英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第75話 福音の霧、廃墟の村

~遊撃士協会 ロレント支部~

 

ロレントに到着したエステルとシェラザードがギルドに入ると、受付のアイナが二人に気づき、声をかけた。

 

「戻ってきてくれたわね、シェラザード。それと、エステル。」

「お久しぶり、アイナさん。」

「悪いわね。結構留守にしてて……それで、王都から応援要請を聞いて来たけれど、何か急ぎの依頼でも?」

三人は挨拶を交わし、シェラザードはアイナに応援要請の内容を尋ねた。

 

「急ぎというか、二人に……とりわけエステルに頼みたいそうよ。頼んだのはアスベルだけど。」

「へ、あたしにアスベルから頼み事?」

S級遊撃士のアスベルがエステルに回す依頼……彼ならばそれぐらい楽に片づけるだろうと思っていたが、それを頼まれた側のエステルは少し困惑していた。その様子を見ながら、アイナは説明をつづけた。

 

「同行の依頼?」

「ええ。厳密に言えば協力員の派遣のようなものね。実力は保証するわ。」

「アスベルが保証するって、どんな人なのかしら……って、あら?」

協力員の存在……首を傾げつつ推測する二人の声に気づき、二階から降りてきた人物――見るからに誠実そうな性格の印象を受ける容姿を持つ少年にシェラザードが気付いた。

 

「えと、エステルさんにシェラザードさんですか?」

「ええ、そうだけれど。ひょっとして、貴方が協力員?」

「はい。リィン・シュバルツァーと言います。」

「あたしはエステル・ブライト。エステルでいいわ。歳も近そうだし、タメ語で。えと、リィン。それって太刀よね?」

シェラザードに尋ねられた協力員の少年――リィン・シュバルツァーは簡単に自己紹介をした。すると、彼の持っている刀に気づき、エステルが尋ねた。

 

「え?ああ。これでも八葉一刀流を修めてる。」

「八葉……アスベルやエリゼが使ってるのと同じなのかな?」

「へ?エリゼとは知り合いなのか?」

「うん、学園祭で知り合ったの。すっごく強かったわ。」

「そ、そっか……(エリゼ、一体何をしたんだ?)」

八葉一刀流……知り合いを引き合いに出したエステルの言葉――とりわけエリゼの名前が出たことにリィンが驚き、エステルとの関係について尋ね、エステルがその問いに答えた。その言葉にリィンは冷や汗をかき、エリゼのしたことの大きさが解らず疲れたような表情を浮かべた。

 

「確かエリゼ・シュバルツァーって後で聞いたから……ひょっとしてエリゼのお兄さん?」

「血は繋がってないけれどな。ともかく、よろしくなエステル。」

「こちらこそよろしくね!」

「さて、話を進めるわね。三人にはちょうど依頼があるわ。」

一通り自己紹介が済んだところで、改めてアイナから『もう一つ』依頼内容が提示された。

 

「ミストヴァルトの調査?」

「えと、どういう場所なんだ?」

「ロレント地方の南東に広がる森ね。でも、そんな場所の調査だなんて……何かあったの?」

普段はあまり人の立ち入らない場所の調査……それにはいささか疑問だった。その意味を告げるようにアイナが言葉をつづけた。

 

「……アスベルとシルフィア、レイアが眠らされたの。そのミストヴァルトの調査でね。」

「なっ!?」

衝撃的な事実……手練れとも言うべき三人がなす術もなく昏睡させられたのだ。驚かないほうが無理というものだ。

 

「眠らされたって……命に別条はないんですか?」

「そちらはね。けれども、あの三人がいてそう簡単に不覚をとることは無い……となれば」

「何かあるってことよね……解ったわ。あの三人の分まで、頑張るわ!」

エステル、シェラザード、そしてリィンの三人は一度ブライト家に寄ってレナと色々話した後、ミストヴァルトへと向かった。

 

 

~ミストヴァルト~

 

三人がミストヴァルトに着くと、濃い霧で覆われていた。途中幻影のようなもので遮られたが、何とか切り抜けて最奥部……セルベの大樹にたどり着いた。

 

「あ、あれは……」

「ゴスペル……!」

「黒いオーブメント……っ!二人とも、気を付けてください!!」

ゴスペルを見つけたエステルは驚き、シェラザードは真剣な表情で『ゴスペル』を見ていた。そして、リィンもそのオーブメントに驚きを隠せなかったが、嫌な気配を察知して二人に声をかけた。

 

鈴の音が鳴り響き、そしてエステル達の目の前に霧がかかった後、大型の魔獣が二体姿を現した!!

 

「魔獣!?」

「この大きさ、半端じゃないですね!」

「森の中にいた奴とは比べ物にならないわね……後方に回るから、二人は食い止めて!」

「食い止める……ううん、きっちり倒すわ。」

「そうだな……シェラザードさん、支援をお願いします!」

「解ったわ……火の加護を……ラ・フォルテ!」

その姿に怯むことなく、武器を構えるエステルとリィン。その姿を見て、個々は二人に任せるのが最良だと判断し、二人にあらかじめ駆動させておいたアーツをかける。

 

「みんな、いくわよ!」

「ああ!」

「ええ!」

そして、エステルの号令でさらに能力を高める。

 

「二の型、疾風!!」

先んじてリィンが“疾風”を放ち、二体を怯ませると、

 

「それじゃ、行くわよ……迅雷撃!!」

超高速ですれ違いざまに打撃を叩き込む、“疾風”の動きを取り入れた棒術のクラフト『迅雷撃』が炸裂し、二体に大ダメージを与える。魔獣はすかさず攻撃を二人に繰り出すが、

 

「隙あり!!」

「てい!!」

その攻撃の軌道を見切、二人はカウンターを叩き込む。

 

「それじゃ、新アーツのお披露目と行きましょうか。シルバーソーン!!」

シェラザードは駆動させていたオーブメントを発動させ、二体は更なるダメージを負った。

 

「……いくわよ、特訓で磨いた新技よ!」

「終わらせる!」

その好機を逃さず、エステルとリィンはそれぞれ魔獣に近づき、とどめの一撃を繰り出す!

 

「あたしの必殺技、絶招!裏神楽!!」

「一の型“烈火”終式……深焔の太刀!!はあああああっ!!」

エステルが放ったのは前後六方向から同時に高速の突きを繰り出すSクラフト『絶招・裏神楽』、そしてリィンが放ったのは一の型“烈火”の終式……『深焔の太刀』が魔獣を直撃し、魔獣はあっけなく消滅した。

 

「ふう……でも、術者はどこに……」

 

『ふふ……なかなか頑張ったわね。それではみんなにご褒美をあげましょう。』

 

どこからともなく女性の声が聞こえて来た後、樹に嵌められてある『ゴスペル』が妖しく輝いた!

 

「!!!」

「な……!」

「しまった……!」

エステル達はなす術もなく意識を失った……

 

 

その頃、アガットたちはアルトハイム支部で一通り説明を受けた後、協力員として合流した面々と共に魔獣の調査をしていた。

 

 

~遊撃士協会 アルトハイム支部~

 

「それで、どうでしたか?」

「騒がしいというか、慌てた感じだったわね。何と言うか、余裕がないって印象を強く受けたわ。」

受付の女性――クリス・リードナーの問いに答えたのは正遊撃士“紫電”サラ・バレスタイン。彼女はクーデター事件後アルトハイムやレグラムの支部を中心に活動していたが、クリスのお願いでアガットたちの協力をしていた。

 

「攻撃の仕方も荒々しかった……普通じゃないのは確かだろうな。」

「確かにね。優雅さとは程遠い振る舞いと言わざるを得ない。」

そう評したのは『協力員』……ラウラの兄であるスコール・S・アルゼイド、そしてオリビエ・レンハイムの姿だった。

 

何故オリビエがここにいるのか……それは、ある調査のために親友の目すら盗んで内密にアルトハイムまで来たのだ。

 

「確かにそんな印象は強く感じましたね……あれ、アガットさん?どうかしたんですか?」

手ごたえとして強くなっている印象もぬぐえないが、それ以上に焦燥感が漂っていたと評するのはアネラス。だが、アガットは別の事を考えていた。

 

「……クリス、一つ聞きたい。ここから南西にあった村……『ハーメル』のアレは何だったんだ?」

「!!………行ったのですか、あの場所に?」

「厳密には、小高い丘から見たんだが……まるで廃墟のようになっていた。俺も何回かは足を運んだことがあるからな。それで、どうしてああなったんだ?」

アガットが見たハーメルと呼んだ場所の廃墟……十年前まで普通に存在していたはずの村だったはず……アガットはそれを尋ねた。

 

「すみません……そのことについては外交問題にかかわるので……」

「やっぱりか。」

「やっぱり、って?」

クリスの答えにアガットは想像通りの言葉が返ってきたことに対して冷静に答え、何が何だかわからないアネラスはアガットに質問をした。

 

「以前にもモルガンのおっさんに問いかけたことがあったんだよ。『外交問題になる故、答えられない』……それと似たような答えには怒りを通り越して呆れるばかりだ。」

……自分でも、よく覚えていると思った。いや、忘れられるわけがない。俺にとっては自分の生き方を決定づけたあの日の出来事を……交流のあったハーメル……あの『戦争』以降、連絡が不通となった村……嫌でも、一つの可能性が頭を過る。

 

「ま、深くは聞かないでおくことにする。で、だ。俺らはどうすればいい?」

「そうですね。ここでの調査は一段落しましたし……アガットさんらはボースに向かってください。応援要請が丁度来ていましたので。それと、ジンさんとティータさんが協力員としてアガットさんらの手伝いをします。」

「はあ?ジンの旦那は解るが、なんでチビスケが?」

「それはですね……」

クリスが言うには、ラッセル博士が忙しくて手が離せないため、実績のあるティータが代わりにボースへと赴くこととなり、護衛としてジンが一緒についてくることを説明した。

 

「……まあいい。チビスケだって覚悟しての事だろうし、とっとと行くとするか。」

「フフ、素直じゃないね。ティータ君の可愛さは認めるところではあるけれど。」

「へぇ~、今やA級の遊撃士になった怖いもの知らずで唯我独尊を地で行くようなアガットがねぇ……」

「ほう、詳しく話を聞きたいな。」

「う、うるせえぞお前ら!!」

三人のからかいにアガットは狼狽えつつも反論を許さず、一足先にギルドを出た。他の人達もアガットを追い、五人はボース行きの飛行船に乗った。

 

 


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