英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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FC・SC第七章~担い手が集いし国~
第98話 それぞれの懸案


~ヴァレリア湖畔 『結社』研究施設~

 

レンを乗せて飛び立った<パテル=マテル>が降り立った場所……それは、ヴァレリア湖畔のどこかに建造された『結社』の研究施設。その屋上に<パテル=マテル>が着地すると、レンは掌から降りた。

 

(それにしても……エステルの『アレ』は何だったのかしらね。教授からそんなことは聞いていないけれど……)

「―――ご苦労だったな、レン。」

考え込むレンに掛けられた声。その主の方を向くと、そこにいたのはアッシュブロンドの髪の青年―――レーヴェの姿だった。

 

「ありがと、レーヴェ。一応データは取れたけれど、『ゴスペル』は壊されちゃった……」

「何……俺の時と同じように『ゴスペル』を壊したとは……そいつは赤毛の剣士だったか?」

レンはレーヴェに感謝の言葉を述べると、謝罪の言葉を口にし、その事態にレーヴェですら驚き、壊した人間の事を尋ねた。

 

「ううん。お兄さんは足止め程度で、壊したのはエステルよ。」

「(『剣聖』の娘が、か…この国はどれほどの『底力』を持つというのだ…)……それにしては、悔しいというより嬉しそうな表情を浮かべているようだが?」

だが、レンの口から出た言葉にレーヴェはまたもや驚いた。クーデター事件ではまだまだ荒削り……だが、その彼女が『ゴスペル』を壊したことには驚くほかないだろう。レーヴェはリベールという国の気質に少し冷や汗をかきつつ、レンが悔しさよりも嬉しさを滲ませていることについて尋ねた。

 

「うん、気に入っちゃった♪ヨシュアのことよりも今はエステルのことが凄く気になっているし。ヨシュアのことからしたら、また会えそうな気がするしね。」

「お前の『勘』は恐ろしいほどよく当たるからな……尤も、人のことは言えないがな。」

確かに、彼絡みならばまた対峙しないとも限らない……だが……

 

「でも、レーヴェ……“紫炎の剣聖”らとも会ったけれど……“教授”は自殺願望でもあるのかしら?」

「何故そう思った?」

「だって、闘気を解放していないのにレンの直感が『戦ってはいけない』って悟っちゃったから……ヨシュアと遊べるなら、『遊び』のほうがいいけれど♪」

「フッ……今度会えた時はそうしてやるといい(ヨシュアもある意味哀れという他ないな……)」

レンの言葉も尤もであった。感性が鋭いレンですらそう思わせる存在感……その中の一人であるアスベルと刃を交え、敗北したレーヴェですら彼等との戦闘は避けるべきだと感じていた。今だにその強さの底すら見せないアスベル、シルフィア、レイア、シオン……この四人が本気を出した時、自分の命など蝋燭に灯された火の如く、息を吹きかけられたら忽ち消えるかのように失うこととなるだろう。

 

「おや、ご苦労だったねレン。」

「その様子では『ゴスペル』は壊されたのかな、レン?」

「あ、教授にカンパネルラ。データは取れたから、後で渡しておくわ……ひょっとして、『ゴスペル』を壊されたことはまずかったの?」

すると、そこに姿を現したワイスマンとカンパネルラにレンは報告をし、データは後で渡すと伝えつつ、『ゴスペル』が壊されたことについて尋ねた。

 

「いやはや……レーヴェの件の事もあるからまさか、とは思っていたが……これで、計画は一週間ほど延期になってしまった。」

「ってことは、不戦条約の調印式に騒ぎを起こす予定だったのね。レンもちょっと残念。」

「その通り。だが、私はレン君を責めたりはしないよ。誰にだって“予測外の事態”というのは往々にして起こりうるものだからね。時期的にはカンパネルラに頼んだ“彼等”や“方舟”の派遣直前になるというところだがね。」

ワイスマンは眼鏡を指で直すと、レンの問いかけに柔らかな笑みを浮かべてそう答えた。そして、“彼等”や“方舟”の話になるとその凶悪さを滲ませるように不敵な笑みを浮かべた。その笑みにはカンパネルラも笑みを零した。

 

「フフフ、教授もエグイよね。“彼等”はともかく“方舟”まで持ち出すだなんて……」

「全くだ……このリベールを焦土にでもするつもりか?」

「私とて、そのような無粋な真似はしないよ……尤も、この美しい国の民の悲鳴による合唱ぐらいは音楽を嗜んでいる者として……“指揮者”として奏でさせたいものだがね。」

目を瞑るレーヴェに、ワイスマンは人の負の感情による“大合唱”のためには何でもやると言わんばかりの会心の笑みを浮かべた。

 

「とはいえ、改めてご苦労だった“殲滅天使”。再び忙しくなることは確実なのでね。今の内に休んでおくといい。」

「それじゃあ、またね」

そう労うとワイスマンとカンパネルラは踵を返してその場を後にした。その場に残されたレンとレーヴェ……気配を確認すると、レーヴェはレンに先ほど中断した会話の答えを伝えた。

 

「レン、先程お前が問いかけた『答え』だが……“教授”は第七位の存在に気付いているが、第三位“京紫の瞬光”の存在に気づいていない。俺もそのことは聞かれなかったから答えていないが。」

「ふぅん……でも、それだけじゃないんでしょ?」

「……これは、直接対峙した俺だからこそ言えることではあるが……」

 

 

―――“京紫の瞬光”……“神羅”曰く、本気を出せば『使徒』第七柱“鋼の聖女”と互角、あるいはそれ以上の可能性がある奴だけでなく、それに匹敵・追随しうる実力者が多いこの国……“教授”がその可能性を見過ごしている以上、この計画は破綻する公算が高い。カンパネルラもその可能性位は気付いているだろうが、それを伝えないということは、他の『使徒』……もしかすると『盟主』の考えというものもあるのだろうがな……

 

 

そう呟いたレーヴェの言葉……その意味を“身を以て”知ることになるとは、ワイスマン本人は気付いていなかった。

 

 

 

エステルらは結局、クローゼのご厚意でグランセル城に宿泊することとなり、大使館に泊まるはずだったオリビエやジン、さらにはナイアルやミュラーまで巻き込んで大宴会状態と化していた。ちなみに、ドロシーに関してはナイアル曰く『アイツを呼んだらややこしいことになる』ということで呼ばなかったらしい……

 

「うう………ヨシュアのバカぁ………」

「エ、エステルお姉ちゃん…あうぅ…」

「その……大変だな……」

シェラザードに無理矢理飲まされたエステルは、普段口にしないヨシュアに対する愚痴をこぼしながらも泣きはじめ、酒の被害の無かったティータはエステルの抱き枕状態になってしまい、アガットは珍しくもエステルを慰めた。

 

「~~♪」

「シオン~~♪」

「………不幸だ。」

「楽しそうで何よりですね。昔を思い出しますよ。」

「へ、陛下……」

クローゼに関しては酒を飲まされたせいか……途中から参加してきたエオリアと意気投合し、二人してシオンに甘えまくっていた。当の本人は疲れた表情を浮かべていたが……クローゼに酒を飲ませたのはアリシア女王で、これにはユリアも本気で頭を抱えた。

 

「お前さんはいいのか?折角の機会だというのに。」

「シェラ君のペースに飲まれたら命がいくらあっても足りないからね。今日ぐらいは飲み友達や君の麗しい妹弟子とゆっくり盃を交わすのも一興というものだよ。」

「麗しいという言葉には疑問だが……貴方の懸念には同感という他ないな。」

「……成程、このお調子者も嫌がるとはな。」

オリビエはシェラザードの被害を避けるべくジン・リンと穏やかに酒を楽しみ、ミュラーもそれに同席することとなった。

 

「あ~ん!ティオちゃんってば、やっぱり可愛い!!お持ち帰りせざるを得ない!!」

「た、助けてください、ルーシーさんにエリィさん、ヘンリー市長!!」

「あはは……」

「その、ごめんなさいねティオちゃん。」

「フフ、仲良きことは美しき哉。」

「お、鬼がいます!むしろ悪魔ですか、貴方達は!?」

酒が入っていつもの癖が更に加速したアネラスの前にティオはなす術もなく捕まり、それを見て二次被害を被るのは御免とだと察した三人はティオに謝罪の気持ちを向け……ティオはそれに悪態をついたのは言うまでもない。

 

「ウオオ……オオオ………オオッ…クウウッ…!!」

「お前さんもその歳で苦労してるんだな……(シュバルツァー家の御曹司にも、色々あるんだな…この時ばかり程平民で良かったと思わざるを得ないな…)」

同じく酒を飲まされたリィンは日頃のストレスから力を解放してしまい、銀髪灼眼の状態で今度は泣き上戸的な状態になっていた。それを見たナイアルはリィンを同情の目で見つめながら慰めた。

 

「アンタもいい飲みっぷりね!」

「アンタもね!それ、もう一杯!」

「ったく、自重しろよ……」

酒癖の悪いシェラザード……そして酒に関しては無尽蔵のサラに愚痴を零しつつも、何かと世話を焼くスコール。

 

「やれやれ……少しは自重してほしいものだが……」

「そういうカシウスさんですが、レナさんのところにちゃんと帰ってますよね?」

「ギクッ………ハハハ、ヤダナアスベル。チャントカエッテイルニキマッテルジャナイカ。」

「………シルフィ、レイア、それでは判決を。」

「有罪(ニコッ)」

「刑は強制送還で。ちゃんと反省してくださいね(ニコリ)」

「ハイ………」

そこから一歩引いたところで、カシウス、アスベル、シルフィア、レイアが飲み交わしていた……レイアに関してはまだ18になっていないのでノンアルコールではあるが。

 

……言いたいことは山ほどあるが、規定年齢未満での飲酒はダメ、絶対。

 

 

そんなこんなで一夜が明け、エステルらはギルドに来ると……エルナンが通信器で連絡を取っており……それが終わるとエルナンはエステルらに気付いて声をかけた。

 

「そうですか……ええ……わかりました。それでは宜しくお願いします……っと、おはようございます、皆さん。昨晩はお疲れ様でした。」

「おはよう、エルナンさん。何かあったの?」

通信器を置いて、自分達に振り返ったエルナンにエステルは尋ねた。

 

「ええ、カノーネ元大尉が事情聴取に応じたそうです。詳しい事情が分かったらギルドにも教えてくれるでしょう。」

「そうですか……」

「あの強情そうな女が話をする気になったなんてね。どんな手を使ったのかしら?」

「ええ、全くね。」

エルナンの説明にスコールは安堵の溜息を吐き、サラとシェラザードはカノーネの事を思い出して、カノーネに口を割らせた方法が気になった。

 

「あのカシウス殿の事だ……もしかしたら、リシャール元大佐でも使ったのではないのかね?」

「ええ?いくらなんでも父さん……ならやりかねないわね。」

「ええ、それぐらいやるでしょうね。」

「……あのオッサンなら、それぐらい平然とやりそうだというのには否定できねえな。」

オリビエの推測にエステルは幾らなんでも……と思いかけたが、バイタリティ溢れる自分の父親の事を思い返すとその推測もぶっ飛んだものではないということに納得し、リィンも頷き、アガットはカシウスの読めなさには同意した。

 

「ま、そっちの調査は王国軍に任せておきましょう。アタシらはアタシらで情報を整理したいところだし。」

「そうですね……では、まずは今回の仕事の報酬をお渡しするとしましょう。細々とした依頼への対応も併せて査定しておきましたよ。」

そしてエルナンはエステル達にそれぞれ報酬を渡した。ちなみに、クルツらは事態の収拾確認と脅迫状関連の報告を代りに引き受ける形でレイストン要塞に行っているとのことだ。

 

「あの、エステルさん……本当にレンちゃんは『結社』の……」

「うん、間違いないと思う。」

「そう……ですか……」

「………」

クローゼの問いかけに、エステルは冷静に答え、クローゼとティータは信じされないような表情を浮かべた。それに、アネラスがエステルに問いかけるように言葉を発した。

 

「で、でも、あんな女の子が『結社』の手先だなんて……しかも、『執行者』って物凄い使い手なんだよね?何かの間違いじゃないのかな?」

「ううん、多分本当の事だと思う。ヨシュアが拾われて家に来た時は、レンと同い年ぐらい……その時には既に『執行者』だったから。」

「……その認識は間違ってないな。」

「スコール?どういうことかしら?」

エステルの言葉に肯定したのはスコール。その言葉にシェラザードが首を傾げた。

 

「『執行者』は素質と実力さえあればなれてしまう……かくいう俺も元『執行者』の人間だったからな。」

「あんですって~!?」

「ってことは、アンタ……今までエステル達が出会った『執行者』のことを知っているのかしら?」

スコールの身元にエステルは驚きを隠せず、シェラザードもさすがに驚かずにはいられなかったようで、スコールに問いかけた。

 

「俺が知ってるのはNo.Ⅰ“調停”ルドガー・ローゼスレイヴ、No.ⅩⅦ“緋水”フーリエ・アランドール、No.Ⅸ“死線”シャロン・クルーガー、No.0“道化師”カンパネルラ、No.Ⅶ“絶槍”クルル・スヴェンド、No.Ⅹ“仮面紳士”ブルブラン、No.Ⅵ“幻惑の鈴”ルシオラ、No.Ⅷ“痩せ狼”ヴァルター、No.Ⅱ“剣帝”レオンハルト・メルティヴェルス、そしてNo.ⅩⅢ“漆黒の牙”ヨシュア・アストレイ……尤も、“殲滅天使”に関しては俺が抜けた後で入ったようだから全く知らないが……」

そう言うスコールではあるが、ルドガーとは今でも“友”としての付き合いは続けており、その折にレンの事について相談されたのだ。それと、ルドガーがいるときにレンにも出会っているので、レンとも顔見知りであったというだけの事なのだが。

 

「ほう、僕の好敵手と認めた人間を知っているとは……」

「ルシオラ姉さんのことも……」

「ヴァルターまでとはな……」

オリビエ、シェラザード、ジンの三人が驚くのも無理はない話だ。『結社』という繋がりがなければ出会うことの無い異色な面々なだけに、その陣容の広さには眼を見開くばかりだ。

 

「にしても、あの娘が何を考えて、今回の真似をしたかを考えるべきだな。」

「ええ。それにしても、徹底的に振り回してくれたわね。カノーネに『ゴスペル』を渡して戦車を使った再決起を唆したのもあの子だったみたいだし……」

「各方面に脅迫状を送ったのもあのガキだったらしいしな……とはいえ、一体何のためだったんだ?」

ジンの言葉に頷いたシェラザードやアガットは真剣な表情で考え込んだ。今までの『結社』の『実験』と質は違えど、その本質には『ゴスペル』の性能実験であったことには違いないのだが……その問いかけに答えるかのようにエステルが言葉を発した。

 

「なんとなく、だけど……そうした方が面白そうだったからじゃないかな?」

「なに……?」

「レンは今回の件を『お茶会』に見立ててたわ。そしてあたしたちを含めた大勢の人間を参加させるために色々と準備して招待した……。そんな気がするのよね。」

その主体としてあったのは『実験』であろうが、レンのあの性格……短い間ではあったが、無邪気な言動や行動からすれば、より多くの人を巻き込んで『実験』を行う……そのための『お茶会』なのだと思った。

 

「……マジか。(やれやれ……ルドガーの奴も大変なことだな……)」

「レ、レンちゃんって一体………」

「ふむ、あの仔猫ちゃんならそのくらいはやりかねないね。現に、僕たちを眠らせた睡眠薬の量もコントロールしていたみたいだからね。」

スコールやティータは驚きを隠せず、オリビエに至ってはいつもの軽い感じではなく真剣な表情でレンの行動を思い返していた。

 

「ある意味難を逃れたオリビエ以外……ちょうどアタシらがあのタイミングで波止場に到着できるようにね……やってくれるじゃない……」

「えっと、やっぱりみんなあの子に眠らされちゃったわけ?」

怒りを抑えている様子のシェラザードを見て、エステルは仲間達に尋ねた。

 

「ええ……恐らく。レンちゃんが百貨店で買ってきたクッキーを頂いた直後でしたから……」

「しかし……痛い失態だったな。彼女が殺すつもりで毒でも使われていたら全員死んでいたのかもしれん。」

「あ……」

「いえ、それに関しては私の失態です。皆さんをバックアップする身としてもう少し気を付けるべきでした。本当に申しわけありません。」

クローゼの言葉、そして真剣な表情で語るジンの言葉を聞いたエステルは呆け、エルナンはエステル達に謝罪した。仮に彼女が猟兵団の一味で、帝国で起きたギルド襲撃事件と同じような形……あるいは無差別殺人をやられていれば、王国中が忽ちパニックに陥っていただけに、今回の一件は不幸中の幸いとして『教訓』になってしまったのは皮肉という他ないだろう。

 

「ううん……今回ばかりはあたしたち全員の責任だと思う。まさかレンが『執行者』であんな事をするなんて、誰も思わなかったし……(あたしだって、ほぼ直前で気付いたようなものだし……)」

「レンちゃんは一体何を考えてこんな事をしたんだろうね……」

謝罪するエルナンをエステルは慌てた様子で声をかけ、ティータは不安そうな表情で呟いた。

 

「ティータ……もう、元気出しなさいよ!今度会ったら、絶対にあの子を『結社』から抜けさせるんだから!!」

「ふえっ……?」

エステルの言葉にティータは首を傾げた。レンを『結社』から抜け出させる……ある意味現実味に聞こえない言葉を聞いて夢なのかと思ったが、エステルは強い口調で言葉を発する。

 

「父さんは五年前にヨシュアを『結社』から抜けさせた……きっと、あの子もヨシュアに匹敵するぐらいの『闇』を抱えてるかもしれない……でも、父さんにできて娘であるあたしに出来ないという道理なんてないわ!決めたからには絶対にやり遂げて見せるんだから!!」

「お、お姉ちゃん……うんっ、そうだよね!」

「はは……流石、カシウスさんの娘というだけはあるかもな。」

「ふふ……さすがエステルさん。」

「うんうん、その意気だよ!」

かつて、カシウスがヨシュアを結社から抜けさせた時と同じようにレンも助ける……エステルの心強い言葉にティータは明るい表情をし、リィンとクロ―ゼは微笑み、アネラスは嬉しそうに頷いた。

 

「フッ、気持ちいいくらいのあっぱれな前向きさだねぇ。流石はエステル君。」

「ったく……軽く言ってんじゃねえぞ。ガキとは言え、相手は『結社』の人間なんだからな。」

「ふふ、いいじゃないの。これがエステルなんだから。」

「『結社』相手にも怯まないなんて、この子の強さは計り知れないわね。」

「こういう前向きさは旦那以上かもしれんなぁ。」

エステルの決意表明とも言える言葉にオリビエは感心し、アガットは呆れ、シェラザードは微笑み、サラはエステルの気持ちの強さに驚嘆し、ジンは口元に笑みを浮かべて感心していた。

 

「うーん、ええなあ。ますます惚れてしまいそうや。」

「あ……!」

「ケビン神父。お待ちしていましたよ。」

すると、それを聞きつつも姿を見せたネギ頭の神父の青年―――ケビンの登場にエステルは驚き、エルナンは笑顔で出迎えた。

 

「やー、遅れてスンマセン。ちょいと事情がありましてな。」

「あのー、今更といえば今更な質問なんですけど……結局ケビンさんって何者なんですか?」

「ええ、それがあったわね。あたしたちも結局、はぐらかされたままだわ。」

「尤も……相当武芸に通じている者の雰囲気を感じるわね。それが『一介の神父』だなんてことはないでしょうし。」

「そうだな……かなりの場数を踏んでいると見た。」

首を傾げているケビンにアネラスは不思議そうな表情を浮かべて正体を尋ね、彼女に続くようにシェラザードも尋ね、サラとスコールはケビンの纏っている雰囲気からしてそれなりの手練れであることはひしひしと感じていた。

 

「そやな……改めて、自己紹介しようかな。―――七耀教会『星杯騎士団』に所属するケビン・グラハム神父や。以後、よろしく頼みますわ。」

「『星杯騎士団』ですか……?」

ケビンが名乗った時、言った組織名がわからなかったティータは首を傾げた。

 

「ほう、これは恐れ入った。まさかキミみたいな若者が『星杯騎士』だったとはね……」

「オリビエ、知ってるの?」

「アーティファクトが教会に管理されているという話は聞いたことがあると思うが……その調査・回収を担当するのが『星杯騎士団』と呼ばれる組織さ。メンバーは非公開ながらかなりの凄腕が選ばれるらしい。」

「へえ、詳しいですやん。残念ながらオレは騎士団でもペーペーの新米でしてなぁ。凄腕ちゅうのは過大評価ですね。」

オリビエの説明を聞いたケビンは苦笑しながら答えつつも、先程の大聖堂でのやり取りについて思い返していた。

 

~グランセル大聖堂~

 

「しかし、オレかて驚きや。第三位“京紫の瞬光”、第三位付“朱の戦乙女”、第七位“銀隼の射手”の三名がリベールにおるなんて……」

「何だよ、俺が故郷に居ちゃいけないというのかよ?第五位“外法狩り”。」

ケビンの言葉に腕を組んでジト目で睨むアスベル。それを見たケビンは慌てて取り繕った。

 

「い、いや、そういうことやないけれど……第四位“那由多”や第四位付“黒鋼の拳姫”がリベールにおったことといい、第八位“吼天獅子”の『継承』絡みといい、総長はその辺をオレに伝えへんのや……」

「まぁ、ケビンは仕事に関して口が堅くても、全て背負い込みそうだから総長も言わないんじゃないのかな?ただでさえ、ケビンの今の仕事は重大な任務だしね。」

「………それについては、否定できへん。」

変に全部を知られて、それで動きにくくする状況を生み出すのは御免被る……特にケビンに関しては元“身内”の抹殺という大任を担っている以上、それに専念してもらわねばならない。尤も、あの総長の事だから『済まない、忘れていた』とあっさり言い切りそうだから困るのだが。

 

ちなみに、第八位“吼天獅子”の『継承』……これに関しては、詳細な説明を省く形となるが、前任者が任務中に致命傷となる怪我を負い、偶然その場に居合わせた少年に<聖痕>を移植させたとのことだ。不幸中の幸いというべきか、その少年も<聖痕>を顕現するに足りうる資格を持っていたようで、法王が自らこの“異例”を認め、第八位は“彼”に引き継がれたらしい。

 

「まぁ、『聖天兵装』に関しては“教授”や最悪の事態への『切り札』になる以上、不干渉ということにする。そもそも、管理すると謳っておきながら俺らが古代遺物を使っている“矛盾”を指摘されたら反論できないからな。まぁ、『ソレ』にしろ『騎神』にしろ、アーティファクトと呼べない代物だし。」

俺の持っている『七の至宝』が一つ、時の至宝『刻(とき)の十字架<クロスクロイツ>』。人が持つには強大過ぎる力……このことはシルフィアとレイアには伝えたが、それ以外の人間には言っていない。

 

人の過去・現在・未来……『因果律』を司る『幻(デミウルゴス)』の力、空間の生成・消滅といった『存在』を司る『空(オーリオール)』の力、そして上位三属性の『時空間』を司る力……『時(クロスクロイツ)』の力。その一端を担うものとして、下手にその力を明るみに出せばゼムリア大陸全土で『七の至宝』を巡る大戦争が勃発しかねないからだ。そんなのは俺ですら望まないし、何よりも考えることが多くなって億劫になると判断したからだ。

 

「ケビンにはこのまま三味線を弾き続けて“教授”の抹殺を遂行してもらう。幸いにも“教授”はシルフィの動向に注視しているからな。俺としても動きやすい状況には変わりないが。」

「ま、シルフィは何かと目立つことやしな……大方、総長のせいやけれど。」

「この時ほど義姉上を本気で殴りたいと思ったことは無いけれどね……」

身内とはいえ、アインの行動には呆れしか出てこない……それはアスベル、ケビン、シルフィア、レイアの共通見解であった。それを確認した後、アスベルは気になることがあってケビンに尋ねた。

 

「ちなみに……ケビン。リースには連絡とかしてるか?」

「ギクッ……」

「……ケビン、ちょっとお話しようか?」

「ちょ、ちょい待ち!アンタのそれは……!?やめやめとめ、とめったで!?」

ケビンの反応を見たアスベルは今まで見たことの無いぐらい超絶とも言える笑顔を浮かべてケビンに近付き、ケビンは逃げようとしたが、首根っこを掴んで空いている部屋に入っていった……

 

―――しばらくお待ちください―――

 

「で?どうするんだ?」

「この異変が終わったら連絡することにします……なので、許してください。」

(ケビンが丁寧な言葉遣い……)

(やっぱり、序列って大きいんだね。)

数分後、威圧を放っているアスベルに正座して反省させられているケビンの姿があった……

 

 

~遊撃士協会 グランセル支部~

 

「まぁ、それはともかく、これからも宜しくたのんます。『身喰らう蛇』について何か解ったら情報交換してや。」

「えっ……!?」

「オレがリベールに来たのは『結社』の調査のためやからね。正確に言うと……連中が手に入れようとしとる『輝く環』の調査なんやけど。」

「!!!」

「『輝く環』……!」

ケビンの話を聞いたエステルとクロ―ゼは驚いた。

 

「女神が古代人に授けた『七の至宝』の一つ……グランセル城の地下に封印されていると思われていた伝説のアーティファクトですね。」

「ええ、そうですわ。どうもここ最近、大陸各地で『七の至宝』に関する情報を集めとる連中がいるらしくて……教会としても、その動向にはかなり目を光らせていたんですわ。そんな折、リベールの方から『輝く環』の情報が入ってきた。そこで、真偽を確かめるべく新米のオレが派遣されたわけです。」

クロ―ゼの確認するように尋ねられたケビンは頷いて答えた。ケビンはそう言ったが、よくよく考えればアーティファクトの中でもトップクラスに入る『七の至宝』絡み“如き”に新人を寄越すこと自体ありえないことだ。まぁ、遊撃士や王家……七耀教会以外の人間にしてみれば、事情を知らないからこそ通る嘘なのだが。

 

「そうだったんですか……」

「それじゃあ『輝く環』って本当にリベールにあるわけ?封印区画に無かったってことはただの伝説だと思ってたけど……」

「そもそも、どういう物かも判ってねえそうじゃねえか?」

「ま、そのあたりの真偽を調べるのもオレの仕事なわけや。今日来たのは、こちらの事情を説明してもらおと思ってな……つまり、また何かあった時はお互い協力しようってこっちゃ。」

『真偽』の話など既に分かり切った話だ。何せ、教会……とりわけ『星杯騎士団』は全てのアーティファクトの知識を知り尽くしたエキスパート……アーティファクトのプロフェッショナル的存在なだけに、この国に『輝く環』があることは既に判明している。ただ、事情を知らない人達に真実を突き付けても混乱を招くだけなので、今のところは伏せておくが。

 

「なるほどね……。うん、こちらも望むところよ。」

「そうだな。こちらとしても助かるぜ。」

「これも何かの縁だし、困ったことがあったら連絡して。」

「おおきに!ほな、今日のところはこれで失礼させてもらいますわ。またな~、みなさん!」

そしてケビンはギルドを去った。

 

「行っちゃった……」

「オリビエとは違った意味で毒気を抜かされる神父さんね。」

ある意味嵐の如く来ては去っていったケビンの後姿を見つつ、呆気にとられた様子のエステルにサラはオリビエに悪態をつくような勢いで呟いた。

 

「フッ、ボクに言わせればまだまだ修行不足かな。もう少し優雅さが欲しい所だね。」

「あんたの世迷言のどこに優雅さがあるってゆーのよ。」

髪をかきあげて語るオリビエをエステルはジト目で睨んで指摘した。

 

「しかし『輝く環』ですか……『結社』が各地で『ゴスペル』を使った実験をしているのと何か関係があるのでしょうか?」

「そうですね……その可能性は否定できません。ちなみに、今回の事件は関係ありませんでしたが、自治州を除く王国全ての地方で『ゴスペル』の『実験』終えた事になります。この分だと、自治州でも実験が行われる可能性は捨てきれませんね。ただ、不戦条約までは下手に動けませんので……遊軍としてクルツさんらに動いてもらうことになっています。それと、アネラスさんにはそちらに加わっていただきます。」

「チームってことはやはり『結社』対策かい?」

「はい、『結社』の拠点を捜索することになると思います。」

「拠点の捜索ですか?」

ジンの問いに答えたアネラスの言葉にリィンは首を傾げた。

 

「これまでの動きから見て『結社』は国内の何らかの拠点を築いている可能性は高そうです。そこを叩かない限り、根本的な解決にはなりません。今後は王国軍と全面協力して捜索活動を行う必要があるでしょう。」

「確かにそうですね……」

エルナンの説明を聞いたクロ―ゼは納得して頷いた。一々遠距離を移動する方法は非効率的であり、何らかの形で国内に拠点を有しているのは間違いなさそうである。でなければ、エステルとケビンを襲った兵器の事も説明が全くつかないということになるのだ。

 

「確かに、俺らが一気に動くのは難しいな……結社対策チームがもう1つ必要になるのも当然か。」

「うーん、そうなるとクルツさんのチームにも戦力が必要になりそうだし……アネラスさんを取られちゃうのも仕方ないかぁ。」

「えへへ、ごめんね。『結社』の拠点を見つけたらエステルちゃんの力も借りることになると思うから。その時に一緒に戦おう?」

「うん……そうね!」

そしてアネラスはエステルらと別れてギルドを出て行った。

 

 




この章に関しては色んなキャラの絡みを書いていく予定ですが……メインだけでも

<空>エステル、シェラザード、ティータ、クローゼ、アガット、ジン、オリビエ、ケビン

<零>ロイド、エリィ、ティオ、ランディ、リーシャ

<閃>リィン、アリサ、マキアス、フィー

<オリジナル>アスベル、シルフィア、シオン、レイア、ルドガー、スコール、クルル

これだけいますw

いくつかは考えていますが、サブキャラも結構いるので……もしかしたらメインキャラさらに出演させるかもしれませんが(オイッ!!)

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