英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

110 / 200
第80話 いざ王都へ

~遊撃士協会 ボース支部~

 

竜の騒ぎから一夜明け……被害の受けたマーケットでは早くも復旧に向けた作業に入っていた。そして、リラの意識も回復し、メイベルは彼女が目を覚ましたことに大変喜び、号泣していた。

エステルらはギルドに戻り、事の顛末を報告した。

 

「今回の竜騒ぎは本当にご苦労じゃったな。まさに遊撃士協会の面目躍如といった感じゃぞ。」

「う、うーん……そっかな?」

「だが、『実験』そのものは阻止できなかったからな……あんまり威張れやしねえさ。」

被害を最小限に食い止めることができたとはいえ、彼らの『実験』そのものを食い止めたわけでないため、苦い表情をしたエステル達。ある意味レーヴェもその一端を買っていただけにそう誇れることではない。

 

「しかし、これで自治州と王都を除く四つの地方で『実験』を行ったことになるわね……」

「となると、次は自治州あたりになるのかしら?」

サラとシェラザードの言葉……それを聞いてルグランがエステルらに話をし始めた。

 

「それなんじゃが……お前さん達にはグランセルに行ってもらえんかの?」

「グランセルに、ですか?」

「うむ。エルナンからの要請が来ておってな。生誕祭や不戦条約のこともあるからの。」

「あ……」

「フム……つまり、ここにいる全員でグランセルに来いということだね。」

ルグランの言葉にリィンは首を傾げたが、続いてルグランの口から出た言葉にクローゼは大方の事情を察し、オリビエは何かを納得したかのように言い放った。

 

「そういうことじゃ。協力員の方々にも手伝ってもらう形となるが……」

「僕は構わないよ。」

「私も異存はありません。」

「えと、宜しくお願いします!」

「俺もだな。」

「俺もです。」

「感謝するぞ。では、手配の方をしておくから少し休んでおいてくれ。」

協力員であるオリビエ、クローゼ、ティータ、スコール、リィンはルグランの問いかけに肯定の意を持って頷き、それを見たルグランはそう言って乗船券の手配などをするため通信機に向かった。

 

「となると、少し時間が空くわね……」

「そしたら、少し休憩にしましょう。飛行船の時間までは余裕があるわ。」

「じゃあ、買い物に行ってきますね。クローゼさん、ティータちゃん、行こうか!」

「そうですね。」

「あ、は、はい!」

「なら、俺が付き添おう。荷物持ち位は必要だろうからな。」

「それならば、僕も付き添うことにしよう。女性のエスコート役は必要だろうしね。」

エステルとシェラザードの言葉を聞いたアネラスはクローゼとティータの二人と買い物に行き、ジンとオリビエがその三人のサポートに入ることにした。

 

「それじゃ、アタシはメイベル市長に会ってくるわ。」

サラはメイベルに一言いうために、その場を後にした。残ったのはエステル、シェラザード、リィン、スコールの四人だった。すると、アガットが言葉を発した。

 

「………丁度いいな。」

「アガット?」

「エステル、お前に話しておくことだが……俺は過去に一度だけヨシュアに会ったことがある。」

「え……過去って、何時の話?」

「いまから十年ぐらい前……『百日戦役』の直前の話だ。」

「えっ!?」

アガットの言葉に一番驚いたのはエステル。昔……それも、十年も前のヨシュアと会ったことがある……それには驚きを隠せずにいた。だが、アガットの言葉は彼女に更なる衝撃を与えることになる。

 

「俺の故郷の村―――ラヴェンヌは『ハーメル村』……帝国南部の小さな村と交流があった。俺が行ったのは一度きりだったが、そこであの野郎……『レーヴェ』と幼い頃のヨシュア、それとヨシュアの姉と会ったことがある。尤も、戦役後……その村との交流は途絶えちまったが。」

「え……」

「……二人とも、ハーメルのことは知っているのかしら?」

「……すみません。俺には流石に……スコールは?」

「……十年前…正確には『百日戦役』終戦直後、帝国政府から『ハーメル村』への言及を避けるようとの通達があった。」

「え……」

「ちょっと待って……何で帝国政府が一介の村への言及をしないように通達なんて出したんだ!?」

アガットの言葉もそうだが、それ以上にスコールの言葉は衝撃過ぎた。その言葉に何となく納得がいったアガットが言葉を呟いた。

 

「成程な。(……だが、あの惨状と通達が出されたタイミングからすれば……『土砂崩れ』なんてただの方便だろうな。)……話は逸れちまったが、その時のヨシュアの性格は明るくてな……今となってはその面影すらない。」

「え……そうなの?」

『ハーメル』の事も気にはかかるが、アガットの口から出たヨシュアの『昔』と『今』の違い……それにはエステルも面食らった表情を浮かべていた。

 

「ああ………あの野郎も、な……ひょっとしたら、俺らの想像もつかない『地獄』を見たのかもしれねえ……」

そう言ったアガットも沈痛の思いを滲ませつつ、言葉を紡いだ。

 

話を終え、買い物に行ったメンバーらが戻ると、エステルらは飛行船に乗り………グランセルに到着した。

 

 

~グランセル国際空港~

 

「さて、と……何かとんぼ返りみたいな形になっちゃったけれど、また王都に戻ってきたわね。それじゃ、まずはギルドに行こっか?」

「ああ、支援要請ってのをエルナンから聞かないとな。しっかし……」

定期船から降りたエステルの提案にアガットは頷くと同時に少し難しい表情を浮かべた。

 

「アガット、どうかしたのかしら?」

「いや……俺やシェラザード、ジンにサラ、エステルにアネラスと六人の正遊撃士が揃ってる……それと、確かクルツ達もグランセルにいるはずだからな。エルナンが俺らを呼んだのは、ただ事じゃないかもしれねえな。」

「お前さんの言うとおりだな。今回の話だと国賓クラスが集うことになるからな。」

「それに、『結社』のこともありますからね。ひょっとしたら、その警護でもするのでしょうかね?」

「アガット。今の話だけれど……クルツさん達もこっちにいるの?」

「ああ。セントアークでちょっと会ってな。ルーアンとツァイスを回ってから戻ると言ってたし、もしかしたら戻ってきてるかもしれねえな。」

アガットが言うには、ちょうど入れ違いになる形でクルツらと会った。彼等はその後王国各地と一回りして王都に戻るとのことらしい。

 

「そういえば、今日は発着場にあの白い船が泊まっていないね。確か、『アルセイユ』といったかな。」

「え?あ、ホントだ。」

意外そうな表情でオリビエは誰かに答えを求めるかのように呟き、オリビエの呟きを聞いたエステルは首を傾げて、反対側の着陸場に目を向け、何もない着陸場を見てエステルは頷いた。

 

「確か、王家の巡洋艦だったか。どこかに任務で出かけてるんじゃないのか?」

「アルセイユはちょうどレイストン要塞に行っています。そこで完成したばかりの新型エンジンを搭載するそうです。」

「あ、整備長さんたちも工房船でレイストン要塞に出かけたって言ってました。」

「へ~、そうだったんだ。ってことは、あのカッコイイ船がさらにパワーアップするのよね?どんな風に変わるのか楽しみかも。」

「エンジンを交換するだけだから、外装は変わらないと思うけど……でも、間違いなく世界最速の船になるはずだよ♪」

ジンの疑問に事情を一番知っているクロ―ゼが答え、ティータがクロ―ゼの説明の補足をし、エステルの疑問にティータは嬉しそうな表情で答えた。

 

アルセイユに搭載されている『XG-04』エンジン……現時点でも二世代先の水準を満たしている代物を更に超える『XG-05A』『XG-X06』……ファルブラント級に搭載する予定の『XG-06』エンジンのための『最終試験』を行うためのエンジンであり、全八基のうち『04』の二倍の出力を誇る『05』エンジンを四基、『06』エンジンに使われる新型回路試験のための『05A』エンジンを二基、特殊装置の能力実験および稼働実験のための『X06』エンジンを二基……全基換装される形となる。

ティータは知らないが……それに合わせて推進部分の大幅な見直しが行われ、飛行船の要とも言える翼に大々的な改良がくわえられることになっている。

 

「あ、そういえば……あたしらが乗った『シャルトルイゼ』だっけ?アレはどうなったの?」

「あれでしたら、今は中央工房のドックにあります。生誕祭に合わせて、三番艦と一緒に正式にお披露目する予定になっています。」

「え?でも、三番艦って確か解体したんじゃなかった……まさか」

「実は、私も先日知ったのですが……元々二番艦『シャルトルイゼ』と三番艦『サンテミリオン』は元々『アルセイユ』のような運用ではなく、『航行実験』のための艦を無理矢理『軍用艦』として運用していたんです。解体は武装の取り外しという形で『軍用艦』としての枠組みを外しただけです。それを、期間限定ではありますが『軍用の巡洋艦』として正式運用することが決まったのです。」

「期間限定?」

「えと……それは……」

「―――次世代巡洋艦。そのための『穴埋め』ということだよ。」

言い淀んだクローゼの代わりに答えるかのごとく聞こえた声。一同がその方を向くと、少し着崩した軍服に身を包んだ一人の少年―――シオン・シュバルツの姿だった。

 

「シオン!?」

「久しぶりだな、みんな。」

「フフ……ところでシオン君。そのような発言を安易にしていいのかね?」

「別に構いはしない。中身はともかく、次世代巡洋艦の存在ぐらいお前の国にいる『鉄血の子供達』なら把握している事実だろうからな。」

あの御仁ならば、自分の手足を使ってそこら辺の情報ぐらい既に掴んでいるだろう。ただ、表面上に見える『秘匿』すらも彼等にとってみれば『氷山の一角にすらなり得ない』のだが……

 

「ところで、シオンがどうしてここに?」

「ちょっとした出迎えだよ。詳しくはギルドで話すよ。」

そしてエステル達はシオンが先導する形でギルドに向かった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。