英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第83話 姫君の信念

~エルベ離宮~

 

エステルらがエルベ離宮に着くと、一般の人々が多く行き交っていた。

 

「あれ、何だか普通の人もいるみたいなんだけど……」

「普段は市民の方々にも開放している場所なんです。ちょっとした憩いの場所といったところでしょうか。」

「へ~、そうなんですか。」

「言われてみると、確かに家族連れとか多いみたいだな。」

エステルは王家縁の施設……その周囲に一般人がいる事に戸惑っていた。そしてエステルの疑問にクロ―ゼは答え、ティータとリィンはその光景を感心しつつ見ていた。これもアリシア女王の意向なのかもしれない。

 

「迷子というのもああいう家族連れの客の可能性が高そうね。それじゃ、あのレイモンドっていう執事のお兄さんを捜しましょうか。」

「オッケー。」

シェラザードの提案に頷いたエステルは仲間達と共にエルベ離宮に入って行った。

 

 

「はあ、参ったなぁ………どこに行っちゃったんだろ。」

「あの~。」

「あ、はいはい。どうかなさいましたか……あれ、そちらの君は……」

レイモンドはエステルの声を聞いて振り返ると、エステルの隣にいるクロ―ゼに気付いた。

 

「どうかなさいましたか?」

「いや、はは……そんな訳ないよな。他人の空似に決まってるか。」

「ふふ、ひょっとして恋人さんと間違えました?」

何か似たようなものでも見たようなレイモンドの言葉を聞いたクロ―ゼは微笑みながら尋ねた。

 

「と、とんでもない!えっと、それじゃあ君たちが依頼を請けてくれた遊撃士かい?」

「うん、そうなんだけど……いったいどうしたの?何か困ってるみたいだけど。」

「それが……その迷子の子なんだけど。いきなり『かくれんぼしましょ』って居なくなっちゃってさ……必死に捜している最中なんだよ。」

「あらら……あたしたちも捜すの手伝おうか?」

「え……いいのかい?」

どうやら、待っているのも退屈だったようで、迷子の子どもはかくれんぼをしようと言い出したようだ……それを察したエステルの提案に驚き、レイモンドは尋ねた。すると、その問いかけにシェラザードが笑みを浮かべて答えた。

 

「元々了承して受けた依頼だし、気にしなくてもいいわよ。それで、名前と特徴を教えてほしいのだけれど……」

「た、助かるよ。えっと……」

白いフリフリのドレスを着て頭に黒いリボンをつけた10歳くらいの女の子……名前は分からないと聞いたエステルは首を傾げたが、その疑問にレイモンドが説明をつけ加えた。

 

「いくら聞いても『ヒ・ミ・ツ』とか言って教えてくれなくってね……家族と一緒に来たと思うんだけどそれらしい人も見つからないし……困り果てて、ギルドに助けを求めたんだ。」

「何と言いますか、すごく元気な子なんですね。」

「うーん、元気というか……気まぐれ屋って感じかな。大人をからかって楽しんでいるような気もする。」

ティータの聞いた感じの印象を聞いたレイモンドは悩みながら答えた。

 

「いわゆる悪戯好きの仔猫って感じなのかな?」

「まさにそんな感じだね。はあ~、ホントにどこに行っちゃったんだろ。多分、この建物からは出てないと思うんだけど……」

「ということは、ここの建物の部屋全てが捜索対象になりますね。見たところ、かくれんぼにはもってこいの場所かもしれませんし。」

レイモンドの話を聞いたリィンは頷いて答えた。

 

「あと、外見で何か解ることは無いかな?髪の毛とか……」

「う~ん、菫色のミディアムぐらいの長さだったね。ここらじゃ見かけない色だからすぐ見つかると思うけれど……僕はいったん、談話室に戻ってあの子のことを待っているよ。見つけたら連れてきてほしい。」

「うん、わかったわ。」

そしてレイモンドは談話室に向かった。

 

「さーて、逃げた仔猫ちゃんを捜してみるとしましょうか。白いフリフリのドレスに黒いリボン……それに菫色の髪って言ってたわね。」

「ふふ、すぐに見つかりそうな外見ですね。どんな子なのか楽しみで……あれ?エステルさんにティータさん、どこかで見たような気がしませんか?」

「あ、やっぱり?あたしもそう思ったのよね。う~ん………」

「えと、確かに言われてみれば……」

エステルの言葉に頷いたクロ―ゼは微笑みながら答えたが、どこかしらで見たような姿だということにエステルとクローゼ、ティータは首を傾げた。ただ、ここで考えていても埒が明かないと判断し、その少女を探すことにした。

 

 

~客室~

 

 

「遅い!遅すぎる!フィリップめ……。雑誌とドーナツを買うのにどれだけ時間をかけているのだ!これ、フィリップ!私をどれだけ待たせれば……」

デュナンは部屋に入って来た人物を自分の執事――フィリップと思い、注意をしたが入って来たのはエステル達だった。

 

「へ……」

「あ……」

「そ、そ、そ……そなたたちはああ~っ!?」

デュナンを見てエステルとクロ―ゼは唖然とし、一方エステル達を見たデュナンは信じられない表情で声を上げた。

 

「あら、知り合い?」

「えと、どちら様ですか?」

「……見るからにやんごとなき身分のような感じはするけれど……」

デュナンの事を知らないシェラザードとティータ、リィンは首を傾げた。

 

「デュナン公爵……姿を見ないなと思ったら、こんな場所にいたんだ。」

「小父様……その、お元気ですか?」

「ええい、白々しい!そなたたちのせいでな……私はこんな場所で謹慎生活を強いられているのだぞっ!」

デュナンを見たエステルは意外そうな表情をし、クロ―ゼは言いにくそうな表情で尋ね、デュナンはエステル達を睨んで怒鳴った。

 

(ああ、思い出したわ……デュナン・フォン・アウスレーゼ。女王陛下の甥にあたるわ。)

(ということは、王族ですか……)

(……何か、イメージしていたのとは違いますね。)

一方、デュナンの名前を聞いて心当たりがあったシェラザードはリィンとティータに説明し、二人はそれを聞いてデュナンに複雑な視線を向けていた。

 

「あたしたちのせいって言われてもねぇ……別に公爵さんを貶めたつもりなんてまったくないし、リシャール大佐の口車に乗った公爵さんの自業自得だと思うんだけど。」

「謹慎程度であれば優しいです。普通であれば国家反逆罪……極刑すら免れない状況での女王陛下の温情には感謝すべきだと思いますが……」

「くっ……確かに陛下を幽閉したことがやり過ぎであったことは認めよう。リシャールに唆されたとはいえ、それだけは思い止まるべきだった。」

エステルとリィンの指摘を受けたデュナンは反論がなく、意外にも殊勝な態度で答えた。

 

「あら、女王陛下を幽閉した公爵さんにしては、なんだか殊勝な台詞ね?」

「フン、勘違いするな。私は陛下のことは敬愛しておる。君主としても伯母上としても非の打ちどころのない人物だ。」

デュナンの態度にシェラザードは意外そうな表情で尋ね、その疑問にデュナンは胸を張って答えたが、すぐにクロ―ゼを睨んで言った。

 

「だが、クローディア!そなたのような小娘を次期国王に指名しようとしていたのはどうしても納得がいかなかったのだ!」

「………」

デュナンに睨まれたクロ―ゼは何も返さず黙っていた。

 

「ちょ、ちょっと!聞き捨てならないわね!クローゼは頭が良くて勉強家だし、人を引き付ける器量だってあるわ!公爵さんに、小娘とか言われる筋合いなんて……」

「……エステルさん、いいんです。」

クロ―ゼの代わりに怒っているエステルをクローゼは制した。

 

「ふん、殊勝なことを。昔からそなたは、公式行事にもなかなか顔を出そうとしなかった。知名度でいうなら、私の方が遥かに国民に知れ渡っているだろう。すなわちそれは、そなたに上に立つ覚悟がないということの現れだ。聞けばそなた、身分を隠して学生生活を送っているそうだな。おまけに孤児院などに入り浸っているそうではないか。そんなことよりも、公式行事に出て広く国民に存在を知らしめること……それこそが王族の役目であろう!」

………小父様の言っていることは確かに事実であろう。けれども、それだけではない。私には私なりに悩んで……そして、決めた。

 

「以前の私ならば資格などない……そう思っていたことは事実です。ですが……私にも譲れないものはあります。今まで私が歩んできた『クローディア・フォン・アウスレーゼ』と『クローゼ・リンツ』としての道……その道と思い出は、誰にも否定はさせません。例え、それが小父様であろうとも!!」

「なっ……!?」

今まで出会ってきた人たち……そのいずれもが私という人間を育ててくれた。それも、あの場所に閉じこもっていなかったからこそできたことであり、王族という色眼鏡を通さずにありのままの私を見てくれた人々。その思いに今度は私が決意を持って答える番なのだと。

 

「私一人で出来ることはたかが知れています。お祖母様も、そのことを承知だからこそ……女王としての責務を全うしていると思うのです。私がお祖母様のような政治ができるかは解りませんが……私なりの信念と決意を持って、お祖母様の話を受けることにいたしました。」

「クローゼ……」

「クローゼさん……」

「はは……強いな、クローゼさんは。」

「ふふ……」

凛とした表情で言い放ったクローゼの姿を見て、あの時のシオンのような感じと似たような印象を受けたエステル、その凛々しさに感動に近い感情を覚えるティータとシェラザード、そして女性の芯の強さに驚かされるリィンであった。

 

「無礼は承知ですが……小父様は本気で謹慎なさっているようには思えません。小父様が今までの行いで無礼を働いた方々……エステルさん、ヨシュアさん、シュトレオン、アルゼイド侯爵、アルフィン皇女……それでも尚、お祖母様が小父様に謹慎という優しい処分を下したのか……それをもう一度お考えください。」

「ぐっ……ふ、ふん、馬鹿馬鹿しい。ええい、不愉快だ!とっとと部屋から出ていけ!」

「はいはい、言われなくても出て行くわよ。」

クローゼの意志を持った強い発言に押し黙り……苦し紛れともいえるデュナンの言葉を聞き、鼻を鳴らしたエステルは仲間達と共に部屋を出ようとしたが振り返ってデュナンに尋ねた。

 

「そういえば、ここに白いドレスを着た女の子がたずねてこなかった?」

「なんだそれは……わたしはここにずっとおる!そんな小娘など知らんわ!」

「あっそ、お邪魔しました。」

「……失礼しました。」

そしてエステル達はデュナンがいる部屋を出た。

 

「まったく……なんなのよ、あの公爵は!自分のことは棚に上げてクローゼをけなしてさ!」

「いえ、小父様の非難も当然と言えば当然だと思います。王族としての義務……それは確かに存在しますから。」

デュナンの部屋を出た後、憤っているエステルをクロ―ゼは宥めた。

 

「で、でも…クローゼさん…」

「帝国では皇家という存在と民から選ばれた宰相という存在がいるし、俺自身も一応貴族だからその身分の義務というのはある程度分かるが……」

「けれども、あの公爵さんの場合、悪い知名度が高まってしまった。もはや、彼が貴女よりも次期国王にふさわしいと考える者はリベールには存在しないでしょうね。」

「それは……確かにそうなのかもしれません。ですが、私の覚悟については先程私が述べた通りです。その決意に揺らぎはありません。」

リィンとシェラザードの言葉に頷き、クローゼは柔らかな笑みを浮かべて答えた。

 

「そっか……ということは、次期女王陛下ってことね?」

「はい。王太女の儀は既に終わっておりますが……正式には、不戦条約の締結式に王太女であることを国内外にお知らせする形となります。」

「ほえ~……その、頑張ってください!」

「少し気は早いけれど、頑張ってね『クローディア王太女殿下』。」

「自分は部外者だけれども……おめでとうと言わせてもらうよ。」

「ありがとうございます、皆さん。それでは、迷子探しの続きと行きましょうか。」

「それもそうね。」

そして、エステルらは迷子探しを再開した。

 




書いていて思ったこと……帝国の権力システム……

・皇帝(革新派と貴族派双方への影響力大)
・帝国政府宰相+帝国議会
・貴族(四大名門)

……これまでよく崩壊しなかったな……と思わざるを得ません。解りやすく言えば、江戸幕府の政治システムに議会政治のシステムを取り込んだ形ですので……

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