先天的(転生)TS女子と、後天的(あさおん)TS女子による百合のようなナニカ 作:レズはホモ、ホモはレズ
お待たせ、第3話しかなかったけどいいか……
……ファッ!?(評価+日刊ランキングを見ながら)
いつの間にか物凄いことになっていて嬉しさ半分プレッシャー半分で胃が痛い作者です。
皆さん。改めて感想、評価、お気に入りなどありがとうございます。誤字報告なんかも頂きまして、この変態的な小説をちゃんと読んでくれてるんだなと思えて喜ばしい限りです。
そして、ここで皆さんにお詫びを。
第1話にて、明乃があさおんした日を深く考えずに『土曜日』と設定していましたが、そこを日曜日に変更しようと思います。
このペースで書くとグダることが予想できましたし、何より、早いこと明乃くんちゃんを学校に行かせたかったので……お兄さん許して。
それでは、少し前書き長くなりましたが、どうぞ。
「…………」
「…………」
明乃も、オレも、どちら共々言葉を発さない。それはまさしく、静寂が響くとでも言うべき、長い長い沈黙。
お互いの胸がものっそい当たってた件についてではない。
そっちの話はとりあえず、明乃の精神が著しく弱っていたとはいえ、突然抱き着くという奇行をしたこと。そして、オレがあのタイミングであまりにも空気を読まない言動をしたこととで、2:8で責任があるということで決着がついた。
オレが八割方悪いことになったのはいまいち納得しかねるが、じゃあ明乃が悪いのかといえばそんなこともない気がするので、仕方なく認めてやることにした。
「…………」
「…………」
まあそれはさておき、だ。
現在重要なのは、何故今この瞬間、この上なく気まずい空気が流れているのかということだ。
「────」
明乃は、面白いくらいに呆然とした顔をして、口をあんぐりと開けていた。その視線の先は──自身の部屋にあるクローゼットの中。
「……ふっ」
一方オレはというと、何のことは無い、明乃と一緒にクローゼットの中を覗いているだけだ。
何故なのかって? 単純にこの状況が面白くって『このままながめてるのもいいか』状態なだけである。さっきの反省? してねぇよ。
「なあ、碧葉」
「くく、なんだね?」
「……
これまでにない、死にそうな掠れた声でオレにそう聞いてくる。というか、あさおんした時以上に深刻そうな声なのは気のせいだろうか。
明乃がコレといって目線で示したのは、さっきまで呆然と見ていたクローゼット。その中には、当然ながらいくつかの服がハンガーに掛かっている。
明乃が元からよく着ていた、黒を基調とした普段着だったり。ちょっとキッチリした襟付きのシャツだったり。
だがしかし、そんな一見普通のクローゼットの中でも最も存在感を放っていたのが──ウチの学校の女子用の制服である。
女 子 用 の 制 服 で あ る。
「どうって……変態だな!」
「だよな。俺っていつのまに女子生徒の制服持ってたんだな。というか俺の制服はどこ行ったし」
冗談交じりにサムズアップして答えてやったら、ツッコまれなかったでござる。ははーん、さてはめっちゃ混乱してるな?
だが甘いぜ、明乃よ。オレの目は更なる問題のブツを見つけてしまった。
オレはクローゼットの隅に置かれた半透明の収納ボックスに目を向ける。うっすらと中に何が入っているのか分かるようなものだ。
「おう、見ろよこの収納ボックス。中に入ってるの下着じゃね?」
「あ、ああ、そこには俺の下着が……というか男の下着をあんまり見るんじゃ──」
「いんや、どう見ても女物だわコレ。しかも上下あるぞ」
「────」
明乃は死んだ目で天井を見上げた。その姿は誰がどう見ても悲しみを背負っているとしか言いようのない絶望を表現していた。
流石のオレでもちょっと哀れに思えてくる。いつの間にか自分の制服と下着が異性のものとすり替えられていたら、そら死にそうになるわ。
「いやー! まさかお前がもう女物の下着を持ってたとはなー! こりゃあオレがわざわざ買ってきた意味もなかったなー! なー!」
あまりにもひどい有り様だったので、気を紛らわそうと慰めの言葉を掛けてやる。え、煽りじゃないかって? これが碧葉式の慰めである。
そもそもの話、どうしてこうなったのかと言えば、遡ること数分前のことだ。
お胸の件のあと、暫く経って落ち着いてきた明乃と、結構マジでシバかれて痛がってたオレ。
そんな中、立ち直りつつあった明乃の方から、あさおんしてしまった現状、これからどうしようかと現実的な意見を求められたのである。
まあ親友として、今後の生活はいろいろと補助してやろうと考えていたのだが、ここでひとつ思い出したことがあった。
──そういや、明乃の母さん、お前のこと女の子って言ってたぞ。
──は?
──女の子なんだから、身体に気を付けて欲しいとかなんとか。
──は?
──多分、今のお前、初めから女だったことになってるっぽいぞ。
──……は?
何でもないことのようにサラッと言ってやったのがいけなかったのか、明乃はオレの言葉にフリーズしていた。
実際(まあ二次元の話だが)、あさおんというものにも幾つか種類があり、その中のひとつとして、『ある日突然、自分が初めから女の子だったことになっていた』というシチュが存在する。
言い換えれば現実改変、とでも言うべきシチュだろうか。
そういう場合は、得てしてあさおんした人物と特別親しい者だけはその変化を認識しているというお決まりのパターン。そして、もう一つのお決まりといえば──ある程度の女性用グッズが既に
といったことを、あさおん初心者たる明乃ちゃんに丁寧に説明してやったのだが。
うん、絶対半分も分かっていなかったわ。アレは。
まあそんなこんなで、さっさと確認した方が早いでしょと言いくるめ、部屋を調べてみることになった。
しかし、軽く確認したところだと、明乃の部屋はやはり全く変わっていなかった。至って普通の男の部屋というのに変わりはない。
それで、一番変化があるとするなら、ここだろうとアタリをつけて、クローゼットを調べることになったのだ。
──で、この有り様である。
「まあいいじゃねえか。別にお前が盗んだわけでもあるまいし、『初めからここにあった』ってだけだろ」
「……まさかお前の言った通りとはな。いや全然分からんが、実際ここにあるんだからもうあり得ないとか言ってられねぇ」
「お? ようやくあさおんを受け入れ始めたか?」
「…………もう、諦めたってのが近いな」
気のせいか、いつの間にか随分と窶れた顔になったように見える。
だがまあ、諦めるというのは懸命な判断だと思う。
『論理的にありえない』とか言って膝抱えて現実逃避されるよりは、とても前向きだ。
だって、あさおんというそれ自体が非現実的なことなんだし。なってからアレやコレやと言っても、現状は変わらない。
「──まあそれに、よく考えてみれば……」
「ん? どったの明乃」
明乃はふと、オレの方をちらりと見た。どうしたのかと首を傾げてみせれば、あいつは「いや、独り言だ」と言って誤魔化すように頭を振る。うーん……?
「……ハッ! まさかお前、女の子になってしまった今、合法的にあんなことやそんなことができる事に気付いてしまったか……!」
「それはお前だろ。いや、元々女なだけに余計に質が悪いか……」
このムッツリさんめ! って感じで身構えつつ距離を取る。まあそりゃあ、あさおんしたら、大体の男共はそう考えるだろうな。だってオレがそうだしな!
「……まあ、冗談は置いといて。とりあえず、これから女の子として生きていくには多分問題ないだろ。この分じゃあ、生理用品とか諸々もあるだろうし」
「いや、オレ使い方とか分からんぞ……というか、そうか。そういうのも必要になってくるのか……」
「使い方教えてやろうか? 手取り足取り、じぃーっくりと教えてやるぞ? しかも今なら実践方式でなぁ?」
ニヤリと目を細めてそう言ってやると、ちょっと変な想像をしてしまったのだろう。明乃はみるみる内に顔を赤くして慌てふためいた。やだ、かわいい。
「そ、それは流石に──っ! ネットとか見て調べるから要らねぇって!」
「ええー? ほんとにござるかぁ?」
「というか、お前に教えて貰うとぜってーロクなことにならねぇ! さっきみたいなセクハラかますつもりだろお前!」
「てへっ? バレちゃった?」
「バレバレだろ! 少しは隠す努力をしろ! いや違う、隠したら隠したで人知れず被害が……!」
「お前オレのこと見境なしの変態だと勘違いしてないか……?」
失敬な。オレだって見ず知らずの人間にセクハラなんざしないというのに。あくまで親友として、親切心から教えてやろうと思っていたのになー。まぁあわよくばとか狙ってるけど。顔が好みだから是非もないよネ!
「とにかくだ! そういうのは全部自分でやる! 手伝わなくていい!」
「え、制服もか? 一人で着れるか? 明日学校だぞ? 練習する必要あるんじゃないか? 例えば今とか? んん?」
「い……要らないったら要らない!」
「下着とか、お前着れるか? ブラジャーとか結構大変かもしれないぞ?」
「お前に任せる方が余計に不安だわ!」
うーん、悲しい。これは完全に信用されてないですわ。
しかし、そこまで言うなら仕方がない。オレも無理矢理するほど強情でもないし。
「はぁ……んじゃあ、そういうことで。明日、お前の制服姿楽しみにしてるぞ?」
「そ、それを言うな! オレだって、好きで着るつもりなんてないからな!」
まぁでも、この言い草だと、普通に学校に行くつもりなようだ。ちょっと安心した。
このまま塞ぎこんで、家から出ようとしないとかなったらオレも多少は気分が悪くなるし。腐っても親友なのだから、そうやって前向きに考えてくれるのは嬉しいものだ。
「……分かってるって、安心しろよ。お前は別にそういう趣味の変態でもないだろ」
ただ、そんなことを素直に言えるわけがない。
だって、それはオレのキャラじゃないし。
こいつはあさおんしてしまっても、結局これっぽっちも変わってない……むしろ結構平気なんじゃね、と分かって、ちょっと安心しているだなんて。
言ったらあいつ、ますますオレのこと変な目で見るんじゃないかね。
「んじゃあ、そろそろ帰るよ。今日の夕食当番オレだし、長居し過ぎると買ってきた食材が傷む」
「……あ、ああそうか。もうそんなに時間経ってるのか」
部屋の置き時計を確認する明乃をよそに、荷物を纏めて帰り支度をする。
ふと窓を見れば、既に太陽は落ちかけて、綺麗なオレンジ色の夕日が射し込んでいた。
「そいじゃ、また明日な。明日から女子高校生になる明乃ちゃん?」
荷物を抱え上げて、煽り文句を挨拶代わりにして明乃に背を向ける。そしてドアノブに手を掛け──
「碧葉」
──ようとした時。明乃の声が、オレを引き留めた。立ち止まって、何だよと振り返ったオレに、明乃は──笑った。
「その……結構、気持ち楽になった気がするよ。……改めて、ホントに、ありがとな」
「───」
……はは。そういやあいつ、さっきからずっと顔真っ赤だな。そんなんじゃ血圧上がって早死にするぞ?
「……ふん。気にすんなって。そりゃなんたって──」
ああ、それにしても、夕日が眩しい。この部屋の窓、西側だからかめっちゃ夕日が入ってくる。日の光が直に入ってきてるわ。
「──親友、だからな!」
だから、オレの顔がちょっと熱いのは、夕日のせいに違いない。
オレはいつだってテンション高めがデフォなのだ。真面目になる時は多少あれども、照れるなんてこと、そうそうあるはずもないのだから。
---
──翌朝。
オレはいつものように起床し、朝の支度をしていた。
月曜日という名の憂鬱デーに多少辟易しつつも、今日の授業に使う教科書やらノートやらを鞄に詰め込む。
そこでふと、昨日のことを思い出した。
明乃が、あさおんした。そんな事件(と呼ぶべきか微妙だけど)を。
一瞬、あれは実は夢だったりするんじゃないかと思って、携帯を取り出してメッセージアプリを確認する。だが、そこには依然として、昨日のやりとりが残っていた。
これは夢ではない。このメッセージのログは、あさおんが紛れもない現実なのだという証拠だった。
まあ、昨日じゃんじゃん頼れってオレが言ったんだ。困っていることがあれば、多少は手伝ってやろうかな。
でも、あいつは自分でやるって言ったし、もしかしたらオレの手助けはいらないかもしれない。ああいう時、あいつは意地張ろうとするタイプだろうし。
そう思っていると、手に持った携帯が突然震えだした。見てみれば、丁度たった今、明乃からメッセージが届いたみたいだ。
どうしたのだろうか。さっそくメッセージを確認する。
果たしてその内容は──
『すまん。一人で学校行くのちょっとしんどい。一緒に行ってくれないか?』
「…………即落ち2コマかな?」
使い方は間違っているかもしれないが、思わずそう呟いたオレは悪くない。……はずだ。
次回からようやく(TS明乃くんちゃんの)新しい学校生活が始まります。
いつになるかは……またもやナオキです。気長に待って頂けると嬉しいです。