英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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今回の話ですが……地名以外、軌跡シリーズ要素ほぼ皆無です。


第76話 夢での対話

 

エステルらがロレントに着く前……ミストヴァルトの調査に赴いたアスベル、シルフィア、レイアは不意を突かれる形で眠らされた。本当に不注意ではあった……視界がきかないところでの調査――まさか、という可能性を信じていなかった自分のミスであった。

 

 

~????~

 

「………ここは」

目を覚ましたアスベル……そこは、転生する前によく見た光景……自分がまだ『四条輝』だった時の、自分の部屋だった。そして、自分の姿は転生前の自分の姿だった。

 

「(リアリティーのある夢……にしては、具体的過ぎる……)」

アスベルがそう思っていると、扉が開いて一人の人物――義兄である青年が姿を現した。

 

「おはよう、輝。いつも通り早起きだな。」

「恭也兄さん、おはよう。」

……とりあえず、様子を見るためにいつも通りの生活を送ることにした。

 

伯父と伯母、義兄と義姉、そして義妹……既に両親すらいない俺にとっては、温かい家族……転生前の生活そのものだった。

 

「………」

そして、通学風景もあの時と変わらない………更には………

 

「う~っす。」

「あ、輝!」

「まったく、奥方がお待ちかねあだっ!?」

「余計なこと言わないの!」

変わらない学校の風景。教室に入ってきた俺を待っていたのは、沙織、詩穂、拓弥の三人だった。この風景も変わらないものだった。

 

「あはは……そういや、悠一は?」

「柚佳奈に追いかけられてる。」

「またか……」

騒がしくも仲の良い一同。そして、会話は学校祭の話……本当ならば、修学旅行の後に参加できるはずだったもの……になった。

 

「でね、トールズ士官学院の『あの衣装』をイメージして作ることにしたの。」

「おお、あの格好か……」

「私としてはトワ会長のような衣装が良かったんだけれど……」

「お前なぁ……」

「沙織、流石にそれはないわよ。」

本当に懐かしい会話……本当であれば、この世界にずっといられたらそれこそよかったのだろう……けれども、

 

「……輝?」

「悪い……俺、やるべきことがあるから、先に帰るな。」

「え?って、ここ三階だよ!?」

その言葉を無視し、三階の窓から飛び降り……左手に刀を顕現させ、右手でそれを抜くと、

 

「はあっ!!!」

その空間を――――断ち切った。

 

すると、今度はブライト家の光景。自分の姿もアスベルのものに戻っていた。そして、家の前にいる人物――彼もまたアスベルと瓜二つの姿をしていた。

 

『……残念だね。折角いい夢を見させてあげようと思ったのに。』

「冗談キツイな……だが、人の思いに土足で踏み込んでくれやがったな。」

そう不敵に笑いながら喋る人物。その光景に虫唾が走ったアスベルは刀を向けた。

 

「……ずっと不自然に思っていた。いくら転生するとはいえ、赤ん坊ではない状態からスタートするのはな……下手すりゃ、『盟主』に目をつけられかねなかった。それと、話を聞いた限りでは俺のように転生したのはシルフィアのみ………」

世界の摂理……いきなり異世界の人間が転生すれば、得体のしれない『結社』の盟主に気付かれてもおかしくない……だが、それはなかった。同じように転生したシルフィアも同様だった。となれば、考えられる可能性は一つ……『元々この世界にいた誰かに魂が埋め込まれた』である。

 

「お前は一体誰だ……それと、何故俺を引き留めようとした。」

『その質問に答えてもいいけれど……それは、君の敗北をもって教えてあげるよ!』

「!ふっ!!」

アスベルと瓜二つの人物は刀を振りかざし、アスベルも刀を振るう。

 

『僕の名前は……そうだね、さしずめ『クレイン』と名乗らせてもらうよ。』

「クレインね……俺の目覚めを妨げるっていうんなら、押し通るまでだ!!」

アスベルとクレイン……同じ姿を持つ二人が、互いの事情を賭けて戦う!!

 

『二の型“疾風”!』

「こちらも……裏・疾風!!更に、『深焔の太刀』!!」

『ふ……奥義、天神絢爛!!』

「奥義……御神渡!!」

互いに放たれる高速の剣術……その実力は伯仲していた。まるで鏡の如くその実力まで完全にコピーされたかのように………そして、三十分後……

 

「はぁ、はぁ……」

『フフ……解ってもらえたかな?僕は君に勝てないってことを。』

片膝をつくアスベル、一方平然としているクレイン。クレインは近付き、アスベルに太刀を突き付けた。

 

『僕は元々この体の持ち主。そして、君は僕を鍛えてくれた…八葉一刀流も極めてくれた…一度は諦めかけた人生だけど、君にはここで死んでもらうよ。』

そう笑みを浮かべたクレイン。

 

 

―――死ぬ?俺が?

 

 

……そんなのは嫌だ。

 

 

俺には、まだやらなければならないことがある。

 

 

成し遂げていないことがある。そして、

 

 

 

今度こそ生き抜くと誓ったことを……曲げるわけにはいかない!!

 

 

 

「………我が深淵にて煌く紫碧の刻印よ、我の求めに応えよ。」

『!?往生際の悪い……』

そう呟くアスベル。『聖痕』の光にたじろぐも、すぐさまとどめを刺そうと太刀を振りかぶるが、

 

『があっ!?』

「………」

見えない太刀によって斬られた……そして、アスベルの瞳の色は紫色に染まる。

 

「………七天に座する至宝の一角よ、我の求めに応じ、我が剣となれ!!」

そう呟いたアスベルの両手に顕現したのは漆黒の小太刀。

 

『な、君が何故……』

「……いや、俺もダメもとだったんだが……どうやら上手くいったみたいだ。」

ある意味半信半疑の賭けだった……俺の中に眠る、クレインにはない力……クロスベルでガイを救った時の……聖痕を通して感じた『時』の力。俺の中に眠っているもう一つの『特典』……時空間を操る時属性、その力の頂点にあるアーティファクト……『七の至宝(セプトテリオン)』が一つ、時の至宝『クロスクロイツ』。その力を顕現させた小太刀――『至天兵装(してんへいそう)《天鎖斬月》』を構えた。

 

『…何故だ……何故君がーーー!!!』

「……恨みはないが、俺の全力を以てお前を天に返す。ハアアアアアア………!!」

太刀で襲い掛かるクレイン……その動きも介せず、アスベルは小太刀を構えて紫電の闘気を身に纏う………そして、『アスベル・フォストレイト』としてではなく、『四条輝』として、持てる力全てをクレインに向けて放つ!!

 

『極技、瞬皇け………っ!?』

「飢えず餓えず、天に還れ………」

 

 

―――御神流、奥義之極 『閃』

 

 

『ぐうっ!?』

躊躇いもなく放たれた斬撃……その太刀筋はクレインの太刀を破壊し、斬撃によってクレインの体から血が吹き出し、クレインは仰向けに倒れこんだ。

 

「………」

もはや戦闘などできない……それを察したアスベルは刀を“消して”クレインの方を見た。

 

『あははは……その力は僕でも使えない力……まさか、こんな状況で目覚めちゃうなんて……悔しいな。』

「……もしかして、なんだが……お前は、自分の名前がないのか?」

『!?』

「やっぱりか……」

悔しそうに涙を流すクレイン。それを見つつも尋ねたアスベルの問いにクレインは目を見開き、アスベルは自分の憶測が確信に変わったことに苦い表情を浮かべていた。

 

 

『……少し、昔話をしてもいいかな。』

「……ああ。」

『ありがとう……』

 

 

―――昔、あるところに一人の男の子がいました。その子は優しい両親に恵まれ、彼らの友人と健やかに過ごしていました。いや、過ごす筈でした。

 

 

―――しかし、その子は名前を与えられる前に連れ去られました。来る日も来る日も機械に繋がれ、不思議な色の薬を飲まされ……気が付けば、八年の歳月がたっていました。

 

 

―――ある日、とうとう命が尽きかけたその子を見て、大人たちはその子を森の奥深くに捨てました。精神はすり切れ、もう命が尽きかけた時……その子の中にもう一つの魂が宿り、奇跡的に息を吹き返しました。

 

 

―――そして、その魂が宿った子の本来の精神は眠りに就き、その代わりとして動いていた魂は次々とその子の悲願を叶えていったのです……

 

 

―――本来の魂が目を覚ました時、羨ましさと欲望が同時に込み上げました。そして……今回の事を機に、彼を永遠に眠らせようとしました。が……それも儚い夢でありました。

 

 

「………」

『ふふ……君なら気付いているはずだね。僕の言っている意味も。』

「最初のところ以外はな……どこに、手掛かりがある?」

『聖ウルスラ病院……』

「そっか……」

クレインの言ったことはすべて事実である……でなければ、転生の理自体も説明がつかない。すると、周囲の景色が白く染まり始める。

 

『………僕は、僕の魂はようやく還れる………アスベル・フォストレイト、ありがとう。』

「さっきまで襲い掛かって来た奴がそれを言うかよ………生きてやるよ。お前の分まで、きっちりとな。」

『うん………また、会えるといいね。』

「お前が望めばな。」

ま、いろいろ不器用なのはお互い様だった……ただ、それだけだった。そうして、クレインの姿は光となって消えていった。そして、アスベルの意識も引き上げられていった。

 

 

~ロレント フォストレイト家~

 

「ん……」

目を覚ますと、視界に映ったのは……

 

「アスベル!!」

「わっぷ!!」

シルフィアの姿……正確には彼女の胸に顔を埋められる形で抱きしめられた。

 

「よかった、よかったよ………」

「………」

あの、シルフィさん。早く離していただかないと私、本当に死んでしまいます。二重の意味で。

一分後、彼女の抱擁からようやく解放された。

 

「そ、その、本当にゴメンなさい……」

「いや、心配してたんだからその反応は嬉しかったしな……俺達が眠っていた後、どうなったんだ?」

「あ、それなんだけれど……」

どうやら、あの後……レイアがいち早く目を覚まし、続いてシルフィアが……そして、最後は俺らしい。ロレントの事件自体はエステルらが解決したらしく、彼女らはアガットらの手伝いをするためにボースへと向かったそうだ。

 

「……それじゃ、俺らも動くとしますかね。シルフィ、マリクとレヴァイスに連絡を。」

「了解だよ、アスベル。」

「さて……ん?シルフィ、一つ聞いていいか?」

「何?」

「誰が俺を着替えさせたんだ?」

「………」

シルフィアの返事を聞いたアスベルが服を脱ごうとすると、妙な感覚の違い……服装と下着の感覚が眠らされる前と異なることに気が付いたアスベルはそのことをシルフィアに問いかけると、シルフィアは頬を赤く染めて俯いた。それを見たアスベルは事情を察し、照れながらも感謝の言葉を述べる。

 

「あ~、その、ありがとな……」

「う、うん……わ、私、レイアに伝えてくるね!」

そう言ってシルフィアはアスベルの方を見ながらその場を離れようとした。ちなみに、部屋のドアは開いていない。つまり……

 

「あうっ!!……う~っ、いたいよぉ………」

ものの見事にドアにぶつかり、ぶつかった場所を押さえながらその場にへたり込んでしまう。

 

「………」

その仕草に『可愛いな』と思ってしまった自分が何だか恨めしかった。具体的には、超高層ビルの屋上からダイビングしたい勢いで自分を殴りたかった。何でそう思ったのかは、彼自身でも解らないことではあった……

 

 


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