英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第89話 二つの調査~同志の邂逅~

 

~東街区 エーデル百貨店~

 

アガットはギルドに残ることとなり、スコールとアネラスは買い物のために百貨店を訪れていた。

 

「しかし、まさかあのサラさんが……人は見かけによりませんね。」

「アネラスはサラと一緒に仕事したことは?」

「今回の事以前にも何度か、ですね。酒飲みの印象が強くてそんなことなんて……あ、でも、一度だけ酔っぱらった状態のサラさんに愚痴というか惚気を聞かされたことはありますね。」

あの時はクルツらと一緒にいた時であり、それを傍から見ていた感想としては……まぁ、幸せなのだろうと率直に感じたのは言うまでもない。

 

「ゴメン、うちの身内が……」

「あはは……スコールさんが謝ることじゃないですよ。」

謝ったスコールにアネラスは笑みを浮かべつつも謙虚に答えを返した。こういった気遣いができるからこそ、きっとあのサラも惹かれたのだろう……すると、二人の視線に三人の少女の姿が目に入る。

 

「ん?………見慣れない女の子?二人はティータとレンみたいだが……」

「…………いい」

「ん?アネラス?……って、おい!」

冷静に呟くスコールとは対照的に何かのスイッチが入ったかのごとく固まったアネラス。すると、一目散に駆けだした。そして……その初対面とも言える子に抱き着いていた。

 

「あ~ん、可愛い子!ねえ、ティータちゃんにレンちゃん、この子どうしたの!?」

「あ、えと、私たちもさっき知り合ったばかりで……」

「ティオっていうのよ。ティオ、この人はアネラスさん。こう見えて遊撃士さんなのよ♪」

「レンさん、説明ありがとうございますが、離してください~!!」

少女―――ティオに抱き着いたアネラス、困惑しつつも説明するティータ、笑みを浮かべてティオに説明するレン、そしてレンの説明に感謝しつつもアネラスを引き剥がそうとするティオの姿だった。

 

「………何やってるんだ、ったく……ん?何かの気配?」

その様子にため息をついたが、別方向から高速で四人の下に駆け寄る物体……それを見たスコールは唖然とした。

 

「こ、これは、可愛い子が三人!?まさか、ここは天国なの!?」

「はわっ!?ティ、ティータ、助けて!!」

「ティ、ティータさん、お願いですから助けてください!!」

「あ、え、ふえっ!?」

銀髪の女性に抱きかかえられたレン。その素早さにレンは全く反応できず、ティータに助けを求めるが……ティオとレンから救援を求められたティータはどちらを優先すべきか解らず困惑していた。

 

「アネラスにエオリア……とりあえず、他の客の迷惑になるから外に出ようか。」

その光景に頭を抱えつつ、スコールは五人にそう声をかけ、百貨店の外に出た。

 

 

~東街区~

 

「さて、自己紹介がまだだったわね。私はエオリア・メティシエイル。遊撃士協会クロスベル支部所属のC級遊撃士よ。」

「アネラス・エルフィードです。遊撃士協会ボース支部所属のC級遊撃士です……まさか、私と同じ考えを持つ『同志』と会えるなんて思いもしませんでした。」

「ええ。それは私もよ……呼び捨てで呼んでいいかな?」

「えと、こちらもそうしていいですか?」

「勿論。見たところ年も近そうだしね。」

自己紹介をする二人……そして、互いに構えると……

 

 

 

―――我らが愛するは、可愛いもの!

 

 

 

―――美を超越し、そこにあるのは愛のみ!

 

 

 

―――その信念、永久に!次の時代へと語り継ぐものなり!!

 

 

 

―――我らは誓う!生涯に亘ってその意志を貫くことを!

 

 

 

―――我らは信じる!可愛いものが世界を救うのだと!!

 

 

 

「………はぁ………何やってんだか。」

……風景は熱い友情を育んでいる図なのだが、その台詞で台無しである。それをジト目で見ていたスコールであったが、一息ついて被害者たちの方を見ると……

 

「………」

「………」

「ティ、ティオちゃんにレンちゃん……そ、そこまで警戒しなくても……」

魔導杖を構えるティオ、警戒心を露わにするレン、その状態の二人を見て何とか諌めようとするティータの姿だった。

 

「ティータは解っていないわ。あれは猛獣ね。」

「……その意見に同感です。今度やってきたら街中だろうが遠慮なく解放(エーテルバスターを使用)します。」

「あわわわ……」

『猛獣』……可愛いもの限定ではあるが、その言葉に語弊がないというのが残念というか……複雑である。しかも、遊撃士を妻に持つスコールにしてみれば、同業者が民間人に迷惑をかけるなよ……という気持ちで一杯だった。すると、そこに一人の人物……黒髪のショートヘアの女性が姿を現した。

 

「この状況は……って、スコール。」

「ん?おお、リンか。状況は……まぁ、見ての通りだ。」

「把握した。」

その女性―――リンは顔見知りであるスコールに声をかけると、スコールは見た通りの状況であることを伝える。リンはその状況を見て大方の事情を察した。

とりあえず、レンやティオをなだめ、エオリアとアネラスに注意をした後、改めて自己紹介をした。

 

「私はリン・ティエンシア、クロスベル支部所属の遊撃士だ。うちの相方が迷惑をかけたようですまなかったな。」

「い、いえ……ティータ・ラッセルといいます。」

「レンはレンよ♪よろしくね、お姉さん。」

「ティオ・プラトーといいます。よろしくお願いします、リンさん。」

リンとティータたちは互いに自己紹介をしていて、それを傍から見ていたエオリアは、

 

「何、この扱いの差…でも、私は諦めない!可愛いものがそこにある限り!!」

「あはは……」

「こ、この人、伊達じゃないわね……」

「……」

「流石私の同志!これは、もっと精進しないと!!」

あの仕打ちを受けながらもこの立ち直りの速さ……これにはティータも苦笑し、レンにしては珍しく引き攣った表情を浮かべ、ティオにいたっては怖気が走っていることが解るような表情を浮かべていた。更には、それを聞いたアネラスが強い口調で宣言するかの如く意気込んだ。

 

「……すまない、スコール。」

「気にするな。で、確かエルナンさんがマクダエル市長の護衛に遊撃士を付けたと聞いていたが……それがリンとエオリアということか?」

「ああ……本来ならばアリオスさんが護衛に就く予定だったのだが……リベールだと聞いて、エオリアが力強くミシェルに直訴したらしくてな。」

「エオリアが?何でまた?」

疲れた表情を浮かべるリンに、スコールは労いの言葉を掛けつつ事情を尋ねると、リンは護衛の任はエオリアが直訴して当初の予定を変えたことに起因するという説明にスコールは首を傾げた。

 

「……シオン・シュバルツ。彼がカルバードの後、クロスベル支部に少し滞在していたことがあってな。その時になんだが……」

シオンはカルバードの一件の後、クロスベル支部に手伝いという形で依頼をこなしていた時期があった。その時、組んでいたのはリンとエオリアだった。ミシェルの『実力を見たい』という言葉に、アリオスの『彼ならば問題はないのだが……』と言っていたが、それでも半信半疑だった二人は彼をサポートとして入れる形で依頼をこなすことにした。

 

 

~遊撃士協会 クロスベル支部~

 

「ご苦労様、三人とも……それで、どうだったかしら?」

クロスベル支部の『異色』な受付……女性の言葉遣いだが、本人の性別は『男性』の受付―――ミシェルは依頼を終えた三人に声をかけた。

 

「驚きだったな……剣術だけでもアリオスさん以上としか思えない剣捌きだった。」

「前衛もできるのに後衛としても問題ない……私の役目がないって感じちゃった。」

そう率直に評価したリンとエオリア。実際、彼の戦闘経験は並の遊撃士からしても尋常とは言えない内容だったことは明らかだった。

 

「あの『教団』の事件に関わっていたというのは、強ち間違いじゃなさそうね。ところで、シオンは二人の強さをどう感じたかしら?」

「……リンさんは、あのジンさんの妹弟子ということもあって、相当の強さですね。『器』は持っていると思います。エオリアさんもその支援能力には俺も脱帽です。今回の依頼だって、エオリアさんの支援がなければ無傷とは言えませんでしたし。」

ミシェルの問いかけに、シオンは率直な言葉でそう評価した。このクロスベル支部で仕事をこなしているだけはある……その戦闘能力や判断能力は他の遊撃士―――A級にいても不思議ではないと感じた。

 

「ふふ、“紅隼”にそう褒めてもらえるとは……」

「もう、年下の癖に一人前の口を利くなんて……」

リンとエオリアは笑みを零しつつも、シオンの言葉に言葉を返した。

 

「フフ、シオンが来てくれてからは大助かりよ。いっそのことクロスベルに転属してみないかしら?」

「あはは……流石にそれは、あっちにいる人(クローゼとかユリ姉とか)が怒りますので……」

「冗談よ♪」

「ミシェルのそれは冗談に聞こえないんだが……」

「全くね……」

「失礼ね。アタシはいつだって半分冗談よ。」

「半分本気!?」

いつものペースを崩さないミシェルに溜息を吐くリンとエオリア、そして驚いたり慌てたりと表情をコロコロ変えるシオンの姿があった。

 

「まぁ、それは置いといて……そういえば、シオンはどこに滞在しているのかしら?」

「ああ……アカシア荘に空き部屋があったからそこでしばらくは滞在してる。家財道具とかも一通りそろえたし、不便はないかな。」

「まぁ、そこなら近いし、不便はないだろうが……エオリア?」

ミシェルの問いかけにシオンがそう答え、あの場所の立地なら問題はないとリンは答えたが……ふと、何かを考え込んでいるエオリアの姿が目に入り、声をかけるとエオリアは我に返って何事もないかのように取り繕った。

 

「……え?あ、何でもないわ。」

「そうか?ならいいんだが……」

「………」

エオリアがそう答えたが、シオンは彼女に『違和感』を感じてエオリアに近づいた。

 

「え……シ、シオン君?」

「エオリアさん、大丈夫?」

「え?だ、大丈夫だから……ちょっと2階で休んでるね。」

エオリアはシオンの行動に戸惑ったが、シオンの問いかけにはぐらかすかのように答えると、2階に上がっていった。

 

「……」

「シオン?」

「どうしたのかしら、シオン?」

「いや……ちょっとした違和感を感じてな。俺が知っている奴が偶に見せていた表情だったから……まぁ、思い過ごしならばいいのだけれど……」

黙り込んだシオンにミシェルとリンが尋ねると、シオンは自分がよく知る身近な人物が稀に見せていた表情……『無理を押し通す』かのような表情というか違和感を覚え、声をかけたのだと説明した。

 

彼のその懸念は、上から聞こえてきた大きな鈍い音で現実のものとなった。

 

「な、何かしら……!?」

「(まさか……)上を見てきます!」

「私も行こう!」

その音に三人は驚き、シオンとリンは急いで2階に駆け上がった。すると……

 

「エオリア!」

「エオリア、しっかりしろ!」

床に倒れこんだエオリアを見つけ、シオンが上半身を起こした。倒れていた状況からして咄嗟に頭部を守ったのだろう……彼女の手は赤くなっていた。荒くなっている呼吸に健康な状態とはいえない顔色……シオンが額に手を触れると、平熱とは思えない熱さを感じた。

 

「仕方ない……ここからなら、俺が借りてる部屋が近い。リンさんはミシェルさんに事情を説明して、医者を呼んでくれ。アカシア荘2階北側の部屋になる。とりあえず、安静にしないと……」

「解った。私は彼女の着替えとかを持って来よう。」

「そこら辺は頼む。流石に男の俺がやるべきことじゃないからな……」

「ああ」

そう言ってシオンはエオリアを抱きかかえると、急いで安静になれる場所―――自分が借りている部屋に急行した。リンは急いで飛び出していったシオンの姿を見たミシェルに事情を説明し、ミシェルは頷いて連絡を取った。

 

 

~アカシア荘 シオンの部屋~

 

『風邪ですね。暫くは安静にした方がいいでしょう。』

 

医者の不養生という言葉があるが、医師免許を持っているエオリアが風邪をこじらせたことが意外だった。彼女は可愛い物好きというどうしようもない一面はあるが、遊撃士という仕事に関しては真摯に向き合っており、今までこういったことは無かったらしい。

医者が帰り……部屋の扉の前で待っていたシオンだったが、扉が開いてリンが姿を現した。

 

「落ち着いたか?」

「ああ……ミシェルは何と?」

「暫くはエオリアさんをシフトから外すそうだ。彼女が復帰するまでは俺がリンさんのサポートに入り……一応、応援も呼んだ。」

「無難だな……応援とは?」

「ああ。俺のダチだが……“不破”“霧奏”の二人がヘルプに入ってくれることとなった。」

「……凄い応援だな。」

「本人たちはそう思っていないけれどな。」

エオリアが完全に回復するまでは暫定的な措置としてシオンの部屋で預かる形となり、そのヘルプとしてシオンと、応援としてアスベルとシルフィアの二人にも入ってもらうこととなった。

 

「にしても……エオリアさんが風邪とはな……リンさん、何か心当たりは?」

「心当たり、か……強いて言うなら、シオン。君の存在だろうな。」

「俺の?」

リンの言葉……エオリアの無理はシオンが原因だということに当の本人は首を傾げた。彼女を意図的に貶めたことなどしていないはず……その疑問に答えるかのようにリンが話し続けた。

 

「ああ……アリオスさんからシオンの存在を聞かされて、少しばかり無茶するようになってな。その時は私でもフォローできる程度だったが……君がサポートに入るようになってからは、拍車がかかったようだな……」

「………」

「シオンが気に病む必要はないさ。とはいえ、成り行き上だが……彼女の看病は頼む。」

「ええ、解りました。」

リンはああ言っていたものの、シオンにしてみれば自分の責任で彼女を追い込んでしまっていたのは事実……それが、今まで知らなかったことでも………

とりあえず、シオンは台所に向かって料理をし始めた。すると、その匂いに意識を取り戻したかのように寝間着姿のエオリアが目を覚まし、上半身を起こした。

 

「…………えと、ここは」

「俺が借りてる部屋ですよ、エオリアさん。」

「え、シオン……というか、私寝間着姿!?」

「とりあえず事情を説明します……」

シオンはエオリアに、ギルドで倒れたことと、やむなく一番近かったシオンの部屋に運んだこと、服や着替えに関してはリンが一通りしてくれたことを説明した。

 

「そっか……」

 

―――キュウ……

 

「はう……」

「……とりあえず、間に合わせで作りましたので。ちゃんと食べて薬を飲んで休んでください。」

お腹の鳴る音にエオリアは恥ずかしそうに顔を俯かせ、シオンはその光景に少し笑みを浮かべつつ、食事―――消化の良い粥を載せたトレーを運んできた。

 

「それじゃ、いただきます………美味しい。シオン君って、男の子なのに料理もできるんだ。」

「人並みですよ、人並み。」

エオリアの称賛にシオンは苦笑して言葉を返した。自分の料理はアスベルを超えようと躍起になってしまったクローゼとユリアの二次被害を被る形で学んだものであり……それを更に高めるために、グランセル城に勤めるジェルヴェ料理長や<アンテ・ローゼ>のロッソ料理長に教えを請い、学んだものだ。尤も、ジェルヴェ料理長も幼き頃の自分を知る数少ない人物で『私如きが王子殿下の手解きなどとは、畏れ多いです』と言われた……それでも、転生前から料理を叩き込まれていたアイツ(ルドガー)には勝てないだろうが……

 

料理を食べ終えると、薬を飲んでエオリアは横になった。すると、エオリアがシオンに話しかけた。

 

「ねえ、シオン君。どうして……君はその歳で戦っているの?」

「戦っている、ですか……そうですね。それは、やり遂げたいもの……叶えたい未来があるから、ですかね。」

「叶えたい未来?」

エオリアの質問に少し驚くが、真剣な表情を浮かべてシオンが言った事の意味にエオリアは首を傾げた。

 

「俺は、アイツらと一緒に幸せな未来を創る……そのためならば、この身が傷つこうが構わない。でも、命は惜しい……なら、強くなるしかない。自分と自分の護りたいものを護りきるために……すみません。子供くさいですよね。」

「本当ね……私ね、君の存在をアリオスさんから聞いたとき、羨ましいと同時に悔しいと思っちゃったの。」

「悔しい、ですか?」

シオンの力強い言葉……それを聞いたエオリアは本音を漏らすかのように呟き始めた。

 

「私はね、元々医者志望だったの。でも、親はそれに反対して、他にもちょっといざこざがあって……気が付いたら家を飛び出してて、遊撃士になっていた。あ、親とはちゃんと仲直りしてるから問題はないのよ。でも……他の人に比べたら私は非力だった。スコットのように銃の腕前があるわけでも、アリオスさんやヴェンツェルのように剣術が使えるわけじゃない。それに、リンのような武術の心得もない……」

エオリアの過去……そして、他の遊撃士に比べれば比べるだけ……自らの非力さを感じてしまっていた。そこに追い打ちをかけるかのようにアリオスから聞かされたシオンの存在……つまり、自らの非力さを更に助長させてしまったのだ。

 

「……力の在る俺が言うのもおかしな話ですが、エオリアさんだって非力じゃないですよ。」

「……え?」

「だって、突っ走りがちなリンさんのフォローが出来て、前のめりがちな遊撃士の面々をサポートできるのはエオリアさんしかいませんし」

クロスベル支部にいる面々……アリオス、スコット、ヴェンツェル、リン。その面々はいずれもある意味前のめり。スコットはサポート的位置にはあるが、しっかりしたサポート役となればエオリアを置いて他にはいないだろう。

 

「……それに、エオリアさんは自分自身の可能性をまだ試していないと思います。」

「可能性……?」

「『己の弱さを知ることが、己の強さを磨くことへの一歩』『目の前に囚われず、全ての可能性を捨てるな』……俺の剣の師が言っていたことです。この世界は広い……エオリアさんの知らない何かが、結びつく日が来ます。」

「シオン君……」

「ま、今は休んでください。それまではリンさんのフォローは引き受けておきますよ。」

一通り言いたいことを言い終えると、支度をして部屋を出た。

 

(可能性……か。年下の男の子に言われちゃうなんてね。)

鍵の閉める音が聞こえると、エオリアは目を瞑り、考えた。

そして、エオリアは何かを決めたかのような表情を浮かべつつ、眠りに就いた。

 

エオリアの風邪自体は軽いものだったので、丸三日休んでいた。全快すると、心配をかけたことに他の面々に謝った……けれども、シオンの部屋に入り浸るようになった。それには当のシオンも首を傾げた。

 

それから一か月後……リベールに戻るシオンを送り迎えするために遊撃士協会の面々―――ミシェル、アリオス、スコット、ヴェンツェル、リン……そして、エオリアの姿がいた。

 

 

~クロスベル国際空港~

 

「皆総出って……ありがとうございます。」

「気にしないで。アイナやエルナン、ジャンによろしく言っておいてね♪」

「アイナさんはいいとしても、エルナンさんやジャンさんは相当嫌がると思いますが……アリオスさん、ちゃんとシズクちゃんの面倒をみてくださいよ。あの子は口に出しませんが、寂しがってると思います。」

「そうだな……シオンにはシズクの面倒をみてもらって、本当に済まない。」

その光景に引き攣った笑みを浮かべたシオン。ミシェルの言葉には伝えるのが億劫になりそうだが、それは置いといてアリオスに娘であるシズクの事を念を押すように言い、アリオスはその言葉を真摯に受け止めた。

 

「スコットさんはパールさんとの時間をちゃんと作ってください。ヴェンツェルさんは、まあ、少し柔らかな感じにした方がいいと思いますよ。」

「はは……肝に銘じるよ。」

「む……そんなつもりはないのだが……」

「そう言うところが堅いってことよ。」

「………善処はしよう。」

スコットは図星を突かれたようで苦笑し、ヴェンツェルは反論したが、ミシェルの言葉に押し黙るしかなかった。

 

「リンさん、至らぬサポートでしたが、本当にありがとうございました。」

「何を言っているのだか……私の方が助けられた。この借りはいずれ返そう。」

「はは……ええ。覚えておきます。それと……」

リンと言葉を交わし、シオンは黙っているエオリアの方を見た。

 

「ほら、エオリア。アナタが今回シオンにお礼を言わなきゃいけない立場よ。」

黙っていたエオリアにミシェルが背中を押すかのように声をかけた。その言葉にエオリアがようやく口を開いた。

 

「……シオン君、その……前に言ってくれたよね?『可能性』のこと。」

「ええ、言いましたね。」

「私、もう少し信じてみようと思うの。自分の可能性を……それと」

エオリアはそう言うと、シオンの目の前に近づき……

 

「ありがとう……んっ」

「!?」

シオンの唇に感じる暖かな感触……エオリアの唇が触れていた。つまり、キスという訳で……

 

「…………」

「ミシェル、これはどういうことだ?」

「アタシがききたいわよ……というか、シオンですら予想外でしょう。」

「エ、エオリアが……」

「……ここ、公衆の面前なのだが……」

その光景に耐性の無いリンは石化したかのように固まり、事情が呑み込めないアリオスに、ミシェルも頭を抱えたくなり、仕事仲間の大胆な行動に慌てるスコット、そして冷静を取り繕いつつ呟いたヴェンツェルだった。

 

「えと……エオリアさん?」

「呼び捨てでお願いね。」

「はあ……エオリア、どうしてなんだ?俺は可愛いものとかじゃないぞ?」

「え?可愛いと思うけれど……でも、それ以上に」

 

 

『あの時、気付いたの。羨ましいとか悔しいとかそんなんじゃなくて……シオンのことが純粋に好きになっちゃったからって♪』

 

 

~東街区 今に至る~

 

「というわけなんだ。」

「成程な……ちなみに、シオンのことは?」

「まだ気付いてはいないが……まぁ、私らは護衛もあるから城に戻るが……」

「そっか……(あれ?確かシオンは城に行くはずじゃ……ま、いっか。邪魔して馬に蹴られたくねえし)」

リンの説明に納得しつつ、スコールは心なしかシオンの無事を祈った……半分ほど。

 

 




アネラスとエオリア……二人の邂逅というよりは、

シオン←エオリアフラグになりました。地味に三人目です。

まぁ……修羅場にするつもりなんてありませんが。修羅場になるのはロイドとリィンだけで十分ですよ(黒笑)

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