~公国大使館~
エステル達が次に訪れた公国大使館……中に入ると、その内装にまたもや驚いていた。
「え……」
「これは、何と言うか……」
「共和国や帝国の大使館とはまた違った趣だな……」
「歴史というよりも、技術を形にした趣とは……エレボニア大使館にもこれぐらいのインパクトは欲しいものだね。」
共和国大使館の異国情緒あふれる造り、帝国の重厚とした内装……それらとは一線を画くように、公国大使館の内部は技術的な趣を取り入れつつ、西洋風の荘厳な作りをマッチングさせた内装となっており、目の当たりにしたエステルらはその姿に目を奪われるほどであった。
「そうですね。レミフェリア大使館は最近できたものですので……それと、技術局長の意向でこういった装飾も施しているそうですし。」
「技術局長……って、ティータが言っていたティオって子ね。でも、12歳でこれほどの事が出来るの?」
「まぁ、出来ないことは無いんじゃないかな……それじゃ、行こうか。」
クローゼの説明にエステルが考え込み、レイアはそれに引き攣った笑みを浮かべたが……気を取り直して、大使の執務室に案内する。
~大使執務室~
「それじゃ、いいかな?」
「うん。いつでもいいわ。」
エステルに確認すると、レイアは扉をノックした。
『どうぞ、お入りになってください。』
「それじゃ……失礼します。」
中から聞こえた声を確認すると、扉を開けて中へと入った。
「あら……久しぶりね。レイアさんにシオン君。王都にいるなんて珍しいわね。」
「お久しぶりです、ルーシーさん。ま、遊撃士もいろいろ忙しいので……」
「久しぶりだな、先輩。今回は事情があってな……」
「そうみたいね……お久しぶりですね、エステルさんにシェラザードさん。それと……クローゼ。いえ、クローディア姫とお呼びしたほうがいいかしら?」
レイアとあいさつを交わすと、面識のあるエステルとシェラザード、クローゼに気付いて声をかけた。
「久しぶり、ルーシーさん。」
「久しぶり。一週間ぐらいかしら?」
「お久しぶりです、ルーシー先輩。それと、今はクローゼ・リンツですので……それでお願いします。」
「解ったわ……さて、初対面の方もいるので……レミフェリア大使、ルーシー・セイランドと申します。」
その言葉にエステルらは言葉を交わすと、ルーシーは改めて自己紹介をした。
「遊撃士のジン・ヴァセックだ。よろしくな。」
「リィン・シュバルツァーといいます。」
「愛の狩人、オリビエ・レンハイムさ。よろしく頼むよ、麗しの大使さん。」
「だから、エレボニアの恥になるようなことは止めなさいよ!ミュラーさんに引き取ってもらうわよ!!」
「寧ろ、ミュラーさんに頼んで簀巻きにしてヴァレリア湖に沈めるぞ!」
「ゴメンナサイ、調子に乗りました。」
「はぁ……」
「あはは……すみません、先輩。」
自己紹介の中でいつもの口調で口説こうとしたオリビエにエステルとシオンは注意し、オリビエは親友の名前を出されたことに謝り、レイアはため息を吐き、クローゼは苦笑しつつもルーシーに謝った。
「フフ……いいのよ。そのノリは帝国出身の誰かさんを思い起こさせるけれど……」
「え、オリビエのような奴がもう一人いるの?」
「ええ……その人は、王立学園の前生徒会長……ジルの前の生徒会長なのだけれど、素行がかなりひどくてね……まともに仕事しなかったのよ。」
「素行がかなりひどい……」
「まともに仕事しない……」
ルーシーの出た言葉にエステルとシオンは言葉を繰り返しながらオリビエにジト目を向けた。
「アノ、何でそこで僕を見るのかな?」
「いや、だってねえ……」
「結構フリーダムよね?」
「お前さんは何かとノリで生きてそうだしな。」
「リィン。同じ帝国人としてどう思う?」
「……ノーコメントで」
「……ごめんなさい、オリビエさん。」
オリビエはたじろぎながらも投げかけた質問に、エステルはあっさりと切り捨てたかのように思い起こし、シェラザードは彼の行動に疑問を呈し、ジンは断言し、シオンはリィンに尋ねたが、リィンは同じ帝国人として答えを返さずにいた。そして、極め付けにクローゼは苦笑を浮かべていた。
「シクシク……」
「ま、いっか……あたし達、脅迫状の件で大使さんに聞きたいことがあったので、お尋ねしたいのですが……」
ショックを受けているオリビエはさておくとして、エステルは脅迫状の事についてルーシーに尋ねた。
「例の件ね。ということは、王国軍の依頼ということで解釈して問題ないかしら?」
「はい。その、脅迫者に心当たりがないでしょうか?国内の反対勢力とか……」
「そうね……少なくとも、国内にこの条約に関して反対という声はほんの少数ですね。寧ろ、賛成が大多数でしたし、議会に関しても全会一致での賛成した案件ですから。」
ルーシーはエステルの質問にしっかりとした口調で言い切った。
「あら、それはリベールと似たような状況に置かれているからかしら?」
「そうですね……とはいえ、いまや『大国』であるリベールとは違い、レミフェリアはいわば眼前でエレボニアとカルバードの領有権争いを行われている身ですので。」
「眼前で?」
「成程、ノルド高原ですね。」
「ええ。」
シェラザードの問いかけ、そしてリィンの言葉にルーシーは真剣な表情でレミフェリアの置かれた状況……『ノルド高原』の領有権問題について話した。
ノルド高原……レミフェリアとクロスベル自治州の間に広がる広大な高原。ノルド族と呼ばれる先住民が暮らす地はエレボニアとカルバードが領有権を争っているが、それほどのいざこざとまではなっていなかった。だが、クロスベル問題の過熱……更には、帝国と共和国各々の調査により、ノルド高原には膨大とも言える七耀石の鉱山……それも、金耀石(ゴルディア)、銀耀石(アルジェム)、黒耀石(オブシディア)といった高価な鉱脈がかなりの規模で広がっており、試算では京単位のミラに換算されるほどの巨大な石が眠っている……このことから、ノルド高原も領有権争いで再燃する事態になっていた。
「レミフェリアも南部に黒耀石の鉱山を有している以上、他人事とは呼べない事態です。その問題の余波で帝国や共和国が火事場泥棒的に我が国の鉱山を襲撃する可能性は捨てきれない……なので、不戦条約には国全体を通して前向きです。」
「フッ、これは手厳しいご指摘だ。」
ルーシーの言葉にオリビエは笑みを浮かべつつもその言葉を甘んじて受け止めた。何せ、エレボニアには『前科』がある以上、ないという保証などないに等しい……ましてや、今の政府のトップが『彼』である以上は……
「ノルドの問題が再燃しているのは事実ですから。それに、レミフェリアはリベールとの経済的つながりが深い……リベールにその気がなくとも、大国である以上、下手な反抗は出来ないのですよ。」
「え、そういうものなの?」
ルーシーの言葉……エレボニア大使館でもオリビエが説明していたが…それに対して未だに実感がないエステルらは疑問に感じるところが大きい。それを見たルーシーはクローゼに問いかけた。
「……クローゼ、貴女はこの国が置かれている状況を俯瞰したことがあるかしら?」
「この国の状況、ですか?」
「……軍事力、とりわけ空戦力に関しては西ゼムリアトップクラス。経済力は今や貿易都市クロスベルすら超えている……それに合わせて伝統的な文化と強靭な外交力……そして、群を抜く導力技術。今のリベール王国は、他の国に無いものを持ちうる国になっているのですよ。」
……とどのつまり、リシャールがクーデターを起こす意味合いなど初めからなく……アスベルがリシャールに言った『完全な横槍』というのは、このことを指していたのだ。
リシャールの考えていたのは屈強な軍事力による強大な国家。だが、アスベルらの考えたリベールの“十か年計画”……それは、軍事・経済・文化……国民の生活基盤となりうる“安全保障”を軸とした国家体制作り。軍の横行に関しては、アスベルらも把握はしていたが……リシャールの事件を機として一斉摘発および“再更生”を行い、屈強な軍作りを一気に推し進めた。
更には『可能な限り独自での経済体制を維持できるだけのシステム作り』……諸外国が経済恐慌に陥っても、単独での早期回復を図れるだけの確固とした国内経済基盤を作ること。そして、“原作”におけるリベールの弱点は、交通手段の脆弱さと一歩進んだ導力技術の普及率。それらを克服するため、十年という月日をかける形であらゆる対策を講じてきた。その成果として、天候にできるだけ左右されない飛行船の発着ダイヤの構築……それと、導力に関しては既に対策を講じている状態だ。
「尤も、そういったことを敢えて自慢しないことで強かな外交力に繋げているのでしょう。」
「あ……」
「ふふ……」
「成程ね。」
ルーシーの言葉にクローゼは驚き、レイアは意味深な笑みを浮かべ、シェラザードは納得したような表情で呟いた。大国でありながらもそれを表面に出さず、言葉の重みとして『大国』たる器を知らしめる……そういった『駆け引き』も、大国ならではのやり方の一つ。それを体現しているのはアリシア女王の政治所以である。
「いやはや、共和国の政治家たちが聞いたら慌てる言葉だな。」
「それは帝国の議員や貴族たちにも言えることだろうね。寧ろ、耳の痛い話とも言うべきかな。」
「違いありませんね……」
共和国出身のジン、帝国出身のオリビエとリィンは各々の感想を呟く。同じ『大国』という器を持ちながらも、治める人によってこうもその姿が変わってしまうのかと……それを実感せずにはいられなかった。
「とはいえ、レミフェリアはリベールと経済連携協定を結んで十年という節目……この国とは公私共に良いお付き合いをさせていただいております。それに、いい友人や後輩にも恵まれましたしね。」
「あはは……恐縮です、ルーシー先輩。」
「それは、こちらもです。」
「……っと、済みません。皆さんも調査の方で忙しいというのに。」
「いえ、ためになるお話を聞かせていただきました。あと、もう一つお伺いしたいのですが……」
笑みを浮かべて述べたルーシーの言葉にクローゼとシオンは礼を述べ、それを聞いたところで我に返って謝ったが、いい勉強になったという意味を込めてエステルが答えつつ、もう一つの案件であるレンの両親について尋ねた。
「ヘイワース夫妻ですか……少なくとも、ここを尋ねたことは無いですね。」
「そうですか……ありがとうございます。」
「ええ。あ、そうだ。レイアさんとシオン君は残ってもらえるかしら?遊撃士絡みで少し大事なお話があるから。」
「?ええ、いいですけれど……じゃあ、エステル達。先にグランセル城に行ってて。」
「うん、解ったわ。それじゃ、失礼しました。」
ルーシーの呼び止めに頷き、レイアとシオンはここに残り、エステルらはグランセル城に向かうために大使館を後にした。そして、しばらくして……ルーシーは二人に話しかけた。
「さて……久しぶりね。その感じだと、拓弥に沙織かな。」
「は!?……って、美佳先輩!?」
「成程……貴方も『目覚めた』んですね先輩。」
「うん、そういうことになるかな。尤も、元の人格である『ルーシー・セイランド』さんがすんなり融合するとは思わなかったけれど……一応、私は『茅原美佳』であり『ルーシー・セイランド』である……それは、知っておいてほしいの。」
今までとは異なる雰囲気を纏ったルーシー。彼らが『美佳』と呼んだ彼女は、ルーシー・セイランドとして『転生』した人物であった。
「でも、先輩って私たちが生きていた時はまだ存命だったはずじゃ…」
「……私の父がね、貴方達のハイジャックを陰で指示していた一人だった。それを知った私と彼は『事故死』……ううん、『殺された』というべきかな。気が付いたら、この世界に転生していたの。」
「………」
「壮絶すぎるだろ………」
「ふふ……貴方達に比べれば、この世界での生き方は平穏そのもの。とはいえ、今まで培った知識が役立つというのは皮肉としか言いようがないけれど……」
ルーシーが大使となり得た理由……それは、『彼女』―――美佳が今までに父親から培った政治の知識や交渉術といった政治関連の駆け引きを一通り学んでいたからに他ならず、それを無意識的に引き出していたからである。ちなみに、クローゼにはそこら辺の知識などをまとめた資料を彼女に渡している。
「レイア、話しておくか……」
「そうだね……アスベル、シルフィア、ルドガー、マリク、セリカ……この五人も転生者です。あと………―――や―――もです。」
「そうなんだ……フフ、これは会う時が楽しみね♪」
(うわぁ、すっごい笑顔だなぁ。)
(出会い頭に腹パンかましても違和感なさそうだな……)
満面の笑みを浮かべる美佳もといルーシーの姿を見て、レイアとシオンはその相手となる人物に心なしか命の安否……生きて帰れることを“空の女神(エイドス)”に祈ったとか………祈らなかったとか………
以前???扱いだった三人のうち一人……ルーシーさんに転生していました。
元々秀才?であったルーシーさんが(政治的な意味で)ブーストかかった状態ですね。なので、大使が務まるという訳です。
……教えてくれ五飛、後何話で『お茶会』が終わるんだ!?(自業自得)