反省はしているが、後悔していない。
プロローグ 天とも地ともいえぬ場所
「………えっ」
それは、唐突だった。
人はいとも簡単に壊れやすく、脆い。
その言葉を証明するかのように、一瞬で視界が目まぐるしく変わり
視界は黒く塗りつぶされたかのように途切れた……
それを『死』であると認識したのは……いや、認識する暇などなかった。
なぜならば……
………少年は、立っていた。
ただ、その場所は少年の知る『普通』ではなかった。
「どこだよ、ここ……」
視界に映る、白一色の場所。
下手に動けば迷うだろうし、動かなくても迷っているのは言うまでもないだろう。
いや、彼のみならず、目が覚めた時にこのような風景が広がっていれば、誰しもが『こんな迷いそうな場所に連れてこられたのは訳が解らないし、そもそも死んだはずなのでは?』……と思わざるを得ないのは言うまでもないことだ。
「えと……」
目をつぶり、これまでの記憶を思い返してみる。
今日は修学旅行の自由行動日。宿泊先のホテルを出て、班の仲間たちといろいろ歩き回って、買い物をして……目の前に飛び込んできたトラックの光景が自分の中での最後の記憶だ。
いや、記憶の状況から察するに、『最期』というのかもしれないが……青信号ということを念入りに確認して渡っていて、この有り様である。
「不条理での事故死……はぁ」
ここにいるとなれば、最早現世に戻れる確率はほぼ0……正直、ため息しか出ない。仮に生きていたとしても、残りの人生を寝たきりで過ごすことを覚悟せねばならないだろうが……
となれば、ここは大方死後の世界……ただ、イメージしていたものとはだいぶ違うので、場所の目途すら立たない。
自分の知る知識では、天国か地獄にそのまま行くものであると思っていた。だが……こんな空間など、聞いたことすらない。地獄だと言えば納得は出来そうな話ではあるのだが……自分の置かれた状況に困惑を隠せずにいる少年。
だが、そんな事情はお構いなしとばかりに事態は進むわけで……
『あれ?珍しいお客さんもいたものだね。』
自分の背後から聞こえた声…その方向を振り向くと、一人の少女がいた。先程までそう言った気配すら感じなかった。
最早、何が何だか解らない……某アニメの『わけがわからないよ』という台詞が頭を過った。
「えっと……」
『はじめまして、四条輝(しじょうあきら)君。私がこの場所、<白(はく)の礎>の管理者にして神、クロノスだよ♪』
あっけにとられる少年をよそに、朗らかな感じで自己紹介をした少女。
……え、神様?自分で神様って言いませんでしたか、この子?しかも、こっちは自己紹介していないのに、何で知っているの?
こちらが困惑していると、向こうも段々困惑した表情になっていった。
『あれ、もしかしてまたすべっちゃった?ううっ、やっぱり私はこういうのに向いてないんだ……』
「えと、そこまで卑下しないでください。俺自身、何でここにいるのか解らないところに急に現れたもので……」
嘘は言っていない。死んだと思いきや非現実的な場所に飛ばされて、唐突に現れた目の前にいる少女が『神様』だと言われたら、誰だって困惑する。俺自身、困惑している。もはや非現実という言葉を理解するしかないのだと、ある意味悟りの境地に入りかかっていた。
『えへへ、そっか。それじゃ、説明に入っていいかな?』
「ええ、お願いします。」
俺のフォローで気分が治ったようで、先程の自己紹介の時のような明るい表情に戻っていた。何はともあれ、この状況の説明をしてくれるようで、俺にとってはありがたかった……次に、彼女の口から出た言葉に驚愕したのは言うまでもないが。
「えと、まずはこの場所だけれども、天国でも地獄でもない入り口なんだ。」
「天国でも地獄でもない場所……?」
この時点で意味不明である。いや、自分の感性からすれば天国と地獄という“死後の概念”をそれしか持っていない以上、理解が追い付いて行かないというのが正しいのであろうが。そう考えている間にも、説明は続く。
「この場所は『思い描く世界を変えたい』という思いが持つ人を拾い上げる場所。つまりは、空想の世界の歴史を自分の意思で作り上げることができる……頑張ればの話だけれども」
『歴史を作り上げる』……話を聞くだけでも、十二分にすごい場所なのだろう……空想の世界の歴史というのは、とどのつまり、自分の考える空想の世界……アニメやゲームの世界の事であろう。そう思って少女を見やると、彼女は静かに頷いた。つまりは正解と言うことらしい。
「あれ?そしたら、『この世界で有名になりたい』とか思ってる人もここに来れるのか?」
「ううん……ここに来る人は転生前の世界で『予期せぬ事態で命を奪われた者……誰しもが納得しえない終焉を迎えた人』だけ。ま、端的に言えばそういった場所や力とは無縁の人が来ることが多いよ。」
ああ、あの事故で『納得しえない』と思ってくれた人がいるから、ここにいることができるってことか。権力とかの力を有する人間は誰かしら恨まれていることが多い……そういった人間は天国か地獄しかないのだということを付け加えた上で説明を続けた。
『で、君はこれから転生するわけなんだけれど…世界については君の記憶で良く知っている世界にしたから。』
「どの世界です?」
『細かいことは秘密だよ。ごめんね、これは規律だから』
神様にもしがらみみたいなのがあるのか……まぁ、どの世界にしても、今度はちゃんと生きられそうだし………そう思って俺は納得した。
「そうですか……まぁ、そちらも忙しいでしょうし、遠慮なくどうぞ。」
『………』
「どうしました?」
吃驚しているクロノスと自己紹介した少女……その光景に俺は首を傾げるが、クロノスは何かを決意したかのように話し始めた。
『……決めました。君に色々能力を付与しました!君が頑張れば、その力もパワーアップしていくよ。』
「能力ですか?」
命とか削ったり、一定期間五感が無くなるとかのデメリット付きは流石にまずいが……
『デメリットはないよ。えっと、君に付与したのは……』
・鍛えれば鍛えるだけ強くなれるよ(レベル限界突破)
・アイテム消費はないよ(アイテム無限所持)
・転生前に覚えている空想の世界の武器や事象を具現化できるよ(空想の具現化)
・??、????(転生先の都合により、機密事項です)
「最後のはともかくとして、3つ目のはデメリットありそうな能力ですが……」
『基本的にデメリットはないかな。ただ、具現化自体には一定のレベルまで(現在のレベル)×1分という時間制限はあるから。その制限は1日ごとにリセットされるよ。』
経験稼ぎでレベルが上がった場合、その時点でそのレベル分延長されるらしい。
どれぐらいの事象まで耐えうるのかは検証の余地があるけれど。
『ま、能力はそんな感じかな。転生前の記憶自体は一応保持されるから。あとは、何か聞きたいことはある?』
「年齢ですね。あと、転生先での名前は……」
『う~ん、ちょっと待ってね………一応8歳ぐらいで考えているけれど、大丈夫?あと、名前は自分で考えてね♪』
「ま、それでいいです。」
転生させてもらえる側としては、ここまでしてもらえるだけでも願ったり叶ったりだ………能力面は完全に予想外だったが。
『うぅ~、よかったよぉ……』
って、突然泣き出した!?
「え、ど、どうかしました!?粗相でもやらかしましたか!?」
『ち、違うの。初めてちゃんと話を聞いてくれる人がいて、嬉しかったの。今まで担当したのだと、いきなりセクハラしてきたりとか、チートにしてくれとか……』
「それを言うと、俺もかなりのチートなのですが……」
『だって、生まれ変わるのにそこら辺の話を真っ先にしないなんて吃驚しちゃったから……奮発しちゃいました。』
………何だかんだで苦労してるなぁ、この神様。俺に付与した物を見る限りだと、かなりの能力……よほど嬉しかったんだろうなぁ、と思いつつ彼女に感謝した。
『じゃあ、この気持ちは≪形≫にして向こうに転送したから。それじゃ……転生先の世界で幸あらんことを』
そう呟くと、俺の視界は真っ白になっていった。
次に目覚めた時には、転生先の世界にいる……そのことを信じて。
導入部なのに、原作要素ありません。次回からは出していく予定ですので、勘弁してくださいorz