英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第86話 二つの調査~共和国大使館~

調査を開始したエステル達はまず、カルバード大使館にジンの紹介で大使館内に入った。

 

 

~カルバード大使館 館内~

 

「ほう、これはこれは……」

「へ~、これがカルバード大使館なんだ。さすが立派で豪華な雰囲気ね。」

「それに、どことなく異国情緒のある内装ですね。」

大使館内を見回したオリビエは感心した声を出し、エステルやクロ―ゼはそれぞれの感想を言った。内装はリベールのような古の情緒あふれるものとは異なり、主立った造りは西洋風ながらも東洋風の情緒を感じさせるような装飾の数々にカルバード共和国という国の特徴が目に見える感じだった。

 

「ま、東方からの移民を受け入れてきた国だからな。ちなみにエルザ大使の部屋は2階の奥にあるぞ。」

「うん、わかった。」

そしてエステル達はカルバード大使の部屋に向かった。

 

 

~カルバード大使館 大使執務室~

 

「ここが大使の部屋だ。早速、話を聞いてみるか?」

「うん、お願い。」

「よし、それじゃあお前さんたちを紹介しよう。」

エステルに確認すると、ジンは扉をノックした。

 

「……?どうぞ、入っていいわ。」

「……失礼しますぜ。」

部屋の中から聞こえた声―――入室の許可を聞いたジンはエステル達と共に部屋に入った。

すると、奥に座る女性とその手前にいた少女が目に入った。

 

「え?」

「あ、私の事はお気遣いなく。用事も済みましたので……失礼します。」

その少女はエステルらの姿を見ると、深々と礼をしてその場を去った。

 

「はぁ~………羨ましいスタイルだったわ。」

「あはは……その気持ち、わかります。はぁ……」

「上には上がいるのね……見たところ、エステルと同い年ぐらいかしら。」

「私ですら驚きかな……」

少女のスタイルの良さ……誰が見ても出ているところが目に入ってしまうぐらい……同じ女性であるエステルらもその良さには羨ましがった。

 

「ふむ……(あの佇まい……何故だか、アスベルを思い起こさせるな……)」

「お、奴さんの事が気になったか?」

「そう言う意味ではないんだが……寧ろ、リィンはどう思った?」

「俺か?……確かに、綺麗な女性とは思ったが……あとは、誰から見ても魅力的かなとは思ったぐらいだよ。」

一方、男性陣は色々物思いにふけったり、様々な発言が飛び交っていた。すると、大使らしき女性がジンの姿に気づいて声をかけた。

 

「あら、そこにいるのはジンさんじゃない。先日帰国したばかりなのに、またリベールに来たのかしら?」

「いやぁ、ギルドの仕事でやり残したことがありましてね。またしばらくの間はリベールに滞在しようと思ってます。」

「フフ、さすがはA級遊撃士。何かと忙しいというわけね。ところで、そちらの方々は?」

ジンの話を聞いたエルザは感心した後、エステル達を見て尋ねた。

 

「えっと、初めまして。遊撃士協会に所属するエステル・ブライトといいます。」

「同じく、遊撃士のシェラザード・ハーヴェイといいます。」

「遊撃士のレイア・オルランドです。」

「同じく、シオン・シュバルツだ。で、協力者の三人……オリビエとクローゼ、リィンだ。」

「フッ、よろしく大使殿。」

「お初にお目にかかります。」

「宜しくお願いします。」

エステルらは礼儀正しく自己紹介をし、オリビエとクロ―ゼ、リィンも続いて会釈をした。

 

「よろしく。カルバード共和国大使のエルザ・コクランよ。それにしても、まさかレイアさんにシオンさんとこういう形でまたお会いすることになるとはね。」

「あはは……その節はお世話になりました。」

「あの時は本当に助かりました。」

エルザは自己紹介をした後、顔見知りであったレイアとシオンに声をかけ、二人は苦笑しつつも言葉を返した。

 

「え?何?大使さんと知り合いなの?」

「まぁ、遊撃士絡みでちょっとね。」

「あれを『ちょっと』というのはお前さんぐらいだぞ……」

レイアとシオン……三年前の七耀歴1199年、カルバードで起きた中規模のテロ事件……観光目的で来ていた二人は図らずも<反移民政策主義>の連中に狙われる羽目となり、正当防衛という形で殲滅したのだ。その後、二人はジンや遊撃士として新人であったアリオスと協力して事態の収拾にあたった。その際、国家元首であるサミュエル・ロックスミス大統領とも出会っているが……二人の印象は『狸』ということで一致していた。エルザとはその時に出会い、事後処理の手続きで色々と世話になったことを明かした。

 

その後、レイアは別件のためにレミフェリアに向かい……『氷絶事件』の解決をすることとなり、シオンはカルバードに残ってジンの仕事の手伝いをこなしていた。

 

「カルバードにとっての恩人もそうだけれど、これだけの遊撃士の方……どうやら面倒な話があって訪ねてきたみたいね?」

「ええ、実は……」

そしてエステル達はエルザに脅迫状の件を尋ねてみた。

 

「あの脅迫状の件か……それじゃあ、貴方たちは王国軍の依頼で動いているの?」

「一応そういう事になります。ただ、遊撃士協会としても見過ごせる話じゃありません。それを踏まえて協力していただけませんか。」

今回の一件は国際的な問題へと繋がるだけに、不安要素は出来るだけ取り除く必要がある……それを込めたエステルの言葉に意を読み取ったのか……エルザは少し考えてからその願いに肯定の意味を込めて言葉を呟いた。

 

「……ま、いいでしょう。我々にも関係あることだしね。それで、何を聞きたいの?」

「えっと、まずは脅迫者に心当たりがないでしょうか?共和国に、条約締結に関する反対勢力が存在するかとか……」

「それは勿論いるわよ。例えば私なんてそうだしね。」

「ええっ?」

「ちょいと大使さん……あんまり若いモンをからかわないでくれませんかね?」

エステルの問いかけをあっさりと肯定してしまったエルザの答えにエステルは目を丸くし、その様子を見たジンは呆れた後、注意をした。

 

「あらジンさん、からかってはいないわよ。事実は事実だもの。私のエレボニア嫌いは貴方も知っているでしょう?」

「そりゃまあ……」

「それに、エステルさんやシェラザードさんにはその辺りも目撃されているようだし。」

「え?……って、あの時の事ですか?」

「よく覚えていましたね?」

「大使とはいえ『一国の顔』……これでも、記憶力には少し自信があるわ。」

呆れるジンに『隠したところで意味がない』とでも言いたげにエルザは呟き、先日のエレボニア大使との言い争い―――その一端を目撃したエステルとシェラザードのことにも触れ、それを言われるまで気付かなかったエステルとシェラザードはその記憶力に感心した。

 

「でも、勘違いしないで欲しいの。『不戦条約』は既に大統領が決定して、議会も承認した案件だからね。カルバード大使である以上、個人的な感情は抜きにして話は進めさせてもらっているわ。」

「成程ね。他に反対している方々はいないのかしら?」

「いるにはいるけど少数派ね。それらの勢力も本気で反対しているわけじゃないし。」

「本気で反対していない?」

エルザの話を聞いたエステルは首を傾げた。反対しているはずなのに本気ではない……その分だとあまり意味を成さない反対になっているのでは……そう考えたエステルにエルザは説明をつづけた。

 

「そもそも、不戦条約って実効性のある条約ではないの。『国家間の対立を戦争によらず話し合いで平和的に解決しましょう』って謳っているだけ……いわば『努力義務』を課すもので、罰則はない条約なの。そういう意味では条約というより共同宣言に近いけれど。」

「努力義務、ですか……確かに、反対するには本気ではない……それには納得ですね。」

「成程……その気になれば、いつでも破れる口約束に過ぎないということだね。」

「ふふ、そういうこと。まあ、確かにここ十数年、カルバードとエレボニアの関係は冷えきっていたから……今回のような機会を通じて話し合いの場が設けられるのは意義のあることだとは思うけどね。」

リィンの言葉とオリビエの意見に頷いたエルザは話を続けた。

 

西ゼムリア四か国……その関係は色々様相を呈している。『技術大国』としてその名を轟かせているリベールと国境を接するエレボニアとは微妙な関係ではあるが、同じように国境を接しているカルバードとは友好的関係を築いており、レミフェリアとは経済的な交流の結びつきが強い。レミフェリア側からすれば、国境を接する『三大国』の内の『二大国』―――エレボニアとカルバードとの関係は良好であるが、ノルド高原に近いレミフェリアにしてみれば、エレボニアとカルバードの領有権争いは目の上の瘤と同様のものである。そして、エレボニアとカルバード……西ゼムリアの覇権争いで長年いがみ合い続けている両者。

 

今回の条約締結は、そうした二大国のトップ同士が顔を合わせる初の出来事。エレボニア側は名代ではあるが、今回の一件を演出したアリシア女王の懐の広さ……ひいては『器』の大きさを知らしめるものとなる。

 

「確かに、厳密な『条約』とは言えない以上、脅迫状を出してまで阻止するほどの話じゃないか。」

「あの、エルザ大使。カルバードの関係者が脅迫犯ではないとするなら……誰が怪しいと思われますか?」

「そうね。個人的な先入観でいえばエレボニアの主戦派あたりが限りなく怪しいと思うけど……新型エンジンの件もあるし、その可能性も低そうなのよねぇ。」

エルザの話を聞き考えているシオン、それを聞いたクロ―ゼは真剣な表情で尋ね、エルザはエレボニア帝国側の可能性も考えたが、不戦条約の際にエレボニアやカルバード、レミフェリアが得られる“利益”の事を考えた場合、それらの可能性は低いことを示唆した。

 

「新型エンジンって……もしかして『アルセイユ』用の?」

「そう。それのサンプルがカルバードとエレボニア、レミフェリアの三方に贈呈されることになっているの。不戦条約の調印式の場でね。」

「あ……!」

「フッ、さすがはアリシア女王。まんまとエレボニアとカルバード、さらにはレミフェリアを手玉に取ったということだね。」

その“利益”……サンプルとはいえZCF製のオーバルエンジンを得られるという絶好の機会。それを手にできる機会だということを説明したエルザの言葉にエステルはその意味を察し、オリビエは感心しつつもアリシア女王の外交の強かさに内心驚愕した。

 

「ええ……悔しいけど大したお方だわ。新型エンジンは、次世代の飛行船の要とも言える存在……しかも、西ゼムリアにおける最大シェアと最先端水準を持つZCFが開発した肝いりのオーバルエンジン。それがサンプルとはいえ手に入るチャンスなんですもの。いくらエレボニアの主戦派にしたって水は差したくないでしょうね。レミフェリアにしてもさらなる導力技術が手に入るチャンスでもあるから。」

オリビエの意見に頷いたエルザは説明した。オーバルエンジンの性能は船の性能すら決める……ラインフォルト社やヴェルヌ社でも独自の新型エンジンの開発は進んでいるが、未だに最高船速の記録を伸ばし続けているZCFの技術力の高さ……その一端を手にできるというだけでも、かなりの成果になるのは疑いようもなく、そのためにも水を差すような真似はしたくない……エレボニアにしても、カルバードにしても、不必要な干渉や争いはしないだろう。

 

「な、なるほど……」

「ふむ、ということは……三国共に不戦条約を妨害する可能性はかなり低いということですかね。」

「そうなるわね。お役に立てなくて申しわけなかったかしら。」

「ううん、そんなことないです。容疑者が減っただけでも状況が分かりやすくなったし。あ、それとは別にお尋ねしたいことがあるんですけど……」

脅迫状に関する一通りの聞き取りを終えると、エステルはエルザにレンの両親に関して尋ねた。

 

「クロスベルの貿易商、ハロルド・ヘイワース……ふむ、心当たりはないわね。少なくともここの大使館を訪れてはないと思うわ。」

「そうですか……」

「にしても、クロスベルね……あそこは、エレボニアとカルバードの中間にある場所よ。エレボニア大使館にも問い合わせてみた方がいいかもしれないわね。あとは、マクダエル市長にも尋ねてみるといいわね。」

「はい、わかりました。えっと、色々と教えてもらってどうもありがとうございました。」

エルザの提案にエステルはお礼を言った。

 

「どういたしまして。ところであなた……エステル・ブライトと言ったわね。もしかしてカシウス准将の娘さん?」

「あ、知ってるんですか?」

「ふふ、あたり前よ。かつてエレボニア軍を破った英雄にして王国軍の新たな指導者ですもの。娘さんがいるとは聞いていたけど、こんな形でお目にかかれるとはね。」

「えっと、あたしはただの新米遊撃士なんですけど……」

「どこが新米なんだか……」

「まったくだな……」

「レイアにジンさん、何よその眼は?」

エルザに見られたエステルは苦笑しながら答えたが、ため息が出そうな表情をしているレイアとジンにジト目で質問を投げかけた。

 

「フフ……ウチの大使館もギルドには色々とお世話になっているの。今後、ウチの依頼があったら請け負ってくれると嬉しいわ。」

「あはは……機会があったら是非。それじゃあ、失礼しました。」

 

そしてエステル達はカルバード大使館を出た後、エレボニア大使館に向かった。

 

 


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