~グランセル城内 客室~
正遊撃士になった日から一夜明け……ベッドで眠っていたエステルは窓から差し込んでくる光で目を覚まして、起き上がった。
「ん~~っ、よく寝たぁ~~っ!……あれ………」
起き上がったエステルは周囲の風景を見て、首を傾げた。少なくとも、自分がいた場所とは違っており、考え込んで昨日の記憶を手繰り寄せ始めた。
「えっと……あたし達、昨日はお城に泊まったんだっけ。ヨシュアとお祭りを回って、帰りにアイスクリームを食べて、夜は父さんと一緒に晩餐会に出て、それで……う、嘘………」
昨日の行動をエステルはどんどん思い出していき、そして空中庭園での出来事――ヨシュアとのことも思い出した。あたし、空中庭園でヨシュアといたはずじゃあ………その意味も込めて、信じられない表情で呟いたエステルはベッドから飛び起きると、部屋を確認した。
「ここ、ヨシュアと父さんの部屋だ。確かあたし、シェラ姉と同じ部屋だったはず……えっと、どこからが夢なんだろ……あ……」
そうやって自分の身の回りを確認した……そして、ヨシュアが持っていたはずのハーモニカを自分が持っている事実……ヨシュアとの出来事は『夢』ではなく、『事実』だということを認識するのにそう時間はかからなかった。
「ヨシュアっ!!」
ヨシュアがいない―――それを認識したエステルは気持ちの赴くがまま動き……気が付けば部屋を飛び出していた。
~グランセル城 廊下~
「あら、エステル。ずいぶん遅いお目覚めね。」
「シェラ姉……」
「まったく、昨日はいつまで経っても帰って来ないから心配しちゃったわ。でも、その様子だとヨシュアと色々話せたみたい―――」
「シェラ姉、ヨシュアは!?」
「へ……」
部屋を飛び出て辺りを見回しているエステルに別の部屋から出て来たシェラザードが声をかけて来たが、焦りの表情を覗かせつつエステルに迫られ、シェラザードは戸惑った。
「ヨシュアを捜してるの!シェラ姉、見かけなかった!?」
「今朝は見かけてないけど……ていうか、あんた昨日は疲れてそっちの部屋で眠ったんでしょう?起きた時にはいなかったの?」
「え……!?あたしが疲れて寝たって……そ、それって誰から聞いたの?」
シェラザードの話を聞いたエステルは驚いて尋ねた。少なくとも、疲れて眠ったわけではないのだが……その言葉を発した人物をシェラザードは述べた。
「先生からだけど……」
「と、父さんが!?それじゃあ!父さんは見かけなかった!?」
「先生なら、さっき階段を登って空中庭園に上がって行ったけど……」
「!!!」
シェラザードの話を聞き終わったエステルは、一目散に空中庭園へと走って行った。
「あ、ちょっとエステル!?……どういうこと……?……逆位置の『恋人たち』……」
エステルの行動に首を傾げたシェラザードは一枚のタロットカードを取り出し、真剣な表情で呟いた。そして、その意味とエステルの慌てようから、大方の事情を『察してしまった』シェラザードだった。
~グランセル城 空中庭園~
「あ……」
空中庭園に到着したエステルは、『ヨシュアの告白を聞いた場所と同じところ』にいる軍服姿のカシウスを見つけた。カシウスは自分の娘の気配に気づいて、声をかけた。
「エステルか。」
「と、父さん……あのね、大変なの……!」
「事情は判っている。ヨシュアは……もう行ってしまったようだな。」
慌てて事情を話そうとするエステルの次の言葉が『初めから解っていた』ようにカシウスは答えた。
「どうして……なんで父さんが知ってるの……?」
「昨日、軍議から帰ってきたらアスベルがお前を抱えて部屋に向かっていた。お前を俺がアスベルから受け取った後、まさかと思い俺とヨシュアの部屋に向かった。そして、テーブルにはあいつの書き置きが残されていた。それで大体の事情は分かるさ。」
「だ、だったら!だったらどうしてこんな所でノンビリしてるの!?早くヨシュアを捜さないと―――」
「―――止めておけ。」
慌てているエステルをカシウスは遮った。
「え……」
「あいつが『本気で』姿を消したら。たとえ俺でも見つけるのは無理だ。五年前……あいつに狙われた時、俺もかなり苦戦させられたからな。」
「………あたし、今までずっとこの質問はしなかったけど……ヨシュアって、何者なの?」
ヨシュアの事情を全て知っていそうな……いや、言動からするに凡そ彼の事情を知っているカシウスにエステルは尋ねた。
「『身喰らう蛇』―――そう名乗っている連中がいる。『盟主』と呼ばれる首領に導かれ、世界を闇から動かそうとする結社。ヨシュアはかつて、そこに属していたらしい。」
「『身喰らう蛇』……」
「正直、遊撃士協会でも実態が掴めていない組織でな。世間への影響を考えてその存在は半ば伏せられている。だが、それは確実に存在し、何かの目的を遂行しようとしている……今回のクーデターのようにな。」
「そ、それって……あのロランス少尉のこと!?それと、ルーアンとツァイスにいたあの連中……『執行者』と言っていた彼らもその一員ってこと!?」
カシウスの説明を聞き、思い当たった人物がいたエステルは慌てて尋ねた。
「ああ、間違いあるまい。もっとも、関与していたのはその少尉や二人の『執行者』だけではなかったはずだ……ある意味、ヨシュアも協力者の一人だったようだからな。」
「ちょ、ちょっと待って……それってどういう意味!?」
カシウスの話を聞いたエステルは信じられない表情で驚き、尋ねた。
「書き置きに書かれていた。ヨシュアはこの五年間、遊撃士協会に関する様々な情報をその結社に流し続けていたらしい。どうやら、自分でそれと知らずに報告する暗示をかけられていたそうだ。」
「そ、そんな……そんなことって……」
「正直、得体の知れない連中だ。深入りするのは止めておけ。」
「………あは……意味が分からないんですけど。それって……ヨシュアを放っておけってこと?」
『お前には荷が重すぎる』―――そう言いたげに放たれたカシウスの警告に、エステルは放心した。ヨシュアを……諦めろってことなのか、と。
「………」
「ねえ父さん!答えてよ!」
何も答えないカシウスに業を煮やしたエステルは怒った。
「いずれ……こうなる日が来ることは判っていた。五年前、ヨシュアが俺の養子になることを承諾した時。あいつは、ある事を俺に誓った。」
「ある事……?」
「自分という存在がお前や俺たちに迷惑をかけた時……結社という過去が何らかの形で自分に接触してきた時……俺たちの前から姿を消すとな。」
「………なにそれ……お母さんやアスベル達はその事……知っているの?」
カシウスの話――カシウスとヨシュアの『誓い』を聞いたエステルは固まり、その事実をレナや家族同然のアスベル達は知っているのかと尋ねた。
「レナやアスベル達は知らん。余計な気苦労を負わせる訳にはいかなかったし、何よりヨシュアも望まなかった。」
「………」
カシウスの言葉をエステルは無意識に拳を握って、聞いていた。
―――何、何よそれ……ヨシュアがいなくなるってことを、ヨシュアがあたしたちの家族になった日から……初めから知っていた……父さんも、ヨシュア自身も……お母さんやアスベル達、そしてあたしには………『知らされなかった』………
「お前の気持ちも分かる……ヨシュアとは、今まで家族として暮らしてきたんだ。簡単に割り切れるものでもないだろう。だがな……男には譲れない一線というものがある。だからお前もヨシュアの気持ちも分かって―――」
―――解らないわよ。ヨシュアの気持ちなんて……あたしはヨシュアじゃないもの……人の気持ちも知らないで、よくそんな簡単に……簡単に……
「……父さんは、知ってたんだ。」
「なに?」
「ヨシュアが、いつかあたし達の前から居なくなっちゃうかもしれないって……お母さんやアスベルたち、あたしには内緒で……………」
「…………すまん…………」
いつもの太陽のような笑顔をなくし、口元だけ笑い無表情のエステルに言われたカシウスは驚きつつも、続けて放たれた彼女の言葉に目を伏せて謝った。
―――割り切れ?諦めろ?……ふざけないでよ……何が『男には譲れない一線がある』なのよ……父さんの……父、さんの……
「父さんのバカぁっ!!」
目を伏せて謝るカシウスにエステルは涙を流して怒り、走り去った。そして走り去るエステルとすれ違ったシェラザードがカシウスに近付いた。
「エステル?……先生……」
「シェラザード……みっともない所を見られたな。」
「いえ…………」
「責めないのか、俺を?」
何も言って来ないシェラザードにカシウスは尋ねた。この状況では責められたとしても何らおかしくはない……そう思ったカシウスにシェラザードは笑みを浮かべて答えた。
「私も、『それなりの事情』があって先生のお世話になった身ですから……先生とヨシュアの気持ちはどちらも分からなくはないんです。」
「そうか……そうだったな。」
私も、あの場所から離れ……目の前にいる先生には世話になっていた。それに、彼の子であり……私にとっては『弟』のようなものであるヨシュア……先生の性格に似つつある彼の性格からしても、彼等の気持ちは……『男』としての気持ちと行動だということは理解していた。けれども……
「でも、1つだけ。女の立場から言わせてもらえれば、」
「うん?」
―――この目の前にいる『先生』と、姿を消した『弟』は何も解ってはいない。私は彼女の『姉』として、彼女の気持ちに向き合ってきたからこそ、私自身も憤っている。
彼女がその気持ちにどう向き合い続けたのか……それを本当に理解しているのかと……それすらも受取ろうとしなかった『弟』も、その様子を見続けてきたはずの『先生』も、私にとって……女としては、こう評する他ないでしょう。
「きっと、『男しての意地』なのでしょうが……この際ハッキリ言います。エステルの気持ちを考えなかった先生もヨシュアも『かなり最低』です。この場にレナさんがいたら、同じ事を言うでしょう……そして、アスベルも彼の『兄』としては先生に何も言わなかったでしょうが……怒っているでしょう。それも、かなりの勢いで。」
「………」
「あの子の気持ちに、ちゃんと向き合い続けた身として……『結社』の存在があるから、『諦めろ』とか『手を引け』とか言ったと思われますが……そのような言動は『無礼』という他ないです、先生。」
「待て、シェラザード……なぜ、そのことを知っている?」
責めるシェラザードにカシウスは『結社』のことを尋ねた。シェラザードは真剣な表情を崩さずに説明した。
「エステルがあの場を去った後、事情を知っていそうなアスベルに聞きました。エステルとヨシュアの間に何があったのか……そして、ヨシュアが『結社』に所属していたことも……」
「………」
「あの子の『親』としての先生の言葉は……エステルに『バカ』と言われても弁解のしようもない……エステルにとっては、これ以上ないぐらいに最低な発言です。」
これ以上ないほどに『女』としての正論を掲げるシェラザードの言葉に、カシウスは返す言葉もなく…黙るほかなかった……その頃、エステルは飛行船に乗って、ロレントに向かっていた………
~定期船セシリア号~
(僕のエステル……お日様みたいに眩しかった君。君と一緒にいて幸せだったけど、同時に、とても苦しかった……。明るい光が濃い影を作るように……。君と一緒にいればいるほど僕は、自分の忌まわしい本性を思い知らされるようになったから……。だから、出会わなければよかったと思ったこともあった。)
―――………あたし……ヨシュアのこと気付けてたの?『出会わなければよかった』って………あたし……
「アカン、アカンな~。」
「……?」
エステルはヨシュアの言葉を思い出し、今にも泣きそうな表情をしていた。そこに一人の青年がエステルに声をかけた。青年の声に首を傾げたエステルは振り向いた。エステルが振り向くとそこには七曜教会の神父の服装でいる青年がいた。
「澄みきった青空!そして頬に心地よい風!そんな中で、キミみたいな可愛い子が元気なさそうな顔をしとったらアカンよ。女神さまもガッカリするで、ホンマ。」
「えっと……」
青年の言葉にエステルは戸惑った。軽い口調でいきなり話しかけられれば、誰だって戸惑うだろうが……それも介せずに青年は言葉をつづけた。
「あ、ちゃうで?けっして怪しいモンとちゃうよ?ただ、乗船した時からキミのことが妙に気になってなぁ。なんか元気ないみたいやからオレの素敵トークで笑顔にしたろと、まあ、そんな風に思ったわけや。」
「………えっと……よく判らないけど、ありがと。」
何と言うか……身なりと口調からしても『怪しくない』という説得力自体が物凄く皆無で、青年の説明がイマイチ理解できなかったエステルだが、一応お礼を言った。
「ぶっちゃけナンパしとるんやけどね。どや、暇やったら下の展望台にでも付き合わん?ドリンク注文できるみたいやからお近づきの印に奢らせてもらうわ。」
「あ、あの……気持ちはありがたいんだけど……あんまり気分じゃなくて………ごめんなさい……」
「そっか。じゃあ、本業に切り換えた方がいいかな?迷える子羊導くのもお仕事やし。」
「本業……?」
「フフン、これや。」
隠すこともなく話した青年にエステルは謝るが、それを見た青年の『本業』という単語……それに首を傾げているエステルに青年は胸を張った後、自慢げに杯が描かれたペンダントを突き出した。
「え、それって……たしか七耀教会の……」
「ビンゴ、『星杯の紋章』や。オレはケビン・グラハム。これでも七耀教会の神父やねん。」
「へー、そうなんだ……って、冗談でしょ?」
青年――ケビンの言葉に頷きかけたエステルだったが、先ほどのケビンの口調もといナンパを思い出し、信じられなかった。
「なんでや?オレ、外見はこうでも、実はめっちゃ真面目な神父さんやで?三度の祈りは欠かしたことないし、聖典もほら、肌身離さず持ち歩いて……ゴメン、座席に忘れてきたわ。」
エステルの言葉を聞いたケビンは心外そうな顔をした後、証拠の聖典を出すために服の中を探したが、聖典が服の中に入っておらず、どこにあるかを思い出したケビンは気不味そうな表情をした。
「……説得力ゼロなんですけど……でもホント、おかしなお兄さんね。」
「あ!今ちょっと笑ったな?うんうん。やっぱ可愛い子は笑顔でないとな。そういう訳やから、よかったら神父として相談に乗るで。こればかりは本気や。なんやったら空の女神に誓うわ。」
「で、でも……どんな風に相談したら。あたし……んくっ………」
ケビンの言葉に頷いたエステルは、今にも泣きそうな表情で涙をこぼし始めた。
「え、ちょっと待ってや……何か知らんけど!ゴメン、オレが悪かった!」
「ひっ、えっ……うううう……あああああっ……うわあああああああああん……!」
慌てふためきつつも言ったケビンの謝罪が聞こえていないエステルは、その場で泣き出した。
「……よしよし、良い子や。今までガマンしとったんやな。気の済むまで泣いたらええよ。」
「うあああっ……!うわああああああああん……!」
ケビンはエステルの状態をそれとなく察し、慰めた。彼女の気が済むまで―――エステルはしばらく泣き続けた。
~定期船セシリア号 船内~
「えっと……ケビンさんだったっけ。ごめんなさい……みっともない所を見せちゃって。」
「ええて。女の子に胸貸せるなんて役得や。どや、ちょっとは落ち着いたか?」
「……うん。あたしエステル。エステル・ブライトっていうの。遊撃士協会に所属してるわ。」
エステルの謝罪にケビンは気にも留めず、寧ろお役に立てたことがありがたい、というケビンの言葉に頷いたエステルは自己紹介をした。
「エステルちゃんか~。名前もめっちゃ可愛いやん………って、遊撃士協会?(というか、エステル・ブライトって……まさか、こんなところで会えるとはなぁ……)」
「うん、これでも遊撃士よ。えへへ、あんなみっともない姿見たら信じられないかもしれないけど……」
「いや、そんなことないで。よく見たらそれっぽい恰好やし。やっぱ何かの武術をやってるん?」
ケビンはエステルの言葉に出てきた『遊撃士』という言葉に反応し、エステルは先程の様子からしたらそうは見えないであろうということを述べたが、ケビンは『人は見かけによらない』とでも言いたげにフォローした。
「棒術を少しね。後、最近は剣術も始めたわ…まだ実戦で使えるレベルじゃないけど。そういうケビンさんは本当に教会の神父さんなの?ぶっちゃけ、誰がどう見ても、そうは見えないんだけど。」
「あいた、その指摘はキツイなぁ。まあ、オレは巡回神父やからちょい毛並みが違うのは認めるわ。」
今まで出会ったことのある七耀教会の関係者とは全く異なる印象……その意味が込められたエステルの指摘にケビンは苦笑しながら説明した。
「巡回神父?」
「礼拝堂のない村ってあるやろ?そういう村を定期的に訪れて礼拝や日曜学校を執り行うわけや。ま、教会の出張サービスやね。」
七耀教会の巡回神父……礼拝堂ひいては日曜学校の有無……それ自体が識字率や時勢の情報格差に繋がるのを防ぐためのものである。そのお蔭でそれほど差は開いていないものの、少なからず格差自体があるのはどの国でも同じことではあるが、リベールに関してはそれほどの格差自体が存在しない。
「なるほど……そんな神父さんがいるんだ。ていうか、トワみたいな感じかな。」
「は?トワ?ひょっとして、トワ・ハーシェルとかいうシスター?」
「あ、やっぱ同じ教会の人だから知り合いなの?」
「知り合いつーか、前任者やな。トワと違ってオレは正式な後任者ってなわけや。まあ。礼拝堂勤めの神父と違って、法衣とかも適当なヤツが多くてな。きっとトワもそんな感じやったろ?そんなワケで大目に見たってや。(おいおい、なんで第四位“那由多”がリベールに来てたんや!?んなこと、オレは聞かされてへんし、あの総長……一言すらそのことを言わんかったで……!)」
エステルの口から出た人物――トワのこと聞いたケビンは内心彼女がリベールに来ていたことすら知らなかったため、とりあえず話を合わせることにした。
「うーん、まあいいか。それじゃあ、ケビンさんはこれからどこかの村に行くんだ?」
「や~、実はオレ、リベールに来たばかりなんや。巡回神父の手が足りんらしくて本山から派遣されて来たんやけど。」
「あ、そうなんだ。教会の本山って……どこにあるのか知らないけど。」
「大陸中部にあるアルテリア法国ってとこや。まあ、グランセル大聖堂の大司教さんに着任報告する前にちょいと観光でもしたろ思ってな。で、こうしてブラブラしてるわけや。」
「ガクッ……ダメじゃない。ホント、いい加減な神父さんねぇ。トワを見習った方がいいんじゃない?」
エステルがこれからの事を尋ねると……着任の挨拶よりも観光を優先……という、余りにも神父らしくないケビンに、エステルは呆れて溜息を吐いた。
実は、トワのこと……王国各地ではかなりの噂になっており、彼女の日曜学校は出席率が異常に高かったのだ。それは、彼女を怒らせることをその身で体感した『犠牲者』の存在がいるのも一つの要因ではあるが、それを差し引いても彼女の功績は大きいものであった。その功績を聞いたアリシア女王は、リベールを離れるトワに今までの功績を称える形で恩赦を与えた。その恩赦を素直に受け取ったトワは、いずれ『恩返し』することを女王に伝え、リベールを離れた。
「ええねん。いずれ巡回する場所の下見や。こうして、悩みごとがありそうな可愛い子と巡り会えたしなー。うんうん、これぞ女神のお導きやで。(せやけど、あの“那由多”が……まさか、他にも守護騎士がおるとか言わへんよな?)」
「まったく調子いいわねぇ。」
ケビンの調子のよさにエステルは苦笑した。その一方で、自分以外の守護騎士の存在がこの国にいるのかどうか内心気になっていたケビンであった。
「……でも、ありがと。泣いたらスッキリしちゃった。ダメよね、うん。ちゃんとヨシュアを信じないと。」
「へ……?(ヨシュア?……もしかして、例の?)」
エステルの口から出た突拍子のない言葉にケビンは首を傾げた。
「あ、ヨシュアって、あたしの兄弟みたいな男の子なんだけど。いきなり居なくなっちゃったからあたし、ちょっと驚いちゃって……」
「いきなり居なくなったって……それって、家出かなんかか?」
エステルの説明を聞いたケビンは驚いた後、真剣な表情で尋ねた。
「ううん、違う。一足先に家に帰っただけなの。だって家族なんだもん。勝手に居なくなるわけないんだから。」
「………(ひょっとしたら……オレは『糸口』を見つけたのかもしれんな。)」
笑って説明するエステルをケビンは真剣な表情で黙って聞いていた。
「でも、ホント失敗したなぁ。告白はタイミング悪かったかも。ヨシュアに会ったらうまい具合にごまかさないと……」
「…………なあ、エステルちゃん。」
「ふえっ?」
ケビンに話を遮られたエステルは驚いて声を出した。
「いや………あんな、オレさっきも言ったように観光中やから特に用事もないねん。せやから、ロレントって街で降りてエステルちゃんを家まで送ったるわ。」
「ええっ!?」
ケビンの申し出にエステルは驚いて声を上げた。そして飛行船はロレントの空港に到着し、エステルはケビンを連れて、ブライト家へ向かうことになった…………