられたケースを開ければ、そこには衣装らしきものは一切存在せず、あるのは見開きいっぱいに詰められた、3色の小さなキューブと、黒い防水バッテリーのみ。

 

「えー!? ミズキのコスチューム入ってないじゃん! フリョーヒンだよこれ、先生に言わなきゃ!」

 

 隣にいた葉隠が私のケースをのぞき込めば、そう騒いだ。

 

「いや、正しく私の要望通りだ。私の個性、流体を生かすのであれば衣類を身にまとうのは逆効果だからな」

 

 私は全ての衣服を脱ぎ、生まれたままの姿――人にとっての、ではあるが――になり、変化を、形は変えないまま状態を水に戻す。一見意味がないように見えるが、しかし変化の一部を解くことによって、変化に割くリソースを削減できる。私は自身を自由自在に操れるが、しかし無限に操作できるわけではなく、自身の能力を使用する上でのキャパシティには上限がある。よってヒトガタのまま大規模操作ができるよう、そして初期状態を水にすることによって変化を解くプロセスを経ずに即座に能力を行使できるようにと考えた結果だった。

 私はケースから3色あるキューブをひとつずつ手に取り、体内に取り込む。もう一つあるバッテリーにも手を伸ばすが、殺傷能力を考えてそれを持っていくことはやめることにした。

 

「きゃーミズキったらえっちぃ! いくら体に水にしたって倫理的にアウトじゃないの~!?」

 

「そうか、ならば手足の先に裾でも作って多少の服らしさを演出するか……なあ、葉隠」

 

 そうしてすべての準備が終わったとケースを閉めて更衣室の棚にしまうと、目ざとく葉隠は私の姿に言及する。そして彼女の助言を素直に受け入れるべきと判断し、私は自身の造形を操作して体のラインを少しだけぼかした。程度の客観的意見を聞くために葉隠を見ると、そこには手袋だけが浮いていた。

 

「なぁに~? あ、それなら、まあまだマシじゃないかな!」

 

「……今のは、私よりも葉隠の方が気にするべきじゃないのか?」

 

「たはー! やっぱり気づいちゃった? でもま、私も個性的にしょーがないよネ!」

 

 ホントは私だって好き好んでこんなコスにしないよぉ、なんて笑いながら葉隠はグラウンドに揚々と出ていった。

 

 

 

 

 

「始めようか有精卵ども! 戦闘訓練のお時間だ!」

 

 皆思い思いにそれぞれのコスチュームについて談笑していると、唐突にオールマイトがそう宣言した。

 

「君らにはこれから2人組のチームを作ってもらって、屋内での退陣戦闘訓練を行ってもらう!」

 

 曰く、真に賢しい敵は屋内に潜むらしい。更には対人戦、殺傷力が高い個性の持ち主はその使い方にも気を回さねばならない。

 

 そして、今回の訓練における状況設定と勝利条件は次のようになる。

 ひとつ、コンビ及びヒーローもしくはヴィランのチーム分けはくじで行う。

 ふたつ、ヴィランはアジト内に核兵器を所持、ヒーローはそれを処理すべくアジトに突入する、という状況の元訓練を行う。

 みっつ、ヒーロー側の勝利条件は制限時間以内にヴィランを二人とも捕まえるか、核兵器を確保、今回においては核兵器に触れること。対してヴィラン側の勝利は時間まで核兵器を守り切るか、ヒーローを捕らえること。

 

 説明の後、順次ボックスからボールを引いていく。そして私は……Cだ。

 

「蛇川さんもCでしょうか? 昨日自己紹介しましたが、改めて八百万百ですわ。同じチームとして頑張りましょう」

 

「ああ、よろしく八百万……いやヤオモモと呼ぶのだったな。今日はよろしく頼むよ」

 

 見回していれば目が合った八百万が、Cと書かれたボールを手に話しかけてきた。しかし人の事は言えないが、八百万のコスチュームも中々に露出が多い。彼女の性格からして人気取りではなく個性上必要なのだろうが、昨今の女子に羞恥はないのだろうか。場合によっては羞恥心を改めて解析しなおす必要がある、か。

 

「改めてそう呼ばれますと照れますわね……。しかし私だけあだ名というのも気が引けますわ、瑞樹さんとお呼びしても?」

 

「特別名には固執していない、好きに呼ぶといい」

 

 先ほどまで澄ましていた態度が少し照れ臭そうにはにかんだ。なぜ服装には頓着しないのに、名前で恥ずかしそうにするのか。女心は難しいというが、本当に的を射ているとしみじみ思う。

 

「よーし、みんなコンビが見つかったかな!? 続いて最初の対戦相手はこいつらだ!」

 

 オールマイトが二つのボックスからそれぞれボールを引き抜く。結果は、ヒーローチームのAと、ヴィランチームのD。そしてそれらが指し示すのは、緑谷と爆豪の対決だった。

 

 

 その内容は苛烈を極めた。爆豪はそのオーバーフローした感情に身を任せ、単独で緑谷に奇襲をかける。音声は聞こえないが、エンジンの個性持ち……飯田の態度から見て恐らく独断。そして緑谷はそんな冷静さを失った彼の動きを読み、見事にカウンターを決めていく。途中で爆豪が大規模爆発を起こしてイエローカードをもらうなどの事態もあったが、最終的には別行動をした麗日との連携による緑谷の作戦勝ちで終了した。

 恐らく緑谷にとって爆豪は圧倒的格上。更にはデメリットとその破壊力から個性は易々と行使できない。そんな状況で必死に勝つために頭を回し、そして勝利をもぎ取った。緑谷と爆豪の戦闘では痛ましい程にボロボロであったが、その代わりにルールで定められた勝利を得た。まさしく、自己犠牲。大局のために自らを危険に晒し、望み通りの結果を得る。昨日もその姿にヒーローとしての啓蒙を受けていたが、やはりそれは間違いではなかったと改めて思う。

 

 第一回戦が終了、講評の時間となった。しかし緑谷はその酷い怪我から保健室に移動したため、この場にいるのはそれ以外の人間だが。オールマイトがMVPは飯田と告げ、その理由を指名を受けた八百万が述べる。なぜ緑谷ではなく飯田なのか。八百万は爆豪と同様に私怨と建物破壊が悪いという。理性的に考えるならば確かに私も同意見である。しかしヒーローというものは、そうではないだろう。それでは、人の心までは救えないだろう? 

 

「それじゃ場所を移して第二回戦と行こうじゃないか!」

 

 オールマイトが講評が終わったと判断して次のくじを引き始める。タイミングを見失い、私の疑問は口から出ることなく、内で渦巻いた。だが、それを他人に意見を求めたところで正解などないのだ。私とてなりたい姿……女の望むヒーロー像が解らないのであれば。他者に惑わされることなく、私が考える理想となろう。

 さて第二回戦はB対I。葉隠がヴィランサイドとして参加する。しかしその結果はあまりにもあっけなく、推薦入学者である轟の個性によって一瞬で制圧された。だがそれは仕方のない結果だろう、広範囲で凍らせる個性など人間だけでなく私との相性も悪い。恐らく、脱出はできても近接で連打されれば、厳しいか。被害と殺傷力を考えなければ武装の一つであるバッテリーを用いれば、話は変わるだろうが。

 

「よーし、じゃあ次行くぞ! 第3回戦のヒーローサイドは……チームH! そしてヴィランサイドはチームCだ! 5分後にヴィランチームが建物に入って、更にその5分後にヒーローチームが突入して訓練を始めるぞ、それまで作戦会議をしてくれ!」

 

 お互い目配せをして指定の建物まで移動を始める。対戦相手は、カエルのような個性を持つ蛙吹と、影のような魔物を従える常闇。昨日の個性テストを見る限りどちらも汎用性に優れた個性だ。しかしそれは我々も同じこと、互いの個性の詳細を教えあいつつ、勝利に道筋を共に考える。お互い理論型の思考回路だ、即座に指針が定まればあとはヒーローチームを迎え撃つのみ。

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 side : team H < Asui & Tokoyami >

 

 

「ケロ、時間だわ。常闇ちゃん、行きましょ」

 

「ああ、時は満ちた」

 

「……常闇ちゃん、その言葉遣いは何とかならないのかしら?」

 

「……ぜ、善処する」

 

 常闇ちゃんは私から目をそらして小声でそういったわ。これは直す気はないわね。

 私たちは作戦通り、常闇ちゃんのダークシャドウちゃんを先頭にして慎重に進む。相手は昨日の個性テスト一位の八百万ちゃんと、水の個性の蛇川ちゃん。八百万ちゃんは何かモノを作る個性のようだけど、だからこそ未知数だわ。それに蛇川ちゃんは水を出すだけじゃなく、操ってもいたから奇襲には要注意ね。

 

「オイ! ナンカデッケエ箱ガアンゾ! ソレニ床ガ濡レテル!」

 

 先行していたダークシャドウちゃんが異常を知らせてくれたわ。そして、おそらくこの床に溜まっている水は蛇川ちゃんに繋がってる。触れるのだけは何としても避けたいところね。

 

「常闇ちゃん、予定通り外から侵入しましょう」

 

「さながらかの蜘蛛男のようだな。ダークシャドウ!」

 

 水を避けて窓があるところまで行くと私は舌を、常闇ちゃんはダークシャドウちゃんを使って上の階まで移動したわ。でも窓枠にしがみついて中を覗き込むとそこにも水が満ちている。この様子じゃ恐らく全部のフロアに蛇川ちゃんの網が張られてる。でもその網を効率よく張るなら、核の場所は窓のないフロア中央の部屋ね。ただ、問題は5Fあるうちのどの階ということだけど……。

 

「蛙吹、お前は壁を歩けるのだろう?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。ええ、私はこの水を回避できるわ。でもそれじゃ常闇ちゃんが……」

 

「あ、ああ、分かった。だがこのままでは埒が明かない。時間制限もあることだ、我々には速攻をかける以外に選択肢はない。だから俺はこのまま囮となって捜索しよう。つ、つ……すまない、蛙吹は最上階から探して欲しい」

 

「いいのよ、気にしないで。でも本当にいいの?」

 

「俺にはダークシャドウがいる。多少の時間稼ぎにはなるだろう。だからその間に核を確保してくれ」

 

「……わかったわ。気を付けてね」

 

 私は後ろ髪を引かれつつも、素早く最上階まで登ったわ。そして案の定5階にも水はあって、予想通りだった。本当は私は水が得意なのに、まさか水を避ける事態に何だか調子が狂っちゃいそう。慎重に中央の部屋まで向かって中を覗き込むとそこには何もなかった。恐らく全部の部屋を確認する余裕はないわ、まだ常闇ちゃんの方から連絡はないけれど、でもそれも時間の問題。急ぎましょ。

 即座に移動を開始して階段に向かうとそこにも下の階で見たような大きなコンテナ。これは八百万ちゃんが造ったバリケードでしょう、嫌な時間稼ぎをするものね。もう一度窓から降りようと、背を向けると突然常闇ちゃんから連絡が入ったわ。

 

『あ、蛙吹……! す、まない、核は、一階だ……!』

 

 聞こえてきた声は苦しそうでくぐもっていた。まるで首を絞められたか……溺れているかのような。

 

「常闇ちゃん!?」

 

 常闇ちゃんは心配だけれど、それでも必死で伝えてくれた情報を無駄にするわけにはいかない。急いで向かおうとすると、後ろから水音がして、嫌な予感に水に足がつくのも気にせず飛びのいた。すると間髪入れず、私がいた場所には水球が形成されていて、蛇川ちゃんに居場所がばれていると確信する。

 

「やはり、気づかれるか。推定カエルの個性、水に親和性があるだけあってそう簡単にはいかないな。となれば、水牢で捕獲は悪手……少々手荒な真似をするが、まあそれは仕方のないこと」

 

 バァン! と階段を塞いでいたコンテナが突然爆発し、中からは大量の水が一気に溢れ出す。そしてその水は私までやってくることはなく、体積を無視して人型に収束……蛇川ちゃんが現れた。蛇川ちゃんから体内から小さな白いキューブを取り出すと私に見せつけるように蓋を開ける。

 

「ウォータージェット、くらいは聞いたことがあるだろう? 水圧だけで物体を切断する技術だ。しかし水だけではゴムや木材のような軟質材しか切れなくてね……硬質材を切るには研磨剤を混入させる必要がある」

 

 蛇川ちゃんは蓋の空いたキューブを再度体内に取り込むと、両手を私に向けた。

 

「蛇川ちゃん、まさか、危険だわ!」

 

「なに、爆豪も言っていただろう、当たらなければ問題ないとね。しかし、万が一もある、しっかりと避けてくれ」

 

「ケロッ!?」

 

 そう言って、蛇川ちゃんは笑うと、おもむろに水流を発射した。そのスピードはあまりにも早く、そして細くて、本当にカッターのようだった。必死に飛び避けると後ろを確認する暇もなく、第二射と次々に水が放たれる。必死に避けて、避けて、あまりの緊張に足が止まりそうだけど、それでも必死に動かした。本当はこの状況を打開しなくちゃいけないのに、回避で精一杯で、何もすることができない。

 

「さて、そろそろチェックメイトだ」

 

 蛇川ちゃんがそう呟くのを思考の片隅で理解すると同時に、どんな行動をされてもいいよう警戒する。なのに蛇川ちゃんは水を打つのをやめてほくそ笑むけど、何かをする様子はない。

 

「残念、後ろだ」

 

 そう言われたのと同時に、突然後ろからナニカに羽交い絞めにされた。いくら身をよじっても抜け出せなくて、その間に蛇川ちゃんが近づいてくる。舌で応戦しようとしたけど、気づかれたのか水で口を覆われた。別に呼吸は問題ないのだけれど、拘束している水は触れている分には何も感じないのに、その実内部で高水圧がかかっているのが分かるから、舌なんてとても出せなかった。

 そうやって身動きが取れない間に私のコスチュームをまさぐって確保テープを見つけ出すと、そのまま私に巻いた。

 

『ヴィランチーム、WI---N!!』

 

 オールマイトの宣言が聞こえるのに合わせて、私の拘束が解かれる。

 

「手荒な真似をしてすまなかった、怪我はないか?」

 

「え、ええ。私は大丈夫よ。でもちょっと疲れちゃった」

 

「あれだけプレッシャーをかけたんだ、それは仕方のないことだろう」

 

 手を貸してもらいつつ、建物を降りていく。時折バリケードがあるけど、それは全て蛇川ちゃんが処理してくれたわ。反省のために今回の内容を思い返していると、そういえば一つ不可解なことがあるわね。

 

「ねえ、そういえばどうして私の場所が分かったのかしら? 私は水を踏んでいないはずなのだけど」

 

「ああ、それか。水を踏まないという選択は間違っていないが……惜しかったな。私の個性は流体、だからこの建物内の水は全て私の体であり、故に感覚器官もまた水中に存在する。触覚だけでなく、視覚や聴覚もな」

 

「ケロ、じゃああなたは水があるところなら何でもわかるのかしら?」

 

「実はそう万能でもない。触覚は予想通りどこでも水に触れればわかるが、視覚と聴覚は一か所でしか見聞きできない。更にその間は私の本体がその機能を失うのでね、少なくとも誰かしら近くにいて貰わないと危険が察知できない。今回は最初のバリケード位置に”目”と”耳”をおいて作戦を聞きつつ行動を把握していた。だからもしも初手から外部から侵入をして、あの場所を通過していなければてこずったかもしれない」

 

「……それでもてこずるだけなのね」

 

「すでに自分のフィールドを広げているのだ、あれで負けたら情けないだろう?」

 

「確かにあの場では蛇川ちゃんの独壇場だったわね、結局手も足も出なったわ」

 

「いや、蛙吹も常闇も手強かった。正直に言ってもっと早くに制圧するつもりだった。しかし実際はかなり粘られたし、常闇に関しても水牢に閉じ込めたのに、あの影のような個性にバリケードを破壊されて核を視認された。自身の犠牲を容認した上で、蛙吹に情報を伝えようとするその行動……中々できることではないと私は思う」

 

「ケロ……常闇ちゃんのところはそんなことがあったのね。それと、お願いがあるの。私の事は梅雨ちゃんと呼んでくれない?」

 

「梅雨ちゃん? 私は構わないが」

 

「ありがとう蛇川ちゃん」

 

 そうこう話しているうちにモニタールームに辿り着いたわ。そこにはすでに八百万ちゃんと常闇ちゃんの姿もあって、どうやら私たちを待っていたみたい。でもその中にはなぜか蛇川ちゃんの姿もあって、思わず私の隣にいる蛇川ちゃんと見比べてしまったわ。私のとなりにいた蛇川ちゃんは、八百万ちゃんと一緒にいた蛇川ちゃんに触れると、まるで掃除機のように私と一緒にいた方が水になって吸収されてしまった。そうして一つになった蛇川ちゃんは、閉じていた目を開けると、失礼しました、講評を始めてくださいと腰を折りつつ言ったわ。でも、私を含めて全員が今起きたことに茫然としているから、急にそんなこと言われても困るわ蛇川ちゃん。

 

「あっ、えっと、さーてこれから講評の時間だが、その前に蛇川少女!」

 

「はい、なんでしょう」

 

 突然の事態から、いの一番に回復したオールマイト先生は、渋い顔をしながら蛇川ちゃんを名指ししたわ。

 

「最後の方で蛙吹少女に研磨剤入りのウォータージェットを使用しただろう? いくらヴィランチームとはいえ、高い殺傷能力を持つ攻撃を人に向けるのは感心しないな!」

 

 ? オールマイト先生は何を言っているのかしら? 蛇川ちゃんは戦闘中にああは言ったけれど、でも実際は先生の言葉を順守していたのに。

 

「オールマイト、私は蛙吹……梅雨ちゃんを殺傷できるほどの攻撃は行っていませんが」

 

「えっ、でもあの時アイテムを開封していただろ?」

 

「あの時、私自身は核の前にいました。建物内にある水は全て私の支配下にあり、その応用として分身が作成できます。そして梅雨ちゃんと対峙していたのはその分身です。ですが装備品のコピーまでは出来ないので、あの時見せた箱はただのブラフであり、実際は何も入っていません。ですが、梅雨ちゃんはそのことを知る由もないので、意識をこちらに集中させてその隙に背後から捕らえたという訳になります」

 

 訓練が終了した後、後ろの壁を見てみれば無傷だった。蛇川ちゃんの言い分が正しければコンクリートさえ貫く威力を持っていたはずなのに、そうはならなかったということは意図的に威力が弱められていたということ。つまり蛇川ちゃんが言った通りあのセリフと行動はただの見せかけ。

 

「それホント? ならちょっと私も騙されてしまったかな、HAHAHA! うん、そういう作戦も悪くない! よーし、そういうことなら講評に入ろうか! 今回はみんな自分の個性を生かしてできる限りのことを頑張ってたから正直言って甲乙つけがたいな……」

 

「オールマイト先生、少しよろしいでしょうか」

 

「ん? どうしたんだい八百万少女」

 

「ほかの皆さんが評価されるのはわかりますが、私は何もしておりません。精々がバリケードの作成したぐらいで、お二人の確保は全て蛇川さんに任せきりでした」

 

 八百万ちゃんが恥じ入るように、でも毅然とした様子でオールマイト先生にそう言ったわ。でもオールマイト先生が反論する前に蛇川ちゃんが前に出た。

 

「実行役だけが全てではないと思う。今回は結果として私が全てを収めたようになってしまったが、ヤオモモもいなくてはならなかった。まず、分身を操っている状態では私の本体に意識がない。ゆえにそばで守ってくれる人材がいなければ、私はこの策を実行できなかっただろう。二つ目に、お互いの個性を鑑みて私が捕獲係、ヤオモモが後方支援、それが最適解だった。ヤオモモはいわば不測の事態におけるジョーカーであり、最後の砦だった。ならばそれは出さないに限る」

 

「うっ、またしても……えーごほん、蛇川少女の言う通り、実行役だけが全てではない。裏でサポートする人間も必要不可欠だ。だから何もできなかったのではなく、何があってもいいように備えていたんだよ」

 

 蛇川ちゃんとオールマイト先生からのフォローに、青天の霹靂とでもいうような表情を浮かべた後、お礼を言って下がったわ。でも先生はああは言ったけど、今回は実質蛇川ちゃん単独の蹂躙劇だった。ひとつ前の轟ちゃんは個性によるゴリ押しによる瞬殺だったけれど、蛇川ちゃんは水のように捉えることができないのに、更に網を張った蜘蛛のようで、手も足も出なかったわ。今考えても攻略法が思いつかなくて、正直言って八百万ちゃんがいてもいなくても結果は変わらなかったでしょう。

 

 そのあとはやっぱりMVPは蛇川ちゃんになって。それから行われた4、5戦目もつつがなく終了。大けがをして保健室に運ばれたのは緑谷ちゃんだけだったわ。

 

 そうして初めての戦闘訓練は幕を閉じたの。

 

 

 

 




オリ主の容姿とかを説明する機会を逃したのでここで。

蛇川 瑞樹(妖・蛟)
おかっぱのような髪型に、後ろにひと房分腰まで髪が垂れてる。前髪はV字。髪色は水色がかった薄灰。
女性の胸は大きい方が理想的と勘違いしているので、巨乳。

作中で”本体”という表現を使用しているが、実は体内に拳大のコア、心臓部といえるものが存在し、これが破壊されれば死ぬ。なので完全物理無効マンではない。
また、コア内部には50mプール程の水が貯蓄可能、コアを通して出し入れができる。

いつかイラスト書いたら載せたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。