英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第82話 赤と朱(あか)

 

その頃、飛行船に乗っていた一組の男女―――ランディ・オルランドとフィー・クラウゼルはグランセルに到着した。

 

~グランセル国際空港~

 

「へ~、ここがグランセルか。随分と長閑そうな場所だな。」

「まぁ、否定はしないかな。」

「……っと、そうだ。フィー、お前なら“剣聖”のことを知ってると思うんだが、心当たりは?」

「知ってるよ。この前の『仕事』で一緒に戦ったし。というか、聞かされなかったの?」

グランセルの街並みを見て、思ったよりも騒がしくなさそうな場所だということにランディは感心し、フィーもその言葉に頷く。しばらくその風景に見とれていたが、我に返ってランディが“剣聖”の事を尋ね、フィーが答えると同時に彼の父親ならば言っていてもおかしくはない存在を知らないことに首を傾げつつ尋ね返した。

 

「全く、と言っていいな。その『仕事』のことは少し聞いたが、棒術で戦車を破壊したなんて『非常識』にも程があるだろうが……」

「それはご尤も。」

剣や銃で戦車を破壊するぐらいならば、現実味がなくともある程度信じられるが………棒術で戦車を破壊すること自体、一体どうやったらそんなことができるのか不思議でならなかっただろう……少なくとも、ランディにはそう思った。

 

「けど、事実だしね……その本人のお出ましだけれど。」

「あ?」

すると、フィーがその人物に気付いて声をあげ、ランディは彼女の視線の先に映る人物が目に入る。そこにいたのは軍服に身を包んだ男性―――カシウス・ブライトの存在だった。

 

「成程、お前さんがバルデルとティアさんの息子か。俺はカシウス・ブライト。彼らからいろいろ話は聞いているぞ。」

「(この感じ……成程、下手すりゃ親父以上だな、この覇気は)どうも、ランディ・オルランドッス。色々世話になるとは思うけれど、よろしく頼みます。」

「ああ、こちらこそな。フィーも久しいな。」

「ん。相変わらず元気そうだね。」

カシウスは笑顔を浮かべて挨拶をし、ランディとフィーも挨拶を交わした。

 

「そういえば、この前の『騒ぎ』の事は聞いたが、大丈夫だったか?」

「(親父、そこまで話したのかよ……)ああ……何とか間に合わせで『コイツ』を使ったが、やっぱアイツのように上手くいかねえもんだ。」

そう言ってランディが取り出したのはダブルセイバー……ライフルの使用を嫌がったランディのことを鑑みたシルフェリティアが用意した代物………尤も、これを使っていた人物のような腕前とは言えないものの、間に合わせとしては上手く噛みあい……それなりの戦果を挙げるのに貢献していた。

 

「ふむ……ま、ここで話すのもアレだ。お前さんにはちょっとした訓練を受けてもらおう。」

「訓練ッスか?」

「ああ……いつまでも不慣れな武器で戦うのは致命的……それは、お前さんも実感しているのではないのか?」

「それには同感かな。とりわけ猟兵にしてみれば。」

武器の練度……それは命に直結しうる問題。特に危険と隣り合わせの傭兵であったランディには、その致命的な欠点が己を滅ぼしかねないことを嫌でもはっきりと解っているだけに肯定しかできなかった。

 

「………否定できねえのが辛いな。ってことは、カシウスのオッサンが俺の鍛錬を?」

「俺もそうだが……俺の知り合いも協力してくれることになった。特に約一名凄く協力的な人物がいてな。」

「凄く協力的って……」

「あ、あの人か。」

「さて、時間も惜しい。それでは移動しようか。」

ランディの疑問に笑顔で答えたカシウス。その笑顔に若干引いたランディ、それとは対照的にその人物が誰なのかを察し、納得したフィーだった。二人はカシウスの案内で軍の警備艇に乗り込み、レイストン要塞へと案内された。

 

 

~レイストン要塞~

 

「さて、到着したぞ。」

「いきなり軍の施設に連れていかれるとは思ってなかったぜ……」

「まぁ、済まないな。俺もそこまで自由に動けるわけではない。とりわけ、『今回』のような事態ではな。」

「よく言うよ。軍のトップにいる人が。」

「はぁ!?オッサンが王国軍のトップ!?」

「そう言うことだ。俺としてはとっとと引退してのんびりしたいが……」

だが、カシウスの言うことも事実ではある。『結社』の存在に『不戦条約』の件……その対応策に追われるカシウスだったが、アスベルらのおかげで少し余裕が出てきたのも事実。

 

「さて、お前さんの教官だが……お、ちょうどいいところに来たな、ダグラス。」

「カシウス、彼がお前の言っていた『生徒』か?」

「ああ。彼ならば『アレ』を扱えるだろう。素質は十分だと思うぞ?」

カシウスは彼の教官―――ダグラスの姿を見つけ、声をかけた。ダグラスはランディの姿を見て少し疑問に思うところはあったが、カシウスの『資質』という言葉にスコットは口元に笑みを浮かべた。

 

「成程……クロスベル警察学校教官、ダグラス・ツェランクルドだ。今回は旧友(カシウス)の頼みで、お前さんを鍛えることになった。」

「はぁ!?クロスベルの人間が何でここにいるんだ!?」

「その疑問は尤もだな…リベールには休暇で訪れていてな。そこでカシウスから話を聞いて……丁度お前さんのことも聞いたのさ。」

「………あのオッサン、どんだけ人脈があるんだよ。」

自分の父親といい、目の前にいるダグラスといい……軍のトップにありながらもその人脈の一端には脱帽ものという他なかった。

 

「さて、カシウスから聞いた話だとクロスベルに行くらしいな……なら、コイツだけでも一人前に扱えるよう叩き込んでやる。」

「ソイツはスタンハルバードじゃねえか。」

「ああ。警備隊はこれとライフル……尤も、ライフルは使わないって顔に書いてあるから、これだけでも前線を戦えるように仕上げるつもりだ。」

「(……このオッサンも相当の腕前じゃねえか)ハハ……お手柔らかに頼むぜ、ダグラスのオッサン。」

ランディの事情をあっさりと見抜いたダグラス……それには只者じゃないと察したランディは、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「こちらこそな……尤も、彼女の兄であるお前ならば、スタンハルバードなどすぐに使いこなせるようになるだろう。」

「え……今なんて?アイツがスタンハルバードを使ってるって……っ!?何だ、この威圧は……」

ダグラスの言葉……『彼女』という言葉にランディは首を傾げたが、その直後……自分にだけ向けられた威圧にランディの本能が警鐘を鳴らしていた。なぜならば、二人の下に近づくツインスタンハルバードを持った人物……同じ両親を持ち、ランディの実の妹……レイア・オルランドの姿だった。

 

「珍しい顔だと思ったら……どこぞのバカ兄貴じゃない♪」

「!!お、おう。久しいな、レイア。」

「お、レイアか。隊員たちとの模擬戦は終わったのか?」

物凄く笑顔のレイアに、引き攣った笑みを浮かべるランディ、そして呑気に声をかけたダグラス。その問いかけにレイアはため息が出そうな表情で呟いた。

 

「ええ。彼等も少しはマシになって来ましたけれど……ダグラスさんは兄貴の鍛練ですか?」

「ああ……そうだ、少し手合わせしてみるのはどうだ?」

「お、おい!オッサン!!正気か!?」

「……そうですね。本気を出させてくれればいいんですけれどね。」

「…………(いや、洒落にならねえぞ……親父曰く『本気を出したら昔の膂力なんて赤子程度』とか言ってたんだが!?)」

……拒否したいところではあるが、話の流れ的に拒否できない流れになっていた。ダグラスはランディにスタンハルバードを渡すと、一言呟いた。

 

「……アイツは強いぞ。何せ、付け焼刃程度に教えたスタンハルバードを独学で昇華させた。」

「………ああ、解ってるさ。アイツのセンスは下手すりゃ俺以上だからな。」

猟兵時代の時も、扱いが難しいブレードライフルを片手だけで使いこなしていた。そのセンスだけでなく、猟兵を抜けた後に磨いてきた技術……その完成された実力は彼女を纏う闘気からしてはっきりと感じ取れた。だが……

 

「男として……お前の兄貴として……何よりも『先輩』として、簡単に引き下がれるほど大人じゃねえからな!」

「そうくると思った……あの場所を抜けて七年……私も、あの時の私じゃない。覚悟してもらうよ?ランディ兄!」

(これが、こいつらの……正直、同じ人間とは思えないぞ……)

互いに纏うのは、闘気……その力に傍から見ていたダグラスも冷や汗をかくほどだった。

 

「元『赤い星座』……“赤き死神”ランディ・オルランド……いくぜ!!」

「同じく元『赤い星座』……“朱の戦乙女”レイア・オルランド……いきます!!」

“闘神”と“赤朱の聖女”……二人の血筋と力、その技の全てを受け継ぐ二人の戦いが幕を開ける!

 

「うおおおおおおおっ!!」

「はあああああああっ!!」

二人は特殊な呼吸法―――ランディは『ウォークライ』、レイアは『リィンフォース』を使い、互いに戦闘力を上げる。そして、

 

「そらっ!!」

「せいっ!!」

互いに武器を振りかぶる……その衝撃波が辺りに走る。

 

「この力……相当磨いたんだね、ランディ兄!」

「いつまでもお前に投げられっぱなしというのも、情けねえんで……なっ!」

「甘いっ!!」

ランディの膂力にレイアは感心した。ランディは笑みを浮かべつつ押し切ろうとしたが、レイアは軌道を逸らして距離を取った。

 

「そう簡単にいかねえか……コイツはどうだ!!」

「(ガイアブレイク!?)……はあっ!!」

ランディはスタンハルバードの威力を衝撃波に変換して直線状に放つ。その技をよく知るレイアはすぐさま同じ技で反撃し、衝撃を打ち消した。

 

「………流石だね、ランディ兄。初めての武器でこうまで戦えるなんて。」

「全く、皮肉なもんだぜ……親父から継いだ戦闘センスのおかげで、お前とこうして戦えるってことにな。」

……良くも悪くも、『闘神』の力と技を継いだ……そのことに感謝しつつも、皮肉めいた感じだった。

 

「それに……ちょっといい技も思いついたんでな………はあああああ……食らいな!クリムゾン、ゲイル!!」

「何の!クリムゾンフレイム!!」

互いにぶつかり合う戦技の衝撃波……その間に、互いに闘気を高め合っていた。

 

「赤き死神よ……戦場を駆け、強者どもを貫け……」

「朱(あか)の戦乙女よ……我の敵となりし者に、信念の鉄槌を下さん……」

互いに膨れ上がる闘気……そして、二人はSクラフトを放つ!!

 

「デス!スコルピオン!!」

「ブレイド・オブ・アンタレス!!」

武器に闘気の刃を纏わせ、突撃するランディのSクラフト『デススコルピオン』……そして、闘気の刃による衝撃波と武器による二重攻撃を相手の到達地点目がけて繰り出すレイアのSクラフト『ブレイド・オブ・アンタレス』………その衝撃波の余力で爆発が起き………煙が晴れると……

 

先程までいた場所とは正反対の位置にいる二人……立ち上がって息を整えるレイアと膝をついた状態で動けないランディの姿であった。

 

「ったく、お前はどこまで成長してるんだよ……今のですら手を抜いてただろ?」

「って、気付いてたの?」

「叔父貴が吹っ飛ばされた過去からしたら、それすらも出してなかった感じがしたんだよ……お前が戦技を放った時は流石の俺でも一瞬死を覚悟したんだぞ。」

「あはは……」

「笑い事じゃねえよ。ったく……」

レイアの場合、過去に本気を出したら『人を分割した』ことがあり、今の状態で本気を出せば恐らく『消滅』しても不思議ではないことに当の本人も苦笑を浮かべていた。

 

「何と言うか、末恐ろしいな。」

「まったくだ……うちの娘もそうだが。」

「エステルのことだね。流石レイアの弟子。」

「私なんてまだまだですよ。本気を出してもあの二人にはまだ勝ててないんですから。」

「………」

レイアですら勝てない相手がまだいるという事実……その非常識さにこれは夢なのではないかと思ったランディであった。

 

 

この後、ダグラス、カシウス、レイアの三人によってランディとフィーは徹底的に鍛えられることとなり……途中で加わったレヴァイス、アリス、アスベル、シルフィアにも徹底的に技術や傭兵としての勘を叩き込まれることとなった……

 

 




てなわけで、ランディ&フィーのパワーアップフラグです。別名パワーレベリング。

銃系統はダメだとおもったので、咄嗟に思いついたのがこれ(ダブルセイバー)です。

で、ダグラスさんに出張してもらいました+カシウスの指導……

地味にレイアもチートじみてますがw

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