英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第92話 二つの調査~クロスベル市長~

エステルらは一度ヒルダ夫人のもとに訪れ、マクダエル市長のことを尋ねると、女王からその話は既に伝わっているようで……丁度手が空いていたメイドのシアが部屋の前まで案内することとなり、エステルらは案内されるがまま部屋の中に入っていった。

 

~客室~

 

「おや、見慣れない顔がいるが……」

「あら……エステルさんにオリビエさん、それとクローゼさん!?」

「久しぶり、エリィ!」

「お久しぶりです、エリィさん。」

「フッ、これは麗しきマドモアゼル。再び会えるとはこれも何かの巡り会わせだろうね。」

部屋の中に入ってきた人々に驚きを隠せないヘンリー、その傍らにいたエリィが見知った顔であるエステルとオリビエ、クローゼに声をかけ、三人は挨拶を交わした。

 

「全くコイツは……あ、すみません。」

「フフ、気にしておらんよ。君がエリィの言っていた『エステル』君だね。クロスベル自治州共同代表にして市長、ヘンリー・マクダエルという。孫がお世話になったようで、私からもお礼を言わせてほしい。」

「いえ、大したことはしてませんし、あたしと言うよりもレイアやシオンに言うべき台詞かと……あ、えと、遊撃士協会に所属するエステル・ブライトといいます。」

オリビエの口調にジト目で無言の注意をしたが、ヘンリーの姿に気づいて謝った。ヘンリーはそのやり取りに柔らかな笑みを浮かべてそう答えつつ、以前孫が世話になったことに触れ、エステルは自分に掛ける言葉ではないにしろ、一応その言葉を受け取りつつ、自己紹介をした。

 

「同じく遊撃士のシェラザード・ハーヴェイよ。」

「同じく、ジン・ヴァセックだ。」

「協力員のリィン・シュバルツァーといいます。」

そして、残った面々も自己紹介をした。すると、扉が開いて二人の女性が姿を現し……その胸には正遊撃士の紋章が付けられていた。

 

「ただ今戻りました……おや、ジンさんじゃないか!」

「お、リンか。久しぶりだな。」

「へ?知り合いなの?」

すると、片割れのショートの黒髪の女性がジンの姿に気づき、ジンもその女性の姿に気づいて挨拶を交わした。その様子にエステルは首を傾げ、ジンに尋ねた。

 

「ああ。俺と同じ流派の妹弟子で……」

「リン・ティエンシア。クロスベル支部所属の遊撃士だ。よろしくな。で、こっちが……」

「同じく遊撃士のエオリア・メティシエイルよ。よろしくね。尤も、シェラザードとは久しぶりになるかな。」

「ええ、久しぶりね……というか、『あの癖』は以前と変わらないのかしら?」

「全くだな……しかも、『同志』を見つけたらしく、えらく上機嫌のようで……」

ジンの説明の後、リンが自己紹介をし、続いてエオリアも自己紹介をしつつシェラザードに声をかけた。それに答えつつもシェラザードはリンにエオリアの癖の事を尋ねると、リンはため息が出そうな表情で呟いた。

 

「シェラ姉、『あの癖』って?」

「『可愛い物好き』……まさか、アネラスと会ったの?」

「ああ。で、金髪に赤い帽子をかぶった女の子、菫色に白のドレスっぽい服を着た女の子、それと水色の髪に黒の服装をした女の子が被害に遭った……」

「………」

エステルの問いかけにシェラザードは答えつつも『懸念』のことをリンに尋ねると、その予感は正解だとでもいうようにリンが答えつつ、被害に遭った面々の特徴を伝えると、エステル達はその中の二人に心当たりがあり、内心冷や汗をかいた。

 

「エオリア、アンタは何してるのよ……」

「え?知り合いなの?」

「水色の髪の子は知らないが、お前さんが抱き着いた子……菫色の女の子はこっちで保護してる子だ。」

「フフ、その大胆さ……僕も見習わなければいけないね。」

「習うな!!というか、アネラスも何やってるのよ……」

頭が痛くなりそうな出来事にエステル、シェラザード、ジン、リンは揃ってため息をついた。

すると、更に扉が開いて……レイアとシオンが入室してきた。その瞬間……

 

「え?」

「あ………お邪魔sって、ええっ!?」

シオンとエオリアの目が合い、シオンは反射的に踵を返そうとしたが……それよりも、欲が絡んだエオリアの速度の方が更に速く……

 

「シオンじゃない!!久しぶり~!!」

「………」

次の瞬間、エオリアの胸に顔を埋められる形で抱き着かれたシオンの姿がそこにあった。

 

「………」

一同唖然。この状況を言葉で表すならば、それ以外の表現方法などない。少しして、一番早く我に返ったのはある意味そういったやりとりを目の前で見てきたエステルだった。

 

「え、えと……レイア、どういうことなの?」

「え?えっと……多分、シオンがクロスベル支部の手伝いをしていた時に仲良くなったと思うよ?」

「可愛い物好きのエオリアがこんなになるまでとは……ユリアさんは苦労しそうね。」

「フフフ……流石はシオン。僕の好敵手として認めた御仁だ。」

この状況にエステルは問いかけ、レイアは戸惑いながらも答え、シェラザードはエオリアの姿にため息をついて苦労するユリアの姿が目に浮かび、オリビエは彼の魔性の魅力に感心しつつも、笑みを浮かべ呟いた。

 

「……ぜぇ、ぜぇ……いきなり抱き着くなよ。というか、前よりも威力が増してねえか……」

「シオンと別れてから努力していたようでな。」

「勿論よ。目指すはウルスラ病院のセシルさんだし。」

「………」

その努力は結構であるが、やられる側の身にもなってほしいものだとシオンはジト目でエオリアの方を見つめた。こちらとしては、下手すれば死にかねない……程々にしてほしいと思うが、今の彼女には何を言っても無駄であるというのは情けない話だ。一方、クローゼは………

 

「………」

「クローゼさん?………立ったまま気絶してる!?」

「この表情……『女として負けた』ような表情をしているわね。」

「冷静に分析してる場合じゃないでしょう!?クローゼ、しっかり!!」

直立不動で石化したかのように放心し……それにいち早く気づいたリィンが声をあげ、その様子を見てシェラザードが冷静に分析し、それにエステルがツッコミをいれつつもクローゼに声をかけ………一分後、ようやくクローゼは我に返った。

 

「……はっ!?川の向こうから写真で見覚えのある私の両親が手招きをしていましたが………夢だったみたいですね。」

「あ、危ないところまで……瀬戸際で止められてよかったわ。」

「まったくだ……」

クローゼの発言から、どうやら三途の川の直前まで行っていたようだ……川を渡られていたらアウトだっただけにエステルとリィンは安堵のため息をついた。とまぁ、こんな一騒動の後………

 

 

「改めて……クローゼ・リンツ……いえ、リベール王太女クローディア・フォン・アウスレーゼと申します。このような格好でのご挨拶になることに関しては大変申し訳ありません。」

「ク、クローゼさんが…次期女王様って…」

「ふむ……クローディア殿下、そのことはまったく知らされておりませんが……」

「この件は不戦条約の調印式後の会見にて国内外にお知らせする予定ですが……エリィさんとは良き友としてこれからもありたいことと、その祖父であるヘンリー市長を信頼し、お話ししたのです。」

クローゼは自己紹介をしつつ、ヘンリーに尋ねられたことについて凛とした表情ではっきりとその意図を伝えた。

 

「そうですか……ところで、私に聞きたいことがあって尋ねたようだが……」

「はい。脅迫状の調査をしているのですが……協力願えますか?」

「ヒルダ夫人から伝えられた件の事だな。うむ、私如きが力になれるか解らないが、協力しよう。」

「ありがとうございます。その、脅迫者に心当たりはありませんか?その、国内の反対勢力とか……」

ヘンリーの言葉を聞き、エステルは脅迫状の心当たりがないかどうか尋ねた。

 

「ふむ……そもそも、今回の事に関してクロスベルは条約を結ぶ側ではない。今起きている『クロスベル問題』を鎮静化させるためのものであるのは間違いではないが、クロスベルは『自治州』……それも特殊なケースとも言える。」

「へ?そうなんですか?」

「リベールにある自治州もそうですが……クロスベル自治州はいわばエレボニアとカルバード―――『二国の一部』という扱いです。例外なのはアルテリア法国が認めた自治州ぐらいですから。」

『国の一部』……クロスベルは『国家』ではなく、エレボニア帝国の一部であり、カルバード共和国の一部であるという極めて歪な環境の上に成り立っており、それが長い間にわたって続けられてきた。今回の条約は『国家』間での国際条約であり、クロスベル自治州はその条約に加盟することも批准することもできないのだ。

 

「ええ。強いて言うなら『ルバーチェ』くらいだけれど……利益の観点からして、リベールに喧嘩を売るような真似はしたくないでしょうし。」

「『ルバーチェ』?」

「簡単に言えばマフィアだな。クロスベルの裏を取り仕切る組織だ。だが、利益を追求するとなれば、その恩恵の一部であるリベールに喧嘩を売って大火傷を被る真似など好き好んでやるとも思えない。」

エリィの言葉の中に出てきた単語が気になったエステルが尋ねると、シオンがかいつまんで説明しつつ、その問いに答えた。単純に言えば『敵』は多いものの、『反対勢力』として表に出てくることは無い……その意味も込めて説明をつづけた。

 

「それじゃあ、何故今回の調印式に呼ばれたのかしら?」

「女王陛下の計らい、と言うべきだな。今回の事をきっかけに『クロスベル問題』を国内外に啓発することで眼に見えない抑止力を作りつつ、リベール=レミフェリア=クロスベルの包括連携を公表することが目的なのだ。」

「そして、リベールはクロスベル問題に対して本気で向き合う用意がある……そのことも意図されての招待だと思うの。」

その裏で動いているのは、アスベルらだった。

 

情報局を有する帝国、近々情報機関を設立する予定の共和国……不戦条約後に予測される『情報戦』を更に先取りする形で、二つの国とクロスベル自治州が『縦の連携』を行えるよう密かに進めてきた『国家機密級情報協定』……表向きはリベールとレミフェリア二国間の条約であるが、クロスベルの『信頼しうる人達』……セルゲイ・ロウ、ハロルド・ヘイワース、ミレイユ・ハーティリー、フェイロン・シアン、ソーニャ・ベルツ、ダグラス・ツェランクルド、ヘンリー・マクダエル、ミシェル・カイトロンド……この他にも各方面の賛同者を得る形で、国境を持たないテロリストや猟兵団、『結社』の存在をいち早く伝える『ネットワーク』を形成すること。

 

そして、不戦条約の“附則”にある自治州の統治規則……それに反した行動をとった場合、リベールにはその問題に毅然とした態度で介入することを示唆することで、下手な手を打たないように仕込んでいる。

 

「無論、私はこの四か国の条約に賛成だ。この条約でクロスベルが少しでも平和になってくれれば、これ以上のありがたいことは無いからの。」

「お祖父様……」

「……確かに、それが自治州のトップとしては賢明な考え方ですな。」

「フム……ヘンリー市長、無礼を承知でお尋ねするが……貴方自身の目から見て、クロスベルと言う場所をどう思われているのかな?」

ヘンリーの言葉にエリィも言いありげな表情を浮かべつつそれを聞き、ジンはその賢明さに感心していたが……オリビエは突然ヘンリーに彼が治めている場所について率直な感想を尋ねた。

 

「オリビエ、ちょっとそれは……」

「……そうだな。私は長いことクロスベルという地に携わってきたからこそ言える言葉ではあるが……『争いなき時などない』……こう結論付けるほかあるまい。」

「『争いなき時などない』……ですか?」

その問いかけは流石に無礼すぎるとエステルが注意しようとしたが、ヘンリーがその問いに答えたのでエステルは注意を止めた。ヘンリーの言葉を繰り返すかのようにリィンが問いかけた。

 

「うむ。私が生まれた年が丁度クロスベルが自治州となった年……いわば、私の人生はクロスベルの歩みと共にある、と言ってもいいだろう。その中で、二国が争ってきた『犠牲』は計り知れぬ……歴史の陰に追いやられたものなど、数えればきりがないほどに……」

「………」

真剣な表情で話すヘンリー、それを見つつも沈痛な表情を浮かべるエリィ。

だが、ヘンリーの言っていることは事実なのだ。クロスベルは自治州成立後……毎年謎の事故が発生し、似たような事故が起きるたびに揉み消されていた………それは、帝国と共和国の『暗闘』の結果であり、クロスベルに住む人々はそれに怯えながら暮らし続けていた。『百日戦役』後、その件数も大幅に減り……三年前の『事故』を最後に今のところは起きていないのだ。

 

「だが、リベール……この国は、私たちに『民の在り方』を示してくれた。」

「『在り方』、ですか?」

「クロスベルに生きるものは何かに追われる者ばかりだ……だが、この国の気質はそういった人々にきっかけという『種』を与えた。『国の在り様は民の在り様で決まる』……それがどのような『花』を咲かせるか解らないが……エステル君。君の父親は本当の“英雄”かもしれぬな。」

「あはは……父さんは自分で英雄だということを否定してましたが……」

ヘンリーの言葉……カシウスは本当の意味で“英雄”だということにエステルは笑みを浮かべつつも、とうの本人は否定したがるだろう……むしろむず痒くなるかもしれない、と言うことも含めて、答えを返した。

 

「……答えていただいて感謝します、ヘンリー市長。」

「め、珍しく殊勝ね……っと、そうだ。話は変わるんですが……」

いつもならば軽い口調のオリビエが真面目に答えたことに鳥肌が立ったが、気を取り直してレンの両親について尋ねた。

 

「ヘイワース夫妻か……ふむ、確か……一週間前にオレド自治州の方に家族旅行ということで聞いてはいたが……流石に彼らと直接連絡は取れないが……」

「そ、そうですか……」

ヘンリーは考え込んだ後、彼らから聞いたことを伝えたが、肝心の行方の方は解らず、エステルは落ち込んだ。だが……

 

「だが、妙だな。」

「妙、とは?」

「うむ。彼等には男の子がいる。だが、女の子がいるとは『聞いていない』し、『会ったこともない』のだ。」

「え!?で、でも、確かにヘイワースって名乗って……」

ヘンリーの言葉にエステルらは驚いていた。ヘイワース夫妻に子どもはいるのだが、『女の子』ではない……だが、レンが嘘をついているようには見えない……この状況に困惑していた。

 

「私も彼らと出会ったのは五年前……ちょうど男の子が生まれた後ぐらいだったから、それ以前となると分からないが……」

「これは驚きね……エステル、どうする?」

「……しばらく、このことを伏せておかない?変に勘繰られていなくなったりしたら大変だもの。」

「ま、それぐらいが落としどころだな。」

「そうだね。」

エステルが話している一方……

 

「………」

「……いやはや、何とも言えない感じだね。これは。」

真剣な表情を浮かべて考え込むクローゼとオリビエだった。

 

その後、リベール通信を訪れ、脅迫状の事に関しては『愉快犯』という線が強いというナイアルの予測、そしてレンの両親に関しては仲間に聞いてみるということを約束してもらった。その後、エステルらは報告をするためにギルドへと戻った。

 

 




調査編だけで時間かかった……ここから加速度的に事件が進みます。

あと、何人かオリジナルの名字にしています。



??「ウフフ……真夜中の『お茶会』にようこそ♪」

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