英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第97話 『お茶会』の幕引き

~王都グランセル 波止場~

 

アスベル、シルフィア、レイア、シオン……四人の加勢で、形勢は一気にエステルの方に傾いた。

 

「いきなさい!」

「はっ!!」

カノーネの命令により、銃を持つ兵士らがエステルらに向かって銃弾の雨を浴びせようと攻撃を仕掛ける。

 

「各員、散開!一気に蹴散らすぞ!!」

「了解!!」

アスベルの号令に皆が頷いて士気を高め、銃撃をかわすように散らばる。

 

「それでは、奏でるとしよう……僕の愛は君らのような輩すら上回るのだと!」

オリビエが相手の出方を挫くように銃を放ち、特務兵の動きを鈍らせる。

 

「方術―――速きこと電光の如し!」

そして、クルツは新たに習得した味方の移動距離と速度を向上させるクラフト『方術・速きこと電光の如し』を発動させ、更にオーブメントを駆動させ始めた。

 

「くそっ!!」

「アーツを発動されては厄介だ……後衛から潰すぞ!」

特務兵らはクルツを狙いに定めたが……

 

「そうは問屋がおろさへんで!フレアバタフライ!!」

インターセプトする形でケビンがあらかじめ準備していたオーブメントが駆動し、アーツが撃ち込まれる。

 

「くっ!教会の神父風情が!!」

「神父風情で結構や。尤も……アンタらの運命は決まったようなものやけどな。」

「一体何を言って……」

悪態をつく特務兵だったが、ケビンは少しも動揺せずにあっさりと言い切った。その言葉に疑問を感じた特務兵だが、その次の瞬間にその意味を図らずも知ることとなった。

 

「ケビン君、感謝する。ライトニング!」

「ぎゃあああっ!?」

すかさずクルツから放たれた風属性のアーツに特務兵らは悲鳴を上げた。

 

「オリビエ君、とどめをお願いしよう。」

「エステル君の先輩とも言える君の頼みとあらば断る理由もない……君ら相手にこれを贈るのは無粋ではあるが、奏でさせてもらおう!」

クルツの呼びかけに、オリビエは懐から今まで使っていた物とは異なる意匠―――黒主体に赤金の装飾が施された導力銃を取出し左手に構え、右手には白金色主体に金の装飾が施された銃……それを構えると、特務兵らに向けて走り出しつつ銃撃を浴びせる。

 

「舞い踊るは奇蹟の顕現……奏でるは無限の協奏曲!」

さらには、明後日の方向に打ち出される銃弾……それは突然光り出し、敵の周囲を取り囲むかのように七つの魔法陣を顕現させると共に、オリビエは敵陣のど真ん中に布陣する形で二丁の銃を左右に向けた。銃口の前に展開された魔法陣はオリビエを守るかのように回転を始め……そして、彼の狙いは七つの魔法陣―――オリビエが考え出した新しいクラフト……『演奏家』として、そして『皇族』である身分の自分として……これから彼が戦う相手への決意を形にした、『銃撃の軌跡』―――オリビエは高らかにその名を叫ぶ。

 

「舞い踊れ、コンチェルトミラー!!」

オリビエの新たなSクラフト―――九つの魔法陣による反射・加速された銃弾が前後左右から敵を容赦なく襲う鏡の協奏曲……『コンチェルトミラー』が炸裂し、特務兵は気絶した。

 

「あの演奏家は……負けてられねえな!いくぜ、『ブレイドカノン』!!」

「あたしも行くわよ、『レイジングアーク』!!」

『起動者』の二人の呼びかけに、二つの『剣』は煌きを増す。そして、互いにSクラフトを容赦なく敵に浴びせる。

 

「いくぜ!ヴォルカニック、ダァァァァァァイブ!!」

「とうりゃああああああ!!奥義、聖天・鳳凰烈破!!」

“剣帝”の技『冥皇剣』を破ったアガットのSクラフト『ヴォルカニックダイブ』、そしてエステルは『聖天兵装』によってさらに強化された自身のSクラフト『聖天・鳳凰烈破』を特務兵に叩き付け、二人と対峙していた兵らは戦闘不能となって気絶した。

 

「全く、あいつらは……成長したにもほどがあるだろ……」

「ふっ……だからこそ、面白い!!」

「ま、その意見には同意するけど、なっ!!」

“原作”から大きくかけ離れたアガットとエステルの成長に呆れるシオン。同じように驚きつつも、笑みを零したアスベル……二人はそれぞれレイピアと太刀を構えると、銃を構える特務兵らに向かって走り出した。

 

「撃て!!」

特務兵は銃を撃つが、

 

「おせえな、おせえよ。」

「温い」

二人は銃の軌道が“見えている”かのごとくかわし……特務兵が気付いた瞬間には、二人が目前にいた。

 

「この先の『前哨戦』だ。遅れるなよ!」

「むしろ『準備運動』じゃねえの?ま、せいぜい頑張るさ!」

二人は姿を“消した”……特務兵らはその光景に唖然としたが、

 

「ふっ!はっ!せいっ!そらっ!」

「はああぁっ!!」

「ぎゃああああああああっ!!」

身に見えぬ速さで襲い来る攻撃に特務兵らは対応できず、一方的な蹂躙劇が展開されていた。そして、彼等がようやく二人の姿を見た時には、立っているのがやっとの状態だった。

 

「これでっ!」

「終わりにさせてもらおう……!」

そして、膨大な闘気を纏う二人。互いに“転生者”として、『百日戦役』を生き残った者として、武器は違えど奇しくも似たような戦闘スタイルを駆使する二人が繰り出す超高速戦闘のコンビクラフト。その名は、

 

『ファントム!』

『セイヴァー!!』

アスベルとシオン……超然たる高速戦闘が可能な二人だからこそ可能とする、不可視の剣撃の嵐を繰り出すコンビクラフト『ファントムセイヴァー』。その破壊力に銃を構えた特務兵らは鎧や兜を破壊され、全員強制的に気絶させられた。

 

「あらら……本気ではないにしろ、圧倒しちゃったね。」

「まぁ、仕方ないかな……あとは」

その様子に魔導突撃槍(オーバル・バスタードランス)―――スタンハルバードの衝撃変換ユニットデータや学園祭の時に取ったデータを基に、ラッセル博士がレイア専用の変換ユニットを完成させ、クラトスがそのユニットとゼムリアストーン、更にはレイアが回収したアーティファクトやらクラトスが持ち帰った物を組み合わせて完成させたレイアにしか使えない武器……『レナス』の名を冠した武器を片手で振るうレイアは彼等の速さに感心し、シルフィアはその光景を頼もしく思いつつ……ユリアとカノーネの方を見た。

 

「クッ……せめて貴様だけは!覚悟おし!」

「させん!」

特務兵達の状態を見て表情を歪めたカノーネは素早くユリアの懐に入って蹴りや銃を使って、ユリアに連続攻撃をし、カノーネの攻撃をユリアは防いでいた。

 

「なら……全弾ゼロ距離発射!!」

「くっ……やるようになったな、カノーネ。」

至近距離の銃の連射攻撃はさすがのユリアも防げずダメージを受けたが、素早く体制を整えるとすかさず反撃に出た。

 

「流石はリシャール元大佐の副官とも言うべきだ。武も鍛えたようだが……それでは、私には勝てない。行くぞ!はっ!やっ!せいっ!たぁ!!」

「キャアッ!?」

ユリアが放ったレイピアによる一糸乱れぬ見事な4段攻撃のクラフト――ランツェンレイターを回避できなかったカノーネは悲鳴を上げて、膝をついた所を

 

「我が主と義のために………覚悟!たあっ!………チェストォォォ!」

「キャアアアアアアアッ!?閣下……申し訳……ありません………」

ユリアはSクラフト『ペンタグラムクライス』をカノーネに放ち、カノーネは戦闘不能になり気絶した。

 

「ふう、なんとかなったわね。」

「何とかというか、これは一方的な戦いのような……」

「ま、うまくいっただけでも儲けものじゃねえか。」

カノーネと特務兵らは全員気絶し……エステルはそれを見て一息ついた。その様子をオルグイユの陰から見ていた人物―――デュナンが出てきた。

 

「お、終わったのか……?」

「あ、公爵さん……?」

「なんや……戦車に乗せられてたんか?」

デュナンがオルグイユから出て来た事にエステルは驚き、ケビンは尋ねた。

 

「うむ、まあな……。今回ばかりはお前たちに礼を言わねばなるまいな……。感謝の証に、私の秘蔵する傑作劇画セットを譲ってやろう!」

「え、遠慮しときマス……。でも、まさか公爵さんに感謝されるなんてね―――そうだ。フィリップさんがあちこち探していたわよ。クローゼも言っていたことだけれど、公爵さんも女王様の親戚なんだから、人に迷惑をかけるようなことは止めなさいよね?」

デュナンの感謝の言葉に脱力していたエステルだったが、フィリップの事やクローゼの言葉を思い出し、デュナンに説教した。

 

「………そ、それは、だな……」

「公爵さん、正座」

「えと、その、だな……」

「へ・ん・じ・は?解ったら正座して謝りなさい!」

「う、うむ!大変申し訳なかった!!」

煮え切らない態度のデュナンにエステルは威圧を込めた笑顔でデュナンに迫り、デュナンはたじろぐも……彼女の有無を言わせぬ言葉に屈し、正座して土下座をする羽目になった。

 

「エ、エステルちゃん……(こ、怖いで……笑顔なのに怒ってるやないか……)」

「ガクガクブルブル……(本当に恐ろしいね……ある意味カシウス殿より手ごわいね。ヨシュア君、早めに帰ってこないと命すら危ういとおもうのだが……)」

「……エステル君、その……逞しくなったみたいだな。」

「………女というものは本当に強いな。」

「エステル君……(フッ、やはりその物怖じしないところはカシウス殿やレナさんにそっくりだな。)」

怒られているわけではないのに体の震えが止まらないケビン、トラウマが再燃しているオリビエ、後輩の成長ぶりに少し躊躇いがちに呟くクルツ、その光景に遠い目をするアガット……そして、彼女が二人の子であることをしみじみと感じたユリアだった。

 

「……エステル、逞しくなったね。今こそ彼女こそが本物のキング・オブ・ハートだよ。」

「お前は何を言っているんだよ……しかも、それある意味死亡フラグじゃねえか。」

「大丈夫、いざとなったらアスベルにフラグ折ってもらうから。」

「はぁ………」

「あはは、アスベルお疲れ様。」

弟子の成長に感激しているレイアの言葉にツッコミを入れるシオン。彼女のいざという時のアスベル頼りに、当の本人はため息しか出てこず、シルフィアはアスベルの肩に手を置いて労いの言葉をかけた。

 

 

「ふぅ………さて、いるんでしょ。レン!」

公爵の謝罪を聞いて一息つくと……エステルは招待状に書かれた『娘』……レンの名前を呼ぶ。すると、

 

 

―――……やっぱり、エステルも『かくれんぼ』が上手なのね。レンを2回も見つけるなんて、少し感心しちゃった。

 

 

聞こえた声―――その方向は倉庫の上だった。エステルらはその方向を向くと、レンが立っていた。

 

「なっ!?」

「子どもが何故ここに……!?」

レンの姿に驚くケビンやユリア……だが、対照的にエステルらやアスベルらは冷静にレンの方を見ていた。

 

「うふふ、こんばんは。月がとってもキレイな晩ね。今宵のお茶会は楽しんでいただけたかしら?」

「お茶会……ってことは、やっぱりレンがこの『お茶会』の招待主ってことなの?」

「………」

「な、何よ、レン。その眼は?」

レンの挨拶を聞いた後、エステルの問いかけを聞いたレンは予想外の人物から予想外の質問が飛んできたことに驚いてエステルの方を見て、エステルはたじろぎながらもレンに問いかけた。

 

「うふふ、“影の霹靂”やお兄様の言っていたこともあながち嘘じゃなかったってことね。いつもの能天気さはお芝居だったのかしら?」

「誰がノーテンキですって?いっとくけれど、あれは演技じゃなくてアレもあたしよ。」

「成程ね……レンとエステルは、ある意味似た者同士かもしれないわね。」

「???」

レンでも予想外だったこと……あの二人の言っていたことは間違いではなかったと内心悔しそうにしつつも、エステルに問いかけ、エステルはジト目でレンの方を見つつ答えを返すと、レンは意味深な言葉を呟いてエステルは首を傾げた。

 

「ちょ、ちょっと待て……アレか?オレに手紙を出したのは嬢ちゃんやって言うんか!?」

「ええ、レンよ。脅迫状を11通。教会のお兄さんに1通。情報部のお姉さんに1通。そして、エステルに1通。全部で14通。うふふ、何だか手紙を書いてばっかりね。お兄様やレーヴェは、誉めてくれるかしら。」

信じられない様子でケビンに尋ねられたレンは悪びれもない表情で答えた。

 

「その名前……やっぱり、てめえはレーヴェと同じ『執行者』ってことか。」

「ご明察よ、赤毛のお兄さん。『身喰らう蛇』が『執行者』No.ⅩⅤ“殲滅天使”レン。皆様方……以後、お見知りおきを、なんてね。」

アガットの推察に肯定し……そしてレンは異空間より大鎌を取り出して、小悪魔的な表情を浮かべつつ自己紹介をした。すると、どこからか聞こえるブースターのような音……エステルらは流石にその音に首を傾げ……ユリアが上空から来る何かに気づき、叫んだ。

 

「上だ!気をつけろ!!」

そう叫ぶと同時に着陸したのは大型の機械兵器―――ゴルディアス級人形兵器『パテル=マテル』の姿だった。

 

「なあっ!?」

「何だコイツは!?レグナートに匹敵するでかさじゃねえか!?」

「これだけの大きさの兵器……カルバードやエレボニアはおろか、財団でもみたことがない代物だね。」

「オイオイ、結社というのは何でもアリなんか!?」

各々がその光景に驚きを見せている中、エステルはレンに問いかけた。

 

「レン……ひょっとして、あなたが連れていたとかいう両親も人形ってことなの?」

「正解よ、エステル。けれど、レンが側にいないと人間らしく操れないんだけどね。でも『人形の騎士』のペドロにも負けない自信はあるわ。あ、でも今回は、ユーカイされたりお茶会の主人になったりしたから……ティーア姫の役も多かったかしら?」

「あ、あんたって子は…………」

笑顔を浮かべて語るレンにエステルは怒りを抑えた様子でレンを睨んだ。

 

「レ、レンちゃん!?」

「みんな、目がさめたのね!?」

「はい。けど、この状況は一体……」

エステルに答えたクロ―ゼはカノーネ達やレンを見て、戸惑った。

 

「うふふ、睡眠薬の効果も時間ピッタリだったみたい。ヨシュアに教わった通りね。」

「……(あの時あたしを眠らせたヨシュア……同じ『執行者』なら知っていてもおかしくない、か……)」

レンの言い放った事実に、エステルもさすがに驚きはしつつも、ヨシュアに眠らされた事実からすれば『同じ存在』であるレンが知らないという保証などなく、これに関しては真実なのだと半分納得した。

そして、レンは<パテル=マテル>の掌の上に飛び乗った。

 

「にしても、レンを救ってくれた“恩人”に出会えるだなんて……今日は本当に楽しかったわ。」

「………」

「(アスベル、いいのか?)」

「(ここで下手に手出しして、“教授”が強行手段に出たら目も当てられないからな……)」

「(まあ、納得かな。)」

「(そうだね。)」

レンの言葉に黙ってレンを見続けるアスベルにシオンが問いかけた。確かにレンを取り押さえるのは容易だが、“教授”が暴走されても困るということでこの場は保留にすることとした。

 

「まさか『ゴスペル』を壊しちゃうだなんて、エステルは本当に凄いわね。レン、エステルの事が気に入っちゃったわ♪それでは皆様……今宵はお茶会に出席して頂き、誠にありがとうございました。」

そう礼を述べるような仕草をすると、彼女を乗せた<パテル=マテル>はスラスターを吹かして上昇すると、ヴァレリア湖を渡っていくような形で飛び去って行った。

 

 




この話で章を一旦区切る形にします。

次章は『結社』の連中も出ますが、残虐シーンというよりはバラエティっぽくなる予定です。

つまり……ワイスマンの出番はかなり少なめです。

その代わり、いろんなキャラが動き回ります。フラグの辺りも……ですがね(半分怒り)

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