英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第79話 聖天兵装

~廃鉱~

 

「アガット!ティータ!!」

「二人とも、無事?」

「ああ……お陰様でな。」

エステルらの問いかけにぶっきらぼうながらもアガットは答えた。

 

「しかし……君があの“剣帝”を上回るほどの技量を持っていたとはね……」

「……俺も、よくは解らねえが……きっと、今まで使っていた『相棒』が俺にとっての枷になってたのかもしれねえな。“重剣”……それに対する変な拘りって奴だ。」

オリビエの言葉には、俺自身もよく理解できていないと答えたアガット。今まで築いてきた遊撃士としての実績……“重剣”という自らの異名にどこかしら甘えていた部分があった……きっと、そのことに気付けたからこそ、アイツの……“剣帝”を少しでも上回ることができたに過ぎない、と。

 

「拘りねえ……にしても、アガット……その剣はどうしたのよ?」

「コイツか?……さて、俺もよく解らん……というか、俺自身何が起きたのかすら解らねえんだし……これ以上の追及は勘弁してくれよ。てか、お前は専用のブレードと銃があるじゃねえか。」

サラに『レーヴァテイン』の事を聞かれるものの、アガットもよく解らないと答えるほかなかった。何故なら、『自然と』使い方を知っていたかのように馴染んでいた……そして、アガットはペンダントに填められた石を見つめる。

 

(ミーシャ………どうやら、こいつはとんだ『お守り』だったみたいだ……ありがとな。)

 

(…………見事だ、人の子よ。)

「えっ!?」

「い、一体何処からですか……!?」

「俺らじゃねえ……となると、アンタか?」

エステルらの脳裏に聞こえてきた声……エステルとティータは驚き、その会話の主がここにいる“人”ではないことに気づき、アガットは竜のいる方を向いた。

 

(その通りだ……我が名は“レグナート”。この地に眠る竜の眷族だ。)

「え……」

「これは……貴方が喋っているんですか!?」

竜――レグナートの念話にリィンは呆け、アネラスは驚いた表情で尋ねた。

 

(私は、おぬしらのような発声器官を持っていない。故に『念話』という形で語らせてもらっている。おぬしらはそのまま声に出して語りかけるがいい。)

「そ、そうか……」

「ふえぇ~……」

「何と言うか、色々凄いな……」

「……竜と話すだなんて、色々ぶっ飛び過ぎよ……」

「あはははは………」

レグナートの説明にアガットは戸惑いながら頷き、ティータは呆けた声を出し、リィンは驚きつつも感心し、サラは本気で頭を抱えたくなり、アネラスはもはや笑いしか出てこなかった。

 

「こ、言葉が通じるのなら確認したいんだけど……。もう、あたしたちと戦うつもりはないのよね?」

(うむ、あの機(はたらき)に操られていただけだからな。よくぞこの身を戒めから解き放ってくれた。礼を言わせてもらうぞ。)

「あはは……ど、どういたしまして。」

レグナートにお礼にエステルは苦笑しながら受け取った。

 

「……礼はいい。俺たちがここまで来たのはてめぇを解放するためじゃねえ。これ以上の被害を防ぐためだ。」

(私が被害を与えてしまった街や村の事だな……意志を奪われていたとはいえ、確かに私にも責任があるだろう。さて……どう償ったものか。)

「ま、まあ、悪いのは『結社』の連中なんだし……ケガ人は出ちゃったけど、亡くなった人もいなかったし……誠意さえ伝われば許してもらえると思うわよ?」

アガットの言葉を聞いて考え込んでいるレグナートにエステルは慰めの言葉を言った。

 

(ふむ、『誠意』か。このような物で伝わるか自信はないのだが……人の子よ、もう少しこちらに近付いてはもらえまいか?)

「う、うん?別にいいけど……」

「……ったく、何だってんだ。」

そしてレグナートのはエステル達に念話である事を伝え、レグナートの念話に首を傾げたエステル達はレグナートに少しだけ近づいた。すると大きな金色の結晶がエステルとアガットの手に現れた。

 

「な……」

「わぁ……!」

「それは、金耀石の……!!」

突然現れた金色の結晶にアガットは驚き、ティータは目を輝かせ、リィンも驚きを浮かべつつ結晶を見た。

 

「金色の輝き……空の力を秘めた金耀石(ゴルディア)の結晶とは……流石、竜ね。太っ腹じゃない!」

「サラさん……」

「フフ、成程……これならば確かに“誠意”は伝わりそうだね。」

レグナートの行いに感心したサラ、その言動に引き攣った笑みを浮かべたアネラス、そして意味深な笑みを浮かべつつも、これならば彼の誠意も市民たちに伝わると率直に感じたオリビエだった。

 

(私が付けた爪痕の償いだ。どうか、おぬしらの手から街と村の長に渡してもらえぬか?)

「な、なるほど……。うん、そういう事なら―――」

「―――駄目だな」

「ちょ、ちょっと!?」

「アガットさん……」

(ふむ、やはり物では誠意は伝わらぬという事か?)

レグナートの頼みにエステルは頷こうとしたが、アガットは断った。その言葉にエステルは驚いた後ジト目でアガットを睨み、ティータは心配そうな表情で見て、レグナートは静かな様子でアガットを見た。

 

「そういう意味じゃねえ。この大きさだと………1つ、1千万ミラといった所か。1万分の1でいい。これと同じ結晶を寄越しな。」

「へ………?」

「犯罪でも絡まない限り、遊撃士を雇うのは有料でな。品物の運搬料だったら1000ミラ貰えりゃ充分だ。それさえ払えば引き受けてやるよ。」

「あ……」

「まったくもう……。素直じゃないんだから。」

(ふむ、そういう事か。それでは受け取るがいい。)

アガットの言葉―――自分たちはあくまでも『遊撃士』であり、ボランティアではない……その言葉にティータは安心し、エステルは呆れながら安堵の溜息を吐き、レグナートは頷いた後、アガットの手に小さな金色の結晶を出した。

 

「契約成立だな。この二つは、責任をもって村長と市長に届けてやるぜ」

(うむ、頼んだぞ。ふふ……しかし、銀の剣士と戦っていた時もそうだが……人間というのは、限りない可能性を持っているのだな。)

「なっ……」

「操られる前の事を覚えているんですか?」

(操られてはいたが、意識は残っていたからな……これだから、人間というのは面白い。)

「あ、あう………」

「あはは、意外とお茶目な所があるじゃない。」

レグナートの念話を聞いたアガットは驚き、リィンは尋ね……レグナートからの返答にティータは照れ、エステルは苦笑した。

 

(ふむ、そしておぬしらは……なるほど、道理で覚えのある匂いがするわけだ。“剣聖”の娘……そして、“剣仙”の孫だな?)

「へ……!?」

「おいおい、どうしてオッサンを知ってやがる!?つーか、“剣仙”って確かオッサンの……」

「ユン・カーファイ師父のことを知っているんですか?」

「お、おじいちゃんが竜と知り合い!?」

レグナートの念話を聞いたエステルはレグナートがカシウスを知っている事に驚き、アガットは驚きながら尋ねつつも“剣仙”の言葉に首を傾げ、それに反応したリィンが尋ね、アネラスに至ってはレグナートとユンの関係性に驚いていた。

 

(20年前……眠りにつく時、最後に会った人間達だ。剣の道を極めると言って挑んできたのだが……いまだ壮健でいるのか?)

「う、うん。ピンピンしてるけど……父さんがまさか竜とまで知り合いとは思わなかったわ……」

「俺も驚きだよ……師父、そんなことを一言も言わなかったし……」

「私がおじいちゃんの非常識を一番垣間見てるんだけれど……」

「……アンタらの師匠、いろいろ非常識ね。」

レグナートの問いに答えつつ……“剣仙”と“剣聖”……その教えを継いだ三人の使い手たちは二人の非常識さに頭を抱えたくなった。そして、それを傍から見ていたサラは少しばかり同情した。

 

「ねえ、レグナート。ちょっと聞いてもいいかな?」

そしてエステルはある事を思い出し、レグナートに尋ねた。

 

(ふむ、なんだ?)

「あなたに『ゴスペル』を付けたのは、あのレーヴェっていう男なのよね?“実験”とか言ってたけど……一体、何の実験だったか分かる?」

(ふむ……誤解を解いておくが。漆黒の機(はたらき)を私に付けたのは、あの銀の剣士ではない。『教授』と呼ばれていた得体の知れぬ力を持つ男だ。)

「ええっ!?」

「なんだと……!?」

レグナートの説明を聞いたエステル達は驚いた。

 

銀の剣士――レーヴェは、『教授』の供としてここに現れ……そしてレグナートが暴走してからは、被害が大きくなりすぎぬよう様々な手を尽くしたらしい。レーヴェが暴走を抑えなければ……レグナートは街や村を破壊し尽くすまで止まらなかったに違いない、と推測も交えつつ説明した。

 

「う、うそ……」

「野郎……どういうつもりだ。」

レグナートの念話を聞いたエステルは信じられない表情をし、アガットはこの場にいないレーヴェの真意がわからず、考え込んだ。

 

(そして、『教授』の目的はただ1つ。あの機が私に効くかどうかを見て完成度を確かめたかったのだろう。“輝く環”の“福音”としてな。)

「な……!?」

「“輝く環”!?」

「ちょ、ちょっと待って!もしかして“輝く環”がどういう物か知ってるの!?」

レグナートの念話を聞いたアガットとティータは驚き、エステルは血相を変えて尋ねた。、

 

(……………それは、何処にもないが遍く存在しているものだ。無限の力と叡智と共に絶望を与える存在でもある。それを前に出した時……人は答えを出さなくてはならぬ。)

「へ……」

「フム……どういう意味なのかね?」

(私から言えるのはここまでだ。これ以上の関与は古の盟約により禁じられている。おぬしらを助けることも彼らを止めることもできない。)

レグナートの意味ありげな念話にエステルは首を傾げ、オリビエは尋ねたが、レグナートは『盟約』のため、ということを述べて答えなかった。

 

(それにしても……剣聖の娘に赤の剣士。何故、お主らが“聖天兵装”を所持しておるのだ?)

「聖天兵装……何ソレ?」

「ひょっとして、俺の場合はコイツ……『レーヴァテイン』に内蔵された『ブレイドカノン』のことか?」

レグナートの問いかけにエステルは首を傾げ、アガットは背負っていた『レーヴァテイン』を見せるような形で持ち、問いかけた。

 

(うむ……“盟約”と関係ないことならば、話しても問題は無かろう……幸か不幸か、“騎神”と関わる者もいる……少し長話になるが、構わないか?)

「うん。」

「………お願いします。」

(よかろう……)

レグナートの言葉に答えたエステルとリィン。レグナートはその答えを聞き、話し始めた。

 

(“聖天兵装”……“騎神”の超常的戦闘力……それが悪用されたとき、それを止めるための手段として女神<エイドス>が生み出した十二の剣。)

 

聖天光剣、砲炎撃剣、神霊水剣、絶氷錬剣、地裂鋼剣、轟旋風剣、刻時空剣、天空創剣、銀幻想剣、星雷神剣、七星天剣、天断極剣……その十二の剣は悪用されないために、特殊な封印を施し……心ある『七の至宝』に選ばれし者が、それを導く……その時まで、ゼムリア各地に封印された……

 

「そもそも“騎神”って………」

(古の時代に“女神”が作り与えた『七の至宝』に匹敵しうる代物……それには『起動者(ライザー)』を導く“一族”がいる……その力は文字通り『一騎当千』を体現した物……というべきだろう。)

「……それに対抗するための、女神(エイドス)の作った武器ってことは……アーティファクトってこと!?」

(厳密には違う。それらの武器が真価を発揮するためには、それらに選ばれた『起動者(ライザー)』である必要がある。『起動者』以外の者には、只の『折れない剣』でしかない。)

「それでも十分凄い気がしますが……」

……だが、その封印は解かれ……その内一人目の『起動者』―――アガットと『ブレイドカノン』が目覚めた。残るは十一人……奇しくも、そのうちの一人であるのは……

 

「それがあたしって……」

(うむ……その武器からは“聖天兵装”の力を感じるが……その武器をどこで?)

「えと、クラトス・アーヴィングって人があたしに作ってくれた武器なんだけれど……詳しいことは解らないのよね……」

『起動者』……その資格を持ちうると言われても、正直ピンとこないエステル。まぁ、同じように『起動者』であるアガットも………

 

「ま、エステルの気持ちはわかる。俺も正直半信半疑だったからな……今でも夢じゃねえかと思っちまうほどにな。」

「あ、アガットもそうなんだ……」

スケールの大きさについて行けず、揃ってため息を吐いた二人……その時、エステルの持っていた棒が光り始めた!

 

「ふえっ!?」

「な、なんだ!?」

(これは……剣聖の娘よ、どうやら“聖天兵装”が一つ……『聖天光剣』の『起動者』に認められたようだな。)

「前置きが全くないんですけれど!?」

冷静に呟くレグナートとは対照的に慌てふためくエステル達……眩い光が辺りを覆い……光が収まると、神々しいオーラを纏い……白と金のコントラストが特徴的な棒がエステルの前に浮いていた。エステルは流石に戸惑ったが……それを掴んだ。

 

―――成程。貴女が私の主ですね。ちなみに、私の声は貴女以外に聞こえません。

 

『この声……ひょっとして、貴女が?』

 

―――はい。聖天光剣……いえ、聖天洸具『レイジングアーク』……これより、貴女の力となります。

 

『そっか……あたし、エステル!エステル・ブライト!!これからよろしくね。』

 

―――ふふっ、愉快な人ですね…気に入りました。よろしく、エステル。

 

『うん、宜しく!!』

 

「エステルお姉ちゃん?」

「その、ぼうっとしてたけれど、大丈夫なの?」

「あはは……ゴメンゴメン。ちょっと……『会話』してたの。」

一通り会話を終えると、エステルはアガットを除く周りの心配する表情に事情を説明した。

 

(フム………奇しくも『三人』の『起動者(ライザー)』を目の当たりにできるとは……“女神”の眷属として、これほど光栄なことは無いだろう……)

それを一通り見届けたレグナートは、翼ををはためかせた。

 

「わわっ……」

「お、おい!?」

(さらばだ、人の子達よ。おぬしらが答えを出した時、私はもう一度姿を現すであろう。その時が来るのを祈っているぞ。)

そしてレグナートは空へ飛び去っていった。

 

こうして、ボース地方を騒がせた古代竜の騒ぎは幕を閉じた。

 

エステル達は、後から来たモルガンに詳しい事情の説明を求められ……ようやく解放されてから、レグナートから預かった金耀石の結晶をメイベル市長とライゼン村長にそれぞれ届けた。

 

 




残すはグランセルと四輪の塔……この話で章を一度区切る形となります。

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